スーパーヒーロー戦記
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第56話 蘇れ、われらのゲッターロボ
グレートマジンガーをアースラ隊に編入すべく科学要塞研究所へ向ったリンディとフェイト。
その際、フェイトはグレートマジンガーのパイロットである剣鉄也と出会う。
しかし彼には性格に難があるらしくこれから先の仲間達との連携に問題が生じる危険性がある事は否めない事実でもあった。
***
フェイトは戦闘を終えた後、剣鉄也とグレートマジンガーを時空航行船アースラへと案内した。グレートを降りた鉄也を見たが、やはり彼の顔はとても険しい顔をしていた。常に眉間に皺を寄せており不機嫌そうな顔をしている。
この人は今まで笑った事があったのだろうか?
そう疑問を思わせるには充分でもあった。
「何だ?」
と、鉄也がこちらを見てきた。どうやらフェイトが鉄也の事を見ていたのに気づいたようだ。
咄嗟にフェイトは作り笑いを浮かべながらかぶりを振った。
「な、なんでもありません」
フェイトの言葉を聞いた鉄也と言えば半ば眉をひくつかせはしたものの大して気にせずに通路を歩き続けた。今二人はアースラ内の通路をブリッジに向けて歩いている。新しく仲間になった彼を艦長でもあるリンディに紹介する為だ。これから彼もまた共に戦う仲間となるのだ。顔合わせをする必要がある。
「ただいま戻りました」
目の前にあったスライド式の扉が開くと、其処は一際広いブリッジに変わった。中では所員達が今でも忙しくボードを叩きモニターから表示されるすうち に目を光らせている。
そして、その中央には艦長席が設けられており、其処には艦長であるリンディが座っており、その隣に執務官であるクロノが立っている。そんな陣取りであった。
「おかえりなさいフェイト。御免なさいね、突然の襲撃に助けに行けなくて」
フェイトの無事と先の戦闘の際の謝罪を纏めてリンディは言う。その言葉にフェイトは笑顔を作りかぶりを振った。
「いえ、こうして無事に帰ってこれましたから大丈夫です」
余り心配させたくない。そういったフェイトの配慮だと言う事は誰からの目でも明らかな事だ。普通に考えて並みの人間が20mを越す戦闘獣と戦おうなどとは誰も考えない。
その点フェイトはやはり肝が据わっていると言える。
「フェイトが戦闘獣と戦ったと聞いてアルフが慌ててたぞ。『フェイトが大変だ~~! すぐに助けに行かなくちゃ~~』ってね」
「もう、少し意地悪だよクロノ君」
多少皮肉掛かったクロノの言い方にフェイトは苦笑いを浮かべながら返す。その言葉をアルフが聞いたらきっと顔を真っ赤にして怒る事だろう。その事を考慮してでの言葉だとしたら相等意地悪だと言える。
「……」
ふと、隣に居た鉄也が踵を返しブリッジを出ようとする。そんな鉄也を見つけたフェイトが振り返る。
「待って下さい。まだ鉄也さんの紹介をしてない……」
「その必要はない。時間の無駄だ」
冷たくあしらう鉄也。明らかに興味がなさそうな物言いだ。それを聞いていた者達の中にはその言い分を黙って聞けない人間も居たりする。
「待ちなさい鉄也君」
呼び止めたのはリンディだった。鉄也はさも面倒臭そうな顔を表面に出しながら振り返る。
「私達はこれから共に戦うチームなのよ。今の内に親睦を深めておく必要があるの」
最もな言い分であった。それを聞いていた鉄也はふぅ、と溜息を尽く。体を全てリンディの方に向けてきた。その後鉄也の口から放たれた言葉は今でも皆にとっては衝撃であった。
「一言言わせて貰うぞ。俺はお前等がやってるような【仲良しごっこ】をするつもりはない。俺は此処に来れば実戦経験が積めると聞いて同行をしたまでだ」
余りにもあんまりな言い分であった。最初から自分達など宛てにしてない。そう言っているような物だ。
「本来なら所長の命令がなければお前等みたいな奴等とつるむこと事態御免だ!」
「何だと!」
クロノが食い下がる。が、鉄也は鼻にも掛けない。
「良いか。戦闘獣の相手は俺がする! お前等はその他の雑魚の相手をしてなるべく俺の邪魔にならない様にしろ! 少しでも目障りになったら容赦せずに叩き落とす! 覚悟しておけ」
それだけ言い終えると鉄也はブリッジを去ってしまった。鉄也の言った言葉は今でもメンバーを驚愕させる事となった。今までにないタイプの人間だったのだ。
決して悪人ではないのは分かる。だが、最初から仲間など信頼していない。そう実直に鉄也は言い放ったのだ。
これから先、彼と共に戦うのとなると気が重くなる。
「とんでもない奴がパイロットだったな。あのマジンガーZの時とは大違いだ」
クロノが言っているのは兜甲児の事であろう。彼は鉄也とは違いオープンであり仲間を信頼していた。正しく鉄也とは真逆の人間性だったのだ。だからこそ皆甲児を信頼出来たし仲間としても認識出来た。
が、今度来た鉄也は話が別だ。まるで自分自身で壁を作ってるような人間性なのだ。あれではチームワークなどあった物じゃない。
「これでは先の戦いが思いやられるわね」
深く溜息を吐くリンディ。彼女の言い分も最もだ。これからは更に戦いが激化する。個々の力では戦い抜くのは厳しくなっていく。だからこそ互いに力を合わせて行くことが重要なのだ。にも関わらずである。
「これから先が大変だな」
誰もがクロノの言ったとおりだと思えた。未だ回復しきっていない戦力。新しく入った戦力はチームワークを無視するなど、問題が多い。
(こんな時、なのはだったらどうしただろう?)
