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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第155話 ハングリラ島は食の宝庫!とことん味わえ、G×Gの食材!

side:ソーナ


 イッセー君に修行をつけてもらうことになった私達若手悪魔……イッセー君の弟子であるルフェイさんのワープ魔法『ルーラ』を使って私達は修行の場となる『ハングリラ島』に来ていた。


 サーゼクス様にお願いして学校を休んでまで来たのだから必ず成果を出さないと……


「な、なんだこりゃ!?肉がまるで植物みたいに樹になってるぞ!」
「こ、これ食えるのか!?」
「ああ、食えるぞ」


 私達が最初に見たのは大きな脂の乗ったお肉が大量に樹に実っている不思議な光景だったわ。ゼファードルがその光景に驚き匙が肉に指を刺して食べられるのかとイッセー君に聞く、彼は笑顔で食べられると答えた。


「うっわっ!?滅茶苦茶美味ぇ!今まで良い肉を食ってきたけどこの肉脂がしっかりのってるのに全くくどくねぇ!?アッサリ喉を流れて行っていくらでも食べられる!」
「やっべぇ!これマジで美味ぇ!?弟たちにも食べさせてやりたいな!」


 ゼファードルが肉の樹からひとつ肉を取って口にする、スッと肉が豆腐のように嚙み切られて咀嚼してその美味しさに目を丸くして驚いていたわ。


 以前この世界の食材を使った料理を食べた事があったけど、食材の時点で相当美味しいみたいね。匙は二つ目を取って弟たちにも食べさせたいと言っていた。


 匙は訳があってご両親がおらず幼い弟さんや妹さんを養わなければいけなくなったわ、そこで私が彼を支援する形で手助けして眷属になってもらった過去があるの。


 とても面倒見が良くて家族思いの匙だから真っ先にそういう感想が出たのね、本当に優しい子だわ。


「見てよ、皆!このキノコ、まるでわたあめみたいに甘くておいしいよ!」
「こっちの草はパスタだわ、それも絶妙の茹で加減で塩気も効いていてそのまま食べても美味しい……!」


 私の眷属の一員の仁村留流子が近くに生えていたキノコを齧る、そのキノコは白くふわふわしたみためでわたあめみたいだと彼女は語った。


 そしてもう一人の眷属の花戒桃が側に生えていた草を1本手に取って齧った、するとそれがパスタだと話した。


「貴方達、得体のしれない物を口にするなんて行儀が悪いですよ」
「まあまあ、わたくし達も最初は抵抗がありましたけど今では気にしていませんわ」
「そうね、今までそこらに生えてたり実っていた多くの食材を食べてきたけど腹痛などになったことは一度もないわ」
「ええっ……」


 私の眷属の真羅椿姫が2人を叱るが姫島さんとリアスがこのくらいいいだろうと語った、それを聞いた椿姫はちょっと引いた様子を見せる。


 リアス、貴方は元とはいえ貴族でしょ?それでいいの……?


「ふむ、確かに中々美味いな。こんなものが至る所にあるとは……冥界の貧乏な下級悪魔たちもこれなら飢えから解放してやれるかもしれん」
「流石に冥界全部は無理だな、こっちでも貧困は普通に存在する。まあそれをどうにかする研究はしているから未来ではなんとかできるかもしれないぞ」
「なるほど……この世界は色々と挑戦しながら未来を目指しているのだな。俺も当主の座を持つ者として色々勉強させてもらおう」


 サイラオーグはバアル家の次期当主として学びの姿勢を向けていた、その心意気は感心するのだけどさっきから皆食べてばかりね……


「イッセー君、食事もいいけれどそろそろ修行をしませんか?時間は有限なんですよ?」
「まあそう焦らないで……それにどうやらこの島の住民が早速挨拶をしに来てくれたみたいだぜ」


 私がイッセー君に早く修行をしようと話すと彼は笑いながら慌てるなと言う。そんな態度に内心ムッとしながらも話を続けようとする、でもイッセー君は近くの茂みに視線を移してニヤッと笑みを浮かべた。


