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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第36話 紅い光

 本郷と一文字の二人の前には6体の仮面ライダーが揃っていた。その姿は間違いなく仮面ライダーその物だ。
 唯一違うとすればマフラーの色がそれぞれ違う事だ。

「黄色に紫に緑に白に青に桃色たぁ…悪趣味な色を揃えたもんだぜ」
「油断するな一文字……こいつらは今までの怪人とは違うみたいだぞ」

 身構える本郷を前に回りに居た6体の仮面ライダーが皆揃って笑い出した。

「その通りだ、本郷猛! そして一文字隼人! 我等はショッカーの科学力の粋を集めて作られた最高傑作! その名もショッカーライダーだ!」
「要するにパチモンって事だろ? 奴さんも相等苦しいんだな」
「あぁ、即ちショッカー打倒も近いと言う事になる」

 二人にとってそれは悲願でもある。自分の体を人でない物に作り変えた憎き相手。その相手の壊滅が近いと聞けば自ずと力がわいてくるのが分かる。

【馬鹿め、ショッカーが壊滅する事などあり得ん! お前達はこの地で朽ち果てるのだ!】
「何? まだショッカーライダーが居たのか?」

 再び上を向く。其処に居たのはショッカーライダーではなかった。その姿を一言で表すなら、古代エジプトのツタンカーメンを思わせる姿である。
 その上にマントを羽織りこちらを見下ろしている。

「なんだなんだぁ、ピラミッドの中からこんにちわってかぁ? ミイラは大人しく寝てろってんだよ!」
「フン、その生意気な口は相変わらずだなぁ。私こそショッカー大幹部、地獄大使よ!」
「お前が大幹部か? ならば此処で貴様を倒す!」
「出来るかな? イカデビルを倒した位で調子に乗るなよ仮面ライダー!」

 笑いながら降りてきた地獄大使。その周囲を守るように6体のショッカーライダーが集まる。

「フフフ、仮面ライダー! 冥土の土産に教えてやろう。我等ショッカーライダーの個々の能力は貴様等とほぼ同等。それが6体も居るのだ。貴様等に万に一つの勝ち目はない!」
「あっそう、だけどなぁ…大概の偽者はそう言うんだよ。だったらこっちもお決まりの台詞を言わせて貰うぜ。本物の実力ってのをたっぷりと見せてやるよ」

 一文字が腕を振り上げて構える。

「見せてやる、本当の仮面ライダーの力を!」

 同じく本郷もまた腕を振り上げて構える。構えた腕を動かしてそれぞれの決まった型を取り叫ぶ。

「変身!」

 二人の腰辺りに風車の付いたベルトが姿を現す。その風車が高速で回転しだし、体中にパワーを送る。そのパワーを全身に漲らせて二人は空高くジャンプした。忽ち二人の姿が変わっていく。6体のショッカーライダーと同じ仮面ライダーの姿になったのだ。

「その姿になるのを待っていたぞ! 殺れ、ショッカーライダーよ。ショッカーに逆らう愚かな裏切り者を抹殺しろ! 破壊しろ!」

 命令を受けた6体のライダーが襲い掛かる。それを迎え撃つダブルライダー。広い螺旋階段を舞台に縦横無尽のライダー対決が始まった。
 片や数と性能で勝るショッカーライダーに対し、ダブルライダーは1対3と言う劣勢を強いられていた。
 しかし闘いは思いの他均衡を保っていた。以外であった。本来能力が同じ筈なら数で勝るショッカーライダーの方が有利になる筈なのだ。にも関わらずそのショッカーライダー達相手に互角で戦っているのだ。

「何を呑気に戦っている! 貴様等の能力を使え! 仮面ライダーを殺せぇ!」

苛立ちを感じ闘いを見守っていた地獄大使がヒステリックに叫ぶ。それを聞いた6体のショッカーライダー達が動いた。
 各々が体に持っていた特殊能力を使い出したのだ。
 ある者は口から火炎を吐き出し、ある者は溶解液、ある者は両手から電撃を放ち、ある者は爆弾を投げたり、とにかく滅茶苦茶な能力を有していたのだ。

「くそっ、こいつら滅茶苦茶だぜ!」
「一文字、こいつらに時間は掛けられない。一気に決めるしかない!」

 本郷の言葉に凄みがあった。それは恐らく一発勝負を意味している。これを外せば恐らく勝利はない。

「良いぜ、俺も何時までも偽者と飯事やる気はねぇ。これで決めにしてやる!」

 一文字はそれでも乗った。どの道これ以上無駄に時間を費やす事は出来ないのだ。だとすれば少しでも可能性のある勝利方法に縋るしかない。

「だが、この技は正直言ってまだ使った事がない未知の技だ。下手したら俺達の体がバラバラになるかも知れない…」
「今更弱音吐くなんざらしくないぜ本郷。こうなったらイチかバチかでやってみようぜ」
「よし!」

 ダブルライダーは動いた。それは広い大広間の回りを高速で走り回りだしたのだ。それに続いて6体のショッカーライダー達も高速で走り回る。次第にその動きは一つの円の動きになりだした。
 そう、まるで高速で回る車輪の如き動きであった。

「行くぞ、一文字!」
「おう!」

 互いに合図をし、空高くジャンプした。ショッカーライダー達もそれに続く。ジャンプして遥か上空数百メートル地点でダブルライダーが互いにギリギリの距離で交差しあった。その後に続いてショッカーライダー達がやってくる。しかし、ダブルライダーの時とは違ってこちらは6体。
 忽ち上空で互いに激突しあい、肉体がもつれ合い、衝撃で手足が引き千切れるなど無残な結果を成してしまった。

