リリカルなのは~優しき狂王~
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2ndA‘s編
第六話~交渉の入口~
前書き
更新です。
最近はスパロボなぞをやってる作者です。
やった感想としては聖天八極式が今回も優秀で、フルメタル・パニックとの絡みも多くて嬉しかったですね。
では本編どうぞ
海鳴市・結界内
結界の中であるとは言え、風などの自然の干渉を遮断することはできない。その為、ビルの屋上に居れば、それなりに強い風を受けてしまう。
その風が目的地であるビルの屋上まで走りぬいたライの身体を冷ましていく。
手に握る鉄パイプはこのビルの屋上に設置されている資材置き場にあった資材の中から拝借したものである。その、空洞になっている何の変哲もない鉄の筒はライがいつも握りしめている剣などに比べて、余りにも軽く頼りない感触を自己主張していた。
「……こうして会うのは二度目か」
「テメーが横槍を入れるのも、な」
ポツリと呟いた独り言にヴィータは律儀に返答を返す。意外に反応が悪くないことで「これなら交渉の余地はあるか?」と内心で打算をしながら睨み合いを続ける。
そうしていると、ここまで急なライの登場に意識が付いてきていなかった女性が声を上げる。
「ちょ、貴方は誰っ?!ここは危険なのよ、逃げなさい!!」
叫んではいるが、小脇に抱えられている人間が小脇に抱えている人間に怒鳴ったところで威厳も何もあったものではない。
「喋っていると舌を噛みます」
視線を目の前の二人に固定したまま、ライは忠告する。
内心で打算をしていたライであったが、第三者である抱えている女性がいる為、迂闊な会話はやめておくことを内心で決心しながらも、今回交渉を諦めることになったことに不満たらたらであった。
取り敢えず、この場では自分が不利であることは誰の目にも明らかであった為、ライは逃走ルートを脳内でシミュレートしていく。
(屋上までの出口は八メートル弱。此処についた時点での細工は一つだけ。現状での優先事項はこの女性を逃がしてから、シグナムさん達との会話を行うこと。ヴォルケンリッターはあと二人。不意打ちを狙えるのはザフィーラのみ。向こうの管制をシャマルさんが行っていると仮定すると、僕が一人になるだけでも交渉はできる……か)
そこまで考えた時点でライは口を開く。とにかく今は、目の前の二人から逃げるために何かの切っ掛けを作ろうとする。
「今回も僕は逃げるつもりだが……見逃す気はあるかな?」
「ざけんなよ。いきなり表れて、反撃してきておいて今更被害者面すんな!」
「こちらには目的がある。気に入らないのであれば抵抗しろ」
「……ごもっとも」
辛辣な――――と言うよりは正論な返答を返されては、ライとしても苦笑いするしかない。
二人の睨みが強くなった瞬間、ライは一瞬だけ屋上の出入口を一瞥する。
それを確認した二人は、逃がすまいとライに向けて突撃した。
二人が向かって来た瞬間、ステップを踏み三人が直線上に並ぶように移動するライ。二人の内速度が早かったのはシグナムであり、彼女と対面するように立ったため、一時的にヴィータの姿をライは見失う。
しかし今は彼女ではなく、目の前の烈火の将の対処が先だ。本能が訴えてくる警鐘を意図的に無視し、見慣れているが細部の違う炎を纏った剣を迎え撃つ。
横凪に振るわれたシグナムの剣に対し、ライは身を低くし下から上にすくい上げるように手に持った鉄パイプを走らせる。
「ッ!」
澄んだ音が響く。
構造が空洞であるため、腕が痺れるほどの衝撃を受ける。渾身の力で振るわれたそれはパイプを曲げる代わりに、ほんの少し横一線の斬撃を持ち上げた。
体の近くを通った刀身が纏う炎に炙られる感触を味わいながらも、ライは足を動かす。
シグナムとヴィータの二人は彼がそのまま出入り口に向かうと予想し、シグナムの影に隠れるようにヴィータはその出入り口の方へ回り込もうとした。
「「!?」」
驚きを表したのは二人。だがそれは突撃してきたシグナムとヴィータの方だ。
