真似と開閉と世界旅行
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
狂気~
前書き
狂気~
・・・俺達はヴァンの話を聞くことにした。
「頭が冷えたか?」
「・・・なぜ兄さんは戦争を回避しようとなさるイオン様を邪魔するの?」
ティアは敵意剥き出しで言う。
「やれやれ。まだそんなことを言っているのか」
「違うよな、師匠」
「でも六神将がイオン様を誘拐しようと・・・」
「落ち着け、ティア。そもそも、私は何故イオン様がここにいるのかすら知らないのだぞ。教団からは、イオン様がダアトの教会から姿を消したことしか聞いていない」
「すみません、ヴァン。僕の独断です」
「こうなった経緯をご説明いただきたい」
するとジェイドが口を開く。
「イオン様を連れ出したのは私です。私がご説明しましょう」
そうしてジェイドは事情を話す。
「・・・なるほど、事情はわかった。確かに六神将は私の部下だが、彼らは大詠師派でもある。おそらく、大詠師モースの命令があったのだろう」
「なるほどねぇ。ヴァン謡将が呼び戻されたのも、マルクト軍からイオン様を奪い返せってことだったのかもな」
「あるいはそうかもしれぬ」
ガイが言うとヴァンが肯定する。
「先ほどお前達を襲ったアッシュも六神将だが、奴が動いていることは私も知らなかった」
「じゃあ、兄さんは無関係だっていうの?」
「いや、部下の動きを把握していなかったという点では無関係ではないな。だが、私は大詠師派ではない」
「初耳です、主席総長」
アニスが驚く。
「六神将の長であるために、大詠師派ととられがちだがな。それよりティア、お前こそ大詠師旗下の情報部に所属しているはず・・・何故ここにいる?」
「モース様の命令であるものを捜索してるの。それ以上は言えない」
「第七譜石か?」
「ーーー機密事項です」
「第七譜石?なんだそれ?」
『・・・』
ルークの発言で場の空気が止まる。
「なんだよ、バカにしたような顔で・・・」
「箱入り過ぎるってのもなぁ・・・」
ガイが頭を掻く。
「第七譜石ってのはユリアが詠んだ預言だ。確か・・・世界の未来史が書かれてるんだよな?」
俺がティアに聞くとティアがうなずく。
「あまりにも長大な預言なので、それが記された譜石も、山ほどの大きさのものが七つになったんです。それが様々な影響で破壊され、一部は空に見える譜石帯となり、一部は地表に落ちました」
「地表に落ちた譜石は、マルクトとキムラスカで奪い合いになって、これが戦争の発端になったんですよ。譜石があれば世界の未来を知ることができるから・・・」
イオンとアニスも説明していく。
「ふーん。とにかく七番目の預言が書いてあるのが第七譜石なんだな」
「第七譜石はユリアが預言を詠んだ後、自ら隠したと言われています。故に様々な勢力が第七譜石を探しているのですよ」
「くだらねぇ・・・」
俺は誰にも聞こえないように呟く。・・・結局、この場はお開きになり、旅券はヴァンがなんとかしてくれた。・・・今日はここで休み、翌日出発するらしい。
「(・・・はぁ)」
俺はベッドに横になっていたが、まったく眠れない。
「・・・」
俺は空間から指輪と・・・ペンダントを取り出す。
「・・・」
指輪は詠とのペアリングで・・・ペンダントには、この世界の文字で“ハッピーバースデー サキ”と書かれていた。
「(俺は・・・この世界の俺は誰なんだ・・・)」
俺は指輪とペンダントを握りしめる。・・・記憶を取り戻すのが、怖い。
「(もし“サキ”の記憶が蘇った時・・・俺は“咲”でいられるのか・・・)」
当然、思考もまったく違うであろう二つの咲。俺が俺でいられる可能性は高くもない。・・・いや、そもそもここはシィの力でも不安定・・・イレギュラーを許さない世界の一つだ。なぜ五十嵐咲が存在できる?そして、何故その世界で恋姫の誰かが存在している?
