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神機楼戦記オクトメディウム

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第27話 最後の仕上げ

 八雲泉美は、絶賛大神家の一角にある『司令室』にて屋敷の中の全てを把握すべくモニターを観ているのであった。
 そう、司令室である。大神家は表向きは純和風な造りとなっているが、裏にはこのようなハイテクの塊が備え付けられているのだ。
 それは、万事の時の為に屋敷を護る為の設備なのであった。まず、彼等は大邪と戦っていたのだから、そのような準備があって然るべきというものであろう。
 そして、その万事が正に『今』という事なのであった。その事を自覚しながら、泉美は皆それぞれが向かった先の事を思い、こう言うのであった。
「それでは皆さん、頼みます」

◇ ◇ ◇

 まずは、今の大神家の現状がどのような事になっているか説明をしなくてはならないだろう。
 率直に言うと、この屋敷は今正に大邪の送り込んだ『怪肢』達により攻め入られている状態であるのだ。
 大邪がそのような策略に踏み入った理由は簡単である。二人の巫女と『白陽の騎士』が黄泉比良坂へ乗り込んだ事により、戦力が低下しているこの絶好の機会を狙ったという事だ。
 そして、この屋敷にも和希といったような指導者であり大邪に驚異となる人物がいる事は大邪からも調べがついているのだ。それを戦力が手薄となった今を敵は狙ってきたという訳である。
 しかし、普通サイズの怪肢では目立ちすぎて潜入作戦には向かないだろう。故に、大邪は等身大のサイズの怪肢を大神家に送り込んで来たのである。
 そして、その数は数多であった。巨大な怪肢なら確かに破壊力は強いが、同時に送り込める数が少なくなるのだ。その為もあって、敵は等身大の怪肢を大量に送り込むという人海戦術に踏み切ったという事なのだ。
 だが、そのような周到な手筈を踏んだ敵であったが、敵は二つ程ミスを犯していたのである。
 一つは、この場に八雲泉美が残った事である。彼女は『こうなる事』を想定した上でもここに残ったという事なのだ。ただのお留守番などではなかったという事だ。
 二つ目は、大邪が『戦える人材の把握』を敢然に間違っていた事にあるのであった。
 その『戦える人材』を今一気に管轄に置いているのがモニター前の泉美という事である。
 そして、今この瞬間彼女は自身の中から大邪の力が抜け落ちた事を実感していた。彼女は人に戻ったのである。
 だが、その力が無くても、自分が皆を導くという事に変わりは無かったのだ。そう、やる事は何も変わらないのだ。
 まず彼女が目を向けたのは、自分の執事でもある早乙女真人であった。
 彼は実は凄腕のスナイパーであるという、ある意味見た目通りかもしれない技術を持っていたのである。それを泉美は活かしたのである。
 彼が対峙していたのは、空を飛ぶタイプの怪肢の群れであった。これでは格闘家などの地に足を付けて戦う者では不利であっただろう。
 だが、彼は百発百中のライフル捌きにより、それらにも落ち着いて対処出来るのである。
 そして、彼は至って沈着冷静に空を舞う敵を一体、また一体と次々に撃ち落としていったのであった。
 その手際は早く、瞬く間に泉美の導きによって彼が引き受けた飛行型怪肢は全滅する事となったのだ。
「泉美お嬢様、私の方はこれで済みました」
「ありがとう、真人さん」
 まずは一つ片付いたようである。だが、まだそれは一角に過ぎないのだ。続いて泉美は次の人物へと目を向ける。
 その人物は、稲田家の専属のメイド長である如月アリアなのであった。ここで、この人はこのような戦いの場に向けるべき者でないと思われるだろう。
 だが、彼女は実は特殊な訓練を受けた戦闘メイドなのであった。普段の平和な生活ならばその技能を披露するような事は無かったのだが、幸か不幸か今がその時であるのだった。
 彼女はメイド服の中にしこたま仕込んでおいたナイフを数本投擲する。すると、彼女が担当している蜘蛛型の怪肢に次々と刺さって彼等は一瞬の内にその機能を停止させられたのであった。
 だが、蜘蛛型という人外の形を相手にしていては戦いづらいというものである。故に彼女はその背の低い蜘蛛達に、足下から接近を許されてしまっていた。
「くっ……」
 思わず歯噛みするアリア。だが、こんな状況も泉美はしっかりと見据えていてくれたのだ。
『アリアさん、少しの間耳を塞いで下さい!』
「え、分かったわ!」
 泉美の司令室からの呼び掛けに、アリアは咄嗟に応えて泉美の指示通りに両手で耳を塞いだのであった。
 すると、この場にけたたましい騒音が鳴り響いたのであった。
 そして、見れば怪肢達は突如鳴り響いた音に警戒し、右往左往していた。
 その一瞬の好機をメイド戦士であるアリアは見逃さなかったのであった。
「泉美さん、ありがとう。後はこれで大丈夫よ!」
 そう言うとアリアはありったけのナイフを掴むと、それら全てを残った怪肢へと投げ付け、彼等を余す事なく破壊したのであった。
 そして、難の去ったアリアは司令室にいる泉美に質問する。
「泉美さん、今一体何をしたのですか?」
『ちょっとですね、このような事もあろうかと、ガラホの録音アプリで録音しておいた工事現場の音を、大音量で流してやっただけの事ですよ♪』
「え゛っ……」
 ツッコミ所が多すぎてアリアは呆けてしまった。ガラホだとか、工事現場の音を録音しておいたとか、極め付きにこのような事があると思って用意しておいたとか……等々である。
 泉美は彼女がそういうリアクションをするのは当然だと思いながら、アリアに持論を言うのであった。
『アリアさん、私はですね。どうでもいいって事はないとは言いませんけど、物事を良い方向に導くには必ずしも格好いい課程や方法にこだわる必要はないと思うのですよ』
「泉美さん、やはりあなたは立派な方ですね。姫子様が喜ぶのも頷けます」
『いえ、そこまで私は……』
 そう謙遜する泉美。彼女が完全に自分に自信を持つのは、この先の人生で培っていけばいいだろう。
 そして、『こだわる必要はない』と言いつつも、泉美は思いっきりガラホにこだわっていた事も、この場では秘密にしておきたい事なのだった。
「後は……」
 泉美が最後に意識を向けた人物は、大神家を取り仕切る和希であった。そこへ意識を向ける泉美の緊張は高まる。
 と、言うのも泉美が彼に割り当てた怪肢は少々特殊な存在だったからである。
 それと言うのも、和希の目の前に今いる怪肢は、たった一体だったからだ。
 だが、その怪肢は鎧武者のような姿をしており、他の怪肢とは一線を画す存在だったのだ。
『和希さん、済みません。あなたにこのような重荷を背負わせて』
「構いませんよ。この様な相手では、私を差し向けるのが一番良策でしょうから」
 そう言って和希は手に持った刀をその鎧武者へと向けると、彼もそれに倣い刀を握り締めて臨戦態勢を取る。
 この事からも、この武者は見かけ倒しではなく、手練れだと感じ取る事が出来るだろう。
 だが、和希は臆する事なく彼にこう言うのであった。
「それだけで見事な戦士だと私には分かりますよ。残念です、あなたが邪神の手先などではなく、立派な人間であったら、あなたとは良き友になれたかも知れませんのに」
 しかし、相手は機械仕掛けの邪神から生まれた造形物。故に心は持ち合わせていないのであった。
 その証拠と言わんばかりに、その武者は和希の言葉にも一切反応する事なく刀を大振りにして斬り掛かってきたのであった。
 それを冷静に対処しながら、和希は腰をかがめて踏み込む姿勢を見せ、そのまま敵の懐に潜り込んでその勢いで刀を振り抜いた。
 そして、気付けば武者には大きな切り傷が刻まれており、そこから派手に火花を散らすとそのまま彼は爆散してしまったのであった。
『和希さん、見事です』
「ええ、士郎に居合いを始めとした剣術を教えたのはこの私ですからね、泉美さんもありがとうございました」
『はい、和希さん。後は『仕上げ』だけですね♪』

