真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第103話 張純の首
幽州上谷郡にて難楼討伐のために軍を展開して、一ヶ月が経過しました。
私は本陣に騎兵五千と長槍兵二万、弓兵一万を残し、他の兵は全て、上谷郡の村々の警護のために巡回に出ています。
幽州の地理に疎い私達のために、白蓮も警護のために二千の騎兵を提供してくれました。
この警護のために割いた騎兵八千を四隊に分け、白蓮の騎兵二千も同様に四隊に分け、騎兵二千五百の部隊を四隊編成しました。
各隊の隊長は、
・星
・榮菜
・白椿
・白藤
に任せました。
正直、この人選には不安を感じています。
不安の原因は白藤です。
彼女は烏桓族に対して過激な考えを抱いるので、何か厄介なことをしないかと心配です。
他に順当な者がいないので仕方なくこの人選に収まりました。
苦肉の策で白藤の副官に泉をつけることにしました。
白藤が暴走した場合、彼女旗下の私の兵達には泉の指示に従うように命令しています。
泉にも同様のことを命令しています。
「正宗様、私のことがそんなに信用できませんか?」
初めて、兵を巡回に送り出す日に白藤から言われました。
彼女は軽く笑みを零しながら、私の腹を探るような表情をしていました。
泉を彼女の副官にする件は確かに露骨でした。
とはいえ、どうすれば良かったのでしょう。
その時、私は彼女との直球勝負を避け、泉に幽州仕込みの馬術を経験させたいからと嘘をつきました。
私は自分の陣幕から出て、空を見上げました。
空はどこまでも清々しい位に蒼く、私の心とは裏腹でした。
「はぁ~、気が重い・・・・・・」
「正宗様、巣厳が尋ねて参りましたが、お会いになりますか?」
私が空を眺め一人黄昏れていると、冥琳が私に声を掛けて来ました。
「巣厳? 確か・・・・・・、代郡の烏桓族をしきる大人だったな」
この上谷郡は代郡と近くだが、わざわざ会いに来るとはどういう訳でしょう。
「はい。それで如何なさいますか?」
「折角来てくれたんだ。会おう」
「分かりました。それでは正宗様の陣幕へ案内します」
「ああ、頼む」
私は陣幕の中に戻ると自分の椅子に腰を掛け、巣厳が来るのを待ちました。
巣厳は冥琳に連れられ、直ぐに私の陣幕を尋ねて来ました。
冥琳は彼を陣幕に連れてくると、私の左横に立ちました。
「巣厳、久しいな。爽健そうで何より。それで用向きは何だ」
私は笑顔で巣厳に言いました。
最初、会った頃に比べ、少し太った感じがしました。
少しは生活が楽になったようですね。
私が骨を折った甲斐がありました。
「劉車騎将軍、お陰さまで暮らしが以前に比べ楽になりました。あなた様のご恩を一日足りとて忘れたことはございません」
巣厳は拱手して私に礼を述べました。
「気にすることはない」
「本日、まかり越したのは、以前ご指示を受けておりました件についてでございます」
巣厳の言葉に私と冥琳は真剣な表情になりました。
彼に頼んだことと言えば、張純の首です。
「張純を討ち取ったのか?」
口火を切ったのは冥琳でした。
「はい、死体を持って来る訳にもいかず、首を塩漬けにして持って来ています」
「して、その首は何処だ?」
私は落ち着き無く言いました。
「陣幕の外に控えている者に持たせています。その者が張純の首を討ち取りました」
「そうか・・・・・・、その者を直ぐ中に呼べ。張純の首を確認次第、褒美をやろう。安心しろ。その者だけでなく、討伐に参加した者達にも褒美を与えよう。冥琳、張純の首実験をするので、白蓮をここに呼んでくれないか?」
私は巣厳を言うと冥琳に白蓮を呼ぶように言いました。
冥琳は軽く頷き、陣幕の外に控える衛兵に声を掛けました。
「劉車騎将軍、ありがとうございます。それとお願いがございます」
巣厳は不安そうな表情で私の顔を伺いながら言いました。
「何だ?」
「張純の首を上げたことで、我ら代郡の烏桓族は丘力居に敵と見なされておりましょう。ですから、劉車騎将軍に我らの保護をお約束していただきたいのです」
「そんなことか。何も気にする必要はない。私のために働く者達を見捨てはしない」
「はは――――――。そのお言葉を聞き安心いたしました」
巣厳は私に平伏して言いました。
「無臣、張純の首を持って中に入りなさい」
巣厳が呼んだ無臣という人物は女性でした。
やっぱりかと思いました。
年の端は私より若い感じがしました。
でも、朱里という例外があるので、外見イコール年齢とは言えませんけど・・・・・・。
彼女は陣幕に入って来ると返事も無く胡座を掻いて座り込みました。
「無臣! 劉車騎将軍に失礼だぞ! も、申し訳ございません」
巣厳は無臣のあまりの無礼な態度に顔を青ざめさせて、私に頭を擦りつけて謝罪しました。
「巣厳、気にしなくていい・・・・・・。ハ、ハ、ハ、無臣は緊張しているのだろう」
巣厳の態度に私は少し引いてしまいました。
「無臣、劉車騎将軍の寛大なご配慮に感謝するのだぞ」
巣厳は額に汗を掻きながら、無臣に説教をしだしました。
「あんたが劉車騎将軍? 『張純の首』を持ってくれば、褒美をくれるって聞いたんだけど」
無臣は巣厳の説教などお構いなしにマイペースに言いました。
「無臣、お前は儂の言っていることを聞いているのか!」
「巣厳、別に気にするな」
私が巣厳の言葉を制止すると、彼は何か言いたげでしたが、口を噤みました。
「無臣、褒美だったな。何が欲しいか言ってみろ」
「あんたの部下にして欲しい」
無臣は私に真剣な表情で言いました。
「何故、私の臣下になりたい」
私は率直な感想を言いました。
「あんたは偉いんだろ。私は漢人の連中に偉そうな顔をされるのが我慢ならない。だから、私はあんたに仕えて偉くなりたい」
無臣は私を熱意に満ちた視線を向け言いました。
「それで私に仕えたいのか・・・・・・。私は出自に関係なく、人材を登用しているが今のところ私の配下は漢人のみだぞ。お前が私に士官すれば、お前の上官は間違いなく、漢人になるがいいのか? それに私もお前が嫌う漢人の一人だぞ」
「構わない。私は必ず偉くなる!」
無臣は胸の前で腕組みして、胸を強調するように言いました。
彼女は馬鹿でしょうか?
