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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第113話 上洛 前編

 
前書き
久しぶりの更新です 

 
 白蓮とは結局溝を埋めることは適わず、私は後ろ髪を引かれる思いを胸に冀州への帰路につくことになりました。
 今、私は馬上の人です。
 新妻となった冥琳は微笑を浮かべ、俺の顔を横から見つめています。
 さてさて。
 麗羽にどう説明すればいいのでしょう。
 考えれ考えるほど気持ちが暗くなってきます。
 以前、揚羽を側室に迎えた時は麗羽に「一緒に死ぬ」と言われ、彼女に随分と絞られました。
 流石に麗羽が私を殺すということはないと思います。
 いや、そう思いたい・・・・・・。
 麗羽のことは本人が目の前にいない以上、どういう結果になるか分かりませんし、悩んでも仕方ありません。
 そういえば白蓮は今頃、どうしているでしょう。
 烏桓族征伐を終え、彼女の城に訪ねて以来、一度も彼女の顔を見ることができませんでした。
 彼女は烏桓族への仕置に凄く不満だったようですし、白蓮の件は追々面倒なことにならないか気がかりです。
 私の立ち位置が私の知る歴史における劉虞に近くなっていることが気になっています。
 その結果、私と白蓮が将来、矛を交えることになるのではないと懸念しています。
 白蓮のことは気がかりですが、今回の幽州への出征は得るモノが大きかったです。
 一番は烏桓族を従え、私の陣営に組み入れることが出来たことです。
 また、幽州を抑えたことで鉄の確保も目処が立ちました。
 これで丘力居(きゅうりききょ)が遼東郡を抑えることが適えば硫黄の調達ルートを確保できます。
 残るは青州です。
 青州の地を抑え硝石の確保し、私の封国・清河国にて火薬の大量生産を計画しています。
 後々のことを考え砲門を備えた要塞を冀州、青州の要衝に築きましょう。
 しかし、あまり派手に動くと朝廷にいらぬ疑心を抱かせなかねないので、まずはコンクリート製の平城を私の影響下にある郡内に建造させ、時期を見て拡張していくことにします。
 ただし、華琳に気取られないように注意してことを進める必要があります。
 その辺りは朱里が得意でしょうから、彼女に一任することにしましょう。

 烏桓族を抑え、残る懸念は鮮卑族。
 彼らは現在、并州を中心に華北で無視できない勢力を気づきつつあります。
 私の知る歴史でも曹操は鮮卑族に随分と悩まされ、彼らを分散して移住させ、彼らの力を削ぐことに苦心していました。
 今の私に彼らを強制移住させる骨が折れそうな選択股はありません。
 烏桓族の征伐では随分と軍費が嵩みました。
 これ以上の外征は経済的な負担も大きく、領内の整備事業にも支障が出てくると思います。
 ここは烏桓族を抑えた私の陣営の武威を最大限に利用して、可能な限り穏便に鮮卑族との交渉を進めたいです。
 願わくば、反董卓連合前までにはどうにかなれば良いのですが、無理でしょうね。
 しかし、急いで交渉しても鮮卑族に足下を見られ、交渉に支障が出るかもしれませんので、ここは腰を据えて事にあたることにします。
 誰を使者に出すかは冀州に戻り次第、揚羽に相談することにしましょう。
 今後のことに頭の中で思いめぐらせていると、先陣を進む臧覇こと榮菜が馬を駆け、私の元に向ってきました。
 彼女の後ろから遅れて馬を走らせるのは私の義妹・司馬馗こと真悠でした。
 真悠が私に何の用なのでしょうか。
 彼女が態々、真悠を寄越すとは余程急を要することなのは間違いないです。
 急を要することといえば、現状、朝廷絡み位しか思いつきません。
 陛下が病気に倒れたのでしょうか?
