【短編集】現実だってファンタジー
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高速道路最速奇譚! 前編
前書き
・これを書き始める
→調子が出なくて「賽の河原」を
→またまた調子が出ない
→興が乗って「メリー」書き上げ
→勢いで「賽の河原」書き上げ
→いろいろあって今作書き上げ
ひどいバラバラ加減です。
高速道路の法定速度は最高時速100キロ。これは普通の道路と比べれば相当速いと言えるだろう。だが面白い事に、実際にこうして高速道路を走ってみると時速100キロ前後の速度でも「もっとアクセルを踏み込んでみたい」という衝動に駆られてしまう。実を言うと2,3年前にそれをやってしまい、覆面パトカーに見つかって撒くのが大変だったこともある。
あの時は何とかうまく逃げられたが、流石に2度目は御免なので最近はちゃんと自制を効かせてちょっと速度を落とし、法定速度を守っているのだ。あの頃は自分も若かったのだろう。今ではそこまでハイにならずに丁寧な運転を出来ているし、衝動にもかられない。いや、まだ俺こと大江戸粋刻は二十代前半なんですけどね。
だが運転するのは好きなので、俺は敢えて高速道路を使った通勤を行っている。手間は多いが一応会社から通勤手当は出るし、うちの本社がある町は土地や物価が高いので引っ越しのデメリットも存在する。今日も俺の愛車であるコペンちゃん(カラーはイエロー)は元気だし、ルーフを開放してオープンカー気分も味わえるこいつを買ったのは正解だった。まぁ趣味なんだけど。
それに、ここの高速道路は結構賑やかなのだ。それが証拠に―――後ろから聞こえる妙にきらきらした少女の声。
「きゃー!遅刻遅刻ぅ~!!」
遅れて、俺のコペンの隣に白く塗られた鉄製の筒が姿を現した。縦40センチ、長さ3メートルといったサイズのその筒は車輪の類などなく完全に独立飛行しており、その上にはいかにもお洒落という言葉が似合うほどアクセサリで着飾った女子高生がスカートを抑えて跨っている。まるでパンを咥えて曲がり角を曲がろうとする少女のようなセリフだが、もしも彼女とぶつかってしまった青年がいたとしたら結構気の毒なことになるだろう。
跨る筒には後方に4枚の羽みたいな金属パーツが付随し、その後ろから凄まじい勢いの炎と白煙が吹き出す見事なジェット推進で飛行している。恐らくだが、10人が10人それを見たら「ミサイルだーーー!?」と叫ぶくらいに見事なミサイルで、事実それはミサイルであったりする。
何故高速道路をミサイルが飛来しているのか、なぜそれに女子高生がまたがっているのかと言った疑問は最早空の彼方に消し飛んでいる俺は、何の疑問も抱かずに並走するその子に片手を挙げて挨拶した。
「おはよ、莎良々ちゃん。今日も寝坊かい?」
「あっ!おはよー御座います大江戸さん!今日もコペンちゃん可愛いですね!」
女子高生はこちらの存在を確認すると、まるでフラッシュをたかれたような錯覚を覚えるほどに眩しい笑顔で挨拶を返してきた。なんか背景まで光っているような気がしてくるほど眩しくて、運転中に直視するとかなり危ない。なんて眩しいんだ、あのアクセサリ全てに光源が仕込まれているんじゃないかと思えるほどのキラキラ具合である。
「今日も君の『それいけ☆ちびスカッドちゃん3号機』は絶好調みたいじゃないか。前に言ってた他の子たちはまだ高速道路は早いかな?」
「そーなんですよ!トマちゃんもガーちゃんも誘導システムと推進系の調整がまだ甘いから、低空飛行は経験不足で・・・今じゃこの子が一番のベテランさんです♪」
そう言いながら彼女がミサイルを撫でると、横についた液晶パネルに『(≧∀≦)』という顔文字が表示される。ミサイルも褒められて喜んでいるようだ。また新しい機能が増えたな、このミサイル。
彼女の名前は星川莎良々。はためくツインテールがチャーミングな、何から何まで異様にキラキラしている天才科学者女子高生である。こと兵器開発とAI開発に於いては右に出る者がおらず、今もこうして自分の作成した小型乗用式自立機動ミサイルに乗って通学している。・・・そもそもこれ、ミサイル・・・なのか?あれ?ミサイルって攻撃するためのものじゃなかったか?