「ショッカーライダーは倒した! 後は地獄大使だけだ!」
「ふん、ショッカーライダーを倒した位で良い気になるな! 貴様等を葬るのはこの地獄大使様よ! ガラガラガラァァァァ!」

 地獄大使の姿がみるみる変わっていく。ガラガラヘビを模した姿をした怪人へとその身を変えていったのだ。

「覚悟するが良い! このガラガランダ様は貴様等を苦しめたイカデビルとは一味も二味も違うぞ!」
「あぁ、そうかい! 生憎俺は濃い味が好みでねぇ。味見させて貰うぜ!」

 冗談交じりに一文字が言う。その言葉が皮切りとなりダブルライダーとガラガランダの激戦が始まった。

「先手必勝!」

 言葉と同時に2号ライダーの右拳が放たれる。ライダーパンチだ。しかし、その拳をガラガランダの腕に供えられたガラガラヘビの尻尾が捕らえる。

「何!?」
「言った筈だ。俺様はイカデビルとは一味も二味も違うと!」

 掴んだ腕を振り回し2号ライダーを地面に叩き付ける。凄まじい衝撃が全身を駆け巡ってきた。

「がぁっ!」
「一文字!」
「余所見をするな! 本郷猛!」
「!!!」

 一瞬の隙を突き、今度は1号ライダーの首に例の尻尾を巻きつかせ、頭上で振り回し、同様に地面に叩き付ける。

「ぐぉっ!」
「見たか! 所詮貴様等仮面ライダーなど俺様の敵ではないのだ!」

 片膝を付くダブルライダーに向かい勝ち誇るガラガランダ。明らかにガラガランダの強さはイカデビルのそれを上回っていた。油断ならない相手である。

「くっ、ショッカーライダーの際のライダー車輪でエネルギーを使いすぎたか…」
「それにこいつの言う通り、一味も二味も違いやがる…偉い強いぜ」

 先ほどのショッカーライダーとの戦いでかなりのエネルギーを消耗してしまった今のダブルライダーにとってはかなり厳しい相手であった。しかも相手はショッカーの最高幹部。かつての死神博士ですら彼よりも下だったと言う。それ程の相手と今対峙しているのだ。

「フハハ、やはりショッカーライダーとの戦いでかなり消耗したようだな。今日この地で果てるが良い! 仮面ライダー」

 手についた尻尾を所狭しと振り回してくる。その尻尾はどうやら伸縮自在ならしく部屋の隅まで伸びてくる。その伸びた尻尾が壁の異たる所に当たり砕いていく。恐ろしい破壊力だった。

「ぐぉっ!」
「づぁっ!」

 その尻尾の一撃がダブルライダーを吹き飛ばす。吹き飛ばされたライダー達が壁に叩き付けられた後地面に倒れこむ。

「どうだ、仮面ライダー! 大人しく負けを認めろ。貴様等が俺様に勝てる確率はゼロなのだからなぁ!」
「確かに勝率は低いだろう…」
「だが、ゼロじゃねぇ!」

 よろけながらもダブルライダーは立ち上がった。体中傷だらけになっており既に体内のエネルギーは殆ど無い。
 それでも彼等は決して負けない。その心に正義がある限り彼等は決して倒れないのだ。

「本郷、こうなったら残ってるエネルギー全てを使って奴を倒すぞ!」
「あぁ、最早後先考えてはいられない! これで決めるぞ!」
「何をするか知らんがその前にとどめを刺してやる! 死ねぇ!」

 再び鞭の如く尻尾が横薙ぎに飛んできた。それを二人は空高くジャンプしてかわす。咄嗟のことに驚いたガラガランダは頭上を見上げた。其処には二人の仮面ライダーがそれぞれガラガランダ目掛けて急降下してきていたのだ。

「食らえ! ガラガランダ」
「これが俺達の渾身の一撃だ!」

叫び、叩き込んだ。

「電光ライダーキィィック!」
「ライダー卍キィィック!」

 かつてイカデビルを破った一撃がガラガランダに叩き込まれた。凄まじい衝撃がガラガランダに叩き込まれる。その衝撃の余り今度はガラガランダが壁に叩き付けられた。

「げあぁっ!」

 壁に激突したガラガランダが地面に倒れこむ。相等のダメージを与えたに違いない。が、同時に叩き込んだダブルライダーの変身が解けてしまった。どうやらキックを放ったと同時にエネルギーが尽きてしまったのだろう。今此処でガラガランダが立ち上がった場合、恐らく勝ち目はない。
 二人に緊張が走り出す。

「……」
「……」

 二人が見守る中、ガラガランダは微動だにしなかった。どうやら本当に力尽きたようだ。ホッとする二人。

「急ごう、今は此処で時間を費やしてる場合じゃない」
「あぁ、そうだな」

 互いに言い合い、近くに置いてあったサイクロンに跨り道を急いだ。
 二人が過ぎ去った後、ガラガランダが突如起き上がった。どうやら微かに息があったようだ。

「お、おのれぇぇぇ…仮面ライダーめぇ…この俺様を仕留め切れなかったことを後悔するが良い…その為にも一旦本部へ戻り傷を癒さなければ…」
【その必要はない】

 突如、ガラガランダの脳髄に声が響いた。首領の声であった。一体どう言う意味であろうか? 必要ないとは一体?

