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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第150話 進んだ時間、零蝶を待つ残酷な現実

 
前書き
三虎は原作よりも重くなっています、フローゼに加えて零蝶にも激重感情を持っているので…… 

 
 E×Eにてメルヴァゾアを遂に打倒した零蝶、彼女はグレートレッドと共にグルメ界に帰るため次元の狭間を進んでいた。


「グレートレッド、早くする。我、アカシアやフローゼたちに会いたい」
「だから急かすなと言っている。次元の狭間は常に形を変えているんだ、来た時と同じじゃないのだからそんなスムーズに帰れるか」
「むぅ……」


 グレートレッドの頭をバンバンと叩きながら早くしろと急かす零蝶、そんな彼女にグレートレッドは呆れながら無理だと返した。


「これでも行きよりは早く帰れているんだ、分かったら大人しくしていろ」
「……分かった」


 零蝶は無表情だがアカシア達のように彼女をよく理解している者たちならムッとしているなと分かるくらいには不機嫌になっていた。


 まあ焦っても仕方ない、帰ったら皆と何をしようか考えておこう。そう考えた零蝶は頭の中で家族と過ごすイメージを浮かべていた。


 久しぶりにアカシアと手合わせをしてみたい、そして終わったら頭を撫でて欲しい。


 フローゼのご飯をお腹いっぱい食べて、その後に彼女の優しい手で髪を解いてもらいながら膝枕で寝たい。


 一龍のねこじゃらしをいっぱい触りたい、最近は抱っことかできていなかったからいっぱいしてあげたい。


 二狼とはお酒を飲んでイジりまわしたい、最近生意気だったからリーゼントとかグチャグチャにしてみたい。


 節乃とは女子トークがしたい、二狼との馴れ初めとか恋とか男兄弟とは話せないことを話したい。


 三虎はいっぱい撫でてあげたいし遊んであげたい。きっと我との約束を守るために今も努力を続けているはず、いっぱい褒めて甘やかしてあげたい。


「ふふっ、すごく楽しみ……」


 零蝶は幸せな日常を思い描きいつの間にか眠りについていた。


―――――――――

――――――

―――


「零蝶、起きろ。もうすぐグルメ界に着くぞ」
「ん……」


 グレートレッドに声をかけられた零蝶は目を覚ました。


「ふわぁ……やっと帰ってこれた。よくやった、グレートレッド。褒めてやる」
「まったく感謝を感じないな。まあいい、開けるぞ」


 グレートレッドは時空の切れ目にホロブレスを放ち穴を開けた。そしてそこに入ると懐かしい風景が二人の目に映った。


「グルメ界、久しい。やはりこの美味しそうな匂いが充満する空が好き」
「ああ、腹が減ってきたな」


 二人は早くフローゼの料理が食べたいと思い急いでアカシア達が住む家に向かった。


「ん、見えてきた……?」
「なにかおかしいな、人の気配を感じないぞ」


 久しぶりに見えてきたアカシアの家、だがそこからは誰の気配も感じず何故かボロボロになっていた。


「アカシア、フローゼ?一龍、二狼、三虎、節乃?皆いない、どこかに行っている?」
「そもそも何故この家はこんなにボロボロなんだ?」


 零蝶は首を傾げながら辺りをうろつく、グレートレッドは壊れたドアを外して直す、そして家の中に入る。


「埃が積もってるな……積もった厚さを見るに結構な時間ここに誰も訪れていないな」


 割れた机の上に積もっていた埃を指で拭う、そして埃の厚さを見て時間がどれだけ経過したのか予測した。


「俺達がいない間に何が起こったというんだ?」


 グレートレッドはアカシア達がいないこの家で何が起こったのか疑問に思う。


「おい、零蝶。何か見つけたか……零蝶?」


 外に出たグレートレッドは辺りを捜索していた零蝶を探して声をかけた。しかし零蝶はなにも答えずに何かを見ていた。


「返事をしろ、一体何を見ている?」
「グレートレッド、ここにフローゼの名前が書かれた板が刺されている。これはなに?」
「なに?」


 グレートレッドは零蝶が指を刺したモノを見る、それは『フローゼ、ここに眠る』と書かれた板が地面に刺された場所だった。


「まさか……そんな……」
「グレートレッド、フローゼが寝てると書いている。フローゼはここで寝ている?なら早く起こさないといけない」
「零蝶、これは墓だ。死んだ人間を埋めている場所の事だ」
「……」


