少年と女神の物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第八十二話
俺は客人が来たといわれ、生徒会室に向かっていた。
それも、急ぎといわれたので・・・
「スイマセン、遅くなりました」
「気にしないでください、武双君。そこまで遅くは・・・」
生徒会室に駆け込んできた俺を見て、梅先輩は絶句していた。
まあ、そうだよなぁ・・・とりあえず、今回は生徒会云々ではない用件だというので普段の俺の立場で、
「スイマセン。できた衣装を着ていたので、そのまま来てしまいました」
「いえ、お気になさらず。着替えてくる間、お待ちしております」
「それについては大丈夫です。サイズぴったりなので、きつくもないですし」
そう言いながら中に入り、梅先輩の眼前で拍手を一つ叩き、意識を取り戻してもらう。
「それにしても・・・お話があるのなら、こちらから伺いましたのに」
「そうも行きません。王ともあろう方にこちらから訪れないなど、とても」
そう言いながら深く頭を下げてくる梅先輩のお父さん。
そして、その隣では梅先輩のお母さんも頭を下げており・・・それも、二人揃って正装だった。
・・・俺、こんな服装でここにいるんだけど・・・せめて、制服に着替えておきたい。
ほら、あれだって一応は正装なんだし。
そう考えながら二人の正面に座り、梅先輩は全員分のお茶を準備してからお父さんの隣に座る。
俺一人か・・・向こう、俺の年齢とか理解してるのかな?
「それで・・・今日は、やはり?」
「ええ。王の庇護下に入らせていただきたく、参上仕りました」
「では、いいんですね?」
「はい」
そう言ってようやく上げてくれた顔には、俺にいわれたから、などの理由ではなく・・・・
本気でそう思っている、ということが分かる覚悟が見えていた。
ああ・・・俺、一生この人には追いつけないな。
「形のみ、とのことでしたから委員会への恩もあだで返さずに済みますし・・・それに、自分達二人だけなら我慢すればいいのですが、」
そう言いながら、隣に座っている娘に目をやる。
「この子には・・・梅には、あんな目にあってほしくないのです」
そこには、さっきまでとはまた違った表情・・・親としての優しい笑みがあった。
俺、この場だけでこの人の人となりを理解できそうな気がする。
「梅は、私達の娘には似合わない才能を持って生まれて、媛巫女にまでなってくれた。私達の唯一、誇れることなんです」
そう言いながらこちらを見ているお母さんも、強い意志を持った人だ。
それがすぐに分かった。・・・いいご両親を持ったんだな、梅先輩は。
「だからこそ、梅が誰にも傷つけられない場所に居て欲しいのです。それに、梅は貴方のことを心から信頼している」
「失礼ながら、私達魔術側の人間は世界に八人存在するカンピオーネの方々に対し、あまりいい印象を持っておりません」
「まあ、それは正解ですね。何をしでかすか分からない、火薬庫で花火を振り回す、そんな表現が似合う連中ですよ。もちろん、俺を含めて」
何せ、世界遺産を破壊するようなヤツや出雲大社で大暴れするようなヤツがいるんだ。
それくらいの認識、むしろ甘いくらいであろう。
「ですが、梅が信頼している貴方になら、と考えたのです」
「そうですか・・・なら、俺も男です。そこまで言われて何も思わないわけじゃない・・・それでも、」
そして、俺自身も頭を下げる。
「家族のことを最優先に考える、それが俺です。なので、何かあった際には家族を優先してしまう・・・そのことについて、先に謝らせていただきます」
「そ、そんな!お顔を上げてください!」
ものすごく焦った声が、前から聞こえてくる。
「それについては理解しております。それでも、梅のことを考えてくださる。そう思ったからこちらから頼みに来たのです」
「・・・そう言っていただけると、とても助かります」
そして、こちらもしっかりとお父さんの目を見て、
「では、俺に出来る範囲で・・・いえ、俺に出来る以上に梅先輩を守らせていただきます。例え、相手が神であっても」
「とても・・・とても心強いです」
そう言いながら再び頭を下げたお父さんは、先ほどまでの表情を少しばかり崩していた。
つまり、さっきまでほど真剣な話をするわけじゃないんだな。
「話は変わりますが・・・梅を娶る気はありませんか?」
「はい!?」
そして、こんな反応をしてしまった俺は悪くないはずだ。
うん、悪くない。むしろ、この反応が普通のはずだ。
「えっと・・・何割冗談ですか?」
「十割本気です」
「おおう・・・」
この人、間違いなく本気だ。
にしても・・・
「梅先輩、俺にはもったいないと思うんですけど」
「そんなことはありません」
「いや、俺は世界を脅かす魔王ですよ?」
「そして、自分の大切な人を守るためならばその力を揮えるお方です」
「性格、かなり捻じ曲がってると思いますよ?」
「それもまた、一つの個性です」
何この人、いろいろと寛容すぎる。
「それに、何より重要なのは本人達の意思だと思いますので」
「ちょ、お父様!?」
そして、お父さんの言葉に梅先輩が反応してしまった。
にしても、なんでお父さんはそのことを・・・
「なんだ、もう伝えてあるのだろう?」
「そ、それは、そうですけど・・・」
あ、認めちゃうんだ・・・
「えっと、一ついいですか?」
「はい、構いませんよ」
「では・・・なんで、そのことを知ってるのですか?」
「親ですから。それくらいは分かります」
親ってスゲー・・・父さんと母さんもそうなのかな?
「いや、だとしても・・・」
「それに、貴方の家族となることが出来れば、梅はより守っていただける。・・・申し訳ありません。親としては、そこも気になってしまうのです」
「いえ、それはいいんですけど・・・」
まあ、そこも魅力的なんだろうな、というのは簡単に分かる。
分かるんだけど・・・
「一応、俺はまだ結婚が出来る年齢ではないので・・・」
「もちろん、分かっています。なので、今回はこちらにその意思があるということだけ理解していただければ」
つまり、後は本人達の意思次第だ、と・・・またなんとも、大変なことになったものだ。
ただでさえ、返事が出来てないんだから・・・
「・・・分かりました。真剣に考えさせて」
「待ってください」
そして、返事を返そうとしたら梅先輩に遮られた。
「どうしたんだ、梅?」
「申し訳ありません、お父様。ですが、その話についてはもうしばらく待っていただきたいのです」
「そのわけは?」
「私は確かに、武双君に気持ちを伝えました。ですが・・・あれは事故のようなもの。しっかりと、別の機会に伝えなおすつもりなのです」
「・・・そうか、分かった」
そして、お父さんは再びこちらを向いて、
「申し訳ありません。梅がこの様子なので、それまで考えるのも待ってくださいませんか?」
「分かりました。・・・正直、助かります。まだそういったことを考えるには未熟者なので・・・」
そこで、俺は一つの作戦を思いついた。
そういえば、まだ脅しの電話をかけてないんだよな・・・なら、
「では、話も纏りましたので・・・一つ、作戦に協力していただけませんか?」
思いついた作戦をそのまま、三人に伝える。
これなら、電話をするより上手いこと行くんじゃないかな?
ページ上へ戻る