こう言った人間との付き合いはなのはの方が一枚上手だ。彼女は人をひきつける何かを持っているのだから。だが、所詮それはない物ねだりに過ぎない。今は自分が何とかしなければならないのだ。何時までもなのはに頼ってばかりでは居られない。
「やはりもう一体スーパーロボットの力が欲しいですね。当面グレートマジンガーには頼らない方針で行った方が良いと僕は思います」
「そうね、ちょっと厳しいかも知れないけど今の鉄也君の場合本当に貴方達に攻撃しそうだもんね」
そうなっては大変だ。そうならない為にもせめてもう一体スーパーロボットの力が欲しい。
「そう言えば、ゲッターチームから何か連絡はありましたか?」
「そう言えばすっかり忘れてたわ!」
リンディも忘れていたようだ。彼等が仲間になってくれるのであればそれは非常に心強い。早速リンディは早乙女研究所に向けて連絡を行う事にした。彼等が戦列に加わってくれる事を説に切に願いながら――
***
地球のおよそ7割が海で出来ていると言うのは既に皆様承知であろう。その海全てを把握する事は人間には困難な事なのだ。
そして、その広大な海の何処かにそれは浮かんでいた。
巨大な人工都市がこの地球の何処かの海に浮かんでいたのだ。そして、其処に住んでいたのは頭に角を生やした【鬼】達であった。
人類に角を生やし鬼へと改造する新たな脅威である。奴等は自分達をこう名乗っていた。
【百鬼帝国】と――
「恐竜帝国が滅び、Dr.ヘルが死んだ。次は我等が地上を手にする番なのだ!」
拳を振り上げて声を発しているのはナチスドイツを思わせる軍服を身に纏った細身の鬼であった。前線の指揮を主にしているこのヒドラー元帥の言葉に各々の鬼達が仕切りに頷く。
「だがヒドラー元帥よ。地上侵略の為には戦力が必要だ。その為には地上の人間を全て鬼にしなければならない」
「それに百鬼ロボの製造も必要だ。だが、その為のエネルギーはどうする?」
「今のこの人工都市だけのエネルギーでは到底賄い切れん! 我々が生きていくだけでも相等エネルギーが要るのだ」
どうやらそう簡単に侵略をすると言うわけにはいかないようだ。敵も味方もいずれは直面する問題、エネルギーの枯渇に彼等も苦しんでいたのだ。
「その心配は要りません。先ほど私が送り込んだスパイがある情報を入手しました」
「情報だと?」
その言葉に鬼達の視線が集まっていく。それを感じたヒドラー元帥はニヤリとしながら説明に入る。
「近年、浅間山にある早乙女研究所へ潜入させていたスパイの情報によると、つい先月、早乙女博士がゲッター線を収集し増幅する為の装置【ゲッター線増幅装置】を完成させたと言うのです。そのエネルギー量は従来のおよそ10倍は越えるとの予想だそうです」
その数値に鬼達から声が沸き上がる。驚きの数値だったのだろう。その数値を見て目を輝かせる者も居れば歓喜の声を上げる者も居る。その反応はヒドラー元帥にとっては想定の範囲内だっただろう。
「皆様も既にご承知の通り、このゲッター線増幅装置を奪い、我等が人工都市に組み込めばエネルギー問題は一挙に解決する事となります。そうなれば全世界の人間を鬼にする事など造作もありません」
「確かにそうだろう。だがその早乙女研究所にはあのゲッターロボと言うゲッター線で動くロボットが居ると聞いたが?」
ある鬼のそれを聞いた途端鬼達の顔から笑みが消えた。皆ゲッターロボの事は既に知っていたのだ。その存在も、そしてその強さも――
ヒドラー元帥の顔から笑みは消えない。まるで「そんな些細な事でお悩みとは嘆かわしい事ですなぁ」とでも言いたげな雰囲気であった。
「ご心配なく、皆様がお悩みのゲッターロボは既にこの世に消え去って御座います。ゲットマシンは既に大破状態になり、パイロットも一名死亡したとの報告が御座います」
「何と! それが本当なら今の早乙女研究所には防衛手段が無い事になるのだな?」
再び鬼達の顔に笑みが戻る。
「その通り、更に良い情報が舞い込みました。スパイの情報によると例の混合部隊ガーディアンズは大きく戦力がダウンしているとの情報に御座います」
彼等にとっては正しく朗報でもあった。ゲッターロボはこの世から消え失せ、ガーディアンズは大きく戦力を削がれた。正しく今こそ絶好の好機とも言える。
「皆様の顔に笑みが浮かんでおるようですなぁ。では、そんな皆様に更に朗報をお届けいたしましょう。グラー博士」
名前を呼び、ヒドラー元帥の隣にまた別の鬼が現れる。白い髭を蓄えた老いた鬼であった。
「グラー博士。兼ねてより製作していた百鬼ロボの成果のご説明をお願い致します」
「あい分かった。ではこれを見て貰おう」
グラー博士がボードを操作する。画面が変わりロボットの図面ガ露となった絵が映し出された。
「これが我等百鬼帝国の科学技術の粋を結集して作り上げた百鬼ロボ【一角鬼】に御座います」
「このメカ一角鬼の力はかつてのスーパーロボットを凌駕する事間違いありません。仮にゲッターロボが居たとしてもメカ一角鬼に掛かれば赤子の手を捻る事と大差ありません」