 グレートレッドはフローゼの墓を見て動揺した。


「アカシアから聞いたことがあるんだ。人間は俺達と比べて貧弱で寿命の短い生き物だ、だからすぐに死んでしまう。そして死んだ人間は仲間や家族によって丁寧に埋められて埋葬されると……つまりこれが本物の墓ならフローゼは死んだことになる」
「……」


 死んだ、その言葉を聞いた零蝶は一瞬目のハイライトを消してしまうが直ぐに首を振ってグレートレッドを睨みつける。


「グレートレッド、その冗談は面白くない。言葉に気を付けろ」
「冗談でこんな事を言うか、現実を見ろ」
「ふざけるな、フローゼが死ぬ?あり得ない、フローゼは三虎が守っている。それにフローゼも我の好きなハンバーグを作ってくれると言った。二人が約束を破るわけがない」
「……」
「我はフローゼを探す、お前はアカシア達を探せ」


 零蝶はそう言うと空を飛んでフローゼを探しに向かった。


「……とにかくアカシア達を探さないといけないな」


 零蝶は今は放っておくしかないと判断したグレートレッドはアカシア達を探す事を優先した。


 まず親友であるデロウスを訪ねた。


「グロロ……」
「なに?グルメ日食が起こっただと?」


 デロウスの話ではグレートレッド達がE×Eに行っている間にこの世界で大規模な日食が起こったらしい、そしてその際にGODが現れて何者かに捕獲されたことを彼は教えてくれた。


「おそらくそれはアカシアだろう、だがその後どうなったんだ?」
「……」
「流石に知らないか。済まない、助かったよ」


 話を聞き終えたグレートレッドはデロウスにお礼を言うと再び捜索に向かった。


「あれは……」


 グルメ界を飛び回っているとなにやら盗賊のような恰好をした男を従えた男性の姿が見えた。グレートレッドはその男性に心当たりを感じて地面に降り立つ。


「なんだ!?」
「お主は……」
「やはりお前か、一龍。探したぞ」


 それは一龍だった、グレートレッドを見た一龍は目を見開いて驚いた。


「会長!下がってください!この男、相当な猛者です!」
「いや大丈夫じゃ、マンサム。この人はワシの友人じゃからな」
「えっ、今ハンサムって言いましたか?」
「言っとらん、いちいち反応するな」


 盗賊のような男が臨戦態勢になるが一龍が止めた。


「久しいな、レッド。何年ぶりじゃろう、お主の姿を見たのは……帰ってきておったんじゃな」
「ああ、お前も年を取ったな。一龍」


 久しぶりに再会した一龍は目に見えて老けていた、それを見たグレートレッドは自分達が思っていたよりも長い時間が過ぎてしまっていたことを実感した。


「一龍、一体何があった?日食が起きてGODが捕獲されたことという事はデロウスから聞いたが……」
「うむ、その通りじゃ。続きは近くのワシの拠点で話そう、飯も出す」
「そうだな、少し腹が減った」


 立ち話も何だと言い一龍は自身の拠点にグレートレッドを案内する。


「所で姉さんは一緒じゃないのか?」
「奴はフローゼを探して世界を飛び回っている、もはや話も出来ん状態だ」
「そうか、やはりそうなったか。姉さんはフローゼ様を強く慕っておった、信じられる訳が無い。ワシだっていまだに信じられない……」
「……その反応を見るにやはりフローゼは」
「亡くなられたよ」