「そ、それは一体どう言う事なのですか首領!」
【今日よりワシはショッカーを放棄する。そして、新たなる組織を立ち上げる。その組織に貴様は最早不要なのだ!】
「お、お待ち下さい首領! 私に、私に最後のチャンスを…」
【必要ない! 貴様はこの地で果てるが良い!】

 その言葉を最後に首領の声は聞こえなくなってしまった。自分は見捨てられた事となる。
 背後から気配を感じた。振り返った時、其処に居たのは全く見覚えのない怪人が立っていた。顔立ちは猫科の猛獣。もっと詳しく言えば、それはジャガーを表していた。
 だが、その手には鋭い刃が取り付けられていた。

「き、貴様は何者だ!」
「俺は新たな組織の怪人だ! ガラガランダ、貴様はもう用済みとなった。よって首領の命により始末する!」
「お、おのれぇぇぇ! ワシは今までショッカーの為に仕えてきたと言うのに、その扱いがこれだと言うのか! 首領よぉぉぉ!」
「迷いごとは地獄で言え!」

 その後、螺旋階段の末端にて地獄大使の断末魔が響いた。だが、その断末魔を聞く者は、処刑したハサミジャガー本人以外誰もいなかったのであった。




     ***




 時の庭園の外ではマジンガーZが機械獣軍団と傀儡兵達との壮絶な死闘が続いていた。最早その戦場は三つ巴の乱戦状態と化していた。
 甲児の回りには全て敵しか映っていない。遠くでアースラが援護射撃してくれているが焼け石に水状態だ。しかしそれでも基本性能はマジンガーの方が勝っている為所詮は数だけの敵である。

「ちっ、何時までもこんな奴等相手にしてたら埒があかねぇや!」

 舌打ち混じりに甲児はアクセルを踏み込んだ。Zが高速で戦闘区域を飛び回る。前方の敵を次々と蹴散らしながら向った先は、Dr.ヘルの居るであろう飛行要塞グールであった。
 喧嘩も闘いも頭を潰せば終わる。それは彼なりの鉄則でもあり兵法にもある戦法でもあった。数だけの雑魚を何時までも相手にするより頭を潰した方がその敵は総崩れになるからだ。
 早速見つけた飛行要塞に向かいマジンガーは突撃を仕掛けた。グールの右ウィングをZの巨体が貫通する。巨大な穴が開いた後、其処が激しく爆発する。爆発の衝撃でグールのバランスが崩れた。今なら畳み掛けるチャンス。
 そう思った時、グールの中から何かが現れた。数は2体。どちらも見たことのない機械獣であった。
 だが、何処かで見た覚えのある奴等でもあった。

「何? あれってまさか…」

 甲児は言葉を迷った。目の前に現れたのはそれこそ今まで自分を苦しめてきたあしゅら男爵とブロッケン伯爵の姿をした機械獣だったのだ。どれも悪趣味と呼べる代物になっている。
何しろあしゅらの方は元のあしゅらの通り半分が男で半分が女となっている。その更に上を言っているのがブロッケンであった。
 何と首だけしかないのだ。その首だけの機械獣が空を飛んで今マジンガーZの前に居た。何とも不気味な光景である。

「見たかマジンガーZよ! これぞDr.ヘルがお作りになった新たな機械獣、その名も機械獣あしゅら男爵と…」
「機械獣ブロッケンV2シュナイダーよぉ! これで貴様を地獄へ叩き落してくれるわぁ!」
「けっ、悪趣味も其処まで行くと何も言う事ねぇぜ!」

 甲児は思わず目元を背けながら言い放った。今までの機械獣に比べて確かに気持ち悪さは増している。だが、恐らくそれだけではない事は確かだ。多分あの機械獣。今までのとは比べ物にならない性能を有しているに違いない。そう思えたのだ。

「行くぞマジンガーZ!」
「貴様を倒して今度こそ超合金Zと光子力エネルギーを我等の手に!」
「そうは行くか! 今度こそてめぇらとの腐れ縁を断ち切ってやらぁ!」

 言ったと同時にマジンガーの胸から熱線が放たれた。ブレストファイヤーである。狙いは機械獣あしゅら男爵であった。

「何度も焼かれると思うな!」

 しかし、目の前で突如機械獣あしゅら男爵は真っ二つに割れた。その光景に驚く甲児。そのまま機械獣あしゅら男爵はマジンガーの背後で合体する。

「今度はこちらの番だ!」

 あしゅら男爵の手から無数の機械のロープが姿を現す。それらはマジンガーに絡みつきZの巨体を軽々と振り回す。

「ぐあぁぁ!」
「どうだ? アシュラウィップの強度は? そうそう切れる代物ではないぞぉ!」
「あしゅら男爵、我輩にも出番を寄越せ!」

 動けないZに向かいブロッケンの顎に当たる部分がドリル状に回転しだし、Zに向って飛んできた。

「んがぁっ!」

 高速で回転するドリルがZのドテッ腹を貫通する。恐ろしい威力だった。Zの体は超合金Zで覆われている。その胴体をこの機械獣は易々と貫いてしまったと言うのだ。

「驚いたか? この機械獣ブロッケンのドリルには貴様の体に使ってるのと同じ超合金Zが使われているのだ! 貴様の体に使われてるのと同じ物がなぁ!」
「な、なにぃ!」
「それだけではないぞ! このアシュラウィップもまた超合金Z製よ!」

