スーパーヒーロー戦記
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第57話 戦闘マシーンに人の心を
遂に完成した新型ゲッターロボ。だが、その余りのパワーに振り回される事となったゲッターチーム。そして、仲間達に対し心を閉じたままの鉄也。
チームワークがバラバラの状態のまま、一同の戦いは続く。
***
メカ一角鬼を葬った後、ゲッターロボGは晴れてアースラ隊へと配属が決まった。本来なら喜ばしい状況の筈なのだが、今現在のアースラ艦内には不穏な空気が流れていた。
原因は只一つである。
「どう言うつもりだ!」
怒声を放っていたのは竜馬だ。そして、その前には言わずと知れた剣鉄也が居る。竜馬の前で鉄也はさも面倒臭そうに頭を搔いていた。
「分からないのか? お前達が居たところで戦闘の邪魔になるだけだ。そう言っただけの事だが?」
「ふざけるな! どう言うつもりか知らないが、俺達のゲッターロボが戦力外だなんて言い方は認めない! 撤回しろ」
竜馬は吼える。絶対にそれは認める訳にはいかない。それを認めてしまえば自分達を生かして死んでいった巴武蔵の死が浮かばれないからだ。
「だが、先の不甲斐ない戦闘でも明らかだろう? お前達は戦力にはならない。無論、此処に居る全員もそれが言えるがな」
「何?」
その言い分に今度は風見志郎もまた不満そうな顔をしだす。殴り掛かろうとするのを必死に結城が止めていた。でなければ殴り合いになっていた所だ。
「俺達が戦力外だと言うのか?」
「当然だ。ゲッターは使い物にならない。仮面ライダーや魔導師じゃ戦闘獣を倒す事は出来ない。今の所戦力になるのは俺位なもんだ」
指差しで言い放った鉄也。其処まで言われたら誰でも黙ってはいられない。
「いい加減にしろ! 俺達だって今まで協力して様々な敵と渡り合ってきたんだ! それを……」
「そう言うのを【仲良しごっこ】って言うんだよ!」
「ぐっ……」
竜馬の言い分をその一言で跳ね除けてしまった。そう言われては返す言葉がない。
「これで満足か? だったら俺は失礼する。時間を無駄にしたくないからな」
「ま、待て! 話はまだ終わってないんだぞ」
「これ以上話す事なんてない。時間の無駄になるだけだ」
そう言い鉄也は一人歩き去ってしまった。残ったメンバーの鉄也に対する憤りは増大するばかりであった。
「何なんだあいつは……」
「どうやら奴さんは俺達とつるむのが嫌いらしいぜ」
誰もが鉄也に対し不満を抱いていた。確かに彼の腕前は素晴らしい。そして彼の操縦するグレートマジンガーはアースラ隊にとっては代え難い貴重な戦力でもある。だが、その為にチームの輪が乱れては意味がない。
「全く、何なんだいあの剣鉄也って奴はさぁ!」
こちらではアルフが怒りを包み隠さずに愚痴っていた。同じその部屋にはフェイトとクロノが居る。三人が相談していた内容は勿論剣鉄也についてだ。
「あたしらの事をあそこまで言うなんてさぁ! 許せないっての」
「アルフの言い分も良く分かる。彼の言い分は僕達全員を侮辱したのと変わりないことだ。幾ら何でもあれは言い過ぎだ」
アルフ同様にクロノもまた不満そうな顔をしていた。だが、その中でフェイトだけは悲しそうな顔をしていた。
「何で、鉄也さんは皆を遠ざけるんだろう?」
「決まってるよ。あいつは天狗になってるのさ。自分が強いからって有頂天になってるに決まってるよ」
「あんなのが居たらチームの輪にヒビが入る。こんな事は言いたくないけど、彼はこのチームには居ない方が良い」
酷い言い方であった。だが、それもまた事実でもある。一人の身勝手な行動がチーム全体を危険に晒すこともある。今、鉄也が自分勝手にその不満の種をばら撒き続けていたらチームの輪は乱れ、いざと言う時協力出来なくなってしまう。それでは駄目なのだ。ならばその原因を取り除かなければならない。
「ねぇ、鉄也さんと話するって事は出来ないかな?」
「フェイト。残念だけど彼に話をする事事態無駄だ。彼は僕達の言葉に耳を貸そうとしない。やるだけ無駄だよ」
「でも、やらないで決め付けてたら分からないよ。私、やってみる!」
皆が鉄也を遠ざけようとしている中、フェイトだけは鉄也に近づこうとした。フェイトの中にはかつて、自分を変えてくれた存在が映っていた。
白き騎士甲冑を身に纏い強い心と優しさで皆を包み込んだ少女。その少女は別に力が強い訳じゃない。泣き虫で怖がりで、だけど芯の強い子だった。
(なのは、私諦めないよ。私もなのはみたいに人の心を開いてみる!)