 一龍から発せられた『亡くなった』という言葉にグレートレッドは息を飲んだ、自分を恐れずに料理を作ってくれた友人の死に流石のグレートレッドも応えたのだ。


「ここじゃ、質素な場所じゃが見晴らしはええぞ」


 拠点は高い崖の上にあった、そこは広大なグルメ界を見渡すことが出来る絶景が見える場所だった。


「ほれ、『まぼろ酒』という酒じゃ。ワシが好きな奴なんじゃよ」
「どれ……度数が弱いな。嫌いな味じゃないが物足りない」
「これくらいがいいんじゃよ、あとこれはどうじゃ、『ミリオンの樹』の種を炒めたモノなんじゃが美味いぞ」
「お前が好きそうな味だな」


 久しぶりにかわす談笑を楽しみつつグレートレッドは本題に移った。


「一龍、俺達がいない間に一体何が起こったんだ」
「グルメ日食が起こりGODが捕獲されたことは知っているな、GODを捕獲、調理されたのはアカシア先生とフローゼ様じゃ。じゃがワシらは誰もその光景を見てはおらぬ、全て後になってアカシア様より聞いただけじゃ」
「何故だ?」
「ワシらは誰も連れて行ってもらえなかった、日食の間は混乱する人間界に食材を流して二人が帰ってくるのを待ち続けたんじゃ」


 一龍はGODを捕獲しに向かったのはアカシアとフローゼだけと話した。


「そして遂に二人が戻ったんじゃがフローゼ様は凄く消耗した状態じゃった。GODの調理に相当な体力を持っていかれたんじゃろう」
「あのフローゼがそこまで消耗したのか、GODは相当厄介な食材だったんだな」
「うむ、しかしフローゼ様は見事調理して見せた。ワシらはフローゼ様を安静にして食材を集めて体力と容体を回復してもらおうとした。じゃが……」


 一龍はなにか悲しそうに目を伏せて言葉を濁した。


「三虎が先走り療水を取りに行ったんじゃ」
「療水を?確か療水が湧きたつ場所にはデロウスの血を引く子孫が縄張りにしていたはずだが……」
「その通りじゃ、三虎は襲われて瀕死の重傷を負ってしまった。それでも執念で帰った三虎は療水を届けた」
「だがフローゼが自分を優先するような女じゃない。無理をしたな」
「ああ、フローゼ様は三虎を救うため料理を作ったんじゃ。ただでさえ消耗して負った体に鞭を打って調理をした結果……フローゼ様は調理を終えた後そのまま厨房で立ったまま亡くなられておったんじゃ」
「なんということだ……」


 フローゼの死にざまを聞いたグレートレッドは驚愕した。フローゼはまさに料理人としての道を全うして死んだのだ、流石のドラゴンもこれには敬意を示した。


「ワシは三虎を攻めれんよ、寧ろ何故三虎を気にかけていなかったのか……こういう行動に出るのは予測できていたはずなのに……ワシも狼狽えておったんじゃろうな」
「……」


 一龍の顔には深い後悔の色が浮かんでいた。自分がしっかりしていればこの事件を未然に防げたのかもしれないと思っているのだろう。


「一龍、その場にいなかった俺が言うのも何だがお前はよくやってると思うぞ。そう思い込むな」
「……すまんな」


 グレートレッドの言葉に一龍は苦笑した。


「その後アカシア先生もどこかに向かわれて行方が分からなくなった。ワシはアカシア先生に人間界を託され今は食を守る組織を作るべく人材を集めているんじゃ」
「あの男もか?」
「うむ、グルメ盗賊じゃったがワシが懲らしめて改心させた。他にも猛者たちが人間界に集まっておるよ」


 グレートレッドは拠点の入り口で見張りをしているマンサムを指差してそう言うと一龍は頷いた。


 彼は一龍の旧友との語らいを邪魔しないようにと見張りをしてくれているのだ。


「次郎達はどうしている?」
「あいつは今グルメ界を旅しながら厄介な猛獣をノッキングして過ごしておるよ。節乃は人間界で料理人として腕を振るっておる」
「……三虎は?」
「……」