 驚きだった。この二体の機械獣には超合金Zを使った武器が使われていると言う。それならばZを苦しめる事に合点が行く筈である。

「今日此処でマジンガーZは死ぬのだ!」
「我等無敵の二大機械獣の手によって…死ねぇ!」

 あしゅらとブロッケンの操る二大機械獣がマジンガーZに迫る。あしゅらが再びウィップを放ち、ブロッケンが顎のドリルを振るい襲ってくる。

「舐めるんじゃねぇ!」

 Zが動いた。まず襲い掛かってきたウィップを全て両手で掴み取り、あしゅらをブンブン振り回す。そしてドリルを振るい襲ってきたブロッケンに向かい叩き付ける。

「なにぃ!」
「おのれ! いい加減観念しろ、兜甲児!」
「てやんでぃ! そう簡単に年貢を納めて溜まるかってんだ! てめぇらの方こそいい加減観念しやがれ!」

 ウィップを手放しあしゅらをブロッケンに向かい放り投げた。投げつけられたあしゅらとブロッケンの両者がぶつかり合いもつれ合う。

「駄目だ、超合金Zを用いた武器だけではZには勝てん!」
「こうなれば、この機械獣あしゅら男爵の最後の武器を使うまでよ!」

 機械獣あしゅら男爵がマジンガーZに向かい突っ込んで来る。恐らく組み付いて自爆するつもりなのだろう。

「マジンガーZ! このあしゅらと共に死ねぃ!」
「てめぇなんかと心中なんざ御免だぜ!」

 マジンガーも同様にあしゅらに突っ込んでいく。その突如、あしゅらの体が真っ二つに別れる。分かれた間から鋭い棘が生え揃いだした。が、それがマジンガーを挟み込む前に両者を捕まえる。

「どうせ心中するならアイツとしやがれ!」
「な、なにぃぃぃ!」

 二つに別れたあしゅらを持って今度は機械獣ブロッケンに向かい突っ込んでいく。

「な、何をするつもりだ!」
「世界で一番不味いサンドイッチを作るだけだよ!」

 マジンガーZの両手に納まっていたあしゅらのボディが目の前のブロッケンに叩き付ける。本来ならZに突き刺す筈の棘をブロッケンが変わりに浴びる羽目となった。

「な、何をしているんだあしゅらよ! 早く離れろ!」
「だ、駄目だ! 棘が完全に突き刺さってて抜けない!」

 必死に抜こうとするが突き刺さった棘は抜けないように細工が施されるようになっていた。その為どんなに足掻いても体が分かれる事はない。

「てめぇらの自爆なんざ待ってる気はねぇ! 二人仲良く丸焼きになりやがれ!」

 Zの胸の放熱板から熱線が放たれる。それはサンドイッチ状態になったあしゅらとブロッケンの機械獣に向かい浴びせられ、二体の機械獣は忽ちドロドロになり溶けてなくなってしまった。
 二人の断末魔と共に。

「さぁ、残るはてめぇだけだぜDr.ヘル!」
「し、信じられん…あしゅらとブロッケンが…おのれマジンガーZがぁぁぁ!」

 怒りを露にしたDr.ヘルの乗るグールとマジンガーZとの激闘が始まった。グールからミサイルが幾度も放たれる。それをかわし目からビームを放つ。そのビームを受けた箇所が爆発する。小回りが利かない分Zの方が戦闘は有利だった。

「覚悟しやがれ! トドメはブリッジをぶっ潰してやる!」
「見くびるな兜甲児! ワシとてプライドがある! せめて貴様だけでもぉ!」

 突如、グールが突撃してきた。突然の行動に完全に出遅れたマジンガーZがそれに見事にぶつかってしまう。

「うわっ! 何する気だてめぇ!」
「兜甲児! こうなれば貴様ごと時の庭園に突っ込んでくれるわ! このワシと共に……死ねぇ! 兜甲児ぃぃぃぃぃ!」

 Dr.ヘルの怒号と共にグールは真っ直ぐに時の庭園に突っ込んで行く。マジンガーZと共に。
 そしてグールの先端部分がマジンガーZと共に時の庭園に激突した。凄まじい衝撃と爆発が起こった。マジンガーZがどうなってしまったか。それは今この場では誰にも分からない事となってしまった。




     ***




 目覚めた時、目の前に映ったのは相変わらず薄い膜の中に閉じ込められていた。その強度は相変わらず堅牢そうである。しかも今自分の手元にはデバイスがない。只でさえ堅牢な結界の中である上にデバイスがないのでは破れそうにない。大きさからして子供一人が膝を折ってやっと入れる位の大きさでしかない。そんな狭い中でフェイトは目を覚ました。

「私…まだ此処に……くっ!」

 どうにかして結界を破ろうと試みたが無駄だった。幾ら押そうが結界はビクともしない。回りに視線を向けてみた。其処には同様に結界に閉じ込められていた三人の姿があった。だが、三人ともまだ意識が戻っていないらしく眠ったままだった。

「そうだ! なのはは…」

 今、この場に彼女が居ない事に気づく。更に視線を向けて辺りを探し回る。目的の者はすぐ目の前に居た。丁度自分のまん前になのはは居た。
 全身ズタボロの状態となり手足を鎖で拘束された状態でその場に居た。

「な、なのは!」

 フェイトは叫んだ。だが、その叫びにもなのはは答えない。只無言のまま傷ついた体のまま項垂れていた。

「やっと目を覚ましたのね? フェイト」

 下の方で声がした。見れば其処には自分達を結界の中に閉じ込めた本人であるプレシア・テスタロッサの姿があった。

「か、母さん…何で、何でなのはにこんな酷い事をするの?」
「あら、何を勘違いしているの? この子を此処まで痛めつけたのは他でもない。貴方達よ」
「え……」

 一瞬、フェイトは脳内が真っ白になる錯覚を覚えた。自分がなのはを傷つけた。
 まさかそんな事があったと言うのだろうか?
 全く記憶がない。あの時、プレシアに捕まり、その後紫色のガスを浴びせられた所までは覚えているがその後の事が一切思い出せないのだ。

「困惑しているみたいね? だったら良い物を見せてあげるわ」

 プレシアがそう言いフェイトの目の前にモニターを表示させた。其処から映し出された映像は目を覆いたくなる光景であった。
 其処に映し出されているのは、自分を含む此処に囚われている筈の四人が揃ってなのはを攻撃している場面であった。なのは自身仲間に手を上げる事が出来ず良い様に嬲られ続けていた。
 そして、全く抵抗できなくなった所へ、フェイトがなのはに近づき、トドメの一撃を浴びせた。

「う…嘘! こんなの嘘だよ! 私がなのはを傷つけるなんて…」
「いいえフェイト。これは紛れも無い事実なのよ。貴方はその手でこの子を傷つけた。其処に映し出されている映像の通り貴方達の手でこの子を倒したのよ」

 プレシアの氷の様に冷たい言葉が放たれる。信じたくなかった。自分があのなのはを傷つけたなど。信じたくなかったのだ。
 しかし、もしそれが事実だと言うのなら何故?