「(くそっ・・・)」
無理矢理眠りにつくように自己暗示をかける。
次の日、カイツールを越えてカイツール軍港に向かう。だが・・・
「・・・ああ?なんだぁ?」
何処か騒がしい。
「魔物の鳴き声・・・」
上を見ると鳥の魔物が飛んでいく。
「あれって・・・根暗ッタのペットだよ!」
アニスが言うとガイが聞き返す。
「根暗ッタって・・・?」
アニスはガイに近寄り、ポカポカ叩く。
「・・・ひっ」
「アリエッタ!六神将妖獣のアリエッタ!」
「わ・・・わかったから触るなぁ~~!!」
「アリエッタが・・・どうして・・・」
「港の方から飛んできたわね。行きましょう」
俺達は走り出す。
「ほら、ガイ。喜んでないで行きますよ」
「嫌がってるんだ~~~!!」
そして港に到着するが・・・
「・・・う・・・」
ルークが呻く。見ると大量の兵士とライガが死んでいて、ヴァンとアリエッタがいる。
「アリエッタ!誰の許しを得てこんな事をしている!」
俺達も駆けつける。
「やっぱり根暗ッタ!人にメイワクかけちゃ駄目なんだよ!」
「お前達か」
「アリエッタ、根暗じゃないモン!アニスのイジワルゥ~!!」
「何があったの!?」
ティアが聞く。
「アリエッタが、魔物に船を襲わせていた」
「総長・・・ごめんなさい・・・アッシュに頼まれて・・・」
「アッシュだと・・・」
アリエッタが鳥の魔物を呼び、それに掴まる。
「船を修理できる整備士さんはアリエッタが連れていきます。返して欲しければ、ルークとイオン様がコーラル城へこい・・・です。二人がこないと・・・あの人達・・・殺す・・・です」
「アリエッタ!」
俺が叫ぶとアリエッタは俺を見る。
「サキ・・・サキもきて・・・」
アリエッタはそう言って飛んでいく。
「アリエッタ!・・・くそっ!」
「待ちなさい、サキ!」
走り出そうとした時、ジェイドに止められる。
「んだよっ!」
「今は生きている人の救助が先です」
「くっ・・・」
「・・・ところで、コーラル城とは?」
ジェイドがガイに聞く。
「確かファブレ公爵の別荘だよ。前の戦争で戦線が迫ってきて放棄したとかいう・・・」
「へ?そうなのか?」
ルークが聞くとガイが呆れる。
「おまえなー!七年前にお前が誘拐された時、発見されたのがコーラル城だろうが!」
「俺、その頃のことぜんっぜん覚えてねーんだってば。もしかして、行けば思い出すかな」
「行く必要はなかろう。訓練船の帰港を待ちなさい。アリエッタのことは私が処理する」
「・・・ですが、それではアリエッタの要求を無視することになります」
「今は戦争を回避する方が重要なのでは?」
イオンとヴァンが公論する。
「ルーク。イオン様を連れて国境へ戻ってくれ。ここには簡単な休息施設しかないのでな。私はここに残り、アリエッタ討伐に向かう」
「な・・・」
「は、はい、師匠」
俺は周りを見て・・・生存者がいないのを確認する。
「・・・断る。俺はコーラル城に行かせてもらう」
「お、おい!サキ!?」
ガイが呼び止める声に耳を貸さず、走り出す。
「・・・ここが・・・」
『コーラル城ッスね』
「・・・」
『そ、そんなあからさまに嫌な顔をしなくても・・・』
「・・・別に」
俺は中に入り、探索する。
「・・・?」
『無駄に手入れが行き届いてるッス』
「・・・そうだな」
何かの気配を感じ、方天画戟を引き抜く。
「・・・」
『ど、どうしたッスか?』
「リパル、黙ってろ。・・・誰だ!」
その瞬間、光線が飛んでくる。
「ッ!」
咄嗟に横に跳び、避ける。今のは・・・
「チッ・・・」
「愛依・・・お前か!」
「・・・今はテメエの相手をしてる暇はねーんだ。オレは・・・っ?」
「・・・くく・・・」
『さ、咲さん・・・?』
「くくく・・・ははは・・・」
「な・・・なんだ、よ・・・」
「ははは・・・はは・・・ハーッハッハッハ!!」
俺は狂ったように笑い出す。
「見つけたぁぁ・・・見つけたぞ、アイィィィィ!!」
コイツが・・・コイツがぁ・・・
「お前も探してたぜぇ・・・ブッコロスためによぉぉぉぉぉ!!」
俺は方天画戟を構える。
『お、落ち着くッス!』
「シィィィネェェェェェ!!」
「く・・・!?このイカれ野郎がっ!」
愛依は二本の偃月刀で俺の一撃を防ぐ。
「ッつぅ・・・!?」
愛依が顔を歪ませる。
「弱えぇんだよぉぉ!オラァッ!」
ガキャアアンッ!
