真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第95話 賊に身を落とした者の末路
前書き
更新が遅れすいませんでした。
冀州を出立して二ヶ月が過ぎ、ようやく北郷の居場所を発見しましたが、寸での処で逃げられました。
「劉将軍! 北郷は近くの森に逃げ込み、山の方角に逃げようとしていると思われます」
兵士が私に駆け寄ってくると、片膝を着き報告をしました。
「我々も北郷を追って、森に入るぞ。必ず北郷を生け捕りにしろ。小隊を編成して直ちに先行させろ。残りは私と共に行くぞ」
私は周囲に控える兵士達に下知を出しました。
「正宗様、私と真悠殿はここで馬の番をさせていただくのです~」
風は間延びした声で私に言いました。
「なぜ、私がお前と一緒に馬の番をせねばいけない。正宗様、私も北郷討伐に同行させてください」
真悠は風の話に抗議をして、私に不満を言いました。
「山狩りとなれば、馬を連れて行くことはできない。ここに300騎残すので、馬の番をしていろ。それに、風は私の従事中郎、お前は兵卒であることを忘れるな。お前は軍令に背くつもりか?」
「北郷討伐の為に、兵卒に身を落としてまで、同行したのです。これでは約束が違います!」
真悠は尚も私に食い下がりました。
「いいだろう。ただし、私の命には絶対に背くな。もし、背けば揚羽の妹であろうと、その場で首が飛ぶと思え」
私は厳しい表情で真悠に言いました。
「わかりました」
真悠は私の剣幕から私が本気であると感じたのか、大人しく私の言葉を受け入れました。
北郷を追って山の奥深くに分け入り、数刻が過ぎました。
そろそろ先行している兵士から定時報告が来る頃ですが・・・・・・。
「劉将軍、北郷を見つけました」
私が報告を待っていると、先行していた兵士の1人が戻ってきました。
「北郷を捕らえることはできたのか?」
「はっ! 現在、北郷は子供を人質にして山小屋に立て篭っています」
想像もしなかった報告を受けました。
「子供だと・・・・・・、こんな場所に子供が何でいる? その子供は北郷が我々から逃げる途中、誘拐したのか?」
私は兵士の報告が理解出来ませんでした。
ここは既に人里からかなり離れた山奥です。
常識的に考えて子供がいるとは思えません。
「劉将軍、それはないと思われます。我々は休み無く、北郷に追撃を掛けておりました。また、北郷の逃走経路は人が近寄ることのない場所でした。子供を人質にして徒歩で逃亡をするには無理があります。これは推測ですが、賊の襲撃で親を無くした孤児で、人里離れた山奥で暮らしていたのではないでしょうか? いずれにせよ、子供を盾にされ、北郷を取り押さえることが出来ない状況です」
報告する兵士は本当に困っている表情をしています。
「正宗様、何を悩まれる必要があります。たかだか、子供一人。その子供は孤児なのでしょう。天涯孤独の身の上なら、その死を悼む者もいないと思います。可哀想ですが、その子供には北郷共々死んで貰いましょう」
人質の子供への感情はまるで無いかのように、淡々と言いました。
なんて女なんでしょう。
孤児だろうが人です。
私は真悠の言葉が理解できません。
「その子供は必ず助け出す。この私が自ら子供を解放するように北郷を説得する」
「兄上が前面に出ては逆効果です。他の者に任せては如何です」
「駄目だ。この私が出て行く」
私は短く言うと、報告に来た兵士と共に、北郷が立て篭っている山小屋に向かいました。
これまでの経緯を見る限り、北郷を説得など誰にもできないでしょう。
他の者に任せては人質の子供が死ぬことになります。
子供を救う為に必要なことは北郷の隙を突いて、彼を確実に瞬殺する能力を持っているかどうかです。
この場で、そんな真似が出来るのは私だけです。
私なら振雷・零式を使いそれを可能にできると思います。
私は自分が手にしている双天戟を見やりました。
北郷を説得しに行く時は、これを持っていっては警戒されます。
警戒されずに近づくにはこれしかないですね。
私は自分の腰に差している短剣に手を触れました。
姉上、父上、お爺々様、ご先祖様に申し訳ありませんが、他に目立たない武器を持っていません。
皆、子供の命を救う為なら、許してくれるでしょう。
家宝の短剣を失うことになるとは・・・・・・。
「近寄るんじゃねぇ! このガキがどうなってもいいのか!」
私が一人で山小屋の近づくと、子供を盾のようにして、北郷が戸口に姿を現しました。
彼は私を睨み10歳位の子供に刃こぼれした剣を突きつけています。
真悠と兵士達には北郷を刺激しないように、距離を取って山小屋の周囲を包囲するように布陣させています。
彼らには私が合図をするまで、一切手出しをするなと厳命してあります。
「大人しく子供を解放しろ。北郷、どのみちお前がここから生きて逃げ仰せることはない。死に際位、人として正しいことをしろ」
私は態と彼の気持ちを逆撫でするように言いました。
子供を救い出すことが一番重要ですが、可能であれば真悠の逃亡幇助の証拠を手に入れたいです。
それが無理ならば、子供の命を優先します。
その為には彼と話をしなければいけません。
私は彼との会話の糸口を見つけようと、彼を凝視して違和感を覚えていました。
彼は右目を隠すように、頭にボロ布を巻いています。
そう言えば、真悠は彼に手傷を負わせたと言っていました。
その時の傷でしょうか?