 三虎の話になると一龍の顔が険しいものになった。


「……あいつは道を踏み外した。最早同じ道は歩けんわい」
「一龍……」


 その一言で二人に何があったのか察したグレートレッドは言葉を飲み込んだ。


「零蝶が聞けば悲しむな……」
「……そうじゃな」


 零蝶は三虎を可愛がっていた、そんな愛しい弟が悪に堕ちたと知れば零蝶は悲しむだろうと二人は思った。


「レッド、姉さんに伝えてくれ。もし行く当てが無いのならワシはいつでも歓迎するとな。勿論お前さんも来てくれればうれしい」
「ああ、伝えておこう」


 情報を得たグレートレッドは一度一龍と別れることにした、他のメンバーからも話を聞きたいと思ったからだ。


 グレートレッドは次に次郎を探し始めた、グルメ界を飛び回っていると大きな猛獣をノッキングしている次郎を見つけた。


「次郎、お前なのか?」
「お主、レッドか?帰って来とったんじゃな、姉さんは一緒じゃないのか?」
「零蝶は今暴走している、フローゼの死を受けいられないようだ」
「……そうか、あれだけフローゼ様を慕っておった姉さんが受け入れられんのも無理はない。ワシだって今でも夢であってほしいと思ってしまうからな」


 次郎はどこか寂しそうにそう呟く。


「レッド、お主が戻ってきたときの為に酒を用意しておいたんじゃ。ドッハムの湧き酒、好きじゃったじゃろう?本当は姉さんにも飲んでほしかったんじゃが今はそっとしておくしかなさそうじゃからな」
「酒好きのお前がよく我慢できたな、有難くいただこう」


 次郎は背負っていた荷物から酒の入った大きな瓶を取り出した。そしてその場に座り込んで久しぶりの乾杯をかわす。


「んぐっ……ふうっ、美味いな」
「何十年も熟成させとったからな、あれから長い時間が過ぎた」
「そうだな、まさかここまで時間のズレが発生していたとは思わなかった」


 零蝶とグレートレッドがE×Eに向かっている際、グルメ界は大きく時間が進んでいた。次郎はその時間の流れの速さを思い返しながら今までの事を話し始めた。


「そうか、イっちゃんと出会ったか。ワシらはアカシア様と別れた後それぞれの道を進んでおる、ワシはこうやって世界を放浪しながらやんちゃをした坊主共にお仕置きしながら酒を飲んで生きとるよ」
「そのデカいのもか?」
「ああ、コイツは『ハンマータスク』っちゅう奴でな、この辺りの生態系を無茶苦茶に食い荒らして負ったからノッキングしたんじゃ。まあ稀に酔っぱらって何をノッキングしたのか忘れてしまうんじゃがな、ふぇっへっへ」
「お前らしい」


 二人はそれぞれお互いが何をしていたのかを話していた。


「お前さん達も大変じゃったんじゃな、こっちも色々あったよ。グルメ日食にGODの出現、フローゼ様の死、三虎の裏切り、戦争が終わり美食を楽しもうとする時代の到来……本当に様々な事が立て続けに起こった」
「……お前は三虎の事はどう思っている?」
「当然キレとるよ」


 グレートレッドは三虎の事を尋ねると次郎は鋭い眼光で空を見上げた。


「奴の気持ちは分からんでもない、だがアカシア様とフローゼ様の教えを忘れ己の欲のままに暴飲暴食を繰り返し……呆れて何も言えん」
「その割には大人しいな」
「イっちゃんから止められたからな。この事態を招いたのは自分の甘さ故、ケジメは己で取るとな」
「奴らしいな」
「イっちゃんは本当に優しい兄じゃよ、ワシに弟殺しの業を背負わせたくないから止めてくれたんじゃろうな。ワシはその優しさに甘える事しか出来ん、力だけあってもむなしい物じゃのう」
「そうだな……」


 グレートレッドは力があってもこの状況をどうにもできない己に悔しさを感じた。


「話せてよかった、そろそろ行くとする」
「もう行ってしまうのか?」
「他にも話を聞きに行きたいのだ。それに零蝶をずっと放置してはおけん、最悪やけになって世界を滅ぼすと言いかねない」
「そうか……」


