少年と女神の物語
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第八十三話
「全く・・・なんて作戦を思いつくのですか、武双君は」
「そこまで言われる作戦でしたか?むしろ、かなり穴がない作戦だったと思いますけど」
今回取った方法なら、あいつらはとぼけることも出来ない。
俺という存在が持つ全てを利用した、かなりの作戦だと思う。
「確かに、穴はないですけど・・・彼らからしてみれば、トラウマ物ですよ?」
「そんなこと、俺が知ったこっちゃないです。自業自得。そうでしょう?」
「確かにそうですけど、そうなるように仕向けたのはどなたですか?それに、あんな作戦は武双君以外の誰にも思いつきませんよ、まったく・・・」
本気で呆れたような表情をしながら、梅先輩は、
「私の姿に変幻して、手を出してきた人たちの前でもとの姿に戻るなんて・・・」
「どうせなら、徹底的にやったほうがいいでしょう?そう思ってやったまでです」
そう言うことが出来るあたり、舞台袖の大役者は便利な権能だよな。
で、ある程度人数が集まったところで権能を解除。そのまま堅牢なる大親分で異界に落とさせてもらった。設けたルールは、誓いの槍に誓うまで全身を痛みが走る、というもの。
言い逃れの手段をなくし、逃げ場をなくし、穂先に誓うしかなくなる作戦。
ついでに脅しておいたから、誰かを使って間接的に、という手段も奪った。
それでもくるようなら、一族丸ごと滅ぼせばいいだろう。
「はぁ・・・まあ、なんにしてもありがとうございます。彼らには失礼ですけど、スカッとしましたし」
「それなら良かったです。また何かありましたら、隠さず言ってくださいね。何回でもやりますから」
「そう頻繁に権能を使う宣言をされると、媛巫女としては色々と複雑なのですが・・・」
「鈴にも言いましたが、普段から使ってるので今更ですよ」
さすがに、普段から世界を脅かすレベルでは使っていないけど。
それはまずいって事くらいは、俺でも分かる。
「あ、それと、その・・・」
「なんですか?」
「・・・父が言っていたことなのですが・・・」
一瞬で、二人の間に気まずい空気が流れた。
あの話、あれで終わりじゃなかったんだ・・・
「あーっと、あれって・・・」
「・・・恐らく、父は本気です。カンピオーネの親族、というだけでもこの世界では一つの箔ですし、それと・・・間違いなく、父は私の気持ちを知っていますから・・・」
「そう、なんですか・・・」
「さすがに、あのことは知らないでしょうけど・・・」
そう言いながら、自分の唇を指で抑える梅先輩。
この仕草ってことは、つまり・・・あれ、だよな・・・
「えっと・・・今更になりますけど、あの時は申し訳有りませんでした。その、はしたないまねを・・・」
「い、いえ、それについてはお気になさらず・・・イヤではないですし」
「そ、それならよかったです・・・初めてだったので・・・」
このあたり、家族とは違うと思うけど・・・うん、なんかなぁ・・・
くすぐったいというか、なんと言うか・・・
「その・・・それなら、父が言っていたことも考えてみてください」
「・・・梅先輩は、それで?」
「・・・そうなったらいいな、とは思っています」
そこで、偶に一緒に帰る際に別れる道についた。
「そう、なんですね・・・」
「はい。私の気持ちは、前にも話したとおりですから」
そして、梅先輩は真っ赤になった顔を上げ、同様に真っ赤になっているであろう俺の顔を正面から見てくる。
「前にも言ったように、私はまた改めて告白します。その時も、返事を急いでもらうつもりはありません」
ですが、と梅先輩は続ける。
「答える際には、父が話していた件まで考えてください。・・・スイマセン、重くなってしまって」
「いえ・・・でも、そうですね。分かりました。・・・間違いなく、すぐには返事が出来ないと思いますけど・・・」
最後に情けなくなってしまったが、梅先輩は笑ってくれた。
「それでもいいんです。私は、武双君のそう言う初心な所も好きなんですから」
そう言って、梅先輩は自分の家に向かって歩いていく。
やっぱり、年上なんだよなぁ・・・どうしましょうか。
◇◆◇◆◇
「ただいまー」
「ん、ああ武双君か。おかえりだ」
家に帰ったら、ナーシャが出迎えてくれた。
あれ?他のみんなは?