最早にやけるしかなかった。敵の戦力は低下し、更にこちらはそれを遥かに上回る兵器を所有するに至った。これならば勝ったも同然とも言える。にやけない方が逆におかしいと言える。
突如、会議室の扉が音を立てて開く。開いた扉からまた別の鬼が姿を現した。二本の太い角を生やし赤い立派な服を身に纏ったいかつい体をした鬼であった。
「百鬼ブラァァァイ!」
突如鬼達が立ち上がり手を上げて叫ぶ。無論ヒドラー元帥とグラー博士も例外ではない。鬼達のそれに軽く手を上げるだけで彼ブライ大帝は応じ、自身の席に腰を落ち着かせる。
「して、世界征服の準備は進んでおるのか?」
「はっ、順調に進んでおります!」
画像が移り変わり世界地図へと変わる。その世界各国には所々点滅する箇所が見受けられた。恐らくその点滅する箇所が現在支配している地域なのだろう。
既に全世界のおよそ4割は彼等により支配された事となる。
だが、その詳細を見てもブライ大帝の機嫌が良くなる事はなかった。嫌、寧ろ不機嫌になった。
「まだこの程度しか侵略が進んでいないのか? 侵攻が遅いようだな」
「実は人間達を捕えて鬼に改造してもそのエネルギー供給にエネルギーを消費してしまうので、思うように侵略が出来ない現状なのであります」
「言い訳は聞きたくない。私が聞きたいのは結果だけだ。何か解決策はないのか?」
どんどんブライ大帝の機嫌が悪くなって行く。これ以上機嫌を損ねる訳にはいかない。
「ご心配なく、実はスパイからの情報によると早乙女研究所がゲッター線増幅装置を完成させたとの情報が入りました。それを強奪すればエネルギー問題は一挙に解決する計算になります」
「ならばさっさと奪え! そして一気に全世界を征服するのだ! 直ちに行動を起こせ!」
「百鬼ブラァァァイ!」
再び、盛大に声を張り上げる。今、此処に更に強大で凶悪な悪の組織が動き出そうとしていた。果たして、人類の命運はどうなってしまうのか?
***
浅間山山中にある早乙女研究所。かつて其処にあった面影は今は瓦礫と化してしまっていた。今から5ヶ月前、謎の襲撃者の突然の攻撃に会い研究所とゲッターロボは大破し、巴武蔵が若い命を散らした。
一同にとってそれはとても苦い思い出でもあった。しかし、何時までも人類は立ち止まっている訳にはいかない。
現に、その近くには新たに建設された【新早乙女研究所】が建っていたのだ。その中で、今新たな力が目覚めようとしていたのだった。
「連絡が遅れてしまい申し訳ありませんでした」
「いえ、こちらこそご無事が確認できてなによりです」
リンディと早乙女博士が互いに握手を交わす。その隣には同行したフェイトとクロノも一緒に来ている。彼等としてもゲッターチームが無事だったのを確認したかったのだ。
かつて、ジュエルシード事件の折に共に戦った大事な仲間達である。
「遅れた理由を説明する為に、一度皆様にはワシと一緒に来て貰いましょう」
席を立ち、早乙女博士が先導して歩いて行く。三人もそれに続いて歩く。向った先は地下にある格納庫であった。
其処には一体の巨大なロボットが納められていた。それを見た時、ついてきた三人は仰天する。
「こ、これは!」
「左様、かつてのゲッターロボは既に破壊されました。しかし、ワシ等は此処に新たなゲッターロボを完成させたのです」
「新たなゲッターロボ!?」
初耳であった。今まで連絡が取れなかったのは恐らくこれを製造している為だったようだ。それならば合点も行く。
それにしても見れば見るほど凄まじい物であった。全体のフォルム的にはかつてのゲッター1を彷彿とさせる。しかしその全長は前の時よりも一回り大きい。恐らく50mはある。
全体的にもかなりのパワーアップが施されている感じがする。
「その名を【ゲッターロボG】。これにはワシが長年の歳月を掛けて完成させた【ゲッター線増幅炉】を内臓してあります。そのお陰でこのゲッターロボGのパワーはかつてのゲッターロボの約10倍にまで跳ね上がってるのです」
「凄い! それならどんな敵にも負けないんですね!」
なんとも嬉しい報告であった。これが戦列に加わってくれるならとても有り難い。
が、其処で早乙女博士が苦い顔をしだす。
「ですが、一つ問題がありまして……」
「問題、ですか?」
「皆様もご存知の通り、突如襲撃してきた謎の勢力の攻撃により武蔵君が死んでしまいました。その為パイロットが居ないのです」
そうであった。謎の襲撃者の攻撃によりゲッターロボは大破してしまい武蔵が死んでしまったのだ。今のゲッターチームは二人しか居ない事になる。
「一応リョウ君とハヤト君の二人には引き続きパイロットをやって貰う事となりましたが、未だに三人目が見つからないのです」
「そうなんですか。ところで……そのリョウ君とハヤト君はどちらに?」
そう言えば此処に来てから彼等に会ってないのだ。一体何処に行ったのか?