「フェイト、貴方には心底失望したわ。こんな子に惑わされたばかりに貴重なジュエルシードを6個も無駄にした。母さんは心の底から怒っているのよ」
「か、母さん……」

 突如フェイトの顔が青ざめだした。またあの仕打ちが来る。
 そう思った途端自身の両肩を掴み振るえ出してしまったのだ。誰にでも有る恐怖に対する動きだ。幼い頃良くあったと思われる。
 正にそれであった。
 だが、其処でふとプレシアは笑みを浮かべた。

「でも、今回貴方に罰は与えないわ」
「え?」
「だって…代わりにこの子に罰を与えるんですもの」

 そう言うとプレシアの持っていた杖が鞭状に姿を変える。
 その鞭を撓らせ、ぐったりとしたなのはの体に向かい勢い良く打ち付けた。乾いた音が部屋全体に響く。それと柔らかい物を叩く音も一緒に響いた。
 その音と同時に叩かれたなのはの体が大きく仰け反りだす。顔は苦痛に歪み口からは痛みの叫びが響く。

「止めて! 母さん、止めてぇ!」
「駄目よフェイト。これは貴方の罰でもあるのよ。貴方は其処で見てなさい。それが、今回の貴方の罰なのよ!」

 そう言い、再び激しく鞭を打ちつけた。鞭が当たる度になのはの体は大きく仰け反りその体には痛々しい鞭の跡が出来上がり、血が滲み出していく。とても痛々しい光景であった。

「止めて母さん! お願い、罰なら私が受ける。だから、その子は離してあげて! なのはは関係ないのぉ!」
「いいえフェイト。この子のせいよ。この子と関わってしまったから貴方は貴重なジュエルシード6個を無駄にしてしまった。それは余りに大きな失態なのよ。そしてその原因がこの小娘にある。だから貴方の代わりにこの小娘を罰しているだけの事よ。そして、貴方はそれを見届ける事しか出来ない。それが貴方に課せられた罰なのよ」

 そう言うとぐったりと項垂れたなのはの頬に手を当てる。その手を伝いプレシアが電撃の魔法を放った。体から手に伝わった電撃が、今度はなのはの体全体に伝わっていく。
 凄まじい痛みが体全体を電流の如く駆け巡っていった。

「あぐ…うああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 悲痛の叫びは更に大きな物へと変わった。最初は純白だったBJも、今では黒く焦げた箇所と赤い血で汚れた箇所が多くなりかつての綺麗さは微塵も感じられなくなってしまっていた。

「なのは…もう止めて! これ以上続けたら…なのはが、なのはが死んじゃうよぉ! お願い母さん、もう止めてぇぇ!」
「死ぬ? それは良い事じゃない。死ねば楽になれるのだから。貴方もそうなりたいでしょ? 哀れなお人形さん?」
「うっ!!!」

 突如、フェイトの頭の中が真っ白になっていった。自分は人形。それを思い出したのだ。
 かつて、ヤプールが見せた過去の映像を見た際に自分の出生を知る事となった。それは余りに過酷で、余りに辛い現実であった。
 その現実を思い出したフェイトの心が今正に音を立てて崩れていこうとしている。

【君がどんな生まれ方をしていようと、君は君なんだ!】

「あ…」

 そんな時、頭の中を過ぎったのは、一人の青年の言葉であった。ダンの言葉であった。彼の一言がフェイトを救ったのだ。
 そして、今この瞬間もダンの残したその言葉がフェイトを救ったのだ。

(ダンさん、私はもう迷わない…例え人形だといわれたとしても、私はこの命…フェイト・テスタロッサとして生まれたこの命に誇りを持ちます! だから、だから私に…あの子を、なのはを救う力を貸して!)

 フェイトは両手を合わせて強く祈った。彼女を救いたい。その強い願いを叶えるかの様に天空から一筋の光が差し込んだ。その光はフェイトを閉じ込めていた結界に当たる。すると結界の周囲に亀裂が走り出したのだ。
 それを見たフェイトは渾身の力を振り絞ってその亀裂を殴った。一回殴り、亀裂が更に大きくなった。
 更に二回殴った。その際手の皮が切れて血が噴出す。それでもめげずに三回目を叩き込んだ。
 亀裂はやがて全体に行き及び、やがて音を立てて割れた。

「なに!?」

 音を聞いたプレシアが振り返った時、其処には結界から晴れて自由になったフェイトの姿があった。

「バルディッシュ!」

 両の足で立ち上がりその手に呼び込むかの様に自身のデバイスの名を叫んだ。その翳した手に向かい金色の光が一筋飛び込んできた。それは待機状態のバルディッシュの姿であった。
 すぐさまそれを起動し、杖状の姿に変える。