フェイトは一人、堅くそう誓うのであった。
***
その日、鉄也は一人トレーニングルームに居た。さっきまで所員達が使用していたのだが、鉄也が来た途端皆引き上げてしまったのだ。だが、それに対して鉄也は全く気に掛けていない。寧ろ自由に使えるとばかりに黙々とトレーニングを行っていた。
因みに今はルームランナーの最高速度でランニングを行っている。そんな時、隣で誰かがルームランナーを起動した。
フェイトだった。彼女が鉄也の隣でルームランナーを起動させたのだ。それも、鉄也の走っているのと同じ速度で。
「何の真似だ?」
「私も、トレーニングしたいだけですよ」
「そうか……」
それ以上問う事なく二人は黙々とトレーニングを続けた。だが、大人と子供では体力に差があるらしく、先にフェイトがばて始めてきた。
(い、何時まで走るんだろう? そろそろ限界かも……)
チラリと鉄也を見る。彼の体からも汗が流れているが彼自身無表情のままそれを行っている為疲れてるのか案外掴み辛い。
ふと、突如鉄也がマシンを止めた。それを見てフェイトも止める。荒くなった息を一生懸命整えようとしている。が、そんなフェイトなどお構いなしに今度はマシントレーニングを行い始めた。一番重くしたマシーンを鉄也は軽々とこなす。
フェイトもそれに習い同じようにマシントレーニングを行う。勿論一番重い重さでだ。
が――
(お、重い……)
本来9歳の子供がトレーニングマシンを使う事は出来ない。体が出来上がってない状態でのそれは危険過ぎるからだ。それでもフェイトは必死に重いマシントレーニングを行った。
が、今度はまた鉄也が場所を変えた。今度はバーベルのリフティングだ。150キロ近くのバーベルを持ち上げてそれをリフティングしている。フェイトもそれを行おうとしたが、そんな重いの持ち上げられる筈がない。
仕方なく隣に用意されていた60キロのを行う事にした。
だが、当然の事ながら9歳の子供にそんな重い物が持ち上げられる筈もなく四苦八苦していた。
「お前、何がしたいんだ?」
流石に疑問を感じたのか鉄也がフェイトに尋ねた。幾ら何でも変だ。トレーニングなら分かるが明らかに自分自身のレベルを超えている。それに鉄也は疑問を感じていたのだ。
「べ、別に何でもありませんよ。只、私も強くなりたいからこうしてトレーニングしてるだけですよ」
「だからと言って俺に合わせて何になる?」
「あ、もしかしてバレてました?」
どうやらフェイトはわざと鉄也に合わせてトレーニングをしていたようだ。それを悟られてしまいフェイトは舌を出す。そんなフェイトを見て鉄也は激しく項垂れながら溜息をついた。
「全く、仮にも嘱託魔導師だろうが。自分の体の限界位把握しておけ。それじゃ体を壊すだけだぞ」
「でも、何時までも今のままじゃ居られませんよ。もっと頑張って強くならないといけないんです!」
「それにだってやり方があるんだ。今のやり方でやったって強くはならん」
はっきりと言い放つ鉄也。
「どうしてですか?」
「お前がやっていたのは俺の体に会ったトレーニングだ。それをお前がやったって体を壊すだけで何のメリットもない。それこそ時間と体力の無駄遣いになるんだぞ。それ位分かるだろう?」
「そうなんですか、詳しいんですね鉄也さんは」
笑いながらそう言うフェイト。そんなフェイトを見て鉄也は更に項垂れる。
「分かったら他所でやってくれ。俺のトレーニングの邪魔だ」
「いえ、一緒にやらせて下さい」
「なぬっ!?」
フェイトの言い分に鉄也の眉が動く。以外な事だったからだ。
「冗談じゃない。横に居られたら気になって仕方ないんだ。あっちでやってくれ」
「でも、鉄也さんトレーニングの方法とか知ってるんでしょ? だったら教えて下さいよ」
「おいおい……」
今まで以上の大きな溜息を吐く鉄也。本来なら御免被る所なのだが自分が言った手前無碍には断れないのである。
「分かった。だが途中で投げ出すなよ」
「はい、頑張ります!」
それから、毎日フェイトと鉄也は共にトレーニングをする事となった。鉄也の出すトレーニング内容はかなり厳しいのが多いが、それでも幼いフェイトでもこなせる内容を用意してくれている。その辺りはちゃんとしてくれているようだ。
