絶対の正義
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第六章
第六章
「彼は他人をいじめたりはしません」
「断じてですね」
「そう、断じてです」
岩清水の念の為の探りの言葉にも強く返したのであった。
「彼は今はある大学の大学院にいまして」
「その人はいじめの現場を見ていたわけですね」
「はい。確か今日時間がありますので」
「その人に御会いできますか?」
「連絡を取ってみます」
星井はすぐにであった。自分の携帯を取り出してメールを送る。そうしてそのうえで暫くして小柄な若者が店に来た。彼が誰であるのかは言うまでもなかった。
「その彼です」
「星井君、その彼は」
「あのことについて知りたいそうなんだ」
まずはその小柄な彼にこう述べた星井だった。
「あのことにね」
「そうなんだ。遂にそういう人が出て来たんだね」
彼は星井の言葉を聞いて観念した様な声を漏らした。その顔を俯けさせて。
「僕はあの時何もできなかったけれど」
「この人はいじめについてのサイトを開いているらしくて」
星井は彼に岩清水のことも話した。岩清水は今は礼儀正しく座ってそのうえでその彼を見ている。その目は彼もまた見極めていた。その結果信頼できる人物だと見抜いたのである。
(あの連中とは全く違う)
小笠原や古館のことである。
(あの連中は明らかに悪事を隠している。しかしこの二人は違う)
そのことを見抜いていたのである。
(それなら。話を聞けるな)
そう決断を下して。星井が呼んだ彼の話を聞くのであった。
「それでですが」
「まず僕の名前ですね」
「はい、何と仰るのですか」
「渡辺です」
それがこの小柄な彼の名前であった。
「宜しく御願いします」
「そうですか。渡辺さんですね」
「そうです」
ここでこの彼の名前もわかったのだった。
「それで仕事は星井から連絡があったと思いますが」
「大学院におられるとか」
「はい、慶応の大学院です」
そこだというのである。
「機械工学の分野にいます」
「そうなのですか」
「これで私のことはおわかりですね」
「はい」
渡辺のその名乗りにこくりと頷いてみせた岩清水だった。
「有り難うございます」
「それではお話させてもらいます」
渡辺は席に着き目の前にホットティーが来るとそのうえで話をはじめた。
「あのいじめのことを」
「御願いします」
こうしてであった。彼はそのいじめの内容を詳しく聞いた。ただしそれは誰がやっていたのかは岩清水には言わなかったのであった。
「それはちょっと」
「言うのがはばかれますか」
「すいません」
あくまでその内容を話しただけであった。
「私がお話できるのはこれだけで」
「わかりました。それでは」
「これで宜しいですね」
「後は私の方でやらせて頂きます」
既にそのやり方はわかっていた。だから渡辺にはあえて聞かないのであった。
「有り難うございました」
「はい、それでは」
「ああ、ただ」
しかしであった。ここでふと彼にこの人物の名前を出したのであった。
「古館という人ですが」
「あいつですか」
「御存知なのですね。前に修和高校の教師をしているということで御会いしたのです」
こう話すのであった。
「少し学校のことを調べている時に」
「そうですか」
「この人は」
「名前を御存知なら仕方ありません」
「そうだな」
渡辺の真剣な言葉に彼の横に座っていた星井も頷いたのだった。二人は顔を見合わせていた。この流れも岩清水の計算通りであった。
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