「行くよ、バルディッシュ!」
【ソニックムーブ】

 フェイトの体を金色の閃光が包み込み、音速の早さでその場から消えた。金色の光はプレシアを迂回し背後に回る。
 ハッとなりプレシアが振り返った時には、本来居た場所になのはは居らず、本来フェイトが居た場所にはなのはを抱き抱えた姿のフェイトが居た。

「フェ……フェイト…ちゃん…」
「御免ね…なのは…今は少し休んでて…」

 優しくそう言い聞かせ、なのはをそっと寝かせる。そして、プレシアに対しバルディッシュを向ける。

「何のつもり? まさか私に反抗するつもりなの? 母であるこの私に!」
「例え貴方だとしても、私の大事な友達を傷つけるのなら…私はそれを阻む!」
「人形の癖に…この私に反抗するなんて…もう貴方なんて必要ないわ! この場で壊れてしまいなさい!」

 元の杖の姿に戻し、紫色の雷撃をフェイトに向けて放つ。
 が、それをフェイトは次々とかわしていく。恐ろしい速さであった。全く雷撃が当たらない。
 それにプレシアが徐々に焦りを見せる。

「何故? 何故当たらないの! 人形の癖に! アリシアの代わりの癖にぃぃ!」
「もし、もし私がなのはや皆に出会わなかったら、私はずっと人形のままだった…だけど、皆に出会えたから、私は代われた、そして強くなれた!」

 再びフェイトの姿が金色の閃光に包まれる。金色の光はプレシアの周囲を飛び回り雷撃を避けて行く。プレシアがその光を叩き落そうと雷撃を放つも狙いが定まらず全く当たらない。
 徐々にプレシアの顔に焦りと苛立ちの色が映りだす。その時、金色の閃光はプレシアの目の前に現れる。
 その閃光はフェイトの姿へと戻り、プレシアの持っていた杖を弾き飛ばす。丸腰となったプレシアに向いバルディッシュの切っ先を向ける。

「私はフェイト! フェイト・テスタロッサ! 大魔導師プレシア・テスタロッサの娘で、アリシア・テスタロッサの妹! そして、ガーディアンズのメンバーのフェイト・テスタロッサです!」

 闘いはフェイトの勝利に終わった。バルディッシュから出ていた金色の刃はプレシアの喉元に突き立てられている。少しでも妙な動きをすれば一撃の元に切り裂ける位置だ。
 そして、今のフェイトはそれを躊躇わないだろう。彼女は既に己を縛っていた呪縛を破った。彼女はプレシアを全力で止めようとしている。例えそれが彼女の命を奪う行為であったとしても。

「妹? 貴方がですって?」
「私は、アリシア姉さんの事は分からない。会った事もないし、話し合った事もない! だけど、それでも私は分かる。今の母さんのやり方を見て、アリシア姉さんは悲しんでる! こんな事をしてアリシア姉さんを生き返らせたって、きっと姉さんは喜ばない」

 強く芯の通った言葉であった。とても人形が言える言葉じゃない。その言葉がきっとフェイトの強くなった証なのだろう。
 ふと、プレシアが肩を震わせて笑い出した。

「全く、まさか貴方が其処まで言えるようになるなんてね…それ程までにあの子は貴方を変えた…と、言うのね?」
「あの子は…なのははとても優しい子だった。どんなに辛くても、自分の事より私達の事を一番に考える。他の人が見たらどうしようもないお人好しだって笑うかも知れない。それでも、私はなのはと出会って変わる事が出来た! だから今の私が此処に居るんです!」

 キッとプレシアの目を見てフェイトは進言する。それを聞き終えたプレシアは笑うのを止めた。目元が据わりだした。

「そう、だとしたら…尚の事そんな子を生かしてはおけないわ!」

 プレシアがそう言いだした直後だった。背後に気配を感じた。
 振り返ると、外で戦っていた筈の傀儡兵の一体が突如姿を現し、動けないなのは目掛けて剣を振り下ろそうとしていたのだ。
 すぐに迎え撃とうと動こうとした時、フェイトの首をプレシアの細い指が捕らえる。

「ぐぁっ、か、母さん…」
「貴方は人形でなければ駄目なのよ! 人間になる事なんて貴方は出来る筈がないのよ! 人形に心を与える人間は、この世に必要ないのよ!」

 その時のプレシアの目はとても血走っていた。まるで狂気に支配された目であった。
 必死にその手を払い除けようとしたが思いのほか強い力の為振り解けない。そうしている間にも傀儡兵の剣が振り下ろされる。
 その直後、瓦礫の下から駆け上がってきた2台のバイクが傀儡兵を弾き飛ばした。
 サイクロン号であった。本郷と一文字が操縦する二台のサイクロン号が駆け上がってきたのだ。
 更に、それと同時にフェイト達が居る部屋のすぐ近くに今度はマジンガーZとグールが激突してきた。凄まじい衝撃が辺りを揺さぶる。
 その際、プレシアの手がフェイトから離れる。一旦距離を開ける両者。その際、弾いた筈のプレシアの杖が振動の際にプレシアの近くへと転がりこんで来た。

「フェイト…この世にアリシアは二人も要らないわ! 貴方は消えなさい!」
「母さん!」

 プレシアが杖を手に取り雷撃を放とうとする。それよりも早くフェイトは金色の閃光となりプレシアに突撃した。
 それは一瞬の内に終わった。プレシアの胸元にはバルディッシュの金色の刃が突き刺さっていた。
 刃は胸元に突き刺さり背中まで貫通していた。貫通した箇所から赤い雫が零れ落ちる。

「ぐっ! はぁ…」
「か、母さん…母さん!」

 崩れ落ちるプレシアをそっと抱き抱えてフェイトは叫んだ。目元には大粒の涙が滲んでいた。

「フェ……フェイト……」
「母さん…どうして? どうしてあの時、避けなかったの?」

 フェイトは分かっていた。プレシアはあの時の一撃を避けようと思えば避けられたのだ。だが、それをプレシアは逢えてしなかった。
 一体何故?

