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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第37話 救い、そして・・・

 目の前で起こっているのは異様な光景でもあった。赤い発光を放つ少女が自分より遥かに巨大な超獣を一撃の元に倒してしまった。そして、次の狙いをヤプールに定めていた。

【マサカ…幾ラナンデモ早スギル! 一体何故…】

 ヤプールも驚いていた。自慢の怪獣を超える怪獣である超獣をあぁもアッサリと倒されたのだから。それだけに飽き足らず。目の前の少女、高町なのははヤプールに狙いを定めていた。

【調子ニ乗ルナヨ小娘! 光ノ力ヲ使ッタ所デコノヤプールヲ倒セルト思ウナヨ!】

 ヤプール自身も同じ空間内に姿を現す。異次元空間で自由に動ける自分自身に分がある。そう思って目の前に現れたのだろう。
 だが、目の前に居た今のなのははそれでは納まらない怪物と化していた。
 
「うぅぅぅああぁぁぁぁぁ!」

 盛大に咆哮を上げ、両の拳の光を更に強め、なのはがヤプールに殴り掛かる。ヤプールはそれを巨大な手で受け止めようとする。幾ら力が強大でも1m弱の少女と50mの巨人では雲泥の差がある。
 その見た目の通り、殴りかかってきたなのはをその巨大な腕で握りつぶそうとした。だが、その直後、眩い発光が手の中から発せられ、ヤプールの巨大な腕を粉々に粉砕してしまった。

【グアアァァァ! ウ、腕ガァァァァァ!】

 粉砕された腕を見て苦痛の叫びを上げるヤプール。そんなヤプールの顔面に向かい更に光り輝く拳を叩き込む。
 その鉄拳を諸に食らい倒れる。其処へ更に連続して拳を叩き込んでいく。
 その拳を食らう度にヤプールの顔が大きく揺れ動く。

【オ、恐ロシイ…何テ恐ロシイ力ナンダ…コ、コノママデハ体ガモタナイ……】

 未だに自身の上に乗り無我夢中になってヤプールを殴り続けるなのは。其処に居たのはかつての優しい少女の面影など微塵もなかった。有るのは只、湧き上がる怒りをぶつける獣の如き荒々しい姿しかなかった。
 その突如、ヤプールの姿が霧の如く消え去った。どうやら逃げ去ったのだろう。
 それと同時に空間も元に戻っていく。今まで失っていた力が体に戻って来る感覚を感じた。崩れていた膝が起き上がり体を起こすことが出来た。幸い命は救われたのだ。

「た、助かった」
「うん、またあの子に助けられたって感じかねぇ」

 一同が元の世界に戻ってこれたと思いホッと安堵する。だが、その安堵もすぐに消え去り緊張が支配した。
 なのはのオーラが消え去らないのだ。そればかりか、今度はこちらを睨んでいる。
 その際、初めてその時のなのはの顔を見た。恐ろしい形相になっていた。
 怒りと憎しみの感情に支配され、憤怒の形相をそのまま顔に描いていると言った表情であった。

「な、なのは。もう戦いは終わったんだよ。だからもう――」
「うわあああぁぁぁぁぁ!」

 再び盛大な咆哮を挙げだす。そして今度はフェイト達目掛けて突っ込んできた。両の拳を更に輝かせて。

「避けろ!」

 咄嗟にクロノがフェイトを突き飛ばす。その際、なのはの拳をクロノは諸に食らう羽目になってしまった。

「がぁっ!」

 咄嗟に防御結界を張ったものの、それすら紙の様に突き破ってきた。ボディに凄まじい衝撃が走る。鉄球を諸に食らったような感覚だった。それを食らったクロノは壁の端にまで吹き飛ばされてしまう。
 口から吐血してしまいズルズルと力なく地面に倒れ付す。

「なのは! もう止めて、私達がわからないの?」
「駄目だ、今の彼女は正気を失っている。今の彼女にとって”見える者全てが敵”なんだ!」

 本郷が言う通りであった。今のなのはにとって目線にある動くもの全ては敵となってしまっているのだ。それが例え自分にとって親友であろうと仲間であろうと関係ない。動くもの全てを破壊すると言う感情の元、なのはは仲間に対し無差別に攻撃を開始し始めた。

