真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第114話 上洛 後編
前書き
サーバに切り替え作業が落ち着いたので、1話更新しました。
久方ぶりの洛陽です。
冀州も地方の割に大都市を抱えているので都会ですが、やはり洛陽と比べると劣ります。
洛陽に戻って来ると強く実感しました。
私は幽州からの帰路途中、朝廷からの使者と接見し上洛の勅を受けると、兵を星に預け三千の騎兵を引き連れ洛陽に向いました。
上洛には途中から合流した揚羽(司馬懿)と冥琳、真希(太史慈)、榮菜(臧覇)、沙和(于禁)、蹋頓の6名を連れてきました。
沙和は洛陽にどうしても行きたいと揚羽に着いてきてしまいました。
真桜(李典)からの頼まれものがあるらしく、通常なら連れて行かないのですが渋々同行を了承しました。
沙和が真桜に頼まれものは涼州産の黒い油らしいです。
多分、黒い油というのは原油と思うのですが、真桜は何を作るつもりなのでしょう。
当の本人がいない以上、用途はわかりませんが。
蹋頓は冀州に揚羽や冥琳がいない状態で、蹋頓1人を野放し状態にするより、洛陽に連れてきた方が安心と思ったからです。
丘力居は未だ全幅の信頼を置いている訳でありません。
丘力居に随行している泉(満寵)に何かあれば早馬で私に知らせるように命じているので、数ヶ月もすれば泉から何かしらの連絡があるでしょう。
無事に蘇僕延の首が届けば上々ですが、反旗を翻した場合が厄介です。
ですが、蹋頓を人質にした当たりから察するに、今のところ反旗を翻すことはないと思います。
懸念は白蓮達と諍いを起こさないかです。
難楼を冀州に留め置いてきましたが、彼女に関してはあまり心配はしていません。
彼女もこれ以上、軽卒な行動をとればどうなるか分かっていると思います。
念のために凪と水蓮(夏候蘭)を監視役に着けておいたので大丈夫だと思います。
私達は洛陽に到着すると、戦装束で陛下の元に参内するのは不味いと考え、禁裏に直接向わず、一度私の邸宅に寄ることにしました。
邸宅の門前に近づくと思いがけない人物が5名いました。
「正宗様、よくご無事でお帰りくださいました!」
「アニキ——————! お帰り!」
「正宗様、お帰りなさい」
「お兄ちゃん、お帰りなのだ」
麗羽、斗詩、猪々子、鈴々が私に駆け寄ってきました。
その後ろをゆっくり華琳が着いてきました。
麗羽と華琳が一緒にいることに違和感を覚えました。
「麗羽は正宗様に再会できて嬉しゅうございます」
麗羽は満面の笑みで周囲の目を気にすることなく私に抱きついてきました。
何となく気恥ずかしい想いがしましたが、彼女の腰に手を回し、私も抱き返しました。
麗羽の様子に私はほっとしました。
彼女の様子をみて、機嫌の良いときを見計らって冥琳のことを打ち明けましょう。
と、思いましたが私の計画は脆くも打ち砕かれました。
「ところで正宗様、私に打ち明けることがありますわよね」
先ほどまでの心地よい空気が一瞬で変わりました。
明らかに麗羽の纏う空気が変わりました。
彼女の纏う空気は凍てつくようで、私は背筋に悪寒を感じました。
間違い無く麗羽にバレています。
「な、何かな。はは、麗羽」
私は狼狽えるように私の胸の顔を埋める麗羽に声をかけました。
「正宗様、ご説明いただけますわよね」
麗羽は顔を上げ、優しい笑顔に似つかわしくない、低い声で私に言いました。
「な、何でしょうか。麗羽さん」
麗羽の言い知れぬ迫力に私はたじろぎました。
「ご冗談を。可愛い側室を3人も迎えたそうでありませんか? 正室の私に何も相談してくださらず、その上、ご説明もいただけませんの」
麗羽はこめかみに青筋を立て、笑顔まま私に皮肉混じりに言いました。
気のせいかも知れませんが、彼女が私を抱擁する両手に力が入っているように感じました。
「3人? 2人だ。1人は形式上の側室で何もやましいことはしていない。冥琳とも未だ何もしていないぞ!」
私は麗羽に必死に弁明をしました。
「未だ? ですのね。私、正宗様とお約束しましたわよね」
麗羽は笑顔のまま、私へ殺気を放ちました。
麗羽では私を殺すことは無理でしょうが、彼女が凄く恐いです。
「次、側室を増やしたら、一緒に死ぬ。でしたっけ?」
私は麗羽の殺気に当てられ、彼女に敬語で答えてしまいました。
