【短編集】現実だってファンタジー
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R.O.M -数字喰い虫- 4/4
その日、一人の少女が世界からその意識を消滅させた。
君は、分かっていなければいけなかった。
自分でも完全に理解できない物を他人に使用する。それは、人体実験と同じことだ。
君は友達をその手にかける、その切っ掛けを自分で作ったのだ。
余りにも幼稚で子供っぽい復讐心といたずら心で。
君は後悔しなければならない。
自分の最も信頼する少女の一生をリセットしてしまった罪を。
耳を塞ごうが目を逸らそうが、現実として結果は君の前にいる。
それは君が負うべき咎だ。これ以上こちらがやってやれることはない。
泣きやまぬ少女の慟哭を背に、俺はメリーと共に家を後にした。
彼女は一生この出来事を忘れる事は出来ないだろう。ひょっとしたら、もう立ち直ることも出来ないかもしれない。何故なら――『美咲』という少女を、彼女が殺したのだから。例え肉体が生きていても、実行したのがメリーであっても、間違いなく彼女の所為なのだから。
「気にしてるの、林太?自分のせいかもしれないって」
メリーがそう聞いてきた。歩くのが面倒だといつものように人形になって鞄の中に入ったまま、顔だけ出してこちらを見上げている。
「……誰の所為でもないだろ。みんな誰かが望んだ結末だ。彼女たちはどうしようもない状況からの脱却を求めた。……考えてみれば、俺達と彼女たちが出会ったことさえ誰かが望んだことだったのかもしれないな。俺達の意志が介在する、それすらも」
「それこそ、答えは誰にもわからないわ。……もし本当に気負ってるなら、それを否定しちゃ駄目なんだからね。自分で自分を閉じ込めても苦しいだけよ」
「別に気にしてなんか……少しはしてるかもな」
「でしょ?貴方の事はお見通しよ」
こんな言葉をかけてくるときのメリーの横顔は、ひどく人間的に映る。
心底こちらの心を憂いている姿に、ときどき俺は救われた気分になるのだ。
「まぁ、全部なんとなくだけど」
「…………お前もちょっとは人間らしい事を言うようになったなと感心した俺が馬鹿だった」
どことなく自慢げな態度に見えなくもないメリーを見て、溜息が出ると同時に張っていた気が少し抜けた気がした。彼女がガス抜きを狙ったかどうかは定かではないが、内心で感謝する。
ヨクジンの情報は、あの場で得られるものは全て得た。何の情報もなかったころと比べれば、大きな前進と言えるだろう。それを得るためにいくばくかの人間が不幸になったことは少々心苦しいが、俺達はもう善性の存在ではない。
手段を選んでいては、ヨクジンは追えない。
罪から目を逸らす気はないが、少なくとも彼女の場合は自業自得だから贖罪をする気もなかった。
「にしても、記憶を消すなんて出来たんだな、メリー」
「私は因果律によって『結果的に他人にはメリーだと悟られないようになっていた』けど、それ以外ならば記憶を消す都市伝説もあるわ。今回のは、そのほんの一部を切り取って私が使えるようにしただけ。都市伝説とは元来そのような性質を持っているものだから」
「情報の浸透性に反し、根幹的な社会システムに引っかかる問題としては浮上しない隠匿性か……ま、今はどうでもいいか。それより、ちょっと聞きたいんだが」
「なに?」
「――彼女、本当に記憶をすべて消去するしかなかったのか?或いは記憶の上書きとか、できなかったのか?」
「無理ね」
一言でばっさりとメリーは断言した。
「あれは言うならば完成した絵画にぶちまけられたインク。取り除くには絵が描かれていた紙ごと張り替えるしかない。時間が巻戻るなら話は別だけど、生憎とメリーさんという都市伝説にはそんな力はない」
「なら、コピーの絵画を画板に張付けることは無理だったのか?」
