真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第94話 并州入り
私はまず、真悠が北郷と逃亡兵達と交戦した場所に向かった後、女の誘拐があった村に向い聞き込みを行いました。
その後、誘拐された女の死体が打ち捨てられていた場所に出向き、周辺の調査が終わる頃には空は赤くなっていました。
私は今後の方針を決めるため、野営可能な場所を見つけると準備を行わせてました。
野営の準備が終わると真悠、風、兵士達を集めて、私は北郷討伐の件で兵士達に話をすることにしました。
「今回、私達は北郷討伐のために来ているが、一つ注意しておくことがある」
彼らは私の言葉に耳を傾け黙っていました。
「北郷を見つけても必ず生かして捕らえよ。この命令に背いた者は理由如何無く斬首に処すから心しておけ」
私は厳しい表情で彼らを見て言いました。
「正宗様、討伐対象を何故に生け捕りにする必要があるのです。たかが、義勇軍崩れの賊ではありませんか?」
真悠は私を見て言いました。
「北郷は私の温情を無碍にした上、中央の官吏を襲うという無法を行った。その上、この私自ら討伐に出る事態になったのだ。この私の手で北郷に死を与えるのが筋だろう。この私の命を聞けぬと言うなら、この場で首を刎ねることになるぞ」
私は殺気を彼女に向けました。
「分かりました」
彼女はそれだけ言うと口を噤みました。
「正宗様、賊の生け捕りの件にする件は納得なのです~」
風が場の空気を読まずにアメを舐めながら言いました。
私は北郷から事の真相を知りたいのです。
その上で、処断するべき者を処断します。
私の予想通りなら、揚羽と真悠は間違いなく北郷を逃がしたことに関わっているはずです。
真悠は揚羽の意を組んで動いただけでしょうが、等しく罰を下すつもりです。
2人とも命を取るようなことをしません。
揚羽の存念は何となくわかります。
この私が不甲斐ないから、こんな真似をしたんでしょう。
「風、この後、北郷の捜索の方針を立てるので、私の陣幕まで来てくれないか」
私はこれ以上、この話を長引かせたくなかったので、話を打ち切りました。
「正宗様、捜索の件は畏まりました~。後ほど、お伺いするのです~」
風はアメを舐めながら間延びした返事をしました。
私は自分の陣幕に戻り人払いをすると、椅子に腰掛け目を瞑り揚羽と真悠の処分のことを考えました。
私は揚羽を妻にすると決めた時、彼女を信じ抜くと心に誓いました。
ですが、北郷を故意に逃亡させたことは許すわけには行きません。
今回の件で、私の彼女への信頼が揺るぐことはありません。
彼女を信頼するからこそ、罰すべき時に罰さなければ、私と彼女との関係は壊れるでしょう。
身内を裁くことがこんなにも悩むものとは思いませんでした。
為政者だからこその悩みでしょう。
裁かねば周囲への示しがつきません。
北郷を処刑して、冀州に戻った後のことを考えると憂鬱になります。
「正宗様、まかり越しました~」
私が苦悩していると風が陣幕の外から、声を掛けてきました。
「風か? 入ってくれ」
「失礼いたします~」
私が中に入るように促すと風はそそくさと陣幕の中に入ってきました。
「立ち話もなんだ。そこに座るといい」
私は風に椅子を勧めました。
「ありがとうなのです~」
彼女は椅子に座ると私を向き直りました。
「それで正宗様、今回の討伐はいかなるご存念なのですか~」
風はアメを舐めながら、言ってきました。
「あの時の話で納得できなかったのか?」
「当然なのです。たかだか義勇軍崩れの賊如きに、正宗様が直々に手を下す道理がないのです~。ただ、仮にも中央の官吏である督郵を襲撃した賊を見逃した事態を考慮すれば、正宗様が自ら動き、その手で賊を誅殺されることは中央へ示しになるのです~」
彼女は私を興味深そうな表情で見つめました。
「北郷を取り逃がした張本人である真悠殿はあの場で黙るしかありませんでしたね。でも、一つ腑に落ちないことがあるのですよ~。正宗様、何か分かりますか~」
