道を外した陰陽師
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第十七話
「また急ですね・・・何かありましたか?」
「そうじゃないんだけどね・・・どうせなら、ちゃんとした土地になってるほうがいいじゃない?」
「まあ、放っておけばいつか、土地が死にますからね」
そう言いながら、件の土地を眺める。
相変わらずの禍々しさだな・・・全然怖くないけど。
「それでも、俺に頼むよりは専門家に頼んだほうが・・・」
「そうしたら、ことごとく失敗しちゃったじゃない?だからいっそ、本当に強い人に頼んじゃおうかしら、と思って」
そう言えば、この人は俺のランクについてちゃんと知ってるんだよな・・・光也がいくつか話したし、席組みのことは気づいたらばれてた。
「まあ、そういうことならいいですけど・・・これほどとなると、さすがに無償の善意で、ってわけにはいかないんですよね・・・」
「いいわよ、それくらい。さすがに、こんなことをただ働きはしたくないでしょうし」
「いや、そうではなくて・・・」
あー・・・まあ、話しても大丈夫か。
「さすがに、ですね・・・このレベルをただでやると、上から何を言われるかわからないんですよね・・・」
「あら、そうなの?それならそうねぇ・・・ここの土地でどうかしら?」
「・・・貰うのは何かいろいろと面倒そうなので、格安で貸してください」
さすがに、未成年が土地を持つ、ってのは・・・うん。
後見人光也だし、何かと面倒そうだ。
「・・・いいのか、一輝?確か、この土地は・・・」
「まあ、大丈夫だろ。最悪、ここにとりついてるのをぶっ殺せば問題ないし」
ってか、ここに挑んだ最高ランクは三十二位。で、俺は三位。
その差は二十九。大して参考にもならない。
「それと、借りて何をする気だ・・・?」
「家を建てる。さすがに、このまま二部屋かりっぱってのもあれだし、ちゃんとした家ならわざわざ起こしに行くのに、家の外に出なくてもいいしな」
それに、湖札が帰ってきたときにちゃんとした家があったほうが見栄を張れる。
「そういうことなら、お願いしてもいいかしら?」
「OKです。依頼、受諾しました。・・・荷物、任せた」
雪姫に荷物を押しつけて、札だらけになっている入口に手をかけて、中に入る。
その瞬間、瘴気の球に襲われた。
なので、切り裂いてみた。
「ふむ・・・切れるなら、問題ないな」
大したことはない。せいぜい人間百人殺せる程度だ。
そのまま跳んでくるのを切り裂き続けて進んでいくと、次第に数も増えてくるが・・・正直、邪魔、という一言程度にしか感じていない。
いらいらしながら進んでいき、大体真ん中あたりについた。
そこには・・・
「お客様でいらっしゃいますか?ここまでたどり着かれた方は初めてございます」
入口にもあった封印用の札や除霊用の札で折り紙をしている、一人の女の子がいた。
見た目の年齢は俺の一つ上くらい。
和服を着ていて、なんとなく上品なお嬢様、という感想を抱かせた。
「・・・さっきまでの瘴気、君が?」
「いえ、違います。どうにも、わたくしにここから出ていってほしくないお方がやっているようで・・・」
本人は心から申し訳なさそうなので、事実なのだろうと仮定して俺はその隣に座る。
そこでようやく気付いたが、足から下が透けている。
「あー・・・とりあえず、自己紹介だけしとくか。俺は寺西一輝。陰陽師の卵だ。今回は、この土地を元に戻してほしい、って言われてここに来た」
「そうなのですか。それはそれは、申し訳ございません・・・どうにもわたくし、ここから離れることができないのです」
「まあ、この瘴気とかを作ってる妖怪の仕業だろ。気にすることじゃないよ」
「そう言っていただけると、とてもありがたいです。わたくしは二穂積と申します。どうぞ、穂積とお呼びください」
「なら穂積、俺も一輝でいいぞ」
なかなかにフレンドリーで、俺は気軽に話していた。
とりあえず、邪魔されたくないので結界を張ってから。
「それで、穂積。お前はどうしたいんだ?」
「どうしたい、と申しますと?」
「ここから離れて成仏したいとか、このままここにとりついていたいとか、まだしばらくは生きてみたいとか」
「そうでございますね・・・とりあえず、この状況から解放されることさえできれば文句は申しません」
うん、欲がなさ過ぎだな。
「なら、ぜいたくを言うと?」
「そうでございますね・・・普通に、暮らしてみたいです」
なるほど、それなら穂積を払って解決、ってのは駄目だな。
「といっても、わたくしを縛っているお方がいますので無理なのですが」
「うん、つまり、だ」
「はい、なんでしょう?」
「そいつさえいなくなれば、何も問題はないんだな?」
「そうですが・・・どうされるおつもりですか?」
「とりあえず、そいつを殺すことにした」
「・・・・・・はい!?」
はじめて、穂積の表情が動いた。
うん、やっぱりそいつは殺すしかないな。
「えっと・・・何を言っておられるのですか?」
「だから、穂積がここに縛られてる原因をぶっ殺す、って言った」
「彼は怨念の塊、そうやすやすと倒せるお方ではありませんよ?」
「ああ、それなら大丈夫。俺もこれで、中々倒せない相手を殺してきてるから」
そう言いながら立ち上がり、結界を解除して飛んできた瘴気をすべて切り裂く。
うん、やっぱり大したことないな。
「んじゃ、その怨念の塊さんとやらのところまで案内してくれないか?ついでに、そいつについて知ってることを教えてもらえると助かるんだけど」