「――特定の人間の記憶や人格を、しかも復元する形でというのは不可能よ。もしもそれでも形だけ取り繕うとするならば、その時は周囲の人間から客観的な彼女のイメージを重ねて、重ねて、何重にも重ねあわせることでそれらしいものを作ることは出来る」
「それじゃ本当に模倣品だな。……多分、彼女はそれを自分の友達と同じ存在だとは思えないだろう」
「言っておくけど林太。私が伝えようとしたのはそこではない。問題はそこではないわ」
「え?」
呆気にとられる俺を見上げ、メリーは諭すような目を向けた。
「林太、個人から見た他人の印象なんて時間がかかれば如何様にも変化するわ。それに、経験している瞬間を見た所で、実際に彼女が何を思ったのかは彼女にしか解らない。後は他人の勝手なイメージで定義づけられる。そんなイメージをかき集めても、彼女は恒常的な存在としていられない」
他人から見たあの子。他人の勝手なイメージでしかないあの子。ひょっとしたらこうかもしれない、というあの子。思い思いに、本人の解釈の都合がいいように組み替えられ、本質的に空虚なイメージ。それを流し込まれても、出来上がる形は、恐らく本来のそれとは別物になるだろう。
それと同時に気付く。人々が無意識的に感じた彼女という漠然とした存在、いわばそれはイメージであり予想通りであってほしいという願いでもある。願いを集めて一つの点にまで集約し、周囲のイメージに存在を左右される。他人の思いによってしか行動することが出来ないそれはまるで――
「彼女の存在が都市伝説化する……?」
半信半疑の予測に、メリーはこくんと頷いた。
「最初はそれでもそれらしく見えるかもしれない。でも、果たしてそんな不安定で不確定的な存在が長く『美咲』として存在していられるのかしら?彼女たちの誰かが『得体が知れない、気味が悪い』と言い出して、そのイメージが都市伝説的な恐怖とスリルへと変貌していったら?彼女が本当に『美咲』なのか疑われたら?彼女は、どうなると思う?」
「――わからない。わからないからこそ恐ろしい、か……まるで怪異の本質そのものだ」
「そんな不確定的な存在は誰も望んでいないわ。少なくとも私なら、そんな存在は要らない。林太がそうなったなら、私はそれを林太であると望まない」
望む、望まない。考えてみれば彼女にとっては行動の根幹となる部分だ。
他人が望むものをメリーは現象とする。ならば逆に、望まれないものは否定するとも言える。
案外、彼女がヨクジンを追うのを手助けしてくれるのも、ヨクジンがその『望まれない存在』だからなのかもしれない。
だとすると、俺は望まれた存在なのだろうか。いったい誰に、どのように、何のために。
メリーの言う『人の無意識の中』に、唯の一個人でしかない俺を生かそうとする意志が存在するとしたら――?
「……考えてもしょうがないか。とにかく、鞄に詰めたこいつを持って行く」
今、林太の手元には『数字喰い虫』の原点となった『数学の繭』の元本――ある種「魔導書」と呼べる代物であるそれと、そのオリジナルになった図形の描かれた日記がある。
一応持ち去っていいかを春歌に確認したが、彼女はもう数字も俺達も見たくないようで、恨みを込めた目で「それを持って早く出て行って!!」と叫んだので、遠慮なく貰って行った。彼女自身も、この呪われた数式をこれ以上見ていたくなかったのかもしれない。
「日記の方は、図形だけ取り外して残りを『羅生門』に預けよう。追跡はともかく、この手の分析や謎解きはあの集団の専門分野だ。図形の方は俺達で管理する。うっかりあちらに見せて美咲ちゃんと同じ結末を迎えさせるわけにもいかない」
「ほう、ほれがいいふぁね(そう、それがいいわね)」
「……………んん?」
ふと鞄の方を見ると、メリーが何かを食べている。もしゃもしゃむしゃむしゃ音を立てて、何やら白いものを――白い物の隅っこに膨大なまでの数字が書き重ねられた図形が見える。
いや、いやいやいや。まさかそんな、気のせいだよな?