「他の人たちは、材料を買いに行くといってたな。夕飯を作らないといけないからボクだけ残ったが」
「材料・・・?一体何の・・・」
「それについては、まあ当日をお楽しみに、だな。・・・いや、絶対に見るな」
なぜか念押しをして、ナーシャは奥に向かって歩いていった。
「・・・なあ、何をしようとしてるんだ?」
「聞くな。ボクは何が何でも回避するつもりなんだ」
何か強い意志を感じて、俺は何も聞けなくなった。
「・・・ああ、そうだ。武双君、槌の類は作れるかい?」
「槌・・・?ああ、ハンマーか。立派な武器だし、作れるけど」
そう言いながら、手元に作って見せる。
と言っても、初めて作るからこれくらいのサイズがいいのか悪いのか、全く分からないけど。
「もう少し小さめ・・・重さはこのくらいでいいか。そう言うものは造れるかい?」
「あー・・・こんな感じ、かな?」
そう言って新しく渡すと、ナーシャは一つ大きく頷いた。
「ありがとう。そういえばまだ武器は持っていなかったことを思い出した」
「今更だな。まあ、ナーシャはかなり術が使えるから問題なさそうだけど」
「それはそうなんだがな・・・そうだ、せっかくだから試してみないか?」
そう言いながら、ナーシャは地下のほうへと向かって歩いていく。
「試す、って言うと?」
「久しぶりだから、どれだけ使えるか分からないんだ。手合わせといこうじゃないか」
まあ、武器を持つこと自体久しぶりみたいだし、それくらいはしたほうがいいかもしれないな。
そう考えて、俺もナーシャの後に続いて地下に入る。
そのまま向かい合って、俺は槍を二振り作って構え、グレイプニルのアクセサリーをつけて権能を使えなくする。
そして、お互いに見合って・・・同時に走り出した。
俺が突き出した槍をナーシャがハンマーで横から殴ってきたので、折られる前に力を抜いて手の甲で回して、ハンマーを受け流す。
その結果、ナーシャは後ろに跳んで距離をとり、武器を狙わずに直接俺の頭を狙ってくる。
よって、俺は石突きでハンマーと力比べをして・・・一瞬力を抜いて、バランスを崩したところに一気に距離をつめる。
すると、何のためらいもなく足にハンマーを落としてきたので、
「骨ー!!!」
つい叫んでしまった俺は、悪くないと思う。
普通の武器なら、鋼鉄よりも硬いカンピオーネの骨に対して影響を出すことなど不可能だ。
が、今回ナーシャが使っていたのは俺が権能で作り出したハンマー。
蛇殺しの鋼の属性を持っているし、それ以前に神やカンピオーネを相手取るもの。
それが落ちてこれば、もちろんこうなる。
「・・・大丈夫かい?」
「そう見えるんだとしたら、眼鏡かけろ」
「いや、最初こそ叫んでいたが、もうなんともなさそうにしているじゃないか」
「そりゃ、カンピオーネだし」
痛みになれてきた俺が居る。
いやね?なれないとやってられないくらいには死線を乗り越えてきてるし、それはいいんだけど・・・
「・・・そ、それで、その足はどうするんだい?」
「ん?あー・・・放置、ってのはダメかな?」
「ダメに決まってるだろう!?」
思いっきり言われた。
「いやでも、これくらいの傷はしょっちゅうだし」
「その感覚が狂っているんだ。全く・・・そうだな。もしどうしても、というのなら、傷を治してあげなくもないぞ?」
そう言っているナーシャの頬は、赤くなっている。
恥ずかしいなら言うなよ・・・
「大丈夫だよ。すぐに治せるし・・・」
なぜかショックを受けたような顔になった。
むぅ・・・
「・・・そうほいほいとやるわけには行かないだろ?」
「それは、そうだが・・・」
「緊急事態でもないなら、あの方法は使わないほうがいいんだよ。・・・」
そう言いながら手を突き出し、言霊を唱える。
「民よ、甘美なる酒に酔いしでろ。我は酒を持って薬を為し、薬を持って酒とする。今一度命ず。民よ、甘美なる酒に酔いしでろ」
現れた酒樽を傾けて中身を煽り、ついでに効くかは分からないが足にもかけて傷を治しきる。
さて、と。
「皆帰ってきたみたいだし、そろそろ戻ろうぜ」
「はぁ・・・そうだな。ボクが当番なのだから、早く準備しておいた方がよいだろう」
話が纏ったところで、俺たちは地下の出口へと向かった。
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