「グルル……」
「フガッ、フガッ!」


 そこから現れたのは大きなブタだった、でも明らかに普通のブタではなかったの。


「なにこの子たち……体から香ばしい煙が出ているわ」
「なんとも腹の減る匂いだな……」


 シーグヴァイラがブタから漂う香ばしい匂いに目を丸くしていた、ライザーの言う通りお腹の空く匂いね。


「どうやらここは『マルヤキブタ』の縄張りだったみたいだな。こいつらは縄張りに入り込んだ侵入者に焼きを入れてくる狂暴な性格のブタだ、こりゃマジで怒ってるな」
「焼きを入れるって……私達フェニックス一族でもないのに自ら炎を出して身を焼かれていますわよ!?」
「そういう生き物なんだ、ここではな」


 イッセー君がこのブタの生態について詳しく説明してくれた、レイヴェルさんは自ら焼かれている生き物がいる事にあり得ないと驚いていたけどイッセー君はそんなものと普通に受け入れていた。


「ブガァァァッ!!」
「キャアアッ!?」
「レイヴェルッ!!」


 すると一匹のマルヤキブタが雄たけびを上げてレイヴェルさんに向かって突進をしてきた、その速さに私達は反応できなかった。


 ライザーや彼の眷属が駆けつけようとしたが……


「ははっ、元気な奴だ。こりゃ味に期待できそうだな」


 イッセー君がレイヴェルさんの前に立ってマルヤキブタの体の一部に指を突きさした。


「ノッキング」


 するとマルヤキブタの体がフラフラと揺れてそのままその巨体を地面に横たわらせる。


「こうやって素早く倒さないと自らの炎と熱で肉を焦がして味が劣化してしまう……早速修行を始めるぞ、まずはこのマルヤキブタの捕獲だ」


 イッセー君が私達にこのマルヤキブタを捕まえろと指示を出した。思っていた修行と全然違うわ……


 でも指示を貰った以上従わないといけない、私は眷属達に指示を出して交戦に入った。


「ぐおっ!こいつらすげぇ力だ……ぐはっ!?」
「元ちゃん!?きゃあっ!」


 匙が黒い龍脈を使いラインをマルヤキブタの体に張り付ける、しかし力負けして引きずられてしまっていた。


 そんな匙を助けようと桃がアザゼル先生から貰った人工神器『刹那の絶園』を使い防御結界を貼るもそれを壊されて吹き飛ばされてしまう。


「ぐっ、こいつら早いぞ!おまけに体は熱を持っていて触れるだけでも危険だ!」
「私達は熱に耐性があるとはいえこの獣達も同様みたいですわ、しかも速さが厄介ですわね……騎士の駒を持った者でなければ対応しにくいです……!」


 ライザーがマルヤキブタの体を炎を纏った拳で殴りつけるがそこまで効いていない。彼の言う通りマルヤキブタの体は高温で触れると火傷してしまうのでフェニックスのように耐性がないと触れるのも危険ね。


 レイヴェルさんは炎を飛ばして攻撃するけどやはり効いていない、どうやらマルヤキブタも炎に対して耐性を持っているみたい。


 更にその動きも早くそれぞれの眷属の騎士たちが対応しようとしているわ。騎士でない者はその動きに翻弄されていた。


「ぬうっ!」


 ……いえ一人だけ騎士でないけど反応が出来ていた者がいたわ。それはサイラオーグで別のマルヤキブタの突進を体を張って受け止めていた。


「はあっ!」


 そして強烈な一撃をマルヤキブタの額に打ち込んでその巨体を吹き飛ばしたの、流石ね。


「イッセー、この子達って捕獲レベルはいくつなの?」
「1だぞ。まあそれは味が劣化するのを前提としてるからそうじゃないなら3はいくかな?」
「なら私達は手を出す必要はなさそうね」


 苦戦する私達を尻目にリアスとイッセー君が捕獲レベルという聞きなれない単語を交えて話をしていた。


 いえ、それ以上にこんな危ない場面だと言うのにあの余裕は一体何なの?