「メリー。きみ、なに食べてる」
「『数学の繭』とその原点。ものすごく興味をそそられないわ。クレープと比べるとその存在価値は使い古して変な臭いがする雑巾?人間だったら多分吐いてるくらい」
しばしの沈黙。
「……………おいぃぃぃぃぃぃッ!?何食べてんだ?なぁ何食べてんだよ!!ここ最近でやっと手に入れたヨクジンの馬鹿でかい手がかりをなにキャベツみたいにムシャムシャ食べちゃってんの!?というか不味いんなら食べるなよ!!何でそれを食べようという思考結論に思い至ったのかその筋道が欠片も理解できないんだがぁッ!?」
「ふぁんほあふ(なんとなく)」
「出たっ!うわ出たっ!!メリー必殺『なんとなく』!!昔もあの得体の知れない赤クレヨン何の脈絡もなく食べたし!その時も同じこと言ってたし!!なんとなくで突発的行動するのマジで止めてもらえないかなッ!!?」
「むしゃむしゃ……ごっくん……けぷっ」
「ああ、あああああぁぁぁぁっ!!完全に呑み込まれた……!!」
メリーの可愛らしいげっぷと共に、ヨクジンの手がかりはこの世から消滅したのだった。
ちょっと殴りたいと思うのはおかしいことだろうか。しかし殴ったところで事実を覆すことは出来ない。絶望に包まれた俺に対し、メリーはこれと言って意味もなくフッとニヒルな笑みを浮かべた。
「細かい事は気にしない、それが若さ。そして振り返らずにクールに去るのがハードボイルド。林太もまだまだ修行が足りないわ」
「やかましいわっ!何をエラそうに……」
「ちなみにこれで図形を『メリーさん』に取り込むことに成功したわ。私の出したいときに出せるし、複製も出来る」
「どんなビックリドッキリ機能だよ!?」
おのれ、この世界のどこかにいるメリーの在り方を望む存在め、と逆恨み的な憤りを覚えずにはいられない林太であった。相も変わらず彼女は突拍子もない。
ふと彼女の髪に目をやると、極彩色の蝶の髪飾りがつけられていた。
見たこともない種類の華々しい蝶だ。虫のことをそれほど好いていない俺から見ても、その羽根は覗きこみたくなるほどに煌びやかだった。
そう、異様なまでに目を引き付けるほどの。
「なんだそれ?最初から持ってたものじゃないよな」
「象徴ね。『数字喰い虫』がもしも孵化したら、こんな風になるって事。原点を抑えたことで『数字喰い虫』に優位性を得た証よ」
言われてみれば、芋虫はいずれ羽虫になって空に飛び立つものだ。
春歌はそこまで考えていなかったろうが、都市伝説となった『数字喰い虫』が最終的に何になるのかを想像した結果なのかもしれない。数字を食い尽くして空を舞う悪蝶。それとも、煩わしい数字を食べきって運命から解放された姿なのか。
「ところで林太、なぜ『数字喰い虫』の体液が極彩色なのか知ってる?」
「………醜い芋虫ほど、蛹になって脱皮を終えれば美しい文様の蝶になる。都市伝説で伝わる芋虫の醜さが増せば増すほど、その中身は美しいものになっていく………なんてな。理由は何とでもつけられるけど、正直俺には分からないよ」
「そう、理由はなんとでもつけられる。都市伝説はそういうものよ。意味は後から附随してくる」
あなたと私が出会った理由も――と呟き、メリーは疲れたように鞄の中へ潜った。
その時の俺には理解できなかった。その言葉が、メリーなりに俺の身に起きている変化を暗喩するものだったことを。
= =
可愛らしい金髪の女の子と大人のお兄さんは帰ってしまい、その部屋には自分のことを思い出せない私と、名前も知らない女の子だけが取り残された。
「………………」
「えっと………」
「……………………」
「あのー………?」
「…………………………」
「その、もしもーし!?」
「………………………………」
何も状況が掴めないまま、みさき――そう呼ばれたから多分それが自分の名前なんだろう――は、魂が抜けたように座り込む少女を覗きこむ。少女は一切動くそぶりを見せず、ただただ虚空を眺めて呆然としている。時折何かを呟いたと思うと、また沈黙してしまう。
「あのさ。えっと、まだ名前聞いてないよね?聞いていい………ですか?」
「ッ!!」
抜け殻のような表情が強張る。まるで、自身が知らない相手と認識されたこと自体が苦痛であるように、彼女は目を逸らした。
