真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第102話 白蓮の従妹
幽州入りを果たした私達は陣の建設作業を終えると、主だった者を集め軍議を開くきました。
この軍議には私達以外に白蓮とその配下武将が加わっています。
白蓮は私が面識のない女性を二人連れて来ました。
多分、彼女配下の武将なのでしょう。
二人とも白蓮同様純白の鎧に身を包み、髪色も綺麗な桜色です。
彼女達の外見上の違いは、顔と髪型が違う位です。
一見して、二人が白蓮の親族なのは理解できました。
一人はショートカットで快活そうな表情をしています。
残りの一人は肩上まで髪を伸ばし、白蓮より少し大人びて見えます。
「白蓮のその二人は?」
「ああ、紹介が未だだったね。二人は私の従妹で、右から公孫越、公孫範。私が仕事で苦労しているのを見かねて、助けてくれているんだ」
白蓮は頭を掻きながら言いました。
「へぇ、これが白蓮の王子様な訳ね」
ショートカットの女性が前に進みでて、白蓮と私を交互に見て茶化すように言いました。
「王子様・・・・・・?」
「わぁああああ――――――! 白椿、お、お前、何を言っているだ――――――」
白蓮は動揺したように公孫越に言いました。
「アハハハ、ごめん、ごめん。つい、口が滑っちゃた」
白椿は頭の後ろに手をやり、全然悪びれることなく、白蓮に笑って返しました。
「はじめまして、劉将軍。私は公孫越、真名は白椿です」
彼女は白蓮から私に視線を戻し、私に拱手をして挨拶をしてきました。
「こちらこそはじめまして。今後、長丁場になると思うが、よろしく頼む。私は劉ヨウ、字は正礼だ。それより真名を預けて良かったのか?」
「白蓮と真名を交わす間柄だから、私も真名を預けるのが筋です。劉将軍は気にされなくてもいいです。それより、劉将軍は真名を預けてくだされないのですか?」
白椿は爽やかな微笑みを浮かべ言いました。
「私の真名は正宗だ」
「正宗様、真名を謹んで預からせていただきます」
「白椿、挨拶はもう終わったでしょ。あなたは無用に無駄話が多いわ」
公孫範が私と白椿の会話に割り込んできました。
「白藤、無駄話が大事なの」
白椿は白藤をジト目で見つつ言いました。
「劉将軍、お初にお目にかかります。公孫範と申します。真名は白藤です」
白藤は白椿の言葉を無視し、私に拱手をして挨拶しました。
「こちらこそはじめまして。白椿にも言ったが、今度の戦は長丁場になると思うが、よろしく頼む。私は劉ヨウ、字は正礼、真名は正宗だ」
「正宗様、真名を謹んで預からせていただきます」
白椿、白藤との自己紹介を終え、私は彼女達に自軍の武将を紹介しました。
互いの自己紹介を終え、今後の方策を話し合うことにしました。
軍議は三刻に渡り、いろいろと紛糾したが私達と白蓮達双方の烏桓族討伐の方針が決まりました。
白蓮達は難楼率いる烏桓族を滅ぼすことに注力したい様子でした。
とはいえ、遊牧民の特質というか・・・・・・。
彼らは基本定住はせず、移動式住居を持って、どこにでも移動します。
烏桓族の中には定住しているものもいますが、多数派ではないです。
私に服従の意思を示しているのは、定住、半定住をしている烏桓族が中心です。
彼らにしてみれば、わざわざ危険を犯して略奪をせずとも暮らせればそれに越したことはないのです。
難楼率いる烏桓族の捕捉は一筋縄でいかない現実を彼女達に突きつけると、彼女達も冷静さを取り戻し、意見を軟化してくれました。
「我々は当面、難楼率いる烏桓族による略奪から可能な限り民を守ることに注力しつつ、それと並行して、難楼の居場所を捕捉していく方向でよろしいか?」
冥琳は私達と白蓮達を見回しながら言いました。
「私達も烏桓族の力はよく分かっている。彼奴等は大軍を率いるなんて、目立つ行動をする連中じゃない。冥琳の策が一番現実的だと思う。正宗君が率いてきた騎馬と私の騎馬を合わせれば、一万六千。それに歩兵三万二千、これだけの兵力があれば、上谷郡の烏桓族を封じ込むことは可能だと思う」
口火を開いたのは白蓮でした。
「そうね・・・・・・。腹立たしいけど、ちょこまかと彷徨くあの連中を追いつめるにはそれしかないわね」
白椿は不満があるような表情をしていましたが、無理矢理納得しているようでした。
「難楼の拠点には非戦闘員がいると思います。彼らを襲撃すれば、難楼は私達に報復を行うため、正面から戦を仕掛けてくると思います。今までは、私達の兵力が少なくて、その手を使えませんでしたが、正宗様のご加勢で、それが叶います」
白藤は私に恐ろしい作戦を提言してきました。
「白藤の言う通りにすれば、難楼を御すのは早いだろう。だが、そんな真似をすれば、私が抱き込んでいる烏桓族の信頼を裏切ることになる」
私は白藤の方を向き言いました。
「白藤殿、非戦闘員を襲撃するなど、私の矜持が許さない」
星が白藤を厳しい表情で言いました。