伊達に戦闘のプロを自称している訳ではないようだ。
それから、フェイトの体当たりでのコミュニケーションは続いた。ある時、鉄也が一人で食事を摂っていた時。
「鉄也さん、隣良いですか?」
「またお前か。好きにしろ」
「はい、それじゃ好きにさせて貰います」
誰もが鉄也から遠ざかって食事をする中、フェイトだけが鉄也の近くで食事をするようになった。
しかも、四六時中鉄也と会話をしながらである。
「この魚の味付け美味しいですね。何て言うんだろう」
「鯖の味噌煮だ」
「この豆、臭いんですけど……もしかして腐ってるんですか?」
「それは納豆だ」
と、こんな感じである。ふと、フェイトは鉄也を見た。何と、鉄也は納豆に砂糖を入れてかき混ぜていたのだ。
その光景にギョッとする。
「て、鉄也さんって……納豆に砂糖を入れるんですか?」
「あぁ、俺はこの食い方が好きだからな」
意外であった。フェイトも納豆なる物を食べるのは初めてだが、だからと言ってそれに砂糖をまぶして食べると言う食べ方を見るのも初めてであった。
(何か、母さんを見てるみたい)
ふと、フェイトは良くお茶に砂糖とミルクを入れるリンディを思い浮かべた。もしかしたら彼ならリンディの呑み方も行ける口なのかも知れない。
そう思えた。
「ぼさっとしてないでさっさと食え。飯食ったらまたトレーニングだぞ」
「は、はい!」
鉄也に諭されて食事を再会するフェイト。何分鉄也のトレーニングは厳しいので食事が美味い。これも良い事なのだろう。何しろ鉄也の出す課題の殆どは基礎トレーニングに過ぎない。しかしそのレベルは半端無いのだ。
「おい、リョウ……」
「あぁ、フェイトちゃんと鉄也がなぁ」
回りで遠巻きに食事をしていた皆はその光景を目の当たりにしていた。誰もが鉄也を避ける中フェイトだけが鉄也に近づいている。その光景が皆にはとても不思議に見えたのであった。
***
フェイトが鉄也に体当たりでのコミュニケーションを行っていた甲斐があったのか、鉄也自身にも徐々にだが変化が見え始めていた。初めて会った頃とは違い何処となく表情に丸みが出来ていた気がし始めていたのだ。
これも一重にフェイトの努力の賜物とも言えた。そんなある日、フェイトは鉄也に呼ばれた。
「どうしたんですか? 鉄也さん」
「少し話がしたくてな」
珍しかった。今まで鉄也の方から話を振ってくる事など無かったからだ。それを聞いたとき、フェイトは今までの苦労がようやく実ったと内心拳を握り締めて喜んでいた。
「ある場所に行きたい。ついてくるか?」
「はい!」
強く頷く。そしてフェイトを乗せたまま、ブレーンコンドルは飛び立った。向った先は小さな離れ小島であった。誰も住んでおらず、あるのと言えば捨てられた廃屋が一軒ある位の寂しい場所であった。
「あの……此処は?」
「俺は昔、此処で所長と過ごしたんだ」
廃屋の中に入りながら鉄也は語った。それは、幼い頃鉄也が経験してきた過酷な人生であった。
「フェイト、お前に親は居るか?」
「えっと……血の繋がりはないですけど、優しいお母さんとお兄ちゃんが居ますよ」
「そうか……」
ふと、鉄也が寂しそうな顔をした。
「あの、鉄也さんにご両親は?」
「居ない……孤児だったんだ。俺は」
「あ……」
それを聞いたとき、フェイトは知った。鉄也が何故皆と輪を作りたがらないのかを。
「生まれて間もない頃、俺は孤児院に居た。捨てられたのか、はたまた両親が死んで預けられたのか、真相は分からない。只、俺が過ごした孤児院での生活は辛かった」
鉄也は11歳の頃まで孤児院での生活をしていた。其処では満足な食事が行えるだけでも有り難い位の生活であり、娯楽も何もなく、毎日付近の子供達からの酷い虐めにあっていた。
それが原因で鉄也は今の性格になったと言える。
「あの時は、毎日毎日壁や地面に知る筈もない両親の顔を書いていた。書けば思い出せるかと思ってな」
フェイトは黙ってそれを聞いていた。嫌、何もいえなかったのだ。
辛い過去だったからだ。
「そして、俺が11になった時、今の所長に拾われ、此処に連れて来られた。其処で俺はグレートマジンガーの操縦者になる為に、そして……戦闘マシーンなる為に地獄の特訓を強いられる事になったんだ」