「………春歌」
「はるか、かぁ。それで私はみさきなんだっけ?」
「……………」
力なく頷き、春歌はまた黙り込む。
唯でさえ閉塞的な部屋で、しかも目の前の相手はどこまでも陰気。何があったのかはいまだに分からないが、こういう状況で黙って相手に合わせるのは、何となく性分に合わない気がした。
「私の知り合いだったの?」
「………うん」
「ひょっとして友達?」
「………うん」
「……………」
「……………」
もどかしいまでの沈黙に身をよじりたくなる。だが、自分の事が自分で分からない以上、彼女に喋る気になって貰わないと私が何者なのかが不明なままだ。どうしたものか、と頭を悩ませるが、いまいち集中できなかった。
なぜ頭が働かないのだろうか、と思い、ふと窓に映る自分の顔を見る。
頬がこけている。………まさか、栄養が足りていないのか。腕を見ると爪もぼろぼろで腕が木の枝のように細い。骨に皮が張り付いている、とはいかないまでも鳥の足くらいには細い。早急に糖分を補給すべきだと本能が囁いた。
決して単純に甘い物とかが食べたくなったのではなく、身の危険だからだ。うん。例え心は乙女でも、今は太るべきである。
「ねぇはるかちゃん。一緒にご飯食べない?なんか私ガイコツみたいにガリガリじゃん?栄養とればもうちょっと頭が回る気がするんだよね!!あとさ、なんかクレープ食べたい!聞いた話だと私、クレープ食べる約束したんでしょ!?食べに行こうよ!あ、でもなんか髪もぼさぼさなこの格好で外出るのはなぁ………家の中の物で我慢しよっと。とにかく、食べよっ!ね?」
「わたし……わたし、そんな人間じゃない。美咲と一緒にいる資格だってない、最悪の女なんだよ………?」
見上げるその瞳は充血し、未だに涙が零れ落ちている。
しかし、極論を言えばそれは私にとってはどうでもいい話だった。
「いや、そんなの私知らないし。お腹減ったし。栄養足りてないし。でも私この家の何所にご飯あるか知らない上に料理の仕方も忘れちゃったのか思い出せないし。何より一人で食べると退屈でつまんないじゃん」
「美咲ちゃん、元々自炊なんて出来なかった……」
「ならばなおさら!!」
今から私が女王様だ。私の我儘を叶えるのがあなたの役目だ。今、心の中で勝手にそう決めた。
春歌は戸惑っていた。まるで今までの一連の出来事などなかったかのようにあっけらかんとしている目の前の少女は、自分が『殺してしまった』あの親友と余りにも似すぎている。このやり取りというか、態度に、春歌は強い既視感を覚えた。
そして、はたと気づいた。もしかして、この人は記憶がなくなろうが「変わっていない」のではないか――?
確かに記憶は消えてしまったかもしれない。でも、このお気楽思考は――そう考えた春歌は、涙を拭って、必死に過去の思い出を掘り返した。
「……私なんかと一緒にいたって、美咲ちゃんもつまらないと思うよ」
『……私なんかと一緒にいたって、美咲ちゃんもつまらないと思うよ』
かつて、あの教室で美咲にかけた素っ気ない言葉。
もし、もしも。彼女の人格が消えても、彼女という存在が本質的に変わっていないなら――彼女は、自信満々にこう言うはずだ。
『詰まらなかったらその時はその時!』
「詰まらなかったらその時はその時!」
ああ――記憶を無くした癖に、この悪友はちっともその図々しい性格を改める気がないらしい。本当に、とことん変わる気がないらしい。つまり、『死んでも治らない』という奴なのかもしれない。
もう、笑うしかない。もう笑い飛ばしてしまうしかなかった。
「ぷっ………あはっ、あはははははっ!!あははははははははっ!!」
「むう、そんなに笑われるとそこはかとなく小馬鹿にされた気もするけど……やっと笑ってくれたね!」
にかっ、と屈託のない笑みを浮かべる痩せこけた親友の顔は――もう一度親友になり直さなければいけないけど――私の知る、大好きなあの笑顔だった。
= =
運命とはかくも数奇なものなのか。
一度絡んだ運命の糸というものは、周囲さえも巻き込んで一本に交わってゆく。
「――本当にいいのかい?俺達は別に、君にこんな形での償いを求めた訳じゃないんだぞ?」