「それなら案内します」
再び早乙女博士が三人を連れて場所を移すこととなった。次に訪れた場所はとあるトレーニングルームであった。その中には高速で回転する乗り物があった。遠目から見ていると恐ろしい速さで回っているのが分かる。並のアトラクションではあの速度は出せない。それ程までに恐ろしい程の回転を出していたのだ。
やがて、そのマシーンが停止し、中からフラフラな足取りで竜馬と隼人の二人が現れる。
「どうかね? 新型ゲッターロボと同等のスピードの味は?」
「ははっ、些かグロッキーですよ」
「あんな化け物をこれから乗りこなすなんて考えるだけでも鳥肌もんだぜ」
早乙女博士の前には相変わらずの二人が居た。どうやら二人共元気なようだ。フェイトは安堵した。
「二人共元気みたいですね」
「ん? その声はフェイトちゃんか」
二人がフェイト達を見てさっきまでグロッキー状態だった二人が笑い出す。そして幼いフェイトの頭に竜馬はそっと頭を乗せた。
「むぅ、子ども扱いしないで下さいよぉ! 私もう子供じゃありませんよぉ!」
「ふっ、子供ってなぁ皆背伸びしたがるもんさ。俺達から見たらお前はまだまだガキンチョだよ」
言いながら隼人がフェイトの額を軽く小突く。明らかに子供扱いされてる証拠だ。嘱託魔導師となったフェイトからして見れば軽く侮辱のような感じに思える。
「気を悪くしないでくれよフェイト。隼人も久しぶりに君に会えて嬉しいんだよ」
「う~ん、それでも仕方によると思いますけどぉ」
今度はフェイトが意地悪く笑う。最近見せなかった笑みだ。何となく年相応の子供らしい仕草だった。それが本来の姿なのだろう。
「ところで博士、三人目のパイロットはまだ決まってないんですか?」
「うむ、それがまだなぁ……」
途端に渋る早乙女博士の顔に竜馬と隼人の二人は激しく落胆した。ゲッターロボとは三人乗って初めて本領を発揮出来るスーパーロボットだ。二人ではそのスペックを完全に生かしきれない。それでは折角完成したゲッターロボも宝の持ち腐れとしか言い様がない。
「リンディ艦長。管理局の局員達の中でこれに乗れる者は居ますか?」
物は試しにとリンディに尋ねてみた。それに対し、彼女はかぶりを振る。かなり焦った顔をしながら。
「無理です。あんな殺人的速度を誇るマシンに乗れる局員なんて私の知る範囲には居りませんよ」
「そうですか……」
さも残念そうな顔をする早乙女博士。さてどうした者か、であった。
「仕方ないですね。私達の方でも人員を模索しておきます」
「お願いします。ゲッターは三人揃わなければその力を発揮出来ない物ですから」
なんとも歯痒い結果となった。ゲッターロボは完成していると言うのに肝心の乗り手が居ないのだ。これでは戦列に入る事など出来る筈がない。その後、リンディは管理局内にあれに耐えられる局員を探していた。だが、恐らく居ないだろう。魔力を使って戦う事が主な局員にとってあんな殺人的加速を誇るゲットマシンを操るのは自殺と同義語でもある。
勿論、フェイトやクロノでも無理だ。幾らバリアジャケットを纏った所で気休めにしかならない。
「はぁ、どうしたら良いんだろう?」
その日、フェイトはどうも居たたまれなくなり外に出ていた。このまま研究所内に居ても意味が意味が無いと悟ったからだ。研究所近くの土手の上に腰を下ろしていた。空は快晴であり冬も近いと言うのに温かい気候のせいか心地よかった。
ふと、下の砂利道を走る集団が見えた。服装からして柔道部員である。この付近だと恐らく浅間学園の者だろう。すると、反対側から今度は手に竹刀を持った集団が走ってきた。彼等は察するに剣道部であろう。
その両者が互いに出会い睨み合う。
「やぁやぁ、其処に居るのは剣道部じゃないか! 我等浅間学園柔道部は今全国大会に向けて猛練習中なんだ。すまんが道を空けてくれんか?」
「それはこっちの台詞だ! 我等剣道部も来るべき全国大会に向けて猛練習中だ。そっちこそ道を空けろ!」
次第に険悪なムードになりだした。両者のキャプテンが仕切りに怒声を張り上げあいだし、ついには互いの胸倉を掴み会い出した。
「待って下さい!」
溜まらずフェイトが二人の間に割って入った。突然の乱入者の出現に両者はそれぞれ見る。
「何だお前は?」
「此処は女子供の出る幕じゃない! すっこんでろ」
すかさず両者からの激しい怒声が響く。それでもフェイトは引き下がらない。
「皆様も目的は同じじゃないですか。此処は互いに道を譲り合えば良いじゃないですか?」