「フフ…もう、私自身を止めるには、こうするしかなかったのよ」
「ど、どう言う意味なの?」
「本当はね、大分前から分かっていたのよ。貴方がアリシアの妹だって…でも、もう手遅れだった。その時の私はもう私自身の意志じゃ止められなかった……だから、こうするしか他に方法が無かった」

 プレシア自身でも止められなかった狂気。それをとめる手段は最早彼女自身の【死】しかなかった。そして、プレシアはそれを成す為に逢えてフェイトの凶刃に倒れたのだ。

「御免なさい…御免なさい、母さん!」
「謝るのは…私の方よ。御免なさいフェイト…あんな酷い事を言うなんて…私は母親失格ね…」

 プレシアの目元にうっすらと涙が零れ落ちるのが見えた。それこそ、彼女の心からの涙であった。初めてフェイトが見た涙であった。

「母さん…お母さん!」
「フェイト…私や、アリシアの分まで…生きて、そして…幸せになって…頂戴…」
「うん……うん!」

 そっと、フェイトの頬に触れながらプレシアが言う。その手を強く握り締めながら泣き顔でくしゃくしゃになった顔でフェイトが強く頷いた。
 その仕草を見たプレシアは満足したかの様に、一際綺麗な笑みを浮かべた後、そっと瞳を閉じた。それと同時に頬に触れていた手が崩れ落ちる。
 彼女の体から体温が引いていく感覚が分かる。

「母さん……うぅっ!」

 フェイトは声を上げて泣いた。最早声を上げないプレシアの亡骸を強く抱き締めて大声で泣いた。
 
「フェイトちゃん…」
「本郷、今はそっとしておいてやろう。それよりも上に居る三人を出してやらないと」

 本郷と一文字はそっとフェイトの側から離れ、捕えられていた三人の結界を破った。この結果、魔力防御力は高いが物理には相当弱いらしく、力の弱っていた二人でも簡単に破る事が出来た。
 結界を破った中からユーノ、アルフ、クロノの三名を救い出す。すると、三人がそっと目を開ける。

「怪我はないか?」
「いい加減起きろよ、お寝坊さん達」

 二人の言葉を聞き、三人はそっと起き出す。

「こ、此処は…」
「僕達…一体何を?」
「フェイト…それに、プレシア」

 アルフは既に事切れていたプレシアを抱き抱えて泣き崩れるフェイトを見ていた。どうやらフェイトが仕留めたのだろう。
 未だに泣きじゃくっているフェイトの肩にアルフがそっと手を置く。

「フェイト…何て言ったら良いか、私は良く分かんないけどさぁ…プレシア、良い顔で逝ったみたいだね」
「うん、母さん…最期は、笑ってた…とても、嬉しそうに…」

 大粒の涙を流しながらフェイトは言う。その涙をアルフはそっと拭い去る。

「だったら、もう泣くのは止めよう。でないと、プレシアも困っちゃって安心して天国に逝けないしさ」
「アルフ…うん、そうだよね」

 そっとプレシアの亡骸を下に置き、強引に涙を拭う。未だに目元が赤い状態でありながらも、フェイトは毅然とした表情をし立ち上がった。
 何時までも悲しんではいられない。とにかく今は前に進む事が先決であった。

【中々楽シイショーダッタヨ諸君】
「この声…ヤプール!」

 突如空間を突き破るかの様に皆の目の前に現れた者。それはヤプールであった。そして、ヤプールの出現と同時にさっきまで居た空間が突如変貌していく。
 其処はヤプールのみが自由に動ける異次元空間であった。この空間の中ではヤプールだけが自由に行動出来、それ以外の存在は行動に制限が持たれる上に常時力を奪われると言う仕組みとなっていたのだ。

【マァ、アノ女モ多少役ニタッタトイウ所ダロウ。残ルハ我等本来ノ目的ヲ達成スルダケダ】
「貴方に…なのはは渡さない!」
【今更貴様如キニ邪魔ハサセン! ソノ光ハ我等ノ物ニスル! 邪魔スルト言ウノナラコノ場デ排除スルマデ!】

 そう言った時だった。一同の前に突如として一体の怪獣が姿を現した。大きさは今までの怪獣よりも一回り大きい。その上パワーも桁外れの様だ。

「か、怪獣!」
【違ウナァ。ソレハ我々ガ作リ上ゲタ怪獣ヲ超エル怪獣。ソノ名モ超獣ダ!】
「ちょ、超獣だと!?」

 こんな時に厄介な相手であった。怪獣を超える怪獣。そんな厄介な代物をヤプールは作ったと言うようだ。しかも今皆が居る空間はヤプールの作り出した異次元空間の中である。この中では思うように戦う事が出来ない。
 そんな皆の苦労など露程も気にせずに超獣は襲ってくる。

【行ケィ! ミサイル超獣ベロクロンヨ! 邪魔者ヲ始末シ、光ヲ手ニ入レルノダ!】

 ヤプールの命を受けてベロクロンが雄叫びを挙げる。全身からミサイルの様な弾丸を次々と発射しだしてきた。

「ぐっ、一体この空間は何だ? まるで体に力が入らない…」
「此処はヤプールの作り出した異次元空間。この中じゃ私達は全力を出せないんです」
「マジかよ。それじゃ俺達変身も出来やしねぇじゃねぇか!」

 当然この空間の中では仮面ライダーの変身に必要な風も起こらない。これでは二人共変身する事が出来ない。しかも余り長い事この空間内に留まればいずれは力を全て吸い取られてしまい動けなくなってしまう。そうなる前にこの空間から抜け出さねばならない。