 時期的にありえない話でないですが、気が重くなってきました。
 陛下が死ねば、政争が激しくなるのは必定、私は表向き劉協派ですが、実際は劉弁派ですので立ち回りを誤ると命取りになります。
 あの蹇碩(けんせき)を如何に始末するかが鍵になると思います。
 蹇碩は放っといても死にそうですが、私は目下の心配は張譲(ちょうじょう)です。
 政争のどさくさで私が張譲(ちょうじょう)の謀略に落ち、私が失脚することになるのでないかと心配しています。
 都落ち程度ならいいですが、再起不能状態に追い込まれたら、来たる乱世を生き残ることができなくなります。
 張譲は私と陛下の元、表向きは共闘していますが、あの男ははっきりいって信用できません。
 百戦錬磨の宦官であり、陛下に「我が父」とまで言わしめた男です。
 あの男に関しては慎重過ぎる位に用心することにこしたことはないです。
 それに、以前、私が盧植を救うために動いたことで、張譲の顔を潰したことで私に恨みを抱いているはずです。
 宦官の粘着質な根暗さは誰でも知っていることです。
 必ず報復をしてくることでしょう。
 黄巾の乱の時に張譲の悪知恵で冀州へ追いやられる結果になりましたが、張譲の思惑と外れ私が出世したことで、あの男が私に対して不愉快な想いを抱いているのは手に取るようにわかります。
 救いは私が地方に追いやられたままでいることで、張譲が幾ばくかの溜飲を抑えていることでしょうか。
 でも、それもいつまで続くかわかりません。
 今の朝廷が存続し、張譲がのさばる限り、私の平安を脅かす可能性があります。
 陛下が死に、蹇碩を血祭りに上げ、張譲を誅殺するのが私の生き残る道ですが、張譲には未だ生きていて貰わないといきません。
 早々に張譲を誅殺すると、朝廷内の力のバランスが壊れ、何進様の力が強くなり過ぎ、朝廷が安定してしまいます。
 朝廷が安定すれば、腐った組織が延命される結果となり、民が苦しむだけです。
 今の朝廷を潰し、新たな枠組みを創ることが、私の目的である以上、張譲と何進様には未来を創るための生け贄になって貰う必要があります。
 何進様には申し訳ないですが。
 私は遣る瀬無い気持ちを紛らわせるように、馬上より蒼天の空へ目を向けました。
 澄み渡る空は私の思いめぐらす考えと違い、どこまでも澄み渡っていました。





 「正宗様、揚羽様よりお言伝を携え真悠殿が参っております」
 榮菜は私の元に到着すると下馬し、片膝をつき拱手をし言いました。
 真悠も榮菜に倣い、榮菜の少し後方で同じようにしました。
 「真悠、久しぶりだな。ところでわざわざお前を寄越すとは余程重要なことなのだろうな」
 私は真悠の様子を馬上より伺い声をかけました。
 「義兄上、ご明察です。それとおめでとうございます」
 真悠は冥琳に一度視線を送ると、次に私の表情を伺い意地の悪い笑みを浮か答えた。
 彼女は既に冥琳のことを承知済みのような気がしました。
 司馬の情報網恐るべし。
 「要件は何だ?」
 俺は嘆息し、真悠に言いました。
 揚羽も承知の上だろうと確信し、揚羽への説明も増えたことで先ほどまで記憶に隅に置いていた麗羽のことを思い出しました。
 逃れられないのは分かっていたことです。
 くよくよしても仕方ないです。
 ああ、なるようになれ。
 真悠は私と麗羽が修羅場になることを面白がっているのでしょう。
 「人払いをお願いいたします。申し訳ないが榮菜殿も席を外していただけるか」
 真悠は申し訳なさそうに榮菜へ言った。
 「わかった。正宗様、兵達には大休止を取らせますがよろしいでしょうか?」
 「榮菜、よろしく頼む」
 私が許可を出すと、榮菜は私の元を去り、兵士達に指示を出し始めました。
 真悠はその光景を見つめ、周囲に人が居ないことを確認すると私に向き直り会話を再開しました。
 「数日中のうちに朝廷の使者が義兄上のもとを訪ねられます」
 揚羽が冥琳の件で真悠を送る訳がないと思っていましたが、何故か私はホッとしました。
 「俺は行軍中だ。使者には私が戻るまで、政庁にてご逗留願え」
 朝廷の使者。
 多分、幽州で官位を要求した件でしょう。
 「義兄上が幽州に出征していることは使者は承知しています。使者は帰還中の義兄上の元に向っています」
 「そうか・・・・・・。使者は随分と急いでいるようだな。揚羽は何と言っていた」
 私は思案しても無意味と思い、真悠に、その答えを求めました。
 「近々、洛陽にて陛下直属の常備軍を創設するという噂がございます」
 「常備軍だと!」
 冥琳は驚愕した表情で真悠に声をかけました。
 私の知る歴史で劉宏が創設した常備軍といえば「西園三軍」でしょうか。
 西園三軍は西園軍とも呼ばれる皇帝直属軍、劉宏自身が無上将軍と称し最高指揮官として君臨し、八人の校尉を従え、各校尉が軍を組織したと言われている。
