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徒然なるバカに

作者:節子
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動物って大概、光り物や貴金属を集めたりするじゃん

「まさかあんな抜け道があったとはね……。相変わらずあなたには驚愕させられるわ」

白皇学院へと向かう道道なり、わたしを含め、計5人の白皇学院在校生。その先頭を急に申し出、引率し、案内した彼に言う。

「おれも知ったのは夏ぐらいかな。確か8月」

「そんな物心が付いた時、みたいな言い方しないでくれるかしら?」




ーー近道がある。

と言う彼の後ろをついて行くこと数分。普段は決して通らないであろう道、であって道じゃないような、どうにも足場が悪い雑木林の入り口まで誘導された。その入り口には『立入禁止』と書かれたバリケードまで張られており、それ以外は金網で覆われている。なんともまあ危険極まりない近道だこと。

学校への近道、すごくロマン溢れる言葉だろ?と言う彼は、手慣れた様子で金網の一部分を取り外し、スルリとくぐって行く。


「ちょっと!こんな足場も悪いところが学校に繋がってるって言うの!?」

「じゃなかったら来ねえよ。足場もって、足場くらいしかないだろ、悪いところなんて」

早く早く、と手招きをし、催促する。

足場くらいーーという彼にはどうも賛同しかねる。どう見ても、雰囲気そのもの、全てにおいて、嫌な感じだ。時刻は深夜12時を回ったあたり、季節が冬というのも関係しており、辺りは暗い。それにあの立入禁止の看板といいバリケードといい……、彼には危機感という概念が存在しないのだろうか。

結局、先程まで先頭を歩いていたわたしが一番最後に彼が空けた空間をくぐり抜ける。

「よし、みんな来たな。ここらへん一帯暗いから気をつけろよ」

と、なんとも無責任な言葉を発すると、先程と同じペースで皆を誘導する。

「ところで優太くん。この道はどこに続いているんだ?」

「ああ、それならおまえらも知ってると思うけど。この先抜けたら旧校舎に着くんだよ」

慣れた感じで前へ前へと進んでいく彼の表情は伺えない。きっと意味も通りヘラヘラしているに違いない。

「旧校舎か。白皇に通って7年目になるが知らなかったな、こんな道があるなんて」

「本当よく見つけたよねぇ」

「道って言えるほど楽な場ではないがな」

前を歩いている3人は各々そんなことを言う。




「ーーで、本当にここに犯人がくるっていうの?」

その後、ものの数分で白皇学院内へと入れたわたし一同は、盗難が起きた職員室の前へといる。

「んだ。よく言うだろ?犯行は犯行現場に戻ってくる、って」

「まあ、そうね。言うわね、割と」

「んだんだ。なら善は急げ、はい突撃」

これから犯罪者とかち合うというのに、なんともまあ危機感のない人だ。


ーーガラッ、っと職員室のドアを勢い良く開け、電気を付ける。


「……だれもいないじゃないのよ」

明かりが付いたそこは、昼間と対して変わらない風景。唯一違うのは人がわたし以外に誰一人としていないと言うこと。

「本当だな。私たち以外にいないでわないか」

理沙が先陣を切って中に入る。

「ちゃんと見てみろって。ほら、そこの机の下」

と、誰の許可なく勝手に教師の椅子に座っている彼が指を差し、言う。

「机の下?」

理沙の後ろに付いていた美希と泉が屈み、机のしたを探る。

「あのね、大の大人が机の下になんかーー」

ーーいるわけがない。

そう言おうとした矢先、泉の甲高い声にかき消される。


「わぁーーッ!!子猫だ!子猫がいるよぉ♪」

大事そうに子猫を抱える泉。

「か、可愛いな」

「だな」

彼女らは三者三様の反応を示し、泉の元へと集まりキャッキャッ騒いでいる。思考が付いていかない。

「ちょっとまって、どういうこと?」

「どう……って、見たまんまじゃねえの?」

ギコギコと椅子を揺らしながら私の問いに答える。

答えになっていない。

「ん?あぁ、答えになってない、って言いたいのか?」

「よくわかったわね」

「そりゃそんな怪訝な顔で見られたらな」

と。

「おーい、花菱。そいつなんか咥えてないか?」

彼の問いに美希が口の辺りを探る。


すると、

「なんか咥えてるぞー」

「なにやら金物だー」

猫の口元を探っていた美希と理沙は各々言う。

「そういうこと」

そういうことーーってまさか今までのことは全部あの猫の仕業とでも言いたいわけ?

「聞いたことないか?猫って気に入ったものがあったら集める癖があるって、収集癖って言うのか?それが今回光り物、まあ貴金属の類いだったわけでーー」

と勝手に解説を始める彼。

「事に気付いた原因が金がなくなったことからだろ?それ以前からボールペンやらなんやなくなってたんだとさ、言われるまで気付かなかったらしいけど」

「気付かなかったらしい……って、あなた調べたりしたの?」

「そりゃな。確信が欲しかったわけだし」

彼はそう話を完結させると、椅子の背もたれによしかかり大きく背伸びを伸ばした。


呆れた。事の全てに呆れた。今回の犯人ーーいや、罪を犯したであろう猫にも。それに、この猫の存在に事前に気付き、猫の行動するであろう時間帯に、これだけの人数を警備員のいる学内へなんなりと誘導する彼にもだ。


「何はともあれ、一件落着だな」



これはその後日談。

その後、あの猫ーー泥棒猫がどうなったかと言うと。

「飼うことにした、ってこと?」

「貰い手が見つかるまでだけどな」

ソファに座りコーヒーをすすっている彼が私の問いに答える。

「あのまま放置ってわけにはいかないし、あなたにしては賢明な判断ね」

彼と同じく、私もコーヒーをすすりながら言う。


「優しいところあるじゃない」

「あ?」

普段の彼の行動から見るに、そのような善良的な行動が物珍しく思う。

「やめれや、気持ち悪りぃ」

「なに?その言い草。照れ隠しのつもり?」

ちげーよ、とコーヒーをすする彼。

思い返してみれば、彼の突拍子もない行動の影にはこのような小さな優しさが幾つもあることに気付く。まあ、それも本当に影の内なのだが。


「ふふっ」

思わず笑みがこぼれる。


「……なんだよ、急に笑い出しやがって。気でも狂ったか」

彼にしては珍しく冷めた表情。

「相変わらず失礼ね」

「それはどうも」

「褒めてない」


先ほど思ったことを否定したくなるような口ぶり。まあこんな彼にも、なにかを思い遣り、気遣う心がある。ということが再度認識できただけでも良しとしよう。 
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