◇ ◇ ◇

 そして、ここは大神家の庭園であるのだった。そこは十分なスペースが確保されている場所である。
 そこに立っていたのは、神奈木幸人であるのだった。
「どうやら、皆さんよくやってくれたようですね。後は僕の出番という事でしょう?」
 そう言うと、幸人はその場でおもむろに手を掲げる。すると、彼が手を翳した宙に無数の鉄屑が一瞬の内に出現していたのであった。
 それは良く見て見れば、先程大神家に残った者達が皆で倒した怪肢の残骸達であるのだった。それが、幸人の手によりこの場に呼び寄せられたという事なのだ。
「次は、『彼等』ですね」
 言うと幸人は更に自身のその力を行使したのであった。すると、その怪肢の残骸の集まりの前に、白い剣のような巨躯が出現したのだ。
 そして、その巨躯から聞き慣れた声が聞こえてくるのであった。
「日輪光烈大撃斬っっっ!!」
 登場するや否や、その神機楼は自慢の必殺技を怪肢の残骸へと叩き込む。後はその力によりそれは無へと還っていったのであった。
 そうして敵の後始末を終えたアメノムラムモは、自身の中にいる者達を光に変換して解放した。
 そこには士郎の他に千影、姫子、そして翼にミヤコと元・大邪の二人の姿もあったようだ。どうやら士郎が自身の愛機に彼等を同乗させてやって来たいう事のようであった。
 この急展開は一体何なのかは、まず士郎の口から語られる事となる。
「さすがは幸人という訳だな。大邪『零の首』の力は伊達ではないという事か?」
 それが、答えであるのだった。
 邪神ヤマタノオロチは人工的に造られた機械仕掛けの邪神であったのだ。故に、機械であるが為に、自身を操縦する者がいた方がより力を出せるのであった。
 その為に邪神が自身の力を人間の胎児に与え生を受けさせたのが神奈木幸人という事なのだった。
 だが、邪神に誤算となる事が生じる事となる。彼、幸人が和希と出会った事により、邪神により与えられた邪悪な意思を暖かい接し方により徐々に削ぎ落とされていったのだ。
 その後は、幸人は本体の邪神に知られる事なく和希の協力者として活躍していたという訳なのだ。
 そして、邪悪な意思は無くなるも、邪神の人ならざる力は彼には残っていたのである。
 それは、神が関わる物体、それが既に機能していない場合と、幸人が味方と判断した物に限り、自在に自分の視界の中へとおびき寄せるというものだった。それも、先程剣神を呼び寄せたように、空間を越えてというレベルである。
 その力がこうして役に立った事は幸人は嬉しかった。だが、もう今後はこの力は使わないだろうと確信していたのであった。
 その最初で最後の大役を買った幸人は、感無量といった風に呟く。
「しかし、あの子──泉美さんは凄いよね」
 そして、それに答えるのは姫子。
「うん、正に『まさか、ここまで(読んでいた)とはな』って感じだからね♪」
「また別次元な話を……」
 そうツッコむ士郎であったが、その姫子の意見自体には全くを持って同意であり、今この大神家にいる者全員の意見でもあるだろう。
 八雲泉美。彼女の助力がなければ、この1200年前から続く因縁に決着を着けられなかったかも知れないのだから。 
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