「ぐ、あ・・・!?」
愛依が吹き飛び、体制を立て直す・・・前に接近する。
「あ・・・」
「捕まえた」
足を掴み・・・地面に叩きつける。
「がは・・・」
「まぁだだぁ!」
そのままBモードを発動、愛依を引きずりながら飛び回る。
「分かった・・・分かったぜぇ・・・俺は抑えていたんだな・・・怒りを!悲しみを!悔しさを!そして・・・お前への殺意をなぁぁぁぁ!!」
もう一度叩きつけ、腕を踏み砕く。
「アアアアアア!?」
愛依の悲鳴が響く。
「ハハハハッ!殺意を解放しちまえばこんなに容赦なく殺れるんだな!もっと早く気づけばよかったぜ!!」
コイツは・・・コイツは俺達の世界をぶち壊しやがった・・・その報いを・・・受けさせてやる・・・!
「詠を、消して!」
ドゴォ!
愛依の腹を踏みつける。
「ごほっ・・・」
「恋も消した!」
更に。
「あ・・・あ・・・」
「明命も思春も亞莎もな!」
メキィ!
「う゛・・・」
「将のみんなや民から笑顔を消した!」
「・・・」
「ハァ・・・ハァ・・・ッ!」
方天画戟を振り上げる。
『だ、ダメッス!』
・・・が、いきなり方天画戟が分離し、ハンドアックスとダークリパルサーが落ちる。
「・・・」
『な、なんかおかしいッスよ!』
「・・・まあ、いいか」
左手が一回り大きく・・・刺々しくなる。
「・・・さぁ、首が折れんのが先か、窒息すんのが先か」
「ぎあ・・・ああ・・・」
愛依の細い首を掴み、力を籠める。
「苦しめ・・・苦しんで泣き叫んで媚びて詫びて許しを乞えよぉぉぉ!!」
「・・・さん・・・」
「あぁ・・・?」
愛依の身体から力が抜け、涙を流しながら何かを呟いた。
「怖、いよ・・・死にたく・・・ない・・・父さん・・・」
「・・・!」
それを聞いた瞬間、何かが狂っていた俺の一部が元に戻る。
「・・・はっ!?」
正気に戻り、慌てて愛依から手を話す。
「ぐ・・・ゲホッ、ゲホッ!?」
「俺、は・・・何を・・・」
愛依を見て・・・それから・・・それから・・・
「あ・・・あた・・・っ!?」
愛依が頭を振る。
「オレ、は・・・死ぬわけには・・・いくか・・・椿を残す訳には・・・」
愛依は苦しそうに呼吸をしながらふらふらと離れ・・・その姿を消した。
「・・・リパル・・・」
『な、なんッスか?』
「俺は・・・何なんだ・・・」
あそこまで痛め付ける必要があったか?あんなに不敵な態度を取っていようと少女だ。それを・・・
「このままじゃ・・・また・・・」
今なら分かる。殺人犯がカッとなって人を殺す事が。気がつけば人が死んでいる。目の前に・・・
「ウワァァァァァァァァァ!!!」
頭を抱えて叫ぶ。
『咲さん!しっかりするッス!今はやらないといけない事があるじゃないッスか!」
「ううう・・・ああ・・・」
そうだ・・・アリエッタ・・・アイツは・・・俺を待ってる。
「リパル・・・すまない」
『あ、謝らなくてもいいッスよ』
俺は笑う。・・・ただし、さっきとは違い、軽く笑っただけ。
「・・・そうだな。お前に謝るのもなんかムカつくしな」
『それはそれでヒドイッスー!』
「くくく・・・それじゃ、行くぜ」
方天画戟に戻して空間に放り投げる。・・・待ってろ、アリエッタ・・・
後書き
サキ
「・・・」
ティア
「・・・」
サキ
「・・・何か喋れよ」
ティア
「私の事は大体本編で言ってるわ。それ以上の事は今は言えないわ」
サキ
「そうかよ」
ティア
「・・・」
サキ
「・・・」
ティア
「・・・」
サキ
「(れ、恋とは違うベクトルで話が続かねぇ・・・)」
ティア
「・・・何かしら」
サキ
「い、いや、何でもない。・・・それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」
ティア
「・・・次回もよろしく」
ページ上へ戻る