「一文字! こうなったら多少手荒だが…」
「あぁ、やるっきゃねぇな!」

 再度変身し、ダブルライダーがなのはに立ち向かう。幾ら声を掛けようが恐らく無駄だと言うのは承知の事実。となれば多少手荒だがダメージを与えて気絶させる他ない。

「なのはちゃん、少し痛むが我慢してくれ!」
「すぐに終わらせてやっからよぉ!」

 ダブルライダーが飛翔する。それを追う様になのはもまた飛び上がる。ダブルライダーが上空で位置を変える。それはなのはを間に挟んだ状態だ。其処で二人のライダーが拳を握り締める。
 威力は最小限にまで留める。なるべく人間が気絶するだけの力で殴る。そうでなければ幼い少女の体をバラバラにしてしまう。
 前後からダブルライダーの拳が放たれた。板挟み状に拳が命中する。前後の両方からなのはの心臓の位置に拳を叩き込んだのだ。一瞬なのはの動きが停止した。心臓の鼓動も一瞬弱まった。
 ガクリと頭が下がる。一瞬気絶したかと思った。だが、その突如、更に強大な赤い光が放たれる。

「何!?」
「ちっ、打たれ強さも増したってのかよ!?」

 毒づく一文字。そんな二人の前で更に赤い光を増したなのはの両拳がダブルライダーに放たれる。
 今度は地面に叩き付けられた。凄まじい衝撃が辺りに伝わる。
 ダブルライダーの胸部にはそれぞれ拳の跡がクッキリと残っていた。なのはが殴った跡であろう。
 強化されたボディを凹ませる凄まじい威力でもあった。
 嫌、恐らく加減されているのかも知れない。でなければ今頃本郷も一文字もバラバラに粉砕されている筈だから。

「なのは、もう止めるんだ!」

 名前を呼び、ユーノがお得意のバインドを放つ。暴走したなのはの体中にチェーン状のバインドが雁字搦めに絡む。
 身動きが取れなくなったなのはに向かい必死に呼びかける。

「なのは、正気に戻ってくれ! 君はこんな事をする為に魔法を手に入れたんじゃないだろう?」

 心の底から叫んだ。元に戻って欲しい。元の優しいなのはに戻って欲しい。その思いが込められていた。だが、その思いとは裏腹に、目の前のなのははチェーン状のバインドを意図も容易く引き千切ってしまった。
 そして、標的をユーノに定める。

「ぐっ! な、なのは…」
「うあああぁぁぁぁぁぁ!」

 今まで硬く握り締めていた拳を大きく開き、それでユーノの顔面を掴む。そしてそのまま地面に思い切り叩き付けた。衝撃が辺りに伝わる。
 地面に叩き付けられたユーノはそのまま倒れてしまった。相等の衝撃が脳に伝わった為動けなくなってしまったのだろう。

「いい加減目を覚ませ! でないと、本当にあたしはあんたを倒さなきゃならないんだよぉ!」

 今度はアルフが殴りかかった。その拳を片手で掴み取ったなのはは、その威力を生かしたまま遠く見える壁にアルフを投げつける。

「あぐっ!」

 壁に激突し、深くめり込んでしまったアルフ。衝撃で動けない状態となったアルフに向いなのはの赤く光る拳が飛んでくる。

「もう止めろ!」

 それを止めるかの様に、今度はマジンガーの巨大な腕がなのはを掴みあげる。掴まれたなのはが必死に逃れようとマジンガーの腕を殴りつける。
 超合金Zの指が徐々に歪に歪み出していた。それ程長くはもたない。

「なのは、目を覚まして! もうこんな酷い事しないで!」

 そんななのはに向かいフェイトが必死に叫ぶ。だが、そんなフェイトにすらなのはは拳を放ってきた。今のなのはにはフェイトと認識すら出来ないのだろう。目の前に見える者は皆敵。そう認識されているのだ。

「くそぉっ、どうしたらなのはは元に戻るんだよ! 最後の最後で相手がお前なんて、俺は絶対に嫌だぞ!」

 甲児も叫んだ。闘いは終わったのだ。だが、その最後の相手がなのはでは悲しくもなってくる。
 戦いたくない。それが皆の思いであった。だが、その思いとは真逆に、なのはは見える者全てを傷つけていく。