知り合ったのは単純にこの高速道路でよく出会うからであり、最初はありとあらゆる意味でぶっ飛んだその姿に事故りかけたものだ。
なにせミサイルというだけでも非常識なのに、彼女はそれに跨って通学しているのだ。一度ミサイルの故障から一時的に俺のコペンの車体で牽引したことがあり、そこで初めて口をきいたのが付き合いの始まりだ。今では通学仲間にしてメル友である。
何でもこのミサイルは彼女が「移動用のモノで学校に行くのは普通過ぎてつまらないの!」と思いつき、ミサイルに乗って登校することにしたのが開発のきっかけだとか。しかもこのミサイル、改良に改良を重ねて現在はバリア、慣性制御、ナビ機能など様々な機能が搭載され、とうとう3号機で人工知能まで搭載されてしまった。思わずどういうことなのと訊きたくなった俺は悪くないと思う。君は絶対に才能の使い方間違えてるよ。
現在並行して「いそいで☆ちびトマホークちゃん2号機」と「そうだね☆ちびスティンガーちゃん初号機」が試験運用中であり、今は性能より制御するAIの育成にいそしんでいるそうだ。お兄さんは話についていけまへん。というか人工知能には喜怒哀楽まで教え込んでいるらしく、「いつか大江戸さんのコペンちゃんにも同じタイプの人工知能を搭載してあげる♪」と笑顔で言われたときは素直に頷いていいのか迷ったものだ。
と、スカッドちゃんからチンっ♪と小気味のいい音がし、遅れて微かに香ばしい匂いが・・・?
「あ、トースト焼けたみたい!」
「いつの間にそんな機能を!?」
「んっふっふ~・・・いいでしょ!これも度重なる遅刻への対策なのだ!」
何とスカッドちゃんの身体から焼き立てトーストが飛び出て来たではないか。しかも出て来た時点で既にいちごジャムが塗ってあるという次世代っぷり。おまけに外装の一部が展開されて簡易テーブルまで出来上がり、ホットミルクが自動でコップに注がれるという光景まで見せつける。とっても幸せそうな顔でカリカリのトーストを頬張り「んまーい♡」と声を漏らしている。
「何その機能ちょっと羨ましい!今度サンドイッチか何かとコーヒー淹れてくれる機能とかつけてよ莎良々ちゃん!」
「おっけい☆次の休みにインターチェンジ近くの喫茶店で待ち合わせ!いい?」
「超オッケイ!」
パッと弾ける莎良々ちゃんの笑顔がいつも以上に眩しい。きっと彼女は天使に違いない。ちょっと眩しすぎて目がチカチカするが。
「っていうか、いつも遅刻気味だけど目覚ましの開発はしてないの?」
「してるけど・・・いつも寝ぼけて全部停止させちゃうの☆」
「はっはっはー、流石は天才女子高生ー!」
流石天才は格が違ったのか、寝ぼけていても天才的らしい。と、そんな日常会話を交わしている最中、前の方をとろとろ走っていた車が一台、こちらが近づいた途端ハンドル操作を誤ってか外壁に突っ込んだ。随分驚いていたようだが何か変なものでも見たんだろうか。案外と居眠り運転かもしれない。ボンネットがぐちゃぐちゃだが別に燃料漏れとかはしていないように見える。
あれかな、寝ぼけて都市伝説「ターボばあちゃん」でも見えたんだろう。ターボばあちゃんは車並みの速度で疾走するばあちゃんがいるという内容なのだが・・・可哀想に疲れていたんだな、そんなのいる訳ないだろう。ある意味憑かれていたのかもしれないが。
「救急車呼んだ方がいいか?」
「スカッドちゃんの観測によるとエアバッグのおかげで失神で済んだみたい☆居眠りでもしてたのかな?」
「ふーん。じゃ、先に警察だな」
通勤中なのでいつまでも構っていられない。莎良々ちゃんが自分の持っていた端末でピコピコと操作をし、「終わったよ!」と告げる。どういう方法でかは知らないが高速道路の管理回線に割り込んでい一方的に情報を送りつけているらしい。
= =
「・・・・・・な、何だったんださっきのは」
