徒然なるバカに
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一般的な高校生の日常で執事が出てくることはまずない
先日の泥棒猫事件からある程度の日程が過ぎ、いつも通りの日常がいつも通り過ぎて行く。
ただ淡白に。
その淡白で、たいした特徴もない背景に、騒動、という賑やかな蛍光色ーーとでも言ったような色を繊細に、かつ大胆に塗り潰していくのが、唯一無二の趣味と言っても過言ではない。
趣味、と言って良いものなのか、果たして悪いものなのか。
人の個性だ、10:0ではないにしろ、7:3、もしくは8:2くらいの割合で後者のほうになるのは言うまでもないだろう。
そういえば、話は変わるのだが、先日、冬休み明けの初日、あの泥棒猫事件の日、転校生が来た。名前は綾先颯。なんでも、クラスメイトの、あの、三千院凪の執事を務めているという話だ。どういった経緯で執事なんてものを務めるのか、そしてどういった経緯で執事なんてものを雇うのか、金持ちの思考は理解し難い。
あの、三千院凪ーーという人物がどういった人物か、と言うと。白皇に通う生徒なら耳にしたことがないやつはいない、と断言してもいいくらいの有名人。
有名と言ってもーー容姿端麗、頭脳明晰、品行方正、才色兼備ーーと言うわけではない。
頭は良い方だが抜きん出て良いわけではないし、数多の才能がある方だとも思えない。学校は休みがちのニート予備軍で、ましてや容姿なんてチンチクリンのちびっ子だ。
チンチクリンのちびっ子、と言うのには少々訳があってーー彼女、三千院凪は今年で14歳になる。14歳、普通この年齢ならば中学生のはずだが、彼女は違う。中学過程の勉強をきちんと理解し、終わらせた。だからか、教師たちの決議で飛び級、といった形にならざる終えなくをし、おれたちのクラスに混ざっている、ということだ。まだ14歳、発育途中発展途上、と言うのならばまだ、情状酌量の余地はある。
と、まあこんな感じで新たに仲間が加わり、これからの学校生活を有意義に過ごそう、そう心に思うが、日常なんてものはそう簡単に大きく変化はしない。
そんな、一般日本男児の、特に代わり映えのしない、至って淡白な、日常の一部の話だ。
「はあぁーーっ!終わったぁ」
どの教室にも設置されてあるであろうスピーカーから、授業の終わりを知らせる予鈴がなり響く。
時刻は午後12時を回ったところ、おれの隣の席に在する瀬川は、大きな背伸びをし、そう言った。
「だな。相変わらずつまらない授業だな」
だれに言ったわけではない発言に対し、適当な相槌返す。
「ねッ!あたしも古典の授業はいつまで経っても慣れないなぁ」
「他の授業も慣れた様子で受けているとは思わないけどな、おまえは」
「むむッ、それは優太くんに言われたくはないなぁ」
ごもっとも。
卓上に出していた教科書等をしまい、今後のことに思考を巡らす。
「やあ優太くん」
「おつかれだな」
クラスメイトの花菱と朝風だ。
「ああ、おつかれさん。おれより瀬川のほうがおつかれだと思うけどな」
「だな。泉の足りない頭では先程の授業の2割も理解していないだろう」
「無論!私たちも理解していないがな!」
「それは自信満々に言うことじゃないけどな」
賑やかな連中だ。つまらない授業で干からびていた心情を潤してくれる、とでも言っておこうか。こっちまで楽しくなってくる。
「むぅ、美希ちゃん理紗ちゃんひどいよぉ!」
「泉は可愛いなあ」
頬を膨らませ、拗ねたように言う瀬川に抱きつき、うりうりと頭を撫でる朝風。
「で、飯か?」
先程の思考の続き、昼食についてだ。
こいつらも昼飯のことで来たのだろう。昼休みーーと言っても時間が限られている、あまり無駄にはしたくない。
「そうだ。今日はカフェテリアにでも行こうと思っていたのだがーーどうだろうか?」
おれの昼休みは、この3人といることが殆どだ。それは入学したばかりの頃からであって、こいつらから誘って来た。なにやら面白そうだから、と言った理由らしい。
「別にいいぞ」
別に断る理由もないので肯定の意を見せる。
「あっ、でも今日は誘いたいやついるんだよ」
「ほう?それは珍しいな」
「そうか?」
「ああ、珍しい。昼休みは私たち以外とあまりつるまないから。てっきり私は、ハーレムを堪能しているのだとばかり思っていたぞ」
「ハーレムって……。随分と大きく出たな、おい」
花菱の見当違いの解答に、苦笑する。
「別に誘っても良いだろ?」
「ああ、別に構わない」
「なら善は急げだ」
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