 しかしそんなリアス達を前にマルヤキブタの群れは襲う様子を見せない、一応気にはしているようだけど警戒しているようでそれ以上は踏み込まないの。


「どうして兵藤君達は襲われないの?」
「なにかの術を使っているのか?」


 私の眷属も彼らが襲われないことに疑問を持っていたわ、でも私は何故か彼らが術を使っているようには見えなかった。


 その後危ない場面はイッセー君達にカバーしてもらいつつマルヤキブタの討伐に成功した。


「サイラオーグは流石だな、身体能力においてはこの世界でもうやって行けるレベルだ」
「そうか、だがその顔は俺にまだ足りていない物があると見た」
「その通り、お前に足りていないのは『余裕』だ」
「余裕?」


 イッセー君はサイラオーグに余裕が足りていないと話す、一体どういう事かしら?


「余裕って言うのは如何にその環境に慣れれるかの事だ。さっきも行ったがお前は肉体的には既に合格点を上げられるほど……でも知らない環境に未知の生物を見て焦っただろう?だからマルヤキブタの攻撃を喰らってしまったんだ。おまけに眷属も気にしないといけないから余計に気が散ってしまう」
「なるほど……今までは正直俺がどうにかできていたが、先ほどは数の多さもあり俺一人ではフォローしきれなかった」
「だからこそ視野を広くして状況をいかに冷静に分析するかってのが大事なんだ、お前はリーダーなんだからまずは環境に慣れる事を意識していけ。まあお前なら少し場数を稼げば直にそれが出来るようになるだろう」
「面白い……この世界に適応して見せよう」


 イッセー君はサイラオーグの足りていない部分を正確に分析していたようね、確かに強さでは彼がリアス達を除くメンバーの中では一番だけど冷静ではなかったわね。


「さっき俺達が襲われなかったのは余裕を見せて得体のしれない存在だとマルヤキブタに思わせたからだ、野生の獣は危険に敏感だからな。本来ならサイラオーグも襲われない強さなんだが精神的な弱点をつけばいけると思われたから襲われたんだ」
「単純な強さだけではいけないのだな、これからは眷属達の連携も重要視していかねばならない。お前達も一緒に強くなるぞ」
『かしこまりました!』


 サイラオーグは眷属達と鼓舞をあげて士気を高めていた、彼らは間違いなく強くなるわね。


「次にソーナだが……まあ落第点だな」
「……」


 落第点、その言葉が大きくのしかかる。


「最初は戸惑っていたがなんとか態勢を立て直そうとした、でも結局押し切られてしまった。眷属の連携はいいが力負けしてしまっていたぞ、俺達が庇わなかったら大怪我をしていたかもしれん」
「そうですね、自分の力不足を実感しました……」
「まあそんな顔すんなよ、正直もうちょっと苦戦するかと思ったけどセンスはあったぞ。ソーナ達は個人の力を上げていこう」
「はい、お願いします」


 確かに連携は取れていた、でも最後は力負けをして押し切られてしまった。前のレーティングゲームも似たような負け方をしたしここは個人の実力を上げる方向に向かった方がよさそうね。


 しかしイッセー君の観察力には驚いたわ、少しの戦闘であそこまで分かるなんて……


 私ももっと早くイッセー君と出会っていれば……いえこれは考えるだけ無駄ね。大事なのは今なのだから。


「そして次にライザーだけど……」


 その後イッセー君は私達の問題点や改善案などを話していったわ。


「よし、じゃあ早速の課題に移るぞ」
「えっ?俺達結構ボロボロなんだけど……」
「アーシアが回復してくれるから安心しろ。時間は有限だ、のんびりしている暇はないぞ」
「ひ、ひえっ……!?」


 匙が疲れたと言うが兵藤君はアーシアさんに回復してもらうと言って修行を続行しようとしたわ、意外とスパルタな気質だったのね。


 でも匙や他のげんなりしているメンバーには悪いけどこのくらいはないと張り合いがないわ。


「今から準備するから少し待ってろよ」


 イッセー君はそう言うとリアスの生み出した異空間に入っていったわ、一体どんな過酷な修行を用意してくれるのかしら。


 そしてその間木場君や朱乃さんに手合わせをしてもらったけど……悔しいけど私達では触れる事すらできなかった。


「遅いよ、視線で追っていたら間に合わないから気配を読むんだ」
「は、早すぎるわ!?」


 同じ騎士の駒を持つ私の眷属の一人『巡巴柄』がそう叫ぶのも無理はないわ、なにせ残像で何十人にも分裂して見える上に全てに気配や魔力があって察知することが出来ないの。


「魔力を溜めて放つなど三流のすることですわ、予め魔法をストックしていつでも放てるようにしましょう」
「量が多すぎる!?そんな片手間のように撃てるなんて……きゃあっ!?」