「いいんです。美咲ちゃんもすっかり良くなったし、全部正直に話しました。美咲ちゃんったら、覚えてないこと謝るの禁止だー!って叫んで……もう心残りもありません」
「いつ終わるかもしれない厄介な道だぞ。場合によっては高校中退して貰う事になるぞ。美咲ちゃんとも縁を切ることになるかもな」
「いいんです。中途半端に関わって、喪って、迷惑かけて……そのまま目を逸らして生きていくなんて出来ない。『前の美咲ちゃん』に顔向けできない。許してくれるとしても自分で嫌なんです」
会社のオフィスの中でもひときわ狭く、ひときわ目立たず、ひときわ窓際に近い「援助課」の一角で、彼女は覚悟を決めたように真っ直ぐな目でこちらを見つめてきた。
極彩色の蝶の髪飾りを指で弄ぶメリーも、ついでに同僚にして部下の大江戸も遠くから物珍しげにこちらを見ている。あいつはまだこちらの事情に気付いていないが、放っておいてもいいだろう。
春歌がしっかりとした口調で、宣言するように告げる。
「わたしも、ヨクジンを追います。おじいちゃんの残した数列からしても、構造の理解できる血縁者の協力は必要だと思いますけど……いけませんか?」
「――人の死に目に遭うかもしれないぞ。碌でもない人間として罵られることもあるかもしれない。だからハッキリ言う。中途半端な覚悟なら帰れ」
突き放すような一言に、しかし少女は眉一つ動かさず毅然と立ち向かった。
「美咲ちゃんの死に目に遭いました。それに、他人でなく自分を罵倒したのも一回や二回じゃない。それくらいの覚悟、出来てます。ついでに言えば………あんなものを作れる連中がもし私と同じような事をしているかもしれないと思うと、我慢なりません」
揺るがない不屈の意志。女性というのは、一途になったらとことん強い。
大切なものを護るための気高い志。林太にもメリーにもないエネルギーと可能性を感じた。――決まりだ。
「わたしメリーさん。わたしは林太とともにヨクジンを追う永遠の追跡者」
「俺は稜尋林太。両親の仇、ヨクジンを追うために都市伝説と手を組んだ男だ」
「わたしは、三改木春歌。運命を弄ぶ相手を見つけるために、相手と同じ力を使うことを決めた女子高校生です」
その日、ヨクジンを追跡するメンバーに新しい顔が加わった。
この運命を真に導いた者が誰なのかは分からない。
ひょっとしたら、彼女が覚悟を決めたそれさえも、実際にはもっと漠然とした意識が誘導したものなのかもしれない。この世界には、そのような作為が確かに存在していると、最近はよく思う。
だが、それでもメリーはメリーで、俺はヨクジンを恨み、彼女の覚悟は砕けないだろう。
それだけは、集合無意識だろうとヨクジンだろうと覆せえぬ現実として存在する。
都市伝説のストーリーと同じように、全ての結末を用意するのが集合無意識だったとしても――それでも、真実を見つけるのはここにいる俺達なのだから。
後書き
読了お疲れ様です。ありがとうございました。
今回は「架空の都市伝説」「ヨクジンの数字」「意識の死」あたりがテーマになりましたね。
私、数学ダメなんですよ。全然意味が分からない。だから私にとって数学は恐怖でした。数字喰い虫はそんな潜在的恐怖から思いついてみたものです。
更に、プログラムは割と数字で構成されてる部分が多いし、今の科学は何でも数字で表せるじゃないですか。だから数字には世界を書き換える事も出来るんじゃないかな、という解釈で出来たのがヨクジンの数字って感じです。
で、最後は美咲ちゃんの「死」です。
果たして彼女は死んだと言えるのでしょうか。物語の登場人物たちは、彼女の記憶の喪失を完全に「死」として捉えていますが、彼女の周囲や両親は「記憶喪失だけど元気になった」と彼女を今までの認識の延長線上に捕えています。彼女は、記憶が消える前の彼女と同じなのか、違うのか。どちらの認識が正しいのか。メリー的に言えば、その過程には意味がないのかもしれません。
果たしてヨクジンの正体を3人は突き止める事が出来るのか。それも、彼らの未来を願う人間の無意識にかかってるのかもしれません。
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