あろうことか、ライは屋上の出入り口ではなく逆方向。ビルとビルの隙間にある裏路地へ向けて飛び降りたのだ。
「バカ!死ぬ気か!!」
咄嗟に叫んだのはヴィータ。彼女はシグナムの背後にいた為に“それ”に気付いていなかった。
ライと出入り口を直線で結ぶ様に一本の線が引かれている。シグナムはそれにすぐに気付く。
その線の正体はライが鉄パイプと一緒に拝借していたワイヤーである。出入り口の近くに結ばれたそれをライは女性を抱えている手に握りこんでいた。
数メートルの隙間になっているビルとビルの間。そこをライは落下していく。
曲がって使い物にならなくなったパイプを捨てると同時に、持っていたワイヤーが張力を生む。ライは咄嗟に空いた右手でワイヤーを掴みバランスをとる。命綱になっているそれは掌を削ぎ落そうとしてくるが、彼は歯を食いしばって耐えた。
ワイヤーが張るとライの身体は振り子の様に揺れる。飛び降りた際に勢いが付いたために、ビルの屋上のヘリを支点にした円軌道をライの身体は描く。
「ッ!!……ケホッ」
それなりの勢いを持った質量となった身体がビルの窓に叩きつけられる。
抱えた女性を傷つけないように、背中に当たるよう体の向きを変えたのだが、その衝撃は強かった。
肺の中の空気を吐き出しそうになるのをこらえて呼吸が一瞬できなくなった彼は、咳き込むように息を吐いた。
振り子の勢いがなくなったのを感じながら、ライはぶつかった窓に視線を向ける。
すると放射状の罅が入った窓ガラスがそこにはあった。
好都合と思いながら、ライは一度壁を蹴ることで勢いをつけてから、膝蹴りを窓に叩き込む。
二度の衝撃に耐えることのできなかった窓ガラスは砕けるように割れ、ライはその勢いのままビルの中へ飛び込んだ。
痛みで感覚のなくなってきていた手が、自然とワイヤーを離す。支えのなくなった身体は室内の床に転がることで、やっとその動きを止めた。
「ハァ……ハァ……」
先程まで落ち着いていたのが嘘の様にライの呼吸が乱れ始める。
しかし、ここで呆けるわけにもいかない為に、横たわっていた自分の身体に喝を入れて動き始める。
「怪我は――」
質問をしようと今まで抱き込むように抱えていた女性に声をかけて、セリフの途中でその口を閉じた。
気絶していたのだ。抱えていた女性がデバイスを持っていた為に魔導師であることは予測がついたが、どうやら彼女はバリアジャケットを展開していない生身の状態で衝撃を受けることには慣れていなかったらしい。
取り敢えず、目に見える範囲で外傷の確認をした後、その場から離れるためにライは彼女を背負う。そしてそのビルの非常階段で一階まで移動し、裏口から路地裏に出る。
すると、新たに大きな魔力反応を感知し、ライは身を隠すように路地裏から顔を少しだけ出して上空を伺う。
そこには前回とは異なったデバイスを持ったなのはとフェイトの二人が、それぞれヴィータとシグナムの二人と交戦を開始していた。
(デバイスが未来の二人が持っていたものに似ている)
自分の中の記憶と照らし合わせて、二人のデバイスの差異や酷似している部分を洗い出して行く。
そしてハード面においてこちらの世界の方が数箇所優れている部分も見受けられた為に、ライはこの世界が自分の訪れた世界の過去ではなく、それに限りなく酷似した平行世界ということに確信を抱いた。
(これからどうするか。魔法なしではシャマルさんと顔合わせはできないだろうし。ザフィーラも誰かと交戦中。……今回も見送るか)
そこまで考えたときにライはある感覚を覚える。それはある意味で慣れ親しみ過ぎている感覚。それは元の皇歴の世界では頻繁に、そしてミッドチルダでは数度感じたことのあるものである。
(見られているな。蒼月はステルスモードで待機中。トレースされたのは彼女か)
ちらりと背後に視線を向けるが、視界に入ったのは特徴的な緑の髪だけであった。
彼女がデバイスを持っていることから記録が残ることを踏まえ、これまで肉声や念話の類を使用していなかった。だが、ここまで自分の動きに制限がついてしまったのはライにとっても計算外である。
(………………一か八か……かな)