 朱乃さんは最上級クラスの雷をジャブを打つような感覚で連射してきたわ、椿姫が神器『追憶の鏡』を使って攻撃を受けようとした。


 あの鏡は壊れた際にそのダメージを相手に反射する特性を持っているの。でも朱乃さんはあれだけの大量の雷を完全にコントロールしていて、器用に鏡を避けて椿姫に襲い掛かっていったわ。


 イッセー君だけでなく彼らもやはり凄まじい勢いで高みに昇り詰めているようね、正直リアスがレーティングゲームに今でも参加できていたのなら一気にトップランカーにまで上り詰めていたかもしれないわね。


 ……羨ましい、彼らの強さが。もし木場君だけでも私の眷属にいれば私の評価ももっと上がったのかもしれない。


「……ダメね、自分の弱さを眷属のせいにするなんて」


 私は頭の中に過った事を消し去った、こんな事を考えるのは眷属への裏切りだわ。


「よーし、皆待たせたなー。準備が出来たぞー」


 するとイッセー君が異空間から出てきて何かを運んできたわ。


「さっき捕獲したマルヤキブタの照り焼きに生姜焼き、豚しゃぶに角煮、他にもいろいろ作ってきたぞ」
「おおっ!飯か!」
「良い匂いですわ……」


 イッセー君は大量の食事を運んできたわ、もしかしてさっきの準備と言うのは料理の事だったの?


「イッセー君、これは一体……?」
「体を動かして疲れただろう?栄養のある食事をとって英気を養うのも修行だ」
「は、はぁ……」


 私はイマイチ納得いかなかったけど、お腹が空いていた眷属達もいたので食事をいただくことにしたわ。


「うっひょー!早く食べようぜ!」
「待てゼファードル、まずは合掌してからだ」


 食事にあり付こうとしたゼファードルがイッセー君に止められた。


「こうやって手を合わせて食材に感謝するんだ」
「えぇ?こんな面倒な事やりたくねぇよ」
「直に終わるからやるぞ」


 嫌がるゼファードルとその眷属を軽くしかりながらイッセー君が手を合わさせる。


「この世の全ての食材に感謝を込めて……いただきます」
『いただきます!』


 私達も彼の後に続いてそう言葉を口にしたわ。


「よし、好きに食え!」
「よっしゃー!食うぜ!」
「うおおおっ!」


 イッセー君の号令と共にゼファードルと匙が食事に向かって走っていったわ。


「うっめー!さっきの肉もヤバかったけどマルヤキブタ美味過ぎだろっ!?」
「生姜焼きはさっぱりしてるし照り焼きは味が濃厚で柔らかい!箸が止まんねぇ!」
「匙君だけズルい!私も食べるわ!」


 そして食べた料理を大絶賛していたわ。それを見ていた私の眷属達も料理に向かっていった。


「これは確かに美味い!お前達もしっかりと食べて英気を養うんだ、食材とイッセーに感謝しながらな」
『はい、サイラオーグ様!』


 サイラオーグとその眷属達もしっかりと食事をとっていた、正直私は疲れていてあまり食欲は無いのだけど……


「会長、よろしかったらこれをどうぞ」
「椿姫……申し訳ないのだけど私は疲れていてあまり食欲が……」
「騙されたと思って食べて見て下さい、私も同じでしたが一口食べたら全然気になりませんでした」

 
 椿姫が持ってきた料理を最初は遠慮しようとした、でも匂いを嗅いだら先程まで乾いていた口内に唾液が出てきて喉を濡らしていく。


 恐る恐る生姜焼きを食べてみる……お、美味しい!?私も貴族なので手間暇をかけた高級な食材を何度も口にしてきた、でもそれらを上回る旨味と触感、そして栄養を体で感じ取ったわ。