「冗談じゃない! 俺達には誇りがあるんだ! こんな奴等に道を空けるなんざ出来るか!」
「こっちも同じだ! そいつらがどかないなら力ずくで退かすまでだ!」
フェイトの制止も無視して両部のキャプテンが互いに殴り掛かろうとする。そんな二人に尚もフェイトは訴えかける。此処で引き下がる訳にはいかない。何としてもとめなければならない。その強い思いが彼女の中にあったのだ。
「ええぃ、もう勘弁ならねぇ! こうなったらこのガキ諸とも叩きのめせぃ!」
「こっちも同じだ! やっちまえぇ!」
もう我慢の限界かとばかりに両者がフェイト諸とも踏み潰そうと進みだす。幼い彼女ではどうしようもなかった。
「あぁ、ちょっと待ってくれよぉ」
「え?」
土手の方から声がした。見ると一際大柄な男性が手に大きな握り飯を持ちながらやってきたのだ。その男性がフェイトの前に歩いてきた。
「そんなさぁ、喧嘩したって腹減るだけだよ。握り飯食って仲良くしなよ」
「また変な奴が出やがった! あっち行けよ邪魔なんだよ」
流石にこの青年ごと踏み越えては行けない。大きさは自分達よりも頭一つ分くらいの大柄で全身筋肉質だと見える。が、性格は温厚なようだ。
「大体誰何だお前は!」
「俺? 俺は今度浅間学園に転校してきた車弁慶って言うんだ。因みに俺は野球部ね。宜しく」
「弁慶だか牛若丸だか知らんが邪魔だ! 退け!」
上手い言い方だと思えた方は相等頭が古いと言える。ともかく、未だに一触即発な空気の中、フェイトはオロオロしていたが当の弁慶は全く意に返さず握り飯を食っている。
「ほら、其処のおちびちゃんも食うか?」
「え? あ、有難う御座います」
弁慶からそっと握り飯を渡される。しかしその大きさはかなりある。フェイトの手に納まらない位の大きさだ。
(さ、流石にこんなに食べられない気が……)
青ざめるフェイトの前で弁慶がその握り飯を美味そうに食べている。かなりの大食らいなようだ。
「えぇい、こうなったらもう破れかぶれだぁ!」
キャプテン同士の号令を受け柔道部員と剣道部員達が一斉に弁慶になだれ込む。
バチンと良い音が響いた。見れば其処には総勢10人以上の男達を両手で軽く支える弁慶が居たのだ。しかも本人は全くの余裕っぷりだ。
「だぁかぁらぁ、暴力はいけないってばぁ。此処は仲良くしようよ。ねえっ」
尚も言う弁慶。だが、突如皆その場に倒れてしまった。双方のキャプテン達の顔は紅葉色に顔面がはれ上がっていた。
「す、凄い……」
「ありゃりゃぁ、大丈夫かいぃあんたら? こんなとこで寝てたら風邪引くよぉ」
「だ、駄目だ……こんな奴相手にしてたら体がぶっ壊れちまう。此処は引き返せ!」
すごすごと剣道部と柔道部員達が逃げ帰っていく。その様を見ていたフェイトは正しく唖然としていた。
「いやぁ、何か悪い事しちまったなぁ」
「凄いですね。弁慶さんの怪力……でしょうか?」
「そうかい? あぁ、にしても腹減ったなぁ~。でも握り飯はもう無いし、困ったなぁ」
フェイトが驚いたのは弁慶の怪力も去ることながらその食いっぷりであった。もしかしたら――
「あの、弁慶さん」
「ん?」
「宜しかったら一緒に来ませんか? ご飯とか出せるかも知れませんし」
「本当かい? いやぁ嬉しいねぇ。そんじゃお願いしようか」
誘いに乗り一緒に研究所に向う事となった弁慶。果たして彼が新しいゲッターのパイロットとなれるのだろうか?
「戻りました」
研究所に戻ってきたフェイトだったが、リンディとクロノの姿が見えなかった。どうやら先にアースラに戻ってしまったのだろう。二人には悪い事をしてしまったとフェイトは反省した。
「いやぁ、此処って何処なんだい? 何かアニメとかで出てくる研究所みたいだけどさぁ」
「此処は早乙女研究所って言うんですよ。あの……ご存知ないんですか?」
「だって俺転校してきたばかりだしさぁ」
それなら合点が行く。そうしていると二人の元に早乙女博士達がやってくる。
「ん? フェイト君、彼は一体誰だい?」
「あぁ始めまして。俺車弁慶って言います。此処って一体何の研究をしているんですか?」
「此処かね? 此処は宇宙から降り注ぐゲッター線の研究をしているのだよ。そして、それを動力として動くゲッターロボも此処にあるのだよ」
「へぇ、何かカッコいいですねぇ。俺も乗れますかぁ?」
「な!」
その言葉に早乙女博士は驚かされる。今正にそのパイロットを探していた最中であったのだ。しかし、並のパイロットに扱える代物ではない事は事実である。果たして彼にそれが適任であるかどうか?