 グレートレッドは立ち上がると翼を展開した。


「レッド、姉さんに伝えてくれ。ワシはいつでもヒマしとる、寂しくなったら遠慮なく遊びに来てくれとな」
「分かった、伝えておこう」


 グレートレッドはそう言って飛び去った。向かうのは人間界だ。


「うわぁっ!?巨人が落ちてきたぞ!」
「警備兵を呼べ!」
「この辺りはこんなに発展していたのか、まずいな」


 昔はこの辺は平原だったのに今では人間たちが多く住む町になっていた、それを知らずに下りたら人が集まってしまい騒ぎになってしまった。


「なんじゃ、騒がしいのぉ……って貴方はまさかレッドさんか?」
「節乃か、また魅力的になったじゃないか」
「レッドさんもお上手じゃのう」


 そこに騒ぎを聞きつけて足を運んだ節乃が現れた、レッドは一目で節乃だと見抜きアカシアに習ったお世辞を言う。


「皆、この人はあたしゃの友人じゃ。心配いらんよ」


 節乃がそう言うと警戒していた人々はまるで何事もなかったかのように日常生活に戻っていった、彼女が信頼されている証拠だろう。


「親しまれているのだな」
「有難いことに皆あたしゃに良くしてくれるんよ。さあ、店に案内するからそこで話しましょ」


 節乃に連れられて彼女の店に向かうグレートレッド、そして一軒の小さな建物に着いた。


「随分と小さい店だな、俺が入ったら壊れないか?」
「ギリギリ大丈夫じゃろう。ささ、中にどうじょ」


 グレートレッドは身をかがめて店の中に入った。


「趣のある良い店だな、相当な人間がここで食を楽しんでいるようだ。流石はフローゼの一番弟子なだけはある」
「ふふっ、フローゼ様に比べたらあたしゃはまだまだだじょ。あの人は本当に料理人の鏡じゃった……」
「既に一龍や次郎に会って話はしてある。フローゼについては本当に残念だった、零蝶はその現実を受けいられずに世界を迷走している」
「やはりそうじゃったんじゃな、一緒にいないからまさかとは思っとったが……零蝶さんの気持ちを考えると胸が張り裂けそうじゃわい」


 零蝶の話を聞いた節乃は彼女の心情を思い悲しそうな表情を浮かべた。


「あたしゃはフローゼ様から人間界の発展を任されてのう、料理人として腕を振るい多くの人たちにそれを伝授してきた。今では多くの腕のある料理人がいて人々は食を楽しみ愛する時代が来たんじゃ。これもアカシア様とフローゼ様がGODを捕獲して人々に配ったことで成し得た平和……なのに三虎の奴め、憎しみに囚われてそれを忘れおってからに」
「……お前も三虎を攻めるのか?」
「そうなったのもあやつが弱いからじゃ。気持ちは多少は理解できる、フローゼ様が死んだことにあたしゃも他にやりようはなかったのかと思う事はある……じゃが美味しそうに食事を楽しみ人々を見て二人がなさったことは間違っていなかったと改めておもったんじゃ。だからこそあやつのやろうとしとることを認める事は出来ん」
「そうだな……」


 節乃は三虎の気持ちも少しは理解できると話した。


 食を楽しむ人達を見るとそれによって亡くなったフローゼがまるで犠牲になったと思う事もあった、だが笑顔で食事をする人々を見ている内にやはり二人がやったことは正しかったと改めて思った。


 フローゼの弟子として、料理人として三虎は許せないと温厚な彼女は眼を鋭くして話した。


 グレートレッドはあれだけ仲の良かった者達がこうして敵対している現状を見て少し悲しくなった。


「話を聞けて良かった、俺はもう行く」
「良かったら料理でも食べていかんか?」
「お前の腕がどれだけ上がったか気になるが今日は止めておこう。零蝶の様子を見に行く」
「ならちょっと待っとくれんか?」


