少年少女の戦極時代Ⅱ
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禁断の果実編
第79話 花は咲いた
ヘルヘイムの蔓は石畳を突き破って何十本も生え、月花たちを襲った。
『レデュエめ! よケイなマねヲ!』
――鎧武も月花も知らない。ユグドラシル・タワーからデェムシュの戦いを観ていたレデュエが、面白半分に植物をけしかけたなど。
幾重にも襲い来る蔓を、鎧武に届く前に、月花は空を旋回して切り裂いた。シャラン、シャラン、と羽根のヒマワリの花びらが鳴る。
『たあ!? わ、わわっ』
捌き切れなかった蔓が月花の右手と左足を捕まえた。しかしその蔓は、鎧武がキウイ撃輪をフリスビーのように投げて切り落とした。
『ありがとっ』
『気をつけて!』
鎧武は再び赤いオーバーロードとの交戦に戻る。
そうだ。今の月花の役目は鎧武を赤いオーバーロードとの戦いに専念させること。そのために、蔦の侵攻は月花だけで食い止めるのだ。
ヒマワリフェザーの全てを伸ばした。ヒマワリフェザーは縦横無尽に、向かって来る蔓を次々と切り刻む。空を蹴って回ると、足の羽根が蔓を切り裂いた。
蔓の勢いが徐々に落ちてくる。それを見計らって、月花は眼下の戦いをふり返る。
すでに勝負は決まりつつあった。鎧武がバナスピアで突き、ドリノコで抉り、ブドウ龍砲で撃ち、大橙丸で斬る。
赤いオーバーロードは剣先を上にし、柄を両手で掴んだ。そこに火球が生まれる兆し。
(あ! これ、前ににげた時使ったのだ)
赤いオーバーロードの逃走を知っていたからこそ気づいた。月花は急ぎ赤いオーバーロードの上から背後に回り、
『にがさない』
背中のヒマワリフェザーを赤いオーバーロードに全て巻きつけ、拘束した。
《 パージ 》
ヒマワリフェザーがアーマーから切り離される。月花は即座に赤いオーバーロードから飛びのいた。
呼びかけるまでもなかった。すでに鎧武は火縄大橙DJ銃に無双セイバーを射し、大剣にエネルギーをチャージし終えていた。刀身から上がるエネルギーたるや、巨大な火柱と見紛うほどだ。
『紘汰くん! 行っちゃえぇええええッッ!!』
《 極オーレ 》
『せいやああああッッ!!』
鎧武の×字斬りが赤いオーバーロードに炸裂した。
その膨大なソニックブームによって、赤いオーバーロードは爆散した。
勝ったのだ。
オーバーロードに。あの強大な敵に。
葛葉紘汰が勝ったのだ。
『や、ったあ!』
咲は変身を解除した。倒れそうになるのを気合で堪え、鎧武に飛びついた。ヒマワリアームズの長時間酷使で体は限界だったが、喜びのほうが勝った。さながら長い長い試合を勝ち抜いたサッカー選手のように。
「やった、やったよ、紘汰くん!」
『ああ、やれたんだ。俺たちみんなの力で!』
紘汰も変身を解き、抱きついた咲を持ち上げぐるんと一回転した。
「これが俺の、新しい力――」
咲を下ろした紘汰は、鍵の形をしたロックシードを強く握った。
サガラがオーバーロードの王の持つ果実から取り出した一欠けら。それだけでオーバーロード一体を凌駕した。そんな物を紘汰は手にしてしまったのだ。
「紘汰!」
呼ばれてふり返ると同時、ザックが紘汰にラリアットをかまし――もとい抱きついた。
「何だよ、お前、すげえじゃねえか。いつのまにあんなロックシード手に入れたんだよ」
「まあ、その、色々あってな」
ザックの向こう側では、変身を解いた戒斗たちがこちら側にやって来ていた。戦いは終わったのに、湊が去る様子がないのが、咲にうずうずとした嬉しさを感じさせた。
「悪い、戒斗。遅れた」
「元よりお前の助けなど期待してない――が、今回ばかりは礼を言う」
「私もよ。あなたがいなければ危なかった。ありがとう、葛葉君」
湊が頭を下げた。今までの因縁があるはずなのに慌てて湊に頭を上げさせようとする紘汰に、咲はこっそりくすりと笑った。
戒斗、ザック、湊、城乃内、凰蓮。皆が無事で、紘汰と笑い合っている。
よかった――と安堵した瞬間、咲の視界はぐるりと回った。
「咲ちゃん!?」
紘汰の呼び声が、とても遠かった。
咲は石畳に倒れた。その拍子に、バックルから、ヒマワリの錠前が転がり落ちた。
花開いた、ヒマワリの錠前が。
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