「オホホホ、覚えていただけて嬉しいですわ」
麗羽は上機嫌になり、笑顔で私を見つめています。
恐い。
「麗羽、これには訳がある」
「訳? それは何ですの」
麗羽は一瞬ほくそ笑むと私に問いました。
「冥琳と結婚したいな〜と思ったのさ」
軽く流してみたら、麗羽も許してくれるかなと淡い期待をいだきました。
「ホホホ、正宗様は私と揚羽さんだけではご不満なんですのね。よーく、分かりましたわ。その辺も含め、じっくりとお話しましょうね」
やっぱり無理でした。
こんな受け答えで麗羽が許す訳ないです。
私の発言が墓穴を掘ってしまいました。
私の先ほどの発言で麗羽の機嫌を更に損ねてしまったようです。
素直に打ち明ければよかったです。
どうすればいいでしょう。
私は麗羽の剣幕に恐怖を覚え、私は揚羽に視線を向けましたが、彼女は目を伏せ無視しました。
冥琳へ救援を求めると、彼女も揚羽と同様に気まずそうに目を伏せました。
私の味方はこの場にいないようです。
絶対絶命です。
絶対絶命の私に助け舟を出したのは意外な人物でした。
「正宗、久しぶりね」
「華琳、久しぶり」
麗羽と抱擁したまま華琳に返事しました。
「麗羽、華琳が見ているので、一先ず後でゆっくり話さないかい」
華琳の介入を理由して、一先ず先送りをしようと試みました。
「華琳さんは関係ありませんことよ。私が頼みもしないのに、華琳さんが着いてきたんですから。それに、私は何もやましいことをしていませんわ。正宗様は私と話をすることが嫌ですの?」
麗羽は私の言葉を一蹴しました。
「麗羽と話が出来て、凄く嬉しいよ。でも、じっくり話をするには時と場所を選ばないと」
「麗羽、あなたは正宗のことになると、周りが見えなくなるわね。あなたにもう少し甲斐性があれば、こんなことにならないでしょうに。色恋に関して、あなたに甲斐性を求めるのは酷というものね。私ならもっと上手くやるわね」
華琳は麗羽を見て嘆息すると、私の方を見ました。
「華琳さん、何ですの! 正宗様を侮辱するなんて、私が許しませんことよ」
麗羽は私から離れ、華琳に向き直ると厳しい視線を彼女に向きました。
「まあまあ、麗羽、落ち着いて」
「私は十分落ち着いていますわ」
「私は長旅を労おうと正宗に挨拶に来ただけ。用が済めば帰るわ。私の用の邪魔をしているのはあなたでしょ」
「その態度は何ですの! 不愉快ですわ」
私は二人の口喧嘩に入り込む隙を見つけることができませんでした。
「麗羽、さっきからいっているでしょ。あなた達の夫婦喧嘩の邪魔はする気は毛頭ないわ。麗羽、あなたは私にずっと側に居て欲しいのかしら」
華琳は麗羽の剣幕など、どこ吹く風と去なすと私の方を向きました。
「そんなことある訳がありませんわ」
「なら、いいわよね」
華琳は勝ち誇ったように麗羽を見ると、麗羽は不機嫌そうだったが押し黙った。
「正宗、健勝そうで何よりね。異民族の討伐に大忙しだったと聞いてるわ」
華琳は麗羽から私に視線を移すと喋り始めました。
烏桓族の件、降伏の代償に美女千人を要求した話を穿り返されるのでしょうか。
麗羽だけでも恐ろしいのに、華琳に油を注がれると凄く困ります。
ですが、先ほど「私を救ってくれた?」のであれば、麗羽に油を注ぐことはしないと思います。
華琳の様子からも私をからかうために訪ねてきたというより、真剣な話をしに訪ねたような気がします。
「討伐した異民族への対応を聞き及んでいるわ。随分と甘い仕置ね」
「ああ、甘いだろうな」
私自身、時間が経過する程に、自分の甘さを痛感しています。
あの時、私は罪の無い人間を殺すことに抵抗感がありました。
罪を犯した者を手にかけることは出来ても、無辜の者を手にかけることができませんでした。
無辜の民であれ、連座として処刑しないといけないことがあることを理解できても、自分の心が抵抗して決心できませんでした。
「理解した上で実行したわけね。駄目駄目ね」
華琳は私の馬鹿にするように言いました。
「華琳さん。正宗様に無礼ですわよ」
麗羽は華琳の態度が気に入らなかったのか、彼女に噛み付くように言いました。
「麗羽、夫の行いを盲目的に肯定することだけが妻の努めじゃないわよ。あなたじゃ無理でしょうから、私が友として正宗に忠告するのよ」
「何ですって——————!」