「うおぉぉぉあぁぁぁぁ!」

 やがて、Zの腕を跳ね除け、自由になったなのはが続けてフェイトに殴り掛かる。
 咄嗟にバルディッシュを盾代わりにして拳を防ぐも、衝撃の余り持っていたそれを弾き飛ばされてしまい、地面に叩きつけられる。

「あうっ!」

 叩き付けられたフェイト。すぐに立ち上がろうとしたが、その頭上には既になのはが居た。フェイトの首に手を掛けて地面に抑え付ける。
 もう一方の手を強く握り締めて、更に赤く光り輝かせる。あの時超獣を仕留めた時と同じ光だった。

「あ…がぁ…な、なのはぁ…」

 とても子供の力とは思えなかった。それ程の凄まじい力がフェイトの首を伝い伝わってくる。目の前に居るのは怒りに支配されたなのは。そのなのはが自分を粉々にしようと拳を硬く握り締めている。

「フェ、フェイトォ!」
「に、逃げろフェイト! もう今のなのはは何を言っても駄目だ!」

 皆が叫ぶ。助けに行きたい所だが、既に限界に達していたのか満足に動く事すら出来ない。只、目の前で起こり得る惨劇を見守る事しか出来ない。
 そんな皆が見てる中、遂になのはがフェイトに向い眩く光る拳を放ってきた。

「なのは……お願い、目を覚まして!なのはぁぁぁぁぁぁぁ!」

 最後に力一杯叫んだ。その直後、凄まじい衝撃が伝わってくる。
 同時にその影響で砂煙が舞い上がり二人を覆い隠していく。誰もが固唾を呑んで砂煙が晴れるのを見ていた。
 やがて、砂煙が晴れた後、其処にはなのはとフェイトの二人が居た。フェイトに放った拳はフェイトの顔のすぐ横の地面を殴っていた。
 どうやら外れてくれた様だ。そして、なのはの体を覆っていた赤い光は薄くなっており、徐々に輝きが薄れだし、やがて消え去ってしまった。
 暫く、なのはは微動だにしなかった。皆が緊張の眼差しで見守る中、糸の切れた人形の様にその場に倒れこんでしまった。
 そして、それとは対照的に起き上がるフェイト。どうやら無事に納まったようだ。

「フェ、フェイト…大丈夫かぃ?」
「うん……大丈夫」

 荒い息を必死で整えながらもフェイトは頷く。そっと立ち上がったフェイトの前では先ほどまで狂ったように暴れまわっていたなのはが静かに倒れたままとなっていた。どうやら暴走は収まったようだ。

「お、終わったんだな…」

 ふと、甲児が呟いた。皆酷くボロボロの状態ではあったが、どうにか無事に闘いは終わったのだ。
 そう思わせるには充分な状況でもあった。すると、皆の体にドッと疲れが圧し掛かってきた。
 これだけ緊迫した状況だったのだ。相等疲労してしまったのだろう。

「皆、立てるか?」
「す、すみません…駄目みたい…です」

 ヨロヨロと立ち上がる本郷に対し、皆が首を横に振る。相等までにダメージが蓄積されているのだろう。これでは歩いて帰るのは無理そうだ。その直後、激しい振動が時の庭園全体に伝わってきた。主を失い、動力炉も破損した時の庭園に待っているのは自壊だけであった。

「不味いぞ本郷。この時の庭園、もうすぐ崩れるぞ!」
「いかん、すぐに脱出するんだ!」

 そうは言うものの、もう誰も一歩も動けない状況化である。とても脱出など出来そうにない。
 そんな時、一同の前に突如リンディ艦長が転移してきた。どうやら時の庭園が機能を停止した為に転移魔法が使えるようになったのだろう。背中に羽の様な物を生やしたリンディが皆の前に現れたのだ。

「皆さん、すぐにアースラへ転送します。安心して下さい」
「待って下さい。母さんとアリシア姉さんを…」

 フェイトはリンディに頼み込もうとするも、リンディは悲しい顔で首を横に振った。

「御免なさい。アースラも相等ダメージを負ってしまって、貴方達をアースラに転送する位しか出来ないの。残念だけど…」
「……」

 言いたい事は分かった。プレシアとアリシアの二人を連れて行く事は出来ない。酷な話だが仕方なかった。フェイトは涙を流しながらそれを受け止めるしか出来なかった。フェイトは、最後に事切れ、動かなくなったプレシアとカプセルの中に入れられ眠ったままのアリシアを見た。
 フェイトの脳裏にプレシアの言葉が過ぎる。その言葉を胸に、フェイトは深く頷いた。何を考えて頷いたのか。
 それを知っているのは、誰も居ない。フェイトだけしかその理由を知らないのだ。そして、その直後、一同の視界が一瞬ホワイトアウトし、その場から全員が消えてしまった。