 節乃はそう言うと厨房に向かい料理を作り始めた。凄まじい速さでありながら非常に丁寧な調理にグレートレッドは驚いた。


「これはあたしゃが作ったお弁当じゃ、零蝶さんと一緒に食べなさい」
「態々すまないな、必ず渡す」
「零蝶さんのことお願いしますじゃ」


 グレートレッドはお弁当を受け取ると人間界を後にした。


―――――――――

――――――

―――


 その頃零蝶は世界中を飛び回っていた。


「アカシア、フローゼ、何処にいる……?」


 二人と回った思い出の場所を何度も探し危険地帯も往復した、それこそ地面をひっくり返す勢いで探し続けた。


 だが二人は何処にもいなかった、唯時間だけが過ぎ去っていく。


「寂しい……二人に会いたい……」


 零蝶はアカシアの家に戻り一人体育座りをして暗闇の中座り込んでいた。


 だがその時だった、家のドアが開く音がした。それを感じた零蝶は死線を上げて歓喜の笑みを浮かべる。


「アカシア!フローゼ!」


 だがそこにいたのは見知らぬ男性だった、だが零蝶はその男性の顔にあった傷に見覚えがあった。


「……三虎?」
「胸騒ぎがしてまさかと思い足を運んだ、もう来ることは無いと思っていたが……」



 男性……それは成長した三虎だった。零蝶は立ち上がり三虎に近寄る。


「姉者、こうしてまた会えて嬉しいよ」
「三虎……!!」


 零蝶は三虎に勢いよく飛びついた、そして目から涙を流す。


「三虎!アカシアもフローゼもいない!二人は何処に行った?我、必死で探したがどこにも見つからない!」
「……」
「我、二人に会いたい!お願い、三虎。二人の居場所を教えて……!」


 零蝶はすがるように三虎にそう悲願した。それを見た三虎は一瞬顔を歪めたが直ぐに無表情に戻る。


「姉者、着いてきてくれ」
「教えてくれるのか?感謝する、三虎!」


 零蝶は嬉しそうに笑みを浮かべて三虎の後をついていった。


「それにしても三虎、随分と成長した。最初誰だか分からなかった」
「色々あったからな、姉者は変わっていなくて安心した」


 たわいない会話をしながら二人はある場所に到着する。


「三虎、ここはフローゼが寝てたと書かれた板が刺してある場所、フローゼはここにいるのか?」
「……少し下がっていろ、姉者」


 そこは零蝶が最初に訪れたフローゼの墓がある場所だった。三虎は零蝶を下がらせると舌を垂らして構えを取る。


「ハングリートング」


 そして墓の周辺の土を綺麗に繰りぬくように食べてしまった。


「あっ……」


 そしてそこから現れたのは死に装束を着たフローゼの遺体だった。既に死体となって長い年月が過ぎているというのに遺体は腐敗しておらず綺麗なままだ。


 フローゼが死んだ後も三虎は療水をかけ続けた、そのお蔭で死体は腐敗しておらず綺麗な状態になっている。


「フローゼ、やっと見つけた。かくれんぼはもうおしまい、我はお腹が空いた。フローゼのご飯が食べたい」


 零蝶はフローゼの死体に近づくと頬を撫でながらそう言う、だがフローゼの体はまるで氷のように冷たかった。


「フローゼ、ねえ起きて?我約束通り帰ってきた。だから一緒にご飯を食べよう?お風呂にも入りたいし一緒に寝たい。ねえフローゼ……」


 零蝶は何度もフローゼの体を揺すった、だが変事など返ってくるはずもない。


「姉者、フローゼは死んだ。俺が原因だ」
「えっ……?」


 ずっと黙っていた三虎が自分が原因でフローゼは亡くなったと言う。


「三虎、お願いだからそんな冗談は言わないで」
「冗談などではない、フローゼが死んだのは俺のせいだ」
「嘘……我は知っている、三虎がどれだけフローゼを愛していたかを……そんな三虎がなに」
「俺が原因なんだ!」


 零蝶の言葉をさえぎって三虎がそう叫んだ。


「フローゼが死んだのは俺のせいだ、今から何があったのか全てを話す。落ち着いて聞いてくれ、姉者」
「……」


 三虎は零蝶にフローゼの身に何が起こったのか話し始めた、そして話を聞いた零蝶はそっとフローゼの側に座り込んだ。


「……本当は分かっていた、我だってアカシアから沢山の事を教わった。死という概念も知識としては知っていた。でもよりによってフローゼが死んだなんて現実を受け入れられる訳が無い」