暫くの時間を置いて意識を取り戻した男性は、まるであり得ない物を見たような顔で車の外に出る。自分は飲酒運転もしてないし変な薬物を取っている訳でもない。ただ、今日はちょっと出張があってここを通っただけなのに、事故を起こすなんて本当についていない。
「夢・・・だよな。そうでなけりゃ、ありゃなんだったんだ?」
彼の視力が正しければ、それは―――ミサイルだった。そしてそのミサイルに、女の子が跨って飛んでいたのだ。余りにも非常識な光景だったので脳がフリーズし、やがてそのミサイルが自分の車に向けて加速しだしたので本能的にハンドルを切ったのだが。
「―――そこの貴方」
「え?うわッ!?」
突如背後から掛けられた声に思わず男は大きくのけぞり、そのままバランスを崩して尻もちを―――つく前に助け起こされた。30代くらいのスーツを着た男だ。一見細身に見えて足腰がしっかりしているのか、あっさり引き起こされた。
「見た所、お怪我はないようですね・・・よかった」
「あ、ああ、あんたは・・・?」
「それよりも、早く道路脇に移動しましょう。高速道路では事故に遭って車から脱出した人が後続車両に跳ねられることもあります。まずはそうならないように脇に移動したほうがいい。警察に連絡は済ませてあるので直に助けが来ます」
「あ、ああ・・・」
柔らかい物腰で道路のわきのスペースまで言われるがままに誘導された。誘導する際もこちらの身体がいつふらついても支えられるように手を添えてあり、そこまで心配されてるのだろうかと言う考えが頭をよぎった。確かに車は派手に壊れているように見えるから、向こうが心配するのも無理はない。逆にちょっと腰が痛い以外に異常のないこちらが申し訳なくなる気分だった。
誘導を終えた男性は会釈をする。とても誠実な人なのだな、と感じた。
「すみません。出来ればもう少し手助けをしたいのですが、私にも仕事があるのでこれで御暇させてもらいます」
「え、ああ・・・いや、こっちこそ手間を掛けさせてすまんな」
むしろ間抜けにも事故を起こした自分の安否を気遣い、通報まで済ませてくれたのならこちらが感謝して然るべきだろう。男はスーツの男性にぎこちないながら笑顔を作ってその誠意に応えた。
「では・・・事故にお気をつけて」
「ああ、アンタもな!」
そして、親切なスーツの男性は道路脇に止めてあった二輪の車両に跨り・・・二輪の―――
「・・・・・・へ?」
男性はもう一度、自分の見た光景が信じられなくなった。夢を見ているのではと頬を抓ってみたが、目は醒めたままだった。
= =
ふとバックミラーを覗くと、新たな車影が映っていた。乗用車にしては随分小さく、まるで人がそのまま高速道路を走っているようだ。それが見覚えのある人物ということを確認できた頃には莎良々ちゃんがを発見して手を振っていた。2人目の通勤仲間登場だ。
「あ!中村センセーだ!中村センセ~!!」
「おはようございます、大江戸さんに星川さん。それにスカッドちゃんもね」
「おはざーっす!」
『(*・ω・*)∩』
現れたるは、この高速道路をママチャリで爆走するスーツ姿の男性。言うまでもなく時速100キロ前後の速度で迫っていて、それは決してバイクや原付でもなければ電動自転車でもない。聞こえる音もキコキコとかシャコシャコという段階を越えて扇風機みたいな音がする。
あっという間に俺達に追いつき、息ひとつ乱さず並走している彼の名前は中村さん。彼も年上のメル友で、良き人生の先輩でもある。かごに鞄を入れて通勤するその姿はまさにサラリーマンだが実際には高校教師で、しかも莎良々ちゃんの学校勤務らしい。
ちらりとペダルを見ると最早残像の見える速度で回転するタービンと化しており、既に中村さんが常識人を逸脱した「逸般人」であることは明らか。にこやかな笑みを浮かべながらも凄まじい脚力と底無しの体力で時速約100キロを実現する鉄人である。でも体育教師ではないらしいけどね。嘘だと言ってよ中村さん、アンタ絶対に職業間違えてるよ。競輪に行って革命起こさない?