 あれだけげんなりしていた私達の体にみるみるうちに食欲がわき上がってきた。気が付けば箸が止まらなくなり私も夢中になって食事を続けていたわ。


「ふふっ、美味しいでしょ?この世界の食材は私達の世界のモノと比べると比べ物にならないくらい栄養が高いの。悪魔の体なら過剰摂取にはならないし寧ろ力に直ぐに変わっていくからここで食事を続けていけば自然と強くなって行けるわ」


 するとそこにリアスが料理を持って話しかけてきたわ。


「リアスもこうやって強くなったのかしら?」
「ええ、そうよ。まあ私達はあくまでも死んでしまいかねない異常気象や自然環境を乗り越えて無理やりレベルアップしてきたの。本当によく生きていたと思うわ……」
「そ、そうなの……」


 遠い目をして薄ら笑いを浮かべるリアスに私は何故か身震いしてしまった。


「イッセー様、少し宜しいでしょうか?」
「君はライザーの妹だったな」
「はい、レイヴェル・フェニックスと申します。先ほどは助けてくださりありがとうございました」
「気にしなくていいぞ。あの程度なんてことはないからな」


 すると私達の近くでレイヴェルさんとイッセー君が談笑しているのが聞こえたわ。


「イッセー様はお強いのですね、それに料理の腕も非常にお高くて驚きましたわ」
「食事は口にあったかい?」
「はい!私も沢山の美味なる食事を口にしてきましたが、あんな美味しい食事は生まれて初めてでしたわ!頬が落ちそうになるとはこのことだったのですわね」
「ははっ、そりゃよかった」


 レイヴェルさんは先程の料理に感動したらしくとても興奮した様子で話をしている。


「それにお兄様に関してもありがとうございます、ようやく奮起する様子を見せてくれて私も一安心ですわ」
「君はお兄さん想いなんだね、良い子だ」
「そ、そんなつもりは……ただ不甲斐ない兄を見ていられなかっただけですから」
「それでも家族を心配して行動できるのは良い事だよ、君の頼みが無かったら今回の件は受けなかったと思う。だから俺は君を凄いと思うよ」
「あ、ありがとうございます……」


 イッセー君はニコっと笑って彼女を褒める、するとレイヴェルさんは顔を赤くしてしまった。


「不味いわね、イッセーの悪い癖が出てきたわ」
「どういうこと?」
「あの子普段は見た目とかで人が引いてしまうからあんまり感じにくいんだけど、面倒見が良いし女の子相手でも下心抜きで真剣に向き合おうとするからそういうのが良いと思う子にはとことん効いちゃうのよ」
「はぁ……」


 リアスがなにを言いたいのかあまり分からないわ、確かにイッセー君は良い人だと思うけど……


「相変わらず夢以外には無頓着ね、貴方って。恋とか興味ないの?」
「無い訳ではないわ、私だっていずれはシトリー家の跡継ぎとして婿を取って家を守っていかなければならないと思ってる」
「じゃあその相手は?」
「そうね、問題を起こさずに尚且つ私の夢にも共感してくれる人だといいわね」
「匙君とかはどう?お似合いだと思うけど……」
「匙は私にとって弟のような存在よ、そんな目では見れないわ」
「匙君も苦労するわね……桃ちゃんにとっては好都合なのかもしれないけど」
「……?」


 リアスがはぁ~っと大きなため息をついた。何故そんな温かい目で私を見るのかしら?


 その後私達はマルヤキブタ以外にも沢山の食材を使った料理を堪能した。でもこれでいいのかしら?


――――――――――

――――――

―――


「ふう……」

 
 夕食を終えた後、各自各々に過ごすことになったわ。


 男性陣はイッセー君の人柄もあってすぐに仲良くなっていった、あれだけサイラオーグに怯えていたゼファードルは軽口を叩けるくらいにはメンタルが回復していたし、ライザーも今まで見せた事のない笑顔で談笑していた。


 リアスやレイヴェルさん、それにライザー眷属の子達も驚いていたわね。ライザーはああいう馬鹿をやり合える年の近い同姓は今までいなかったし楽しんでいるのかもしれないわ。