此処で行われていた特訓はそれは過酷な物でもあった。心を捨て、戦士となる為に毎日死に物狂いの特訓をさせられていた。逃げようとしても其処は海の荒い離れ小島。とても泳いで逃げれない。
鉄也は生き残る為に必死にその特訓をこなし続けた。その辛い過去がまた、鉄也の心を傷つける要因だったのかも知れない。
「あの時は、正直所長を恨みもした。鬼か悪魔のようにも思えた。だが、長い間あの人と過ごしている内に、何処か暖かみを感じるようになったんだ」
彼とて鬼ではない。特訓を終え戻ってきた鉄也に対しそっと頭を撫でてくれた。それが鉄也には何よりも嬉しかった。あの人に褒められたい。あの人に認められたい。
その一心で鉄也は地獄の特訓に耐え続けた。その結果もあってか、今の戦闘のプロ、剣鉄也が完成したと言える。
「そんな過去が鉄也さんにあったんですね……でも、何で私に教えてくれたんですか?」
「正直、俺は誰も信用してなかった。どいつにも家族が居て、皆温かな家庭を知っている。そいつらと居ると自分が惨めに思えちまってな」
鉄也が今まで皆から遠ざかっていた理由。それは彼自身が孤児だと言う理由に対する後ろめたさからであった。そして、家族を持ってるアースラ隊に対しての嫉妬感から来ていた事だったのだ。
女々しいだの何だの言う輩は彼の辛さを知らないからだ。幼い頃から孤児として育ち、過酷な人生を生きてきた彼の心の内を。
そして、その心の内を打ち明けたと言う事は、鉄也がフェイトを信頼したと言う事への表れでもあった。
「そうだったんですね。でもそれを聞いて安心しました」
「何? どう言う意味だよそれは?」
何とも以外な言葉に鉄也が首を傾げる。
「だって、鉄也さんが皆を遠ざけていたのは自分の中にある辛い過去を思い出したくないからであって、別に本当に戦力にならないからと言う訳じゃなかったんですね」
「なっ、何言ってんだ! お前等が戦力不足なのは当然の事だ! それにお前等が飛び回ってられると邪魔だってのも同じように事実なんだからな!」
「今更言っても意味ないですよ、鉄也さん」
「ちぇっ、調子の良い奴だぜ」
鉄也の内心を知ってしまえば彼の言う皮肉も何処か可愛げがある物である。そして、フェイトが鉄也に関わるのにはまた別の理由もあった。
(鉄也さんは、何処か私に似ているんだ。家族の温かさを求める余り意固地になってたんだなぁ。そして、私も母さんに褒められたくて必死になって戦ってた。何だか鉄也さんの気持ちが分かる気がするな)
かつてフェイトも母プレシアに認められたい一心でジュエルシードを集めていた。その際になのはや仲間達と出会い、そして共に戦う事の素晴らしさ、凄さを肌で知った。だからこそ、それを同じように彼にも教えてあげたいのだ。
個々の力では限界がある。だが、力を合わせればそれは無限大になるのだと。
「ったく、もう止めだ止めだ! これ以上居たって時間の無駄にしかなんねぇや。帰って特訓するぞ! 今日からグレード上げて厳しく行くから覚悟しておけよ!」
「宜しくお願いしますね。鉄也さん」
「ふん、後で吠え面かいても知らねぇからな」
今更皮肉を言ってももうフェイトには効かなかった。彼の内面の弱さを知り、そして人の心を知る事が出来た。それだけでもフェイトの今までの努力は無駄ではなかったと言える。
(なのは、私、出来たよ。なのはみたいに上手く出来たかどうかわからないけど、鉄也さんの心の内を知る事が出来た。この調子で皆の輪を作っていく。だから安心しててね)
今は戦列に居ない親友の事を思い、フェイトは鉄也と共にアースラへと帰還した。彼女の努力が本当に実を結ぶのは、実はもう少しだけ後の事だったりする。
つづく
後書き
次回予告
突如飛来した宇宙怪獣ギルギルガン。
その余りの強さにグレートマジンガーも歯が立たなかった。
今こそ二大スーパーロボットが手を組む時が来たのだ。
次回「最強タッグ! 宇宙怪獣をぶっとばせ」お楽しみに
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