「うむ、だったらその前にゲットマシンのシュミレーたーに乗ってみるかね?」
「はい是非!」
さも楽しそうにゲットマシンシュミレーターに向う弁慶。まるで遊園地のアトラクションに乗り込もうとする少年の様である。するとシュミレーションルームに竜馬と隼人がやってくる。
「ん? 今シュミレーターに誰が乗ってるんですか?」
「うむ、フェイト君が連れて来た車弁慶君が乗っているんだ。まぁ物は試しにと言う事だしね」
「大丈夫なんですか?」
「その内音を上げるだろうさ」
隼人が鼻で笑う。現に玄人である二人が音を上げる代物だ。並の人間が乗りこなせる筈がないのだ。
そんな時、早乙女博士の腕時計型の通信機から呼び出し音が入る。
「どうした?」
『博士、先ほどから奇妙な電波が発せられているのです。場所は屋上の様です』
「屋上に行ってみよう」
奇妙な電波に引っ掛かりを感じた一同は訓練マシーンに乗り込んでいる弁慶をそのままに屋上に向った。
***
(ヒドラー元帥、早乙女研究所は今ゲッターのパイロットを欠いている状態であり出撃が出来ません。それにアースラのメンバーも離れている今が絶好の好機です。ゲッター線増幅装置を奪うのなら今です)
屋上には一人の若い科学者が立っていた。其処へ一同が訪れる。
「其処で何をしている!」
早乙女博士が言う。すると青年は振り返る。その青年の額には一本の角が生えていた。
「なっ、角!」
それに驚きはした物の、すぐにその青年を捕まえようと皆が取り囲む。何処にも行けなくなった青年が苦しい顔をする。
その時、突如青年が苦しみだす。
(スパイ55号よ、貴様の役目は終わった。捕まる前に潔く自爆して果てるが良い)
通信を送ってきたのはヒドラー元帥であった。それを聞いた青年は突如屋上から飛び降りてしまった。
「百鬼帝国ばんざぁぁぁぁい!」
その言葉を残し、地面に激突した後青年は爆発してしまった。どうやらあの青年は既に改造されていたようだ。その光景を目の当たりにした一同は驚愕していた。
「百鬼帝国……また新たな敵なんでしょうか?」
「分からない。だが、今まで以上の脅威である事は確かだ」
早乙女博士のその言葉を聞きながら、フェイトは既に亡骸となった敵のスパイを見ていた。今度の敵は、今までの敵よりも遥かに凶悪で、そして強力な敵なのだと。
***
スパイの自爆した後、一同の脳裏には戦慄があった。これ以上ない敵の存在。果たして今の戦力で対抗出来るかどうか?
「念の為にリンディさんにも連絡しておきました。敵は想像以上に強大みたいですね」
「うむ、一刻も早く我等も戦線に復帰したいところだが……ところで、さっきから思っていたのだが、わしはあの車弁慶君はどうかと思っているのだよ」
「弁慶?……博士!」
一同はその名で気づいた。弁慶と言えばシュミレーター。そして自分達はそれをすっかり忘れ去っていた事。
急ぎ訓練ルームに向えばマシーンは未だに回りっぱなしであった。
「早く、機械を止め給え!」
所員に命令させて機械を止める。急ぎマシーンの中を見る。其処には弁慶がグッタリした状態になっていた。
「べ、弁慶さん!」
「死んだのか?」
縁起でもない事を口走る隼人。即座にマシーンを開き弁慶の頬を叩く。
「ん? ふぁ~ぁ、良く寝たぁ」
「はぁ?」
一同は呆気に取られてしまった。かの竜馬や隼人でさえ音を上げるマシーンの中でよりにもよって居眠りをしていたのだ。それには流石の竜馬達も言葉がなかった。
「博士、これなら……」
「うむ、彼ならば新型ゲッターロボを乗りこなせる筈じゃ」
一筋の光明が見えてきた。その時、突如として警報が鳴り響いた。
「何事だ?」
『博士、見慣れないロボットが研究所目掛けてやってきます!』
「なんだと!?」
急ぎ管制室にやってきた早乙女博士達が見たのは額に角を有した巨大ロボット。メカ一角鬼であった。
「あれが百鬼帝国のメカなのか?」
「どうやら奴さん本腰入れてきた感じだぜ」
「うむ、すぐにゲッターロボの出撃じゃ! 初出撃になるが頼むぞ」
二人は頷く。ギリギリ三人のパイロットが揃った。これで後は新型ゲッターロボにどれだけ竜馬達が耐えられるかが問題でもある。
「私も一緒に戦います」
「嫌、危険過ぎる! 相手は未知の相手だ。生身の君では太刀打ち出来る筈がない!」
「大丈夫です! 私だってジュエルシード事件の戦いを生き残ったんです!」
確かに、フェイトは半年前に起こったジュエルシード事件を戦い抜いた存在だ。しかしそれと今の相手とは訳が違う。恐竜帝国の敵より明らかに強そうだ。そんな相手に果たして生身で戦えるだろうか?