「今はあんな風に笑えることが羨ましい……」


 私は最近心から楽しいと思えたことはない、それは私自身の夢が関係しているからだ。


 私は下級悪魔達も学ぶことが出来る学校を作ることを夢見ている、しかし今の悪魔社会……特に貴族からは良い顔をされていない。


 自分達が扱う駒に知識があると反論されたりする可能性を作りたくないからよ。私が魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹だから甘い対応で済んでいるけど、そうじゃなければ今頃どうなっていたことか……


 まずは支持を得る為に味方を増やさないといけない、私が出来る一番手っ取り早い方法がレーティングゲームで勝ちぬくことだ。


 悪魔は階級や力を重んじている、レーティングゲームで結果を出していけばある程度の発言権を得る事だって可能なの。


 でも私はこれまでのレーティングゲームで良い結果を出せなかった、これ以上この状態が続けば完全に年頃の小娘が夢見る絵空事として話も聞いてもらえなくなるだろう。


 焦った私はレーティングゲームで無理な作戦を立ててしまい眷属に怪我をさせてしまった、傷ついた眷属を見て私は自分の愚かさを実感した。


 所詮私の夢など子供だまし……そう諦めかけていた。


 でもイッセー君とディオドラの戦いを見て可能性を見いだした。彼に鍛えてもらえば自分は必ず強くなれると思って……


 藁にも縋る気持ちでサーゼクス様に話をした、丁度サイラオーグも似たようなことを考えていたようで彼も魔王様の元に来ていたわ。


 サーゼクス様はイッセー君に相談して彼が承諾したら良いと答えられた。正直イッセー君は忙しいし私達に構っている時間はないと思い断られる可能性を高く感じていたわ。


 でも彼はアッサリと引き受けてくれた、普通は高い対価などを要求するものだがイッセー君は何も欲しなかったの。


 悪魔として人生を過ごしてきた私は彼が眩しく見えた、でも彼に対する感謝は後回しよ。今は何をしてでも強くならなければ……!


 そして私達はG×Gと呼ばれている異世界に足を踏み入れた、辺り一面に食べ物が生えていたり実っていたりしてここが自分の常識が通用しない世界なのだといきなり教えられたわ。


 そしてイッセー君の案内で来たのがハングリラ島という大きな無人島だった。


 そこでどんな過酷な修行をするのかと思ったらマルヤキブタという見た事もない生き物の捕獲だと聞いて正直最初は拍子抜けしたわ。


 でもそのマルヤキブタは冥界の魔物とは比べ物にならないほど強かった、文字通り遊ばれてその結果は残念なものに終わってしまったわ。


 その後の料理は美味しかった、けど結局それ以上の修行は出来ずに一日が終わってしまった。そもそも食べてばかりでマルヤキブタとの戦闘以外戦っていないじゃない。


「本当にこんな修行で強くなれるのかしら?」
「不安か?」
「ええ、まあ……えっ?」


 私は急に声をかけられてそちらに振り替える、するとそこには満面の笑みを浮かべたイッセー君がいた。


「お嬢さん、この島は夜行性の猛獣もいる。一人で離れるのは危険ですよ」
「イッセー君!?いつからそこに?」
「ふう……って言った時から後ろにいたぞ」
「ほぼ最初じゃない!……あ、あのですねイッセー君、さっきのはその本音じゃなくて……うぅ」


 私は気まずくなってしまい言葉を詰まらせてしまう。


「気にしなくていいさ、不満や言いたいことがあるならいくらでも言ってくれ。だって俺は指導者として未熟だと自分で思っているからな、素直に何でも言って貰えた方がありがたい」
「す、すみません……」


 カラッとした笑みを浮かべながら気にするなと言うイッセー君、前から思っていたのだけどこの子は本当に年下なのかしら?大人の対応が過ぎるのだけど……


「なにか不安があるなら話を聞くぜ、今の俺はソーナ達の師匠だからな」
「……」
「無理にとは言わないが話せば楽になると俺は思うぜ」
「……聞いてくれますか?」


 私はなさけないと思いつつも自身の心情を彼に話しました。


「なるほどな、認めてもらえなくて無茶をしてそれで眷属を傷つけた自分が嫌になったのか」
「はい……」
「認めてもらえないって言うのは辛いよな、俺も最初の頃は美食屋になることを親父に認めてもらえなかったっけ。この島で特訓したけどマルヤキブタには何回も泣かされたもんだ」
「イッセー君がですか?先ほどはあんなに簡単に倒したじゃないですか」
「昔は俺も初心者さ、ソーナ達みたいに必死だった。それでも我武者羅に頑張って何度もチャレンジして突き進んだ、今ではそれなりに有名になれたよ」