 零蝶はフローゼの頬を撫でながら涙を流し始めた。


「ううっ、フローゼ……もう話せないの?我はもうフローゼと一緒にご飯も食べられない?抱きしめてくれない?笑顔を見せてくれない?……嫌だ、そんなのは嫌……!」


 すがるようにフローゼの遺体に体を寄せながら零蝶は泣きながら必死で体を揺する。


「我は認めない!命が無くなったなら我が新たに作ればいい!」
「姉者、何を……」
「我がフローゼを生き返らせる!メルヴァゾアを蟹ブタに転生させれた、本気でやれば出来るはず!」


 零蝶はそう言うと無限のエネルギーをフローゼの遺体に流し始めた。


「ぐううっ……!」


 必死でエネルギーを注ぎこんでいく零蝶、だがフローゼは生き返らない。


 前に零蝶本人が人間を作れないと話した。いくら無限の龍神と言われた零蝶でも人間の命をよみがえらせることはできない。


「……我は無力だ」


 このままでは遺体が耐え切れず吹き飛んでしまう、それを悟った零蝶はフローゼから離れた。


「姉者、もういい。フローゼを丁重に弔ってやろう」
「……うん」


 現実を受け入れた零蝶は三虎と一緒にフローゼを綺麗にして丁寧に墓に入れた。


「……」
「姉者、フローゼを生き返らせたいか?」
「三虎……それは出来なかった」
「姉者でも無理だった、だが可能性がない訳じゃない」
「……どうする?」


 突然三虎がそのような事を言い始めた、それを聞いた零蝶は僅かな恐怖を三虎から感じつつも聞き返す。


「アカシアのフルコースの前菜、それが究極の蘇生食材だと情報を得た。姉者は知っていたか?」
「いや我も初めて聞いた、アカシアから聞いたのか?」
「アカシアは自身のフルコースの情報を隠していた、俺達にも何も教えなかった。だが一龍には何かを話しているはずだ」
「一龍が……でもそれなら何故三虎がそれを知っている?」


 零蝶は一龍が義理堅い人物だと知っていた、たとえ家族の頼みでもアカシアから話すなと言われていれば絶対に話さないだろう。


 だからなぜ三虎がその情報を持っているのか気になった。


「フードを被った怪しい奴が俺に接触してきて勝手にべらべらと話していったんだ」
「……信用できるのか?」
「さあな、だが姉者でも不可能だった。最後の望みとして試す価値はあるだろう」


 零蝶はそんな怪しい奴の情報が正しいのか疑問に思う、だが三虎は眉唾だろうと試す価値はあるという。


「でもどうやって一龍からその事を聞く?」
「お願いなどせぬさ、奴から力づくで聞き出せばいい」
「ッ!?」


 予期せぬ回答に流石の零蝶も目を見開いた。


「何を言っている?家族で争うなど……」
「奴らとは既に道を違えた、もはや同じ道は進めない。ならば俺は修羅になってでも目的を果たしてやる」
「そんな事はさせない!家族で争うなんて絶対に……!」
「ならどうする?俺を殺すか?」
「ッ!!」


 三虎を止めようと構える零蝶、だが自分を殺すのかと言う言葉に体が止まってしまった。


「姉者、俺は再び現れるであろうGODを奪い世界中の食材を奪いつくしてやるつもりだ。フローゼの犠牲を知らず能天気に食を楽しむ連中全てに絶望を与えてやる」
「そんな……そんな事はフローゼは望まない!」
「ああ、望まないだろうな。俺も最初は納得しようとした、だが駄目なんだ……この怒りは、憎しみは、食欲は収まらない……!」
「三虎……」


 三虎はこの世界を憎んでいた、どれだけ食べても飢えは消えない……もはや彼は止まれなくなってしまっていたのだ。


「姉者、もし俺を止めたいなら今この場で俺を殺せ」
「そ、そんな……」
「姉者にはその権利がある、俺は姐者との約束を守れずにフローゼを死なせた……だから姉者になら殺されても構わない」
「……うぅ」
「さあ殺れ、フローゼが愛したこの世界を守りたいのなら俺を殺せ!」
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 零蝶は絶叫しながら三虎に拳を振るった、だがそれは三虎に当たる直前で逸れて地面に大きな亀裂を走らせた。


