少年少女の戦極時代Ⅱ
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禁断の果実編
第80話 光実とレデュエ ②
光実はレデュエと共にクラックを跨いで超えた。
赤いラボは濃緑の蔓で覆い尽くされ、至る所に果実が生っている。果実の香りでむせ返りそうだ。
そこで、ラボに流れ込むばかりだったヘルヘイムの蔓に変化が起きた。数本の蔓がレデュエのほうに取って返したのだ。レデュエは蔓に手を添えた。
『面白イこトになッテいル。オマエのナかマ、デェムシュを押スだケノ力を手ニシたよウダ』
レデュエは操る植物と対話できるのだと、その光景を見て知った。
『行ケ』
蔓がこうべを返して、波打つ蔓に混じって分からなくなった。
「何をしたの」
『オマエたチの言葉デ言う所ノ「チョッカイ」だ』
ふふふふ。レデュエは口元に手をやって小首を傾げた。初めてこの翠のオーバーロードの女らしい仕草を見た。
(いやそんなことより。『僕の仲間』に『ちょっかい』って、まさか!)
光実は内心の動揺を完全に隠し、近くのデスクトップPCを操作した。幸い機能は生きていた。
街の中の監視カメラのエリアを次々にスクロールする。
そして見つけた。
解像度は低いものの、鎧武と月花らしきアーマードライダーが、赤いオーバーロードと戦っている様子が映し出された。
鎧武も月花も光実が見たことのないアームズをまとっていた。
戦っている彼らにヘルヘイムの蔓が襲いかかった。だが、光実が案じるまでもなかった。空飛ぶアームズの月花が、花の翼で蔓を切り裂いたからだ。
『馬鹿なデェムシュ。ジュグロンデョが付イた者ニ勝テるわケナいのニ』
「ジュグ、ロ……?」
『ジュグロンデョ。我らフェムシンムにとっテの天空神ノ伝承ダ。非時にあッテ勝者とナりウる者ノそバに現れる。イワバ、吉兆。こノ翼ガ、証。ロシュオの上にモ顕レた』
葛葉紘汰の隣で戦う、翼を持った咲。
オーバーロードの王の前に降り立った、翼を持つ神。
(この共通点は何だ? オーバーロードも元はヒトに近いモノだったのは何となくイメージがあったけど)
『ワタシにハ人間ノ知識が足りナイ』
レデュエの声に、光実は慌てて思案を断ち切り、彼女のほうを向いた。
『どノヨうニ支配し操るカ、上手イ方法を考エてもラいタイ。だかラ、オマエの力ヲ借りタイ』
「じゃあ、人類を滅ぼそうってわけじゃないんだね」
『モちロン。廃墟ニ君臨しテもツまらンかラな。オマエが管理シ、ワタシが遊ブ』
光実は無表情の下で胸を撫で下ろした。
レデュエは光実と同じ、策略を巡らせるタイプだ。きっとこの役目は光実が知るどの仲間にもできない。このオーバーロードを見張ることにして正解だった。
そして、この翠のオーバーロードはこれからも見張り続けねば、危うい。
「そう。じゃあまずは」
光実はPCのディスプレイを切り替え、沢芽市の地図を映し出した。
「この街の出口は限定されている。本土に行くには海を超えないといけない」
『ウミ――川よリ湖ヨり多くノ水があル所だナ?』
「そう。そして海を自力で越える道はこの3つの橋だけ」
キーをタッチし、地図の中の3か所をマーキングしてレデュエに示した。
「ここを封鎖しないと人が流出する。この街はあっというまに、君の言う所の『廃墟』になる」
『そレハ困ル』
レデュエは杖槍で軽く床を突いた。するとクラックから再び大量のインベスが現れ、ラボを通り過ぎて行った。光実が示した3か所を封鎖しに行かせたのだろう。
「しばらくはこれだけで充分。インベスを恐れてほとんどの住人が家に引き篭もるはずだ。沢芽市民をどう管理するかのプランはそれから考えよう」
光実は踵を返して歩いて行き、ラボの出入口に手をかけた。
『ドこヘ行ク』
「もっと中枢のシステムを探しに。ここじゃやれることに限度がある。見張りたかったら見張ってていいよ。そこのPC、社内の監視カメラが映るようにしてるから」
光実は軽く手を挙げ、レデュエに背を向けて歩き出した。
後書き
この回、特に後半の街封鎖についての会話、ここ後から大事になってきますよ!
光実は内心では紘汰たちをすごく心配しているのですが、レデュエには微塵も見せません。演技派です。
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