「分かった。だがくれぐれも無茶をしてはいかんよ。大型の敵はゲッターロボが相手をする。君はその援護をしてくれ」
「分かりました」
頷き、管制室を後にする。敵はもう間近まで迫ってきている。だが、ゲッターロボが一向に発進しようとしない。
「ゲッターロボが出てこない。一体何があったんだろう?」
疑問に思う。だが、悩んでても仕方ない。こうなれば一人でも戦うまでである。戦闘用のバリアジャケットを身に纏い大空へと飛び上がる。
「大きい、メカザウルスよりも大きい。それにあの姿は――」
フェイトの目の前に映っていたのは間違いなく鬼を思わせる姿をしたロボットであった。そのロボットが地響きを立てながら早乙女研究所を目指している。奴を研究所へ行かせる訳にはいかない。
「なんとか、ゲッターロボが来るまで食い止めないと」
決意を胸にフェイトは百鬼帝国のメカロボットに戦いを挑む。だが、その光景はメカ一角鬼のカメラアイを通じて百鬼帝国に行き届いていた。
「ふむぅ、生身の人間が空を飛ぶとはまた珍妙な」
メカ一角鬼から映し出された映像を見てグラー博士は眉を顰めた。天才的な科学力を持つグラー博士でも生身の人間が空を飛ぶ事は珍しいのだろう。
「ヒドラー元帥! あの小娘を絶対に生かして捕えるのじゃ! さすればあれの秘密も明らかになるじゃろうて」
「うむ、あの技術は是非とも欲しい。ブライ大帝。いかがでしょうか?」
ヒドラー元帥の言葉にブライ大帝は耳を傾けた。相変わらずいかつい顔をしている。
「良かろう。本来なら人間などすぐに捕えて鬼にする所だがあの娘の持っている能力は捨て難い。グラー博士よ! ゲッター線増幅装置とあの小娘の捕獲をメカ一角鬼にさせるのだ」
「百鬼ブラァァァイ!」
突如、メカ一角鬼が標的を研究所からフェイトへと変えた。太い腕を伸ばして捕まえようとしてくる。まるでヒラヒラ飛び回る蝶を捕まえようとするかの様だ。
「狙いを私に変えてきた。これなら時間を稼げる!」
フェイトにとっては願っても無い事であった。敵が研究所を狙わず自分を狙っていればその間にゲッターが出撃する。自分はそれまで逃げ回っていれば良い。幸いあの敵には遠距離系の武装はなさそうにも見える。脅威なのは反対側のハサミだ。あれに挟まれたらバリアジャケットなど意味を成さない。
その時だった。突如メカ一角鬼の角から光線が発せられてきた。
「あっ!」
全く予想外だった為フェイトは面を食らってしまった。何とかそれの直撃は避けられた。だが、避けた先に待っていたのはメカ一角鬼の手であった。完全に虚をつかれた。
内心で愚痴るフェイト。幼い体を巨大な腕が捕える。ギリギリ握りつぶさない程度の力だ。それでも人間がその手から逃れるのは出来ない。
「くっ、抜け出せない!」
完全に腕に捕まってしまった。しかもバルディッシュは掴まれた際に落としてしまい手元にない。丸腰の状態でそれから逃れる術はないのだ。
目的を達成したメカ一角鬼は今度は研究所を目指す。同時にゲッター線増幅装置を奪おうとしているのだ。
だが、その時であった。突如研究所から三機のマシンが飛び出した。赤、青、黄の三色のマシンが上空に飛び上がる。
「ま、間に合ったんだ!」
フェイトは歓喜した。其処にある物こそ待ち焦がれていた物だ。
「隼人、弁慶、行けるな?」
ドラゴン号を運転する竜馬が二人に言う。彼は操縦桿を握り締めながら新しいゲッターのパワーを身を以って感じていた。凄まじいパワーである。流石は10倍にパワーアップしたゲッターだけの事はある。
「こっちは問題ないぜ。新米はどうだ?」
「俺の心配より自分達の心配をしたらどうだよ」
言いながら握り飯を頬張る弁慶が其処に居た。全く逞しい限りだ。竜馬と隼人でさえパワーアップしたゲッターの前に圧倒されていると言うのにこの弁慶と来たら余裕な上飯を食っているのだ。これほど頼もしい存在はない。
「行くぞ! 合体して奴を叩きのめす」
竜馬の号令を合図に三機が一直線に並ぶ。ゲットマシンは三機が合体して初めてゲッターロボとなる。ゲッターロボになった時こそ本領発揮だ。
「チェェェンジドラゴン! スイィィッチオォン!」
叫びと共にチェンジレバーを操作する。まずドラゴン号とライガー号が合さる。
が、ライガー号が僅かに横にずれていた為に互いがぶつかり合う結果に終わった。
「どうした? 隼人」
「すまん、ゲッターのパワーがありすぎて感覚がつかめないんだ! もう一辺行くぞ!」
隼人の言う通りだ。この新型ゲッターのパワーは予想以上に凄い。今にも握っている腕が引き千切れて仕舞いそうな感覚なのだ。それでもこれを使いこなさなければならない。
「よし、もう一度だ!」
再度合体を行う。今度は綺麗にドラゴン号とライガー号が合さった。残るはポセイドン号だけだ。
「弁慶、頼むぞ!」
「んな事言ってもよぉ…」
未だに操縦に不慣れな弁慶。目の前には合体したドラゴン号とライガー号がポセイドン号を待っている。それにまごまごしていたらメカ一角鬼に捕まったフェイトが危うい。余りのんびりはしていられない。
「畜生、こうなったら山勘で勝負だぁぁぁ!」
「お、おい待て!」
竜馬の制止も無視して弁慶の操縦するポセイドン号が突っ込んでいく。それは一歩間違えば激突し空中分解してしまう恐ろしい方法だった。
だが、それが幸いし三機が遂に合体する。その姿が変わり、人型へと変形していく。