「はぁ……はぁ……出来ない、出来るわけがない……家族を殺す事なんて我には出来ない……!」
「……そうか、姉者もその選択をするのか」


 涙を流して頭を押さえる零蝶、三虎は力なく笑うとその場を後にしようとする。


「姉者、お別れだ。次に会う時は俺は悪に染まっているだろう。もう昔の様には暮らせない」
「待って……行かないで、三虎……」
「さらばだ」


 手を伸ばす零蝶、だが三虎は一度も振り返ることなく去っていった。


「……」


 零蝶は地面を見つめながら唯涙を流し続けるのだった。


―――――――――

――――――

―――


「おかしい、零蝶の気配が消えた?」


 グレートレッドは零蝶を探していた、だがこの世界から零蝶の気配が完全に消えてしまった事に疑問を感じていた。


「まさかな……」


 心当たりがあったグレートレッドは時空の切れ目に向かった。そしてそこから次元の狭間に入り込むとそこに零蝶がいた。


 蹲るように空間に身を置いていた彼女に首を傾げながらもグレートレッドは声をかけた。


「零蝶、何故ここにいる?」
「……」
「フローゼが死んだことをまだ受け入れられないか?気持ちは分かるが」
「三虎に会った」
「なに、本当か?それで何があったんだ?」
「……」


 零蝶は三虎とのやり取りをグレートレッドに話すのだった。


「そんな事が……一龍達から話は聞いていたが奴め、そんな選択をしたのか」
「……」
「どうする、零蝶?一龍がケジメを付けると言っていたが俺達も」
「もういい」
「なに?」
「もう何もしたくない。一龍も三虎も戦おうとしてる、家族が争う所など我は見たくない」
「零蝶……」
「どちらかに力を貸せばどちらかを殺さないといけないかもしれない、それなら我は何もしない。ここにいる」


 零蝶は深く絶望してしまった。アカシアは行方不明になりフローゼは死亡、残った家族は争う事になった。


 あまりにも悲しい出来事が立て続けに起こってしまい、遂に彼女の心は折れてしまった。


「……分かった、お前の好きにしろ。節乃から弁当を受け取っているが……」
「いらない」
「そうか、なら俺が食べておく」


 グレートレッドは二つの弁当を取り出して食べ始める、いつもならキチンと感想を言う彼だったが……


「……はぁ、こんな気持ちではどんな料理も味など分からんな。すまない、節乃……」


 その弁当の味は分からなかった。本人は自覚していなかったがグレートレッドもアカシアやフローゼたちと過ごす日常を気に入っていたのだ。


 だがその日はもう来ない、そして彼も気力を失ってしまい零蝶と共に次元の狭間に残ったのだった。



―――――――――

――――――

―――


 それから長い年月が過ぎた。零蝶は名をオーフィスに戻していた、もうその名を呼んでほしい人はいない、だから変えた。


 フローゼの料理の味が恋しくなりたまにグルメ界に行き狩りをして獲物を食べたが心が満たされることは無かった。


 このまま虚しい人生を送り続けるのか……オーフィスは失意の中ただ流されるように生き続けた。


 だがある日それは終わりを迎えた、彼女はアカシアとフローゼのような懐かしさと優しさを感じさせる少年と少女に出会う事になる。


 オーフィス……零蝶の止まっていた時間が再び動き始めた。
 
 

 
後書き
 イッセーだ、オーフィスの過去、思っていた以上に過酷だったな。三虎って人には同情するがそれでも食材を全て奪うなんてことは許せるわけがない、俺がもっと強くなって美食會の好きにはさせない!


 まあでもまずは体育祭だ、アーシアとの特訓の成果を見せてやるぜ!


 次回第151話『始まりました、体育祭!アーシアとの絆!』で会おうぜ。

 
 次回も美味しくいただきます! 
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