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「そうですね・・・まずは、どうして私がこうなっているのか、それから話さなければなりませんね。その前に、一つだけご理解していただきたいことがあります」
「何?」
「これから話すことは、一切の脚色もない事実のみでございます。そこだけ、よろしくお願いします」
そう言ってから、穂積は話を始めた。
「わたくしをここに縛っているのは、そのお方の意思なのです」
「その内容は?」
「・・・好きな人とともにありたい、というものですわ」
あー・・・確かにこれは、前もって言っといてもらわないと変な印象を持っただろうな。
「そこだけ聞くと、こう・・・ロマンチック?」
「やめてください。寒気しかいたしませんから」
「そこまでなのか?」
「ええ。・・・それに、わたくしが死んだのもあのお方が原因ですから」
なんでだろうか・・・こう、片思いをしている気持ち悪い自己中野郎、という印象しか生まれてこない。
「・・・聞いても大丈夫な話か?」
「助けてくださるのなら、いくらでも」
「なら、頼む」
「では・・・交際の申し込みを断り続けていたら、家に火をつけてきまして。で、そのまま」
「・・・それだと、そのクズ男に穂積を縛るだけの力がないように思えるんだけど・・・」
「はい。ですから・・・その思いを持って自殺し、力を得てから来たのでございます」
「時代が時代なら、霊獣認定されるな」
事実、それで霊獣認定されてるやつや神様にまでなってるやつもいるし。
人間の怨念って、中々に強いんだよな。
「さて・・・あの、一つよろしいでしょうか?」
「何?俺に出来ることならいいけど」
「手を・・・つないでいただけませんか?」
どこか、心細そうな感じで言ってきた。
「その・・・先ほども話したお相手ですので、こう・・・怖い、とも違うのですが・・・」
「気持ち悪い?」
「身も蓋もなく申してしまえば、はい。そうですね」
「あー・・・ま、それなら、ほら」
俺はそう言いながら手をつなぎ、
「ボ、ボクの穂積たんに何をしてるんだー!」
デブが出てきてそう言ってきたので、つい反射的に手に持っていた日本刀で切り裂いてしまった。
「あ、ミスった。つい反射的に」
「反射的に相手を殺してしまうなんて、どんな生活を送ってきたのですか・・・」
「あー・・・暗殺者を送り込まれるような生活?」
と、そんな話をしていたらさっきのデブが復活してきたので再び切り裂いた。
「・・・さも当然のように切り裂いていきますね?」
「あー・・・これはあれだ。ほら、これで一応殺し殺しての生活といえなくもないし」
「殺し殺され、ではないのですね」
「命の危機とか、経験したことないなぁ・・・」
そう言っている間にも五回ほど復活してきたので、そのたびに切り裂いていたら・・・ついにキレた。
「お前!ボクを何回切り裂くつもりなんだよ!」
「え・・・消滅するまでだけど?」
「何当然のように言ってるんだ!それに、ボクが死ぬわけないだろう!ボクは、穂積たんと・・・」
「ああもう煩い。ウザい。キモい。払え、急急如律令」
ここ十年くらいはやっていない全力での札投げをやった。
割と本気でやってみたら、キモ男の存在が一気に薄くなった。
・・・いっそ、このまま消し去ろうか・・・
「なんで・・・ボクは、ランク持ちですら勝てないはずじゃ・・・」
「あ、うん。そうみたいだな。三十二位が死んだんだっけ?」
「そ、そうだ・・・だから、お前みたいなよわっちそうなのなんて・・・」
「あ、ごめん。その三十二位のやつなんて、卵の俺の足元にも及ばないから」
そして、俺は名乗りを上げた。
「日本国第三席、『型破り』寺西一輝。失いし名は鬼道。外道と呼ばれし、道を外した一族也」
その瞬間に、キモ男の表情がひきつった。
「ヒッ・・・なんで、なんでそんな立場のやつが来たんだよ・・・・・・!」
「偶然、この近所に住んでてな。ここの持ち主から依頼されたんだよ」
まあ、なんにしてもだ。
これで十分に絶望させられたはず・・・と、その瞬間に視界が真っ黒になった。
「ふ、ふん!それでも、ボクの力ならどうとでも・・・!」
「・・・これ、本当に瘴気か?」
なので、片手で全部払った。
これ・・・予想以上に何ともない。え、こんなんでランク持ちが死んだの?
「・・・はぁ、もういいや。強いならもう少しやりようもあったんだけど・・・弱いんじゃどうしようもないな」
そう言いながら呪力を手元に集めて、呪力の剣を作り出す。
これ、見た目は地味なんだけど上級者にしかできない技なんだよな。
「さて、と。んじゃ、死ね」
そして、呪力刀を突き刺して、一気に全部流しこむことで浄化する。
ふぅ・・・これで、あのキモ男は死んだな。
「・・・一つ、よろしいでしょうか?」
「何?」
「こう・・・こういう時って、もう少し何かあるものだと思うのですけど?」
まあ確かに、創作の中でもそうでなくても割とそうだよな。
そうなんだけど・・・
「ほら、俺って強すぎるし。席組みに対抗しようと思ったら、席組みを連れてこないと」
「確かに、そうなんでしょうね・・・まあなんにしても、ありがとうございました」
ようやく現実を受け入れたのか、穂積はそう言ってきた。
「ああ、別にいいよ」
「そう言わずに。何かお礼でもさせてください」
「ふぅん・・・じゃあ、家で家事でもやる?」
「わたくし、ここから離れることができないのですけど?」
「ああ、大丈夫。家、ここに建てるから」
そうして、俺は家政婦を手に入れた。
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