「上谷郡の烏桓族は全て、長城の外に追いやればいい。彼奴等を潰せば、幽州の西半分の烏桓族など恐るるに足らず。残りの東半分の烏桓族も彼奴等を潰した後なら、力押しで潰すことができる。仮に、正宗様に服従の姿勢を示した烏桓族が反乱を起こせば、問答無用に潰してしまえばいい。烏桓族は我らのやり方に文句があるなら、漢の土地から出ていけばいいのだ」
白藤は腕組みをすると、厳しい表情で星に言いました。
「な、なんだと貴様! お前の行為は悪鬼、そのものではないか! 我らが主、正宗様はそのような非道に手を貸すはずがなかろう」
星は白藤の発言に激昂しました。
「白藤、少し言い過ぎだぞ!」
白蓮は白藤の過激な発言を注意しました。
「お二人とも落ち着いてください」
稟が星と白藤を宥めました。
「いい加減にしろ! あなたは幽州を焦土を化すおつもりか?」
冥琳も白藤に厳しい表情を向けました。
「冥琳殿、私は別に幽州を焦土と化すつもりは毛頭ない。心配しなくても、あなたの策に従う。私が言っているのは難楼の居場所を特定した後のことだ。早く難楼を潰せば、それだけ早く戦力を幽州の東半分に注力できると言っている。その結果、幽州から烏桓族の脅威を取り除ける。そもそも、幽州の東半分は焦土も糞もない。今でも十分に荒れ果てている」
白藤は冥琳に噛み付くように言いました。
「白藤、悪いがお前の策には乗れない。折角築いた烏桓族との信頼関係を崩す訳にはいかない」
「烏桓族との信頼関係など信用できるのですか? あの連中は所詮、知恵なき野蛮な獣と一緒です。直ぐに、約束など忘れ獣の如く、襲ってくるでしょう。それとも彼奴等に定期的に貢ぎ物でも贈るつもりなのですか?」
白藤は烏桓族を侮蔑するような表情で言いました。
「貴様――――――! 正宗様を侮るつもりか!」
泉が白藤の言葉に激昂しました。
「泉、落ち着け。白藤、私は烏桓族に貢ぎ物などやるつもりはない。確かに、彼らを懐柔するために金を使った。だが、それは彼らの経済状況があまりに酷かったからだ」
私は白藤を見据え、真剣な表情で言いました。
「正宗様は分かって居られませんね。彼奴等の性分は獣なのです。正宗様が懐柔された烏桓族は力が無いから、大人しくしているだけです。獣がより強い獣に従うのは必然です。強い獣に逆らうことは死を意味する。それが彼らの論理なのです。正宗様が与えし恩など直ぐに忘れます。彼奴等に恩義に報いるなどの思考は持ち合わせていません」
白藤は私の言葉に呆れたように言いました。
「白藤、お前の意見は略奪を行う烏桓族を全ての烏桓族に当てはめているだけだ。漢の民にも賊はいるだろう。お前はその賊を持って、漢の民が賊とは言わないだろう」
私は白藤の発言に不愉快になりましたが、冷静に受け答えました。
白藤の意見は真近で烏桓族の凶行を見ている者の発言なのでしょう。
白蓮も私と最初にあった時に、似たような発言をしていました。
幽州の民と烏桓族との間には深い溝があるようです。
私が出会った烏桓族の生活が困窮しているのもこの辺りから来るのでしょう。
烏桓族を根絶やしにする方法が、解決策として一番楽なような気がしてきます。
所詮、漢の土地に住む烏桓族は余所者です。
どちらかが出て行かなければいけないなら、余所者が出るのが筋です。
とはいえ、白藤の考えを受け入れる訳にはいきません。
白藤の言う様に、どちらかが上にならねば治まりは着かないでしょう。
和気あいあいでは済まない。
ならば、私が烏桓族の上に立ち、彼らと幽州の民との共生を促すしかありません。
「確かに・・・・・・。正宗様の言葉にも一理ありますね。しかし、それならば難楼以下、上谷郡の烏桓族の内、戦闘員は皆殺しにせねばいけませんね。彼奴等の行っている行為は賊の行為です。ですが、そんな真似をすれば、彼奴等の家族は我らにいずれ刃を向けてきます。その前にその目を詰むのが上策ではありませんか? 結局、彼奴等を皆殺しにすることに変わりはないです」
白藤は私の言葉に口を噤みましたが、暫くすると口を開きました。
彼女の発言は筋が通っています。
難楼の行っている行為は賊行為でしかないのです。
ならば、見せしめのために皆殺しにすべきです。
烏桓族だからと見逃すのは間違っています。
ですが、それで烏桓族が大人しくなるとも思えません。
それで一定の効果はあるでしょうが、根本的には解決しないと思います。
「そうだな・・・・・・。だが、それは難楼が私達に徹底抗戦の姿勢を示したときだ。降伏すれば、罪を償うことを条件に命までは取らない」
私は白藤の言葉に真摯に応えました。
白藤に言われて気づきましたが、難楼の出方次第では最悪の結果を招く可能性があるのです。
そうれなれば、彼女の言う行為を私が率先して、行わねばならなくなります。
私の肩に大勢の烏桓族の命が掛かっていることに気づかされました。
「正宗様の了見は分かりました。不満はありますが、正宗様の方針に従わせていただきます」
白藤は私を真っ直ぐに凝視した後、口を開きました。
私の配下武将の一部が軍議の間ずっと白藤を不機嫌そうに見ていました。
その様子をおろおろしながら白蓮が眺めていました。
ページ上へ戻る