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徒然なるバカに

作者:節子
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恋は心が下にあるから下心から産まれるんだ、って人間みな下心ばっかじゃぁぉぉい!

ーーあ、でもあれだな。瀬川が乙女心抱いてるっていうのならわからんでもないな。なんか女の子って感じだし。

彼はそう言ったのだ。わざわざ立ち止まり、振り向き、笑みを作り。

そう、不意打ちとしては充分すぎるほどの不意打ち。

あぁぁ!あたし絶対いま顔真っ赤だよぉ!

そんなもの鏡をみて確認しなくてもわかる。さきほどの彼の言葉で体温が急上昇し、身体が硬直しているのだから。

なんで優太くんはあんな恥ずかしいセリフを平然と言えるかな!

そのセリフを言った彼は何食わぬ顔で言うものだからたまったものではない。しかも今日だけのことではない、定期的にだ。

はぅ……だから2人でいるのは嫌なんだよぉ。あ、でも嫌って言っても嫌いってわけではなく、ただ恥ずかしいだけなの!……って、誰に弁解してるんだあ!あたしはぁぁぁあ!


「……なぁ?どした?急に立ち止まって。腹でも痛くなったか?」


当の本人、彼、元い高橋優人があたしの現状に不安を抱き、聞いてくる。


「あっ、やっ、なんでもでないよぉ〜」


そうは言うものの先ほどの高揚感が収まっていないのか、顔の熱は相変わらずだ。


「そか、ならいいんだけどな。さっきからなんかちょっとおかしいぞ?しかも顔色もまた赤いし」

「やや!大丈夫大丈夫!ちょっと暑いだけどよ!そう!暑いだけ!」

「そうか……。暑いだけか」


彼もこの言い訳には納得したのか。うんうん、と頷いている。かのように思えた。


「1月なのに暑いとかやっぱりおまえ変なやつだな」


そういうと彼は、あっはは、と笑いながら人の頭を叩き始めたのだった。

確かに1月上旬、年末年始からまだ3日の今日は寒いと言うならまだしも、暑さは欠片ほどもなかった。


「へ、変でいいから。頭をたたかないでよぉ……」

「おっ?わりわり」


相変わらずヘラヘラした態度でことをいなすと、ほらさっさと行くぞ、と言わんばかりに先に歩いていく。


「はぁ……」


つい、溜息が漏れてしまった。それもそのはず、あたし、瀬川泉は少なからず彼に気があるのだ。

にしたって、好きって感情がよくわからないよぉ……。


ーー好き。


likeとloveには埋まることのない深い溝がある。

日本語訳にするならば、好き。それでいい。ただその日本語の好き、が英語に訳す場合にlike、またはlove、どちらになるかによって大きく変わるのだ。


彼を最初に目にしたのは入学式の当日、時間帯は入学式真っ只中。入学式と言っても小学校から白皇に通っているあたしにとっては3度目になる入学式。代わり映えしない景色をただ眈々と目にしている。はずだった。

生徒代表の挨拶。それは生徒の鏡と言えるあたしの友達、桂雛菊の壇上での挨拶のときだ。雛菊の挨拶が終わり、次は生徒が退場する番。ようやく終わるねぇ〜、などと仲の良い美希、理紗とそんな他愛のない話をしている時に起こった。


ーーあー、ああ、うん。これマイク入ってる?入ってるよな、あーあー、うん。


3度目の入学式に痺れを切らした生徒の大半が、出口のほうを向いていた。が、その生徒たち視線を一斉に、すべて、壇上へと戻した生徒があらわれた。


ーーえぇと、初めまして。今年から、高校から白皇学院に通うことになった高橋優人です。以後お見知り置きを。


などと、内容はいたって普通。どこの誰もが初対面、ファーストコンタクトでするような挨拶。が、これほど奇妙に思えることない。

壇上で不可解な行動をする生徒に皆の注目が集まる。


ーーそんな見られると優人くんてれちゃうなぁ。


自業自得、本末転倒。彼の発した言葉にたいして今の彼に当てはめるなら似たような言葉はたくさんあるだろう。


ーーおっふん。えー、この度は白皇学院に入学できたことを心から感謝しております。ですから、この気持ちを忘れず、勉学に勤しみ、常識ある社会人になるべくーー


いたって普通の挨拶だ。

隣にいる美希や理紗もなんだかつまらなそうにしている。それもそのはず、生徒の代表でもなく今年から白皇に通う生徒がなんの変哲もないマニュアル通りの挨拶を始めたのだ。

「なんだあれは」

美希は言う。

「さあ?なんた面白そうなことになったな、と思ったらこのザマだ。期待外れも甚だしい」

続けて理紗も言う。

うーん、あたしもちょっと期待したんだけどなぁ。なーんだ、つまんないや。

周りの教師たちも最初はザワザワと不信感を覚えていたのだが、いかにと普通の挨拶、普通の今後の豊富、などを聞かされくうちに不信感は欠片ほどになっているようだ。


ーー以上、ではありまっせーん。


先ほどとは打って変わってお茶らけた雰囲気を出す壇上の彼。


ーーおいおい、このおれが壇上にまで上がって話をしてやってるのになんだその態度は、あん?


急に豹変した彼はスタンドマイクをガタンと揺らし、こう続ける。


ーーいいか!耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ!おれが嫌いなものは3つ!退屈、ルール、勉強!この3つは糞食らえだ!


教師たちが騒ぎ始めた。


ーーそして好きなものは、高いところ、騒がしいこと、トラブル!この3つだ!


生徒たちもザワザワと、騒ぎ始める。

「騒がしいこととトラブルって然程変わらなくないか?」

「同感だ」

美希と理紗は揚げ足をとってはいるものの内心楽しそう。それはあたしも同じ。


ーー最後にさっき言った3つよりもっと好きなものがある!それは友達だ!だからみんな!おれと一緒にハチャメチャ高校生を送ろうぜぇ!いぇーい!


彼はそういう。1人で盛り上がりながら。そう、1人で。


ーーへ?


それもそのはずだ。突然壇上に上がり、真面目な当事を述べ、その次には傍若無人のような記者会見をすれば周りだってついてこれるはずがない。

「高橋優人!速やかに壇上からおりなさい!」

拡声器を使われたであろう教師の声が響く。


ーーなーんだよ、みんなノリわりーな。……はいはい、降りますよ降りればいいんでしょ降りれば。

そういう彼の声を拾ったマイクは、場を収めるためへと教師の手に渡ったのだった。


「あいつ随分と面白そうなやつだな」

「バカだけどな」

「だねぇ♪」



 
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