彼女はそういうと私をアメを舐めるのを止めました。
「お前を北郷討伐に同行させたことだろう」
「はいなのです~」
「兄ちゃん、流石だぜ!」
彼女の頭の上の宝慧が言いました。
「もともと、話すつもりでここに呼んだ。お前は私に士官して日が浅いから、私の家臣とも一定の距離間がある。それに、知恵が回る。最初、稟も人選に入っていたが、彼女だと表情にでる可能性があるので、いつも沈着冷静なお前を選んだ」
「ふむふむ、機密性が高く、正宗様の陣営内部の問題なのですね」
風は腕組みをしながら聞いていました。
私はそんな彼女を見て、ひと呼吸置いた後、話を再会しました。
「実は真悠が故意に北郷を逃がしたと思っている。だが、真悠は実行犯で、彼女に指示を出した人物が別にいるだろう。真悠が全てを考え行動したとは思えない。彼女は合理的な女だ。徳にもならないことを実行するわけがない。誰かの指示に従ったというのが自然だ。そうなると、揚羽が一番怪しい。彼女は劉備と北郷に対する私の遣り方に不満を抱いていた。彼女の指示なら、真悠は黙って従うだろう。だが、証拠がない。だから、私は北郷を捕らえ、その真偽を確かめるつもりでいる。その後で、北郷の息の根を止める」
風は私の告白に絶句しました。
「おいおい、兄ちゃん。話が直球すぎるぜ!」
宝慧が私を非難するように言いました。
「宝慧の言う通りなのですよ~。随分と重い話なのです。正宗様のお身内が賊の逃亡を手助けするなんて前代未聞なのです。でも、大した賊ではないのですから、賊を殺して幕を引いても良いのでは?」
風は口とは裏腹にアメを舐めながら、落ちついた口調で言いました。
「それでは駄目だな。今後、このような独断専行をされては、この私だけでなく、私の家臣の身にも危険が及ぶような事態があるかもしれない。だから、今回のことを有耶無耶にしてはいけない」
私は真剣な表情で風を真っ直ぐに見据えて言いました。
「分かったのですよ」
風はしばらく私を凝視していましたが、深いため息を吐きながら言いました。
「正宗様の仰る通り、それが事実であれば揚羽様と真悠殿は許してはいけないのですよ~。信賞必罰、これを徹底しなければ、組織などたちまち崩壊するのです。それで、正宗様は賊から真相を暴いたら、お二人を如何に処断されるおつもりなのですか」
風は私の顔を窺うような目付きで凝視しました。
「今回のことは、賊の逃亡幇助だ。本来なら斬首だが、揚羽はこれまで私の為に必死に働いてくれた。それを鑑みて、棒叩き百回の刑に処す。真悠は揚羽の指示を受けて動いたとはいえ、その罪は重いので、棒叩き五十回の刑を処す」
私は自分が考え抜いた末の答えを言いました。
「棒叩き百回・・・・・・、無難だと思うのですよ~。ですが、暫く2人を謹慎に処すことをお加えになった方がいいと思うのですよ。少なくとも、烏桓族を討伐するまで」
風は頷きながら言いました。
「分かった。お前の献策を採用しよう」
「正宗様のご決断は正しいと思いますよ」
風は私の顔を真剣な表情で見つめて言いました。
「元はと言えば、この私の甘さが招いたことだ・・・・・・。私がもっとしっかりしていれば、あの2人の行動は無かった」
私は自責の念を感じながら、力無く言いました。
「そうですね。しかし、それに気づき改められようとしているのなら良いのはありませんか~。正宗様は私達の主君なのですよ。仮に主君に落ち度があろうと、それに不満を抱き暴走することは家臣のすることではないのです~。だから、正宗様が罪悪感に感じられる必要はないのです。それでも、納得できなければ、良き主君に成ることを心掛けられることなのです~。でも、無理は禁物なのですよ~。あなたに付いてきた家臣はあなただから付いてきているのですから」
風は真剣な表情で私に言い終わると、軽く微笑みました。
その後、私と風は夜更けまで、北郷討伐の方針について話し合いました。
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