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道を外した陰陽師

作者:biwanosin
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第十六話

「梅の花もほころび始め、春の暖かさを感じられるようになりました。
 本日は、我々卒業生のために卒業式を開いてくださり、ありがとうございます」

 で、卒業式。
 俺は壇上に立って渡された紙を略しながら読んでいたのだが・・・正直に言おう。二行で飽きた。
 なので、渡された紙を両手でつまんで・・・

「とまあ、真面目腐ったのはここまででいいか」

 一気に、破り捨てた。
 教員席が一気に騒がしくなったけど、気にしない気にしない。

「えー、では改めて。在校生諸君。面倒に感じている人も居るだろうけど、それでも参加してくれてありがとう。こうして卒業する側になると、嬉しいもんだな」
「こ、こら!何をやっとるか!」

 と、そこで教頭がこちらに向かって大声を出してきた。
 ついでに何人かの教師がこちらに向かってくるので・・・

「結びて絶て、急急如律令」

 とりあえず、結界を張って入って来れないようにする。

「これで邪魔は入らないな。さて、と。どうせならここでこの学校についてとか、この学校の行事とかについて思い出でも語れればいいんだけど、あいにく俺は三年の夏休み明けに入学してきた身だ。語れるものがない。そう言うわけで、まあなんか思いついたことでも話していこうと思う。ああ、そうだ。音声関係はもう全部手の内だから、何やっても無駄だぞ?」

 まだ行動を起こそうとしている教師陣にそう言ってから、ついでに思い出したことも。

「それと、来賓の皆様。卒業生の答辞がこんな形になってしまったことは、正直に謝罪する。それでも、寛大な判断とご理解のほどを」

 まあ、こんなこと言っても無駄かもしれないけど。
 とはいえ、言わないよりはましだろう。

「つ・・・土御門さん!彼を止めてください!」
「ああ、残念ながら・・・」
『私はこっちでーす』

 と、放送室から直接流される殺女の声。
 そう、音声関係は殺女に一任した。あいつなら、誰の侵入もさせずに済むし。

「と、いうわけで。早速だが、俺は名を失った一族だ」

 と、普通なら使わない切り出し方で話を始める。

「今時、珍しくないと考える人が多いかもしれない。実際、頻繁に目にするわけではないだろうが、そこまで珍しくもないだろうな。事実、今目の前にいるんだ」

 そこでようやく状況を理解したのか、生徒達がざわつき始めた。

「状況理解、もう少し早くできるようにしような。この中に何人いるのかは知らないけど、陰陽師になるヤツだっているだろ?実戦では状況判断にどれだけの時間がかかるのか、それもまた命取りになるからな」

 そして、ほんの少し待ってほぼ全員が考えているであろう事を言う。

「ほとんど年が変わらないヤツが何言ってるんだ、と思っただろ?でも、考えてみて欲しい。席組みの人間は約半分が学生であること。そして、彼らはかなり頻繁に実戦を経験しているんだ。お前は席組みじゃないだろ?ああ、たしかにそうだ。けど、」

 そこで、俺はライセンスを取り出す。
 本当なら本物を使いたいところなんだけど、さすがにそう言うわけには行かないので普段使っているほう、偽物の方を取り出す。

「見えるやつはわかるだろうが、俺はランク持ち、日本第十五位だ。それだけでも席組みほどではないにせよ実戦を経験してるし、第九席、『金剛力』土御門殺女のパートナーだ。事実、かなりの実戦を経験しているし、命の取り合いだって何回もやってる。鵺や土蜘蛛クラスとも、戦ったことはある・・・何が言いたいか、分かるか?」

 そして、一番言いたかった事を言う。

「家柄なんて関係ない。奥義が有るかどうかも、究極的にはそうだ。俺がそうであるように、何もなくても強くはなれる。諦めるな。なんでもいい。望みでも、誇りでも、恨みでも、執念でも何でもいい。卒業生も在校生も、常に強い意志を持って、これからを生きて欲しい・・・とまあ、柄にもない話をさせてもらった」

 そこで俺は一つ苦笑いをして、

「以上を、答辞とします。卒業生代表、寺西一輝」

 そう言った瞬間に結界を解き、放送室から出てきた殺女と合流する。
 一瞬だけアイコンタクトを取って作戦を決定、壇上に登ってくる教師とは反対方向へと走って・・・そのまま、二人で跳ぶ。

 体育館の窓に向かって跳ぶ俺達二人を追い越した影が窓を開けて、

「全く・・・なんで私まで、卒業式当日にこんなことをしないといけないんだ!?」
「まあまあ、楽しいだろ?」
「楽しいわけあるか!」

 まあ事実、雪姫については無理やり巻き込んだ部分がないわけではないので何とも言えない。
 そんなことを考えながら窓を飛び出し、俺が操る水に乗って脱出していく。

 あー、楽しかった!!



   ========



 あの後、卒業証書だけ学校に戻って受け取り、卒業生代表が毎年一言とともに名前を書いていっているらしい書類に『問題児・寺西一輝』と記してから帰っているところだ。
 教頭はかんかんだったけど、なぜか校長と理事の人たちにはウケていたようだ。なぜだ・・・?

「あら、おかえりなさい三人とも。卒業式はどうだった?」

 家に帰ると、大家さんが掃き掃除をしていた。 

「どうだったもなにも、気疲れしかない・・・」
「まあ、楽しかったですよ?」
「ですね。たぶん、学校の歴史に代々語り継がれていくんじゃないかと」

 とはいえ、いい歴史としてではないけど。

「なんにしても、中学校卒業おめでとう」
「ありがとうございます。高校もここから通う予定なので、どうぞよろしくお願いします」
「ええ、これからもよろしくね。・・・それと、卒業式で疲れているところ悪いんだけどひとついいかしら?」

 ・・・疲れてないんだよな。

「ええ、大丈夫ですよ。二人は?」
「う~ん・・・私は、一回家に帰ってくるように言われてるからな~。もう向かわないと」

 そう言うや否や、殺女は式神を展開して飛び立っていく。
 一言くらい言って行けよ・・・

「雪姫は?」
「特に何もないな。荷物さえ置いてこれれば、どうにかなる」
「とのことです。で、用件は?」
「ありがとうねぇ・・・一つ、依頼をしたいのよ」

 そして、大家さんはその依頼を口にした。

「そこの土地。呪いを払ってくれないかしら?」
 
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