 私はイッセー君が苦労をしてきたと聞いて驚いた、でもそうよね……最初から強かったのなんてサーゼクス様のような超越者みたいな存在だしイッセー君にだって私達の時のような時期はあって当然よね……


 私は勝手に彼は最初から何でもできる選ばれた者のようにどこか思っていたことを恥じたわ。


「ソーナの夢はすっげぇと思うよ、それが実現できれば立場の低い悪魔も知識を得れば可能性を広げることが出来るからな」
「イッセー君もそう思ってくれますか?」
「ああ。だが悪魔の貴族からすれば余計な事にしか感じないんだろうな」
「その通りです……」


 イッセー君の言う通り悪魔の貴族たちからは私の夢は煙たがられています。


「でも考え方を変えるのって凄く難しいんだ、人間だって何十年も古いやり方を盲目的に信じて変えないって人達もいるからな。だからこそソーナ、お前は焦っちゃ駄目だ」
「ですがこのままでは……」
「お前が焦ったって良いことにはならない、寧ろ悪いことばかりになるぞ。実際今そんな感じだろう?」
「はい……」
「ならもっと心を豊かに持つんだ。ソーナの夢は数年で解決できるようなことじゃない、なにせ悪魔の歴史に喧嘩売るみたいなもんだからな、普通に100年……もしかしたらそれ以上かかるかもしれないぞ」


 私はイッセー君にそう言われてハッとした、確かに悪魔の考えを変える事はそれだけかかっても不思議じゃない。焦ってそんな事にも気が付けなかったなんて……


「心を豊かに持てば冷静さを保てるし精神的にも良いぞ。そのためにはソーナ、お前はもっとこの世界を楽しむんだ」
「楽しむ……?」
「そうだ、夢の事は一旦忘れてこの世界を楽しむんだ。美味い物を食って綺麗な景色を見て野生の生物と戦って……とにかく色んなことを体験するんだ。そうすればお前にも余裕が生まれて広い視野を持つことが出来る」
「……」
「騙されたと思ってやってみようぜ。意外とソーナみたいな真面目なタイプほどハマるかもしれないぞ」
「……ふふっ、そうですね」


 イッセー君と話をしていて確かに私は色んなことをいっぺんに考えすぎていたかもしれないと思ったわ。


 彼の言う通り私の夢は直には叶わない、ならコツコツと小さなことから確実にこなしていったほうがいいのかもしれないわね。


 そもそも悪魔は長い命を持っているのだからそれを有効活用しないと。


「イッセー君、私は一旦夢の事は忘れます。眷属達と共にこの世界を楽しんで強くなりたいと今は思っています」
「そうか。ならしっかり食ってよく動いてたっぷり寝ていっぱい学べ、そうすれば必ず強くなれるさ。俺がそうだったからな」


 私はもう焦りません、彼のような大きな心を持てるようにまずは楽しんでみましょう。


 私は空に浮かぶ月を見上げてそう思うのだった。

  
 

 
後書き
 ライザーだ、最初は面倒にしか思わなかったこの一件だが飯は美味いし強くなれるし悪くないな。


 後は良い女もいればいいんだが兵藤一誠の女に手を出したら地獄を見るぞ、なにせゼファードルと一緒に女湯を覗こうとしたら鬼の形相で追いかけまわされたからな……


 だがあの小猫という娘はこの場にいなかった、もし彼女に会えたら今度こそこの想いを……はっ、何やら殺気が!?


 じ、次回予告をしろだと?仕方ないな……


 次回第156話『若手悪魔たちの試練!ソーナよ、仲間を取り返せ!』で会おう。


 次回も美味しくいただきます……初めて使ったが中々悪くない言葉だ。 
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