特殊金属であるゲッター合金だからこそ出来る芸当である。合体した三機が赤いロボットへと変わる。
空中戦用のゲッターであるゲッタードラゴンへと変形した。
「よし、今度は俺達が相手だ! 百鬼ロボ!」
地上に降り立ちトマホークを取り出す。そのトマホークは以前のとは違っていた。諸刃の斧であり大きさもかつてのより一回り大きい。ダブルトマホークである。それを手に切り掛かっていく。
しかし、その一撃はメカ一角鬼の巨大なハサミに受け止められてしまった。
「どうした? リョウ!」
「くっ、パワーが有り過ぎて上手く操縦出来ない……」
竜馬自身その新型ゲッターのパワーに圧倒されていたのだ。以前の旧型ゲッターとは比べ物にならないパワーであった。その圧倒的パワーの前に竜馬は苦戦していたのだ。
ゲッターのトマホークを弾いたハサミが襲い掛かってきた。かわそうとするもその前にハサミが叩きつけられる。
衝撃で足元がふらつく。バランスを取ろうにも未だに操縦が上手く出来ない。
其処へ再度ハサミが叩きつけられた。今度はそれを食らい地面へと叩きつけられてしまった。
「なにやってんだよ! そんな奴さっさと叩き潰しちまえよ!」
「五月蝿い! くそっ、何て扱い辛いんだ……」
竜馬の手には操縦の反動から来る痺れがあった。まるで暴れ馬に乗った感覚だ。今のゲッタードラゴンが正にそれだったのだ。とんでもないじゃじゃ馬であった。
「おい、リョウ! ぐずぐずしてたら良い様にやられちまうぞ!」
「分かってる! くそっ、こんな事でもたついてたら、武蔵に会わせる顔がないってのに!」
倒れたゲッターに向かいメカ一角鬼がトドメとばかりに巨大なハサミを叩き付けようと襲い来る。
その時だった。突如としてメカ一角鬼の巨大なハサミが切り裂かれた。
「何だ?」
「あれは……」
フェイトの目の前には一本の巨大な剣が地面に突き刺さっていた。メカ一角鬼のハサミを切断したのはその剣だった。そして、その剣には見覚えがあった。
その剣の持ち主は上、即ち上空に居た。太陽の光を背に受け雄雄しく輝く漆黒のボディのグレートマジンガーが其処に居た。
「ま、マジンガーZ! 嫌、違う……何だあれは?」
グレートを始めて見る竜馬達はそれが何なのか分からず驚愕する。そんなゲッターの前にグレートマジンガーは降り立った。
「て、鉄也さん!」
「だから言っただろう! デカブツの相手は俺に任せろと!」
「で、でも……」
「言い訳など聞かん! すぐに助けてやるから大人しくしてろ」
フェイトに対し冷たく言い放ち、地面に突き刺さっていたマジンガーブレードを手に取りメカ一角鬼の前に立つ。
「き、君は味方なのか?」
「一応はな……それにしても噂のゲッターってのはその程度か……案外拍子抜けだな」
「何だと!」
鉄也のその言葉に竜馬が怒りを露にする。その言葉は即ちゲッターを侮辱した事となる。そして、死んでいった武蔵を――
「今の言葉、撤回しろ!」
「俺は正直な事を言ったまでだ。以下に強力な力を持とうと使い手がそれでは宝の持ち腐れだ」
吐き捨てる様に言う鉄也。悔しいが彼の言う通りであった。今の竜馬達ではゲッターロボGを扱いきれて居ない。正しくF-1カーを扱う若葉マークであった。
「お前等素人は其処で見ていろ。本当の戦いってのを俺が証明してやる」
「待て! 相手は百鬼ロボだ! まだ何か武器があるかも知れないんだぞ!」
「ご忠告感謝する。だが、どんな隠し種を持っていようと俺には通じない。俺は戦闘のプロだからな」
皮肉掛かった笑みを浮かべながら鉄也の操るグレートはメカ一角鬼と向き合う。ハサミを失ったメカ一角鬼がたじろぐ。片手にはフェイトを捕まえていた為に使えない。残る武器は角から放つ光線だ。
メカ一角鬼の角が光る、光線が放たれようとした。が、その前にグレートのマジンガーブレードが一薙ぎにその角を叩き落した。それと同時にその腕も切り裂く。
「腕が! これなら……」
制御を失った腕から逃れたフェイトが上空に舞い上がる。その真下でグレートは攻撃する手段を失ったメカ一角鬼の頭部を掴む。
「鬼なら鬼らしく、地獄に落ちろ!」
グレートの頭部に取り付けられた雄雄しき二本の角に稲妻が降り注ぐ。角へと舞い降りた稲妻が角から手へと伝わっていく。
「くたばれ、サンダーブレイク!」
刹那、メカ一角鬼の全身に300万Vの電流が流れた。本来なら遠くから狙い打つサンダーブレイクを直に叩き込んだのだ。その電撃が全身に降り注ぐ。一切の逃げ場がないその電撃を浴びたメカ一角鬼の体はみるみる内に黒こげとなって行き、やがてその姿はこの世から消滅してしまった。
「強い……あれが、新しいマジンガーなのか?」
「だが、乗り手は明らかに友好的な人間じゃなさそうだぜ」
隼人がそう言った。それに偽りはない。目の前に居るグレートマジンガーは確かに強大ではあるが、何処か……人を寄せ付けない雰囲気が漂っていたのだ。そして、それを放っていたのは、他でない。
剣鉄也その人であった。
つづく
後書き
次回予告
仲間達に心を開こうとしない剣鉄也。フェイトはそんな鉄也に体当たりでのコミュニケーションに挑む。
次回「戦闘マシーンに人の心を」お楽しみに
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