      ***




 アースラの前で、時の庭園が崩れ落ち、その姿を消し去ろうとしていた。その光景を一同は見ていた。
 闘いは終わった。しかし、その際に失った者は余りにも大きな者でもあった。

「母さん…姉さん…」

 フェイトは静かに崩れ行く時の庭園を見つめながら呟いた。あの中に居るプレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサの遺体。二人はあの後、果たしてアルハザードに行けるのだろうか?
 それは分からない。だが、きっと二人はまた再会出来る。そう信じたかった。

「終わったな、この闘い」
「あぁ、最高幹部を倒した事で、きっとショッカーも大打撃を受けたに違いない…一先ず、俺達の大きな戦いは終わった事になるな」
「Dr.ヘルも倒したし、もう機械獣も居なくなった。これで、本当に地球に平和が来ると良いなぁ」

 皆ボロボロになりながらも勝利を勝ち取ったと言う感情を胸に抱いていた。苦しい戦いであった。辛い闘いでもあった。それでも、自分達は勝ったのだ。この闘いに勝利したのだ。
 今は、その気持ちを少しでも噛み締めたい。そう思う事にした。




     ***




 なのはが目を覚ましたのは後に言う【PT事件】の終結から実に2日後の事であった。目を覚ますと其処はアースラの医務室であり、起きたなのはに告げられたのは闘いの終わりと、ひと時の別れであった。

「お別れ……ですか?」
「あぁ、今回のPT事件の事後処理をしなければならない事になったんだ。そして、それにフェイト・テスタロッサも協力してくれる事になった」

 クロノが言った事。それはフェイト達と共に一度地球を離れる事であった。今回の事件の詳細を報告すると共に事後処理等を済ませなくてはならない。
 そして、その処理をフェイトも手伝う事になったのだ。だが、フェイトが手伝いを言い出した理由はほかにもあった。

「なのは……私ね、もっと魔法を上手くなってくる」
「フェイトちゃん」
「なのはに出会えたから、私は此処まで強くなれた。だから、今度は私がなのはを引っ張っていけるようにもっと魔法を上手くなってくる。だから、少しだけお別れしないといけないんだ」

 ギュッとなのはの手を握り締めてフェイトがそう言った。今まで自分はなのはに助けられてばかりだった。だから今度は自分がなのはを助ける為にもっと強くなろうと思ったのだ。
 その為にも魔法世界でもあるミッドチルダに一度帰る必要があった。

「そうなんだ……頑張ってねフェイトちゃん。きっとフェイトちゃんあらすぐに強くなれるよ」
「うん、有難う……なのは」

 互いに手を握り合いなのはが言ってくれた。その言葉がフェイトにはとても嬉しく思えた。

「よっ、元気にしてっか?」

 続けて病室に入ってきたのは甲児であった。それに他にも本郷や一文字、それにゲッターチームも揃っていた。

「あ、皆さん」
「大変だったみたいだね。俺達も戦いに参加したかったんだけど出来なくてすまなかった」
「なぁに、リョウ君達が居なくたってこの俺とマジンガーZが居たお陰で全部綺麗に片付いたさ。心配しなくて良いって」
「あはっ、相変わらずですねぇ甲児さんは」

 途端に部屋全体が笑いに包まれる。良い意味で甲児の存在が場の空気を和らげてくれた。
 今まで変に肩に力が入っていたのがスッと楽になるのを感じた。

「暫くは俺達皆アースラに居るつもりだ。それでも、後2~3日したら皆それぞれの場所に帰る事になるんだけどな」
「そうですか」

 本郷のその言葉は何処か寂しくも感じられた。折角知り合えたのにまた離れ離れになってしまう。その思いが少しだけ、ほんの少しだけだが寂しくもあった。

「なぁに気にするこたぁねぇよ。俺は何時でも会いに行けるからよ。何ならまた乗っけてってやろうか?」
「あの、もうあの獣道は止めて下さいね。本当に怖かったですから」
「あ、はい……すみませんでした」

