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道を外した陰陽師

作者:biwanosin
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第十八話

 一輝が住んでいる街で、あるバカどもが人質事件が起ころうとしていた。
 彼らは彼らの正義にのっとり、一つの事件を起こすつもりなのだ。
 そのために、まずは人質をとることにした。誰でもよかったので、自分たちが今回使う無人の建物の前を通りかかった女子小学生を誘拐。
 そのまま椅子に縛りつけて・・・そこで、少し心配になってきた。
 即ち、人質は一人で大丈夫なのか、と。
 彼らはこう言ったことに慣れているわけではない。むしろ、初めてここまで大規模な犯罪を犯すのだ。だからこそ、一人が相発言した瞬間に心配が全員に伝染していった。
 最終的に、次に通りかかったやつも人質にすることにした。
 そして、不運にも、偶然通りかかった中学生を誘拐してしまい、一人目と背中合わせになるように縛りつけて・・・

「ねえ、今どんな気持ち?」

 十秒後、一人残らず床に倒れていた。



  ========



 人生初の誘拐を受けた。
 暇だから散歩をしていたら急につかまり、そのまま誘拐されたのだ。

 正直、椅子に縛りつけられた時は面白そうだから当分の間はこのままでいるつもりだったんだけど・・・さすがに、一緒につかまっている小学生が泣き出したら、罪悪感が生まれてきた。
 よって、さっさとロープを切って誘拐犯どもと戦ってみたんだけど・・・予想以上に弱かった。

「ねえねえ、今どんな気持ち?人質に捕まえた中学生一人に全滅させられるのって、どんな気持ち?」

 立ち上がれないくらいボコって床に転がしたやつらに対して、満面の笑みでそう聞いてみる。
 ちなみに、女の子は今俺の腕の中で寝ている。まあ、さすがに小学生に見せて大丈夫な光景ではないから、持ち合わせのもので眠ってもらっている。
 いろいろと持ち歩いてると便利だよな、うん。

「く・・・お前は、一体・・・」
「ん、俺?ただの陰陽師の卵だけど?」

 できる限り、イラッとする言い方をする。
 ったく・・・なんで十人以上が銃持ってるのに、大したことができないんだよ・・・
 他の方法で楽しむしかないじゃないか。

「君、早くこの拘束を解きたまえ!」
「え、やだよ。あんたらにはいくつか聞くことがあるんだから」
「そんなことのために、我らの崇高な目的を邪魔するというのか!」
「我らの神が降臨なさったとき、どうなると思っているのだ!?」
「いや、俺無宗教だし、早々死なないし。にしても、宗教か・・・面倒なことになりそうだなぁ・・・」

 経験上、この手のやつらはいろいろと面倒だ。
 そう考えてから、ため息をひとつ。

「ま、いいか。光也に渡しとけば、どうにかして聞きだしてくれるだ・・・ろ!?」

 一瞬目を離したすきに、一人が自殺していた。
 舌を噛んだ感じではなかったので、おそらく毒か呪詛によって。元々、どこかに仕込んでいたのだろう。
 と、そのまま周りを見ると・・・他のやつらも、全員自殺していた。
 そうだ・・・これが、宗教の怖いところだったな。
 本当にはまると、信仰のために命すら捨てる。

 とりあえず、光也に連絡をしてからこの宗教について何かわからないかと辺りを見回して・・・半開きのドアを発見した。
 その中がこの部屋に比べてやけに整理されているので、女の子をおろしてから入ってみると・・・そこには、一つの祭壇のようなものがあった。
 間違いなく、今回の宗教団体にかかわるものだろう。
 そして、どこか見覚えがあって・・・

「・・・ま、まさか・・・!」

 俺は、一つだけ心当たりを見つけた。
 だが、それがどうにか否定できないかと思い、祭壇をよく観察して・・・一つ、置いてあった書物を手にとって、中を見る。
 どうにか否定したい一心でそれを開き、そこに記されていた名前を最初から最後まで読んでいき・・・記されている名前の最後の一個で、半ば確信した。
 最後に表紙を見て・・・『崇めし神』と記されているのを見て、俺の予想通りのものだということが判明した。

「何で・・・何で、まだ残ってるんだよ・・・!」

 手に持っていた書物を握りつぶし、祭壇を壊すくらいの勢いで空間に穴をあけてそこに放り込む。

「この宗教は・・・うちの一族が、潰したはずだろ・・・!!!」



 ========



「じゃ、この子は頼んだ」

 どこから聞いてきたのか、来た警察に一緒につかまっていた女の子を渡して、そのまま立ち去ろうとする。

「あ、ちょっと君!これから事情聴取、」
「受ける義務はない。何かあったら、ここに連絡しろ」
「あ、こら!待ちなさい!」

 俺は光也の名刺だけを渡して、捕まえようと手を伸ばしてくる警察を無視してその場を去る。

 つかまらないように水に乗って飛び去り、そのまま電話を取り出す。

『・・・ああ、一輝か。どうしたんだ?』
「悪い、雪姫。緊急の用事が入った。これ以上、依頼が入らないようにしておいてくれ」
『それはすぐにでもできるが・・・何かあったのか?』
「個人的な案件だよ。あと、その関係で今日、帰るの遅くなる・・・もしかしたら帰らないかもしれないから、色々とよろしく」

 そう言って一方的に電話を切り、そのまま光也に電話をかける。

『どうしました、寺西さん。あなたのほうから電話をかけてきたときは、大抵ろくでもないことが起こるんですけど』
「いや、少しばかり頼みがあってな。・・・俺の偽物のほうのランクの捜査権限、本物のレベルまで上げてくれ」
『まあ、どうせあなたは使える権限なので問題ないですけど・・・どうかしましたか?』
「・・・そうだな、話しておくか。ただし、全面的な協力を約束してほしい」

 俺がそう言うと、電話の向こう側で息をのむ気配が伝わってきた。

『あなたがそこまで言うとは、珍しいですね・・・では、席組みを必要な時に必要なだけ配属、でいかがでしょう?』
「十分だ。日本のトップ十人で事にあたれるんだからな」

 そして、俺は何があったのかを話した。

「うちの一族が昔潰したはずの宗教団体・・・今日、今さっきあった立てこもり事件(未遂)は、あの団体の仕業だ」
『・・・訂正します、寺西さん。必要なことはなんでも、いくらでも協力します。なので・・・大元まで、すべて潰してください』
「OK。依頼されなくてもそのつもりだ」

 光也の口調からは、ついに一切のふざけがなくなった。
 まあ・・・あんな団体、潰さなかったらどうなるかわかったもんじゃないからな。一歩間違えば、俺並みの不確定因子になる。
 それに、今回は・・・前回よりも、間違いなく性質(たち)が悪くなってる。

 さて、まずは・・・

「今回、何て名前で活動してるのか、だな」

 それが分からない限り、過去の情報は何の役にも立たない。
 今使える情報は、新興宗教と何も変わらない、ということ。
 だとすれば・・・必ず、入団を誘っているはずだ。

「その様子があるところを、全部襲撃してみるか」

 捜査権限向上のおかげで、十五位のほうのライセンスでも合法的に捜査できる。
 そこに、一切のためらいはない。
 
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