「私の元にいる限り、漢人の配下のままだと思うが・・・・・・」
「あんたはいいんだよ! 仕えさせてくれないのかい」
無臣は私に馬鹿にされたと思ったのか、顔を紅潮させ怒鳴りました。
「いずれにせよ張純の首を確認してからだ。張純の首ならお前を直臣に取り立ててやる。ただし、条件がある」
「条件?」
「その無礼な態度は改めろ。私は許しても、私以外の高官に対し、そんな態度をとっていたら首がいくつあっても足りないぞ。私に仕えるというなら、まず最低限度の礼節を身につけろ。いいな」
私は無臣の顔を厳しく睨みつけ言いました。
「何でそんな・・・・・・」
「いいな!」
私は有無を言わさぬ目で言いました。
「分かった・・・・・」
無臣は渋々応えました。
その後、白蓮が私の陣幕に訪れ、彼女と私、冥琳で無臣が差し出した木桶の中を確認しました。
木桶の中には人の首が入っていました。
「こ、これは・・・・・・間違いない。張純の首だ」
白蓮が最初に口を開きました。
「間違いなく、張純か?」
「正宗君、間違いない。以前、張純がまだ役人をやっている頃に、私は一度会ったことがある。塩漬けにされて、見た目が少しが変わっているが張純本人だ」
「そうですか。巣厳、無臣、ご苦労だった。褒美を準備するので、張純討伐に関わった烏桓族の族長に伝えておいてくれ。褒美の用意するのに多少時間がかかるだろうから、巣厳はここに残ってくれないか?」
冥琳と巣厳は褒美の話について話を始めた。
「無臣、お前が張純を討ち取ったそうだな。本来は族長に纏めて褒美を渡すのだが、勲功一位のお前には特別に褒美をやろう。望みを言え」
巣厳との会話を終えた冥琳は無臣に向き直り言いました。
「冥琳、それなら私が既に聞いている。彼女の希望は私の直臣になりたいそうだ」
「なっ! なんですって! それは真なのですか? 貴様っ! 分を弁えろ」
冥琳は無臣を睨みつけ、烈火の如く怒りました。
「この人はいいって言ったけど」
無臣は私を指差し言いました。
「その言葉使いは止めろと言っただろう。冥琳、そういうことだ。彼女は私の親衛隊に兵卒として配属させる。無臣は見ての通り、礼節を録に知らない。任務に支障が出ないように、厳しく指導してやってくれ」
私は無臣を頭が痛そうに一瞥すると、冥琳を見て言いました。
「何故、こんな得体の知れない者を親衛隊の兵士なさるのですか? 幾ら、大功を上げたとはいえ、破格ではないですか!」
「約束してしまった以上、仕方ないだろ。君主たるもの一度口にした発言は撤回できない」
私は冥琳に殺し文句を言いました。
「はあぁ・・・・・・、一度ご相談してくださって欲しかったです。分かりました・・・・・・」
私の言葉に冥琳は深いため息をつくと肯定の返事をしました。
「無臣、明日から厳しく指導するから心得ておけ。今のままでは正宗様が恥をかくことになる」
冥琳は無臣に向き直り、厳しい表情で言いました。
「分かった」
「分かったじゃない! 『分かりました』と、言い直しなさい!」
冥琳は早速指導を始めました。
「分かりました」
無臣は冥琳の指導を素直に聞き入れました。
無臣を直臣に取り立てましたが、どんな武将になるでしょうね。
武の方はよく分かりませんが、それなりの腕は持っているでしょう。
できれば、泉の副官になる位ならいいのですが・・・・・・。
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