「北郷、右目をどうして布で隠している」
私は率直な感想を北郷にぶつけました。
「どうして・・・・・・、か、隠しているだと!」
北郷は私の言い方が癇に障ったのか、目を血走らせて激昂しました。
「お前の義妹、司馬季達が俺様の目をえぐり出したんだろうが!」
北郷は興奮しながら、人質の子供の首を二の腕で首を絞めました。
子供は苦しそうに呻きました。
「子供に乱暴を働くな」
私は咄嗟に彼に言いました。
「くくっ、お前さ。こんな汚らしい形をしたガキがそんなに大事なのか?」
彼は私の言葉に反応して、優越感に満ちた表情をしました。
「子供に罪はないだろう。それに、司馬季達がお前の右目をえぐり出したとはどういうことだ?」
私は真悠が北郷に行ったことを詳しく知りたく尋ねました。
「知らないなら教えてやる。あの女は俺を殺してお前に投降しようとした義勇兵を殺したのさ。その上、俺を逃がす条件に俺の右目をえぐり出しやがった。どれだけの痛みだったかお前に分かるか? 俺は絶対にあの時の恨みを忘れねえぞ!」
彼は興奮し怒りに内震えていました。
「そうか・・・・・・。だが、仮にそれが事実であろうと、お前に情状酌量はない。お前は殺人未遂とはいえ、督郵を半殺しにした上、暴行を加えようとした。その上、逃亡中に女を暴行し、殺しただろう。こんな真似を行った以上、お前が死ななければ治まりがつかない」
私は真悠が北郷と逃亡兵に行った所行を耳にして心が動揺しましたが、平静を装い冷静な対応をしました。
真悠・・・・・・、お前は何て事をしているんだ!
「じゃあ、お前の義妹はどうなんだ! あの女だって、俺を逃がしただろうが!」
彼は私の言葉に腹を立てて叫びました。
「心配しなくても司馬季達には罪を償って貰う。だが・・・・・・、その前にお前が罪を償え」
私は怜悧な視線を北郷に向け、濃密な殺気を放ちました。
「来るんじゃねぇ――――――! お前、分かってんのか! コイツがどうなってもいいのか?」
彼は私の殺気に触れ、震える声で喚きながら、子供の首に剣を添わせました。
子供は恐怖で何も言えずにいました。
「これが最後通告だ。その子を大人しく渡せ」
私は感情の篭らない声で彼に言いました。
「お前・・・・・・、頭が可笑しいんじゃないか・・・・・・?」
私の要求に彼は顔色が青ざめています。
私は彼の言葉を無視して、洛陽を出る時に姉上に貰った家宝の短剣を抜き放ち、北郷に突きつけました。
「はぁ? はははは――――――、そんな短剣で何をするってんだ。ははははは、傑作だぜ!」
彼は私の挙動に一瞬ビクリとしましたが、私が懐から短剣を抜くと高笑いをしました。
私はその隙を逃しませんでした。
「姉上、すいません」
私は短く呟き、短剣に気を集中すると振雷・零式の要領で光弾を彼の頭部目掛け放ちました。
彼は私の突然の攻撃を避けること適わず、彼の頭部はトマトが吹き飛ぶように弾け、その反動で背中から倒れました。
私は急いで子供に駆け寄り、北郷の躯から子供を助け出しました。
「大丈夫か?」
私は子供に声を掛けましたが、子供は何も言わず、ただ震えてました。
「もう大丈夫だ。何も心配することはない」
私はそう言って子供を強く抱きしめ、右手に握る短剣を確認すると、柄の部分を残し、刃の部分は吹き飛んでいました。
分かっていたこととはいえ、やるせない思いになりました。
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