「そういえば大江戸さん。結局、例の上司さんとは上手くいきましたか?」
「ええ、お酒の席に引きずり出して言いたいこと全部伝えたら・・・分かってくれました」
「それは良かった。大人になるとアルコールがあって初めて言える事もありますからね。助言した側としても嬉しい限りです」
「こちらこそ、そこまで気にかけてもらえて恐縮っすよ」
感謝の意を示すと、気にしないで下さいとでも言うように微笑む中村さん。同じ笑顔に思えても、感情が確り伝わるのだからのこ人の笑顔は不思議だ。
中村さんはとにかく真摯で紳士だ。いつも絶やさない笑顔は勿論、相談事にはいつだって乗ってくれるし困った人を捨て置いたりもしない。そして教師で、高速道路チャリ通学。究極超人過ぎて頭が上がらないよホント。
と、前をとろとろ走っていた車がいたので各自散開して追い越す。こういう時にミサイルって羨ましいと思う。あれって座ってお尻痛くないのかって聞いたら、座る部分は電気を通すことで鉄からクッション並みの柔らかさまで調節可能な特殊素材使用らしい。流石天才は考えることが違う。
後ろから凄いクラクションが聞こえたが、追い越しくらいでそれほど騒ぐことか。しかも追いかけてこないし。きっとあれだ、寝ぼけて都市伝説の派生伝説である「ボンネットババァ」でも見えたんだろう。冷静になれよ、車のボンネットに座ってるばあさんなんか高速道路で出る訳ないだろう。よほど情緒不安定で幻覚でも見たのかもしれない。
= =
女性は恐怖に囚われていた。背後から突如、得体のしれない何かとともに車が一台現れ、自身の車を追い越して行ったのだ。得体のしれない何かは2つあり、一つは地に足をつけず空を飛んでいたような気がする。ともかく、どちらも高速道路で見える筈もない影だった。
彼女は昔から幽霊や都市伝説の話が怖くて苦手だった。今日とて、この周辺で都市伝説や幽霊の報告量が全国最多とも呼ばれる魔の道路など通りたくなかった。だが今日だけは渋滞の所為で迂回ルートを通れなかったのだ。
あれはなんだったのか。都市伝説に出る何かか、ひょっとして幽霊か。空を飛んでいたのなら幽霊かもしれない。幽霊ならば自分は呪われるのかも、死の運命に囚われるのかも―――
「―――ッ!!気のせいよ気のせい!目の錯覚!!」
そう言い聞かせた彼女は車内に置いてあった眠気覚まし用のガムを手に取り、口に放り込んだ。舌の上を走る強烈な刺激と顎の感触が、一気に目を覚まさせる。
「・・・よしっ!」
ネガティブに物事を考えがちな彼女だが、今回は平常心をやはい段階で取り戻すことが出来た―――かに見えた。が、そんな彼女の平静を吹き飛ばす影が、バックミラーに映っていたのだ。はっきりと見えないがために余計に恐ろしく感じられるそれを彼女は―――不運にも、見てしまった。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!?殺さないでくださいぃぃぃぃぃぃ!!!」
それを見た瞬間、彼女は謎の論理飛躍を起こして謎の命乞いをしながら顔を伏せた。数秒して、前を見ずに運転すると本当に死ぬと思い直した彼女が顔を上げてそぉっとミラーに目をやると、先ほどの影は跡形もなく消えていた。
「あ、あれ?・・・・・・はぁ、見間違いかな・・・今度休暇でも取ろ・・・うぇ・・・?」
安心してバックミラーから目を離し前を見た彼女は、その影が単純に自分を追い越しただけで消えてなどいないことに気付き、もう一度布を裂くような悲鳴と耳を劈くクラクションを鳴らした。
影は、大江戸たちのすぐ後ろまで迫っていた・・・・・・
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