「フェイト。どうすればこの空間から出られるんだい?」
「あいつを…ヤプールを倒すしかない…でも、その為にはあの超獣を倒さないと…」
「その相手は俺に任せろ!」

 突如声が響いてきた。それと同時にベロクロンに向い殴り掛かる巨人があった。マジンガーZであった。
 偶々近くに墜落してきたので戦闘に参加出来たようだ。しかしそのZもドテッ腹に大きな穴が開いており所々亀裂が走っている。かなり危ない状況であった。
 その上相手は超獣。勝ち目は恐らくかなり薄い状況でもあった。

(不味い、このままこの空間に居たら先になのはが…)

 フェイトはなのはの身を案じた。今のメンバーの中で一番彼女が疲弊しているのだ。となれば先に力尽きるのも彼女になる。その前に何としても奴を倒して元の空間に出なければならない。
 だが、

「くっ…」
「か、体が…」

 既に激闘に次ぐ激闘を行ってきていたメンバーに戦う力など残ってはいなかった。当然マジンガーZにももう余力は残っていない。既に武器の殆どを使い果たしてしまっており超獣相手に良い様にされている状態でもあった。

(死ねない…こんな所で…こんな奴に負けて死ぬなんて…絶対に嫌だ!)

 既に立ち上がる気力さえ失われていたフェイト。バルディッシュを杖代わりにしてようやく立てる状態でもあった。しかし、そんな状態ではとても超獣に勝つ事など不可能であった。




      ***




 暗い…その一言であった。目の前に映るのは何も映らない真っ暗な世界だった。
 何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。そんな世界だったのだ。
 その世界の中、なのははたった一人倒れていた。

「此処は……私は、一体どうなったんだろう?」

 その場から立ち上がろうとする。しかし、その際に体中に激痛が走り再び倒れてしまう。全身に電流が走るかの如く痛みが走る。
 気がつけば自分の体はボロボロになっており、所々から赤い血が流れ出ていた。

「痛い…痛い…痛いよ、凄く、痛いよ…」

 痛みの余り目から涙が流れてしまう。それでも痛みは消える事などなくなのはを常に痛みで苦しめ続けた。余りの痛さに呼吸が苦しくなる程だった。
 何故、自分がこんなに痛みを感じなければならないのか?
 その疑問が脳裏を駆け巡った。その理由を突き詰めようと必死に思い出そうとする。しかし、そうしようとする内に次第に自分の脳内が徐々に赤く染まりあがっていくのを感じた。

(赤い…今流れてる血みたいに…赤い…赤い……赤……)

 やがて、なのはの脳裏だけでなく、全てが赤く塗りつぶされていく感覚を覚えた。そして、その色が示す感情は……激しい【怒り】であった。

【怒れ…憎め…全てに怒りを向け…全てを憎め…】
(誰? 誰なの!?)
【全てを憎め…全てを破壊しろ…破壊しろ…破壊しろ…】
(嫌だ、そんなの嫌だ!)
【破壊しろ…壊せ…壊せ…壊せ…見える物全てを憎み……全てを………破壊しろ!】
「!!!」

 その言葉を最期に、なのはの理性は吹き飛んだ。後に残ったのは、激しい怒りと憎しみの感情のみであった。




     ***




「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 突如、怒声が響いた。驚いた一同が振り返る。其処には先ほどまで意識なく倒れていた筈のなのはが立ち上がり咆哮していたのだ。
 それだけじゃない。彼女の周囲を赤い光が覆っている。眩い程の赤い輝きがなのはを包み込んでいたのだ。

「な、なのは…」
「ううぅぅぅぅぅあああああぁぁぁぁぁ!」

 フェイトの呼びかけを無視し、なのはは飛び上がった。その先に居たのはヤプールの生み出したミサイル超獣ベロクロンであった。ベロクロンが突如目の前に現れたなのはを見て驚く。
 その直後、なのはの両腕がより一層赤く発光しだす。激しい閃光とスパークに包まれた両腕。それを容赦なく超獣に叩き付けた。
 凄まじい轟音と共に超獣ベロクロンの頭部は跡形もなく吹き飛んだ。粉々になったベロクロンの頭部の肉片が辺りに散らばっていく。
 頭部を失った超獣はその場に倒れ、二度と動かなくなってしまった。

【バ、馬鹿ナ……我等ノ超獣ヲコウモ呆気ナク!】

 ヤプールは完全に度肝を抜かれた。超獣を仕留めた後、今度はなのははヤプールに狙いを定めた。より一層激しい咆哮を挙げ、光り輝く拳を振るう。その一撃一撃は驚異的な力であった。

「凄い…あの子、あの超獣やヤプールを倒しちゃうんじゃないの?」

 遠目で見ていたアルフは余りにも凄まじい光景に思わずはしゃぎたてた。だが、隣で見ていたフェイトは震え上がっていた。

「怖い…今のなのは…凄く怖い!」
「フェイト?」
「あんなの…あんなのなのはじゃない! あれじゃ…あれじゃまるで……【悪魔】だよ!」

 ヤプールを圧倒する凄まじいまでのパワーを見せるなのは。しかし、その姿は禍々しささえ感じられた。
 そう、フェイトの言う通り、今のなのはは正しく【悪魔】その物になろうとしていたのだ。




      つづく 
 

 
後書き
次回予告

恐るべき力でヤプールを圧倒するなのは。
だが、その力は見える物全てを破壊するべく無差別に攻撃を始める。
満身創痍のフェイト達は命がけの戦いを行う。

次回「救い、そして…」お楽しみに 
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