少年と女神の物語
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第八十一話
「・・・何やってるんですか、会長。書記さん」
材料を抱えて帰ってきたら、会長と書記さんがトランプをしていた。
トランプって、普通二人でやっても面白みが・・・あ、スピードならそうでもないのか。
「・・・役をかけての勝負です」
「お願いなので、それは別の時間にやってもらえません?生徒会が指示を出して動いてもらわないといけませんし」
「その前に・・・ジュリエット役を決めないと、衣装が作れないんです」
書記さんの言葉で、俺は納得できた。
そして、それ以上に面倒な状態であることをようやく理解した。
「現在、お二人の戦績は十勝十敗。いつ勝負が付くか分かりませんね」
「それでいいんですか、副会長?」
「よくはないですけど、仕方ないですね。決めないわけにも行きませんから。あ、会計さん。その材料は全部こちらに」
「あ、はい。了解です」
そして、見届け役として捕まった庶務さんを生贄に、俺は副会長と共に歩き出す。
「にしても・・・あの二人、そんなに主役がやりたいんなら俺が譲るんですけど・・・」
「そもそも、ロミオは男性ですよ」
「二人とも綺麗ですし、男装しても似合うと思うんですけど」
「まあ、確かにそうですけど・・・そう言う問題ではないので、会計さんはそのままロミオをやってください」
なら、どういう問題なのだろうか・・・むう、分からん。
「というか、何で俺はロミオ役に決まっているのでしょう?」
「生徒会がメインをやらないわけには行かないでしょう」
「なら、さっきも言ったように男装でもいいんじゃないですか?」
「なんで男性が居るのに男装をしなければならないですか」
ごもっともである。
だがしかし、俺がロミオをやってあの二人に釣り合うかと言われれば・・・
「なんにしても、あの二人のやる気のためにも会計さんはそのままロミオをやってください。台詞などはもう覚えましたか?」
「一応、台本は丸暗記しました。少しズルもしましたけど」
「それについては問題ありません。むしろ、そうでもしてもらわないと台詞を覚えきれないかもしれませんから」
「俺、そこまで記憶力悪くないですよ?」
「会計さん、いつまつろわぬ神との戦いをするのか分かりませんから」
否定できない。
つい昨日、神との殺し合いをやってきた身だから否定が出来ない!
「どうですか?身にしみましたか?」
「はい、とても・・・」
「なら、会計さんが居ないとできないことを進めてきてください。まずは、その材料を全て届けることを」
「とか話している間についてますよ」
そう言いながら俺は担いでいたものを降ろして、紐と途中から使っていた蔦を切って取りやすいように並べる。
そのまま声をかけて取りに来るよう言い、
「で、俺は何をしたらいいですか?」
副会長に、指示を求めた。
会長が居ない以上、副会長の指示を仰ぐしかない。
「では、まず・・・」
そして、副会長は裁縫班が活動している教室(四階)を指差し、
「あそこに行って、当日の衣装を作ってもらってきてください」
「・・・え、俺のも作るんですか?」
「当然でしょう?」
さも当然のように言われた。
「あの・・・俺、権能を使えば衣装くらいどうにかなるんですけど」
「ああ、芝右衛門狸から簒奪した権能ですね。ですが、せっかくの文化祭ですから。例年通り、衣装は作ってきてもらいます」
そこで、俺は毎年の事ながらかなり恥ずかしい思いを文化祭でしていることを思い出した。
「あの、副会長。まさかとは思いますけど・・・」
「ああ、例年通り文化祭では衣装を着て過ごしてもらいます」
「やっぱりか!」
俺はその場で頭を抱えたくなった。
「生徒会の人間であることは一目で分かりますし、色々と助かりますから」
「ということは、他の四人も?」
「何かしらの衣装を着てもらいます」
そうなのか・・・それはまた、目立つなぁ・・・
よし、何かあったらすぐに衣装になれるようにだけして、権能で制服姿に変幻しておこう。
「・・・そういえば、今年も二日、両方で劇をやるんですか?」
「その予定ですよ」
「なら、初日と二日目でジュリエット役を分けるのはダメなんですか?」
「・・・台詞や動きなどは、」
「二人とも頭いいですし、そこまで無謀じゃないと思いますけど」
そう言うと、副会長は顎に手を当てて思考を働かせ始める。
そして、一つ頷いて。
「それで行きましょう。これ以上、生徒会役員三人が仕事から離れているわけには行きませんから」
「了解です。では、ついでにロミオ役もあと一人・・・」
「却下です」
あっさりと却下された。
むぅ、思い通りには行かないか・・・
俺は少しばかり敗北感を味わいながら、大人しく裁縫班の元に向かった。
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