麗羽が金切り声を上げましたが、華琳は面倒くさそうに無視し、麗羽から私へ視線を戻しました。
「正宗、あなたは討伐した異民族を許すべきでなかった。信賞必罰は秩序維持の上で重要なことよ。異民族は異民族。あなたが幾ら情けをかけようと、異民族と漢民族との同化は時間と金の無駄。やる意味がないわ。異民族を見逃したことで、幽州で火種を残すことになったわよ。火種を作る位なら、異民族のうち、反逆した部族だけ皆殺しにするべきだった。政道とは治世を安定させることが最優先であるべきと思うわ。そのためなら、どのような非道な行為も実行しなければいけない。あなたには、その覚悟が感じられないわ」
華琳は厳しい表情で私に説教をしてきました。
「それは・・・・・・」
私は華琳に何も言い返せませんでした。
彼女の言葉は耳が痛いです。
常日頃、揚羽に言われることですが、土壇場で判断が鈍ってしまいます。
このままでは桃花と対立するときも、判断が鈍る可能性があります。
「ふ、私が言いたいことは、それだけよ。場を白けさせてしまったわね。正宗、麗羽、失礼するわ」
華琳は少し複雑な表情を浮かべると、私達に踵を返して去ろうとしましたが、彼女は私に背を向けたまま立ち止まりました。
「正宗、あなたは甘過ぎるわ。内政であれば、あなたの甘さは領民に愛されるはず。でも、それ以外では、あなたの甘さは毒となる。自分の不得手なことは、信頼の置ける者に全権を与え任せなさい。そうしないと、あなたは何れ甘さで死ぬことになるわよ。私を失望させないで頂戴」
華琳はそう言うと去って行きました。
「正宗様、あまりお気になさらないでくださいまし」
麗羽は私を気遣うように声をかけてきました。
「でも、華琳さんの意見であることが気に入りませんけど、華琳さんの仰ること一理ありますわ。正宗様、華琳さんは嫌いな人ですけど、有能な人物ですわ。彼女の助言は受け入れるべきと思いますわ」
麗羽は冥琳の件などお構い無しに華琳の助言を聞くべきと私に言いました。
「出来ないのなら、出来る人物に任せるか・・・・・・」
そうですね。
「ああ、分かった」
「あの方が曹操殿ですか? あの方は間違い無く正宗様にとって脅威になると思います。ですが、あの方の言葉は言い得て妙だと思います。正宗様、外交を私に、軍事を冥琳殿、内政を朱里殿にお任せくださいませんか?」
揚羽が麗羽と私の会話に割り込んできました。
「この場で即答はできないが、揚羽の考えが現状では正しいと思う。私はどうしても非情に徹しきれない。自分の愚かさを痛感しているが、どうしても非情になりきれない」
「正宗様はそれでいいのです。無理に自分を作る必要はないと思います。正宗様はお一人でないのです。あなたに付き従う者と力を合わせ、志を遂げればよろしいのです」
麗羽は私に優しく言いました。
「正宗様、私もそう思います」
「正宗様、私もあなたのお志のために尽力いたします」
揚羽と冥琳も麗羽と同様に優しく言いました。
「ありがとう」
私は3人を見つめ感謝の言葉を言いました。
私は私が出来ることをするしかないです。
「ですが、冥琳さんの件は未だ終わっていませんことよ」
麗羽は私の右腕に腕を絡ませて来ました。
彼女の腕の力は力が入っています。
「陛下への謁見は明日になさいまし。そうそう、冥琳さん。あなたもご一緒してくださいませんこと。嫌とは言いませんわよね」
麗羽は気迫のある笑顔で冥琳に言いました。
「私もでですか?」
冥琳は私に困ったような表情を向けました。
「麗羽、冥琳はいいんぢゃないかな。仕事もあるだろうし」
「正宗様、冥琳さんに随分お優しいですわね。一人洛陽に残り、毎晩冷たい寝所で一人寂しく寝起きしていた私のお願いをお聞き届けくださいませんの」
麗羽は私に皮肉混じりの言葉でお願いをしてきました。
そんな言い方をされたら、麗羽さん拒否できないでしょう。
麗羽は私が黙るのを確認すると、冥琳に視線を戻しました。
「麗羽様、私も是非に参加させていただけないでしょうか」
麗羽に責められる私を見て冥琳が言いました。
「よかったですわ。それではお二人とも行きましょうか」
私は冥琳と共に、麗羽の後を追い邸宅の中に入って行きました。
揚羽は私と冥琳に軽く手を振っていました。
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