 すっかり縮こまってしまった甲児。どうやらまたあの獣道を使うつもりだったようだ。
 その後も楽しい会話は続いた。皆後々の別れを惜しむかの様に楽しく話し合う。
 面白い話、ふざけた話、笑える話、色んな話をした。
 そうしていると、時間はあっと言う間に過ぎて行き、やがて、別れの時がやってきた。

「それじゃ、そろそろ行くね」
「うん、また何時か……会えるよね」
「きっと、ううん! 絶対に会えるよ」

 地球、海鳴市の海岸前でなのはとフェイトは互いに再会を約束しあった。その証として、互いの髪を結んでいたリボンを交換しあった。その仕草を見てアルフが号泣していたのは記憶に新しい。
 それから、クロノ、ユーノ、アルフ、フェイトの四人はアースラの転送魔法により地球から去って行った。
 ゲッターチームもまた平和になった事により本来の宇宙開発に向けてのゲッター線研究を行う事となり、本郷と一文字はショッカーの残党処理を行う事となり、甲児達もまた、元の生活に戻っていく事となった。
 そして、なのはは…




     ***




「ただいまぁ」

 家に帰ってくるなり両親のきつい抱擁が出迎えてくれた。暫く家を空けていた為に皆心配していたのだ。その後は盛大なお帰りパーティーが開かれ、家族と楽しい時間を過ごした。
 やがて、時間は夜となり、なのはは自分の部屋で久しぶりの開放感を感じた。
 そして、同時になのはの顔色が暗くなっていった。

【どうしました? マスター】
「レイジングハート…私、あの時皆を傷つけたって…本当なの?」

 なのはは覚えていたのだ。あの時、時の庭園での闘いの際、なのはの心は赤い光に支配され、只破壊の悪魔となり目の前に見える物を全て壊そうと暴れまわっていた。
 皆はなのはの事を気遣い言わなかったが、なのはは微かに覚えていたのだ。今でも手に残る感触。それは大事な人を殴り殺そうとした感触が未だに生々しく残っている。
 その感触がなのはの心の中に深い傷として残ってしまったのだ。

【マスターは悪くありません。あれは仕方なかったのです】
「仕方ないで良いの? 私はあの時皆を傷つけた……あんなに優しい皆を私は――」

 震える肩を両手で押さえながらなのはは蹲りだす。ふと、かつて光の中で出会った女性の言葉が思い出される。

『貴方の中に眠る光は、時として貴方に牙を剥くでしょう。光は決して善ではないのです』

「何で? 何で私の中にはこんな恐ろしい力があるの? 嫌だよ。こんな力要らないよ! 誰かを傷つける力なら……私はそんな力要らない! 欲しくない!」
【マスター――】

 レイジングハートは何も言えなかった。あの時の赤い光はなのはの心を深く傷つけてしまった。なのはの心には恐らく一生消えない傷が出来ただろう。
 それは、幼い少女が背負うには余りにも深い傷であった。

「レイジングハート……私、自分が怖いよ……また何時自分が大切な人を傷つけてしまうかと思うと……凄く怖いよ」
【……】
「ねぇ、魔法もそうなの? 魔法も人を傷つける物なの?」
【それは使い手によります。ですが、マスターはそれで多くの人を救ってきた筈です】
「でも、それと同じ位に多くの物を傷つけてきた。私怖いよ! もう誰も傷つけたくない! 傷ついて欲しくない! もし、もし誰かを傷つけると言うのなら……魔法なんて、魔法の力なんて、私は要らない!」

 深い傷はなのはの中に一つの恐怖となって彼女の身に重く圧し掛かる事となった。それは、彼女が超えねばならない試練でもあり、また、重く辛い運命の一つでもある。
 平和への闘いは終わった。だが、少女の戦いは、まだ……始まったばかりだったのだ。
 そして、世界は新たなる闘いの舞台へと進んでいく事となる。






     つづく 
 

 
後書き
次回予告

世界は平和になった。だが、その平和を壊すかの如く眠っていた悪の牙が目覚め始める。

次回「更なる脅威」お楽しみに




次回からAs編序章がスタートします。時系列的には無印編終了から数日後が舞台となります。As編の前哨戦とお思い下さい。
それでは、次回をお楽しみに! 
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