 この軍制は曹操以下、その後の王朝の皇帝にも参考にされたことを考えると、理に適っていたのだと思います。
 西園三軍は偉業と言えるかわかりません、暗愚な皇帝で知られる劉宏の数少ない偉業と言えるのでしょう。
 俺の知る歴史通りなら袁紹、曹操もこの軍の校尉に任じられたはずです。
 現在、俺によって歴史がかなり改ざんされてきているので、その軍が私が知る西園三軍であるかわかりません。
 もしかしたら、西園三軍でないかもしれないです。
 気になるので確認しておきます。
 「その軍は何と呼ばれているのだ?」
 「軍の名称までは生憎わかっていませんが、有能な若手の武官が洛陽に呼び寄せられています。麗羽様にも一軍の将官として、お声がかかっているとのことです」
 「そうか」
 麗羽がその軍の将官として、招聘されているのですか。
 随分と彼女と会っていません。
 揚羽と上洛して、暫く三人一緒に過ごすことができれば嬉しいです。
 その前に、麗羽と揚羽に冥琳の件を打ち明ける大仕事が待っています。
 「義兄上、何かご懸念でもおありなのでしょうか?」
 真悠は私の様子を見て声を掛けてきた。
 彼女は私の深刻な表情をしているのを件の軍のことで懸念していることがあると思ったのでしょう。
 「別にない。ただ、常備軍の維持のための金は何処から捻出するのだろうなと思っただけだ」
 多分、劉宏は銅臭政治などと揶揄される売官で得た金を元手に、皇帝直属軍の創設を行なうのだと思います。
 売官のお陰で朝廷の財政は潤っているでしょうが、そのしわ寄せは全て民に重くのしかかっています。
 陛下も得た金を幾ばくかでも民のための産業振興に割けば、飢える民を少しでも減らすことができるにも関わらず、それを怠り己の野心のみを成就しようとしています。
 民の心がより陛下より離れて行く気がします。
 黄巾の乱は始まりでしかないです。
 「義兄上、言うまでもないです。使者の用事は義兄上に上洛を促すものらしいです」
 「洛陽への召還? 情報元は何処なのだ?」
 「母上です。私の母上は朝廷の重臣の方々と今でも交遊があります。母上の話では、陛下自ら義兄上へ新設の軍のお披露目に参加するようにと勅書をお出しになられたそうです」
 「鮮卑族の件を納めてから上洛しようと考えていたのだが」
 「陛下の勅書を無視など出来ませんし、鮮卑族の件は諦めるしかないです。鮮卑族への交渉はよろしければ私がお引き受けいたします」
 真悠は待ってましたとばかり、鮮卑族の交渉役を任せて欲しいとやる気満々願い出てきました。
 「正宗様、鮮卑族への交渉役は真悠殿にお任せしてよろしいのではないでしょうか? 我らは急ぎ上洛をいたしましょう」
 先ほどまで私と真悠の会話を傍観していた冥琳が口を出してきた。
 「そうだな。真悠、烏桓族のものと連携して、鮮卑族との交渉に当たれ。一度、幽州に向い、稟と風に相談するといい」
 私が直接、鮮卑族との交渉を行いたかったですが、使者が勅書を携えている以上、上洛を優先するしかないです。
 こんなときに朝廷の使者とは恨めしい限りです。
 これで麗羽とのことをどうにかしなければならなくなりました。
 憂鬱です。
 麗羽に会いたいという気持ちは本心ですが、冥琳との件をどう打ち明ければ良いのかと苦悩します。
 正直、既に麗羽の耳に冥琳が私の側室になったという情報が入っているのでないかと思っています。
 ここは包み隠さず、打ち明けるしか道がないですね。
 揚羽はどう思っているのかも気になります。
 「義兄上、鮮卑との交渉に当たり、官位をいただけませんでしょうか?」
 私の苦悩とは裏腹に、真悠は私に要望を伝えてきました。
 「私は真悠の官職を剥奪したつもりは無かったのだがな。まあいい。元の官職「常山郡丞」に復官せよ。真悠、次はないと思え」
 私の中では謹慎が明ければ、元の官職に復帰させるつもりでしたし、官職を剥奪すると一度も言っていませんが、彼女としては言質が欲しかったのでしょう。
 「重々わかっております。流石に次は首が飛ぶことになると思いますので、自分の立場を考え行動いたします。汚名は結果にて漱ぐつもりでございます。鮮卑族の件は、この真悠にお任せください。必ずや義兄上のご期待に添うよう尽力させていただきます」
 真悠は私の拱手を行い礼を述べました。
 「ところで揚羽は元気にしているか」
 「義兄上、私などに確認せず、ご自分の目で確かめなさいませ。労りの言葉でも姉上に掛けて差し上げれば喜ばれることと思います。姉上は謹慎が解けた後、今まででと変わらず義兄上のために朝廷の動向を探りを入れ、兵馬の増強、領内の整備にと日夜激務をこなしております」
 真悠は困った人だなという表情で私を見ました。
 「そうだな」
 真悠のつっこみに私は何も言えず、ただ一言答えました。 
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