ぐるぐると回る思考を続けた末にライは一つ決断し、振り向いた。
振り向いた先は視線を感じた方向、恐らくはサーチャーがあるはずの場所。
「――――――」
発声をせずに口だけを動かす。
たった六文字の言葉をライは口パクで“喋る”。
今できる最大限の行動。それを終えたライは歩き出そうとして一歩踏み出したところでその動きを止めた。
「……その物騒なもの下げてくれません?」
「貴方は何者かしら?」
ライの声に返ってくるのは質問と首に突きつけられた槍のようなデバイスの先端。
「一般人ですよ。襲われそうな人がいたので横槍を入れただけです」
白々しい言葉を吐いていると言う自覚をしつつ、背中に感じていた重みが感覚的に軽くなる。背負った本人が意識的に姿勢を整えた結果である。
「私をどうする気だったのかしら?」
「別にどうもするつもりはありませんよ。上で戦っているどちらかに引き渡します」
お互いに顔を合わせずに話している奇妙な状況。更に言えば、背負われている人間が背負っている人間に武器を突きつけているのも、その奇妙さに拍車をかけていた。
「これって正当防衛成立します?」
「私を誘拐しようとした貴方に武器を向けていることなら成立するわ」
「さっき引き渡すって言ったのに」とか、「今背中でいい笑顔しているんだろうな~」とか考えながらライは思考を働かせていく。
「……非現実的な事が起きているのに冷静なのね?」
「背負っていた女性がどこからともなく取り出した槍を、自分の首に突きつけていることですか?」
ちょっとした意趣返しに背中で身体を強ばらせるのを感じるライ。
(人を傷つけるのに慣れていないのか)
漠然とそんなことを考えながら、どうしたものかと考え始める。
「……名前は?」
「ライ・ランペルージ」
「外国人……いえ、異世界人かしら?」
「……なんのことです?」
できるだけ自然に。そしてどこまでも混乱したように声を出す。
「理解できない」と言う態度をできるだけ自然に装うライの姿は、本当にただの一般人で背中にいる女性を混乱させた。
「……あの?」
「……何かしら?」
「そちらの名前は?」
「……リンディ・ハラオウン」
(ハラオウン?)
聞き覚えのある名前に思考が集中する。
背負っている女性、リンディの名前から彼女がフェイトの親類縁者であることを予測したライはこの女性が管理局員であることも察した。
正直に言ってしまえば、ここで管理局とことを構えるのはうまくない。ライはあくまで個人であるため、どれだけ頑張っても組織ぐるみの妨害をされると後手に回らざるを得ないのである。
その為、ここはできるだけ穏便に済ませようとするために、譲歩の形をとろうと妥協する。
「では、リンディさん。僕はどうするべきですか?」
「え?」
「この非現実的で、非日常的で、非常識的な状況の中で僕はどうするべきですか?」
「……私たちに事情を話してもらいます」
彼女が「私たち」と言ったことから、ライの予測通り彼女が管理局員であることはほぼ確定した。
さて何を話そうかと思った瞬間、急に視界が白く塗りつぶされ、甲高い音が響き渡る。
ビルとビルの隙間にいた為、大通りなどに比べれば光の強さは大したことはなかったが、それでも視界が回復するのに数十秒を要した。
(目くらまし。逃走したか)
「今のは――」
「あの、下ろしても大丈夫ですか?」
視界がある程度回復してから、いつまでも女性を背負っているのもどうかと考えてライはそう提案する。
リンディも今の自分の状況を客観視できたのか、そそくさとライの背中から降りていった。
するとそれに合わせたように結界が解かれ、こちらに接近してくる幾つかの魔力反応をライは感じたが、それを顔に出さないよう平静を装う。
こちらに近づく二人の子供を見ながら、どうしたものかと考え始めるライであった。今は視界に映る裏路地の陰気さがこれからの自分の幸先を表しているようで、うんざりするライであった。
後書き
最近、ライのキャラがぶれてきてないのか不安です。
今回はIfの話も上げましたので、そちらの方も読んで頂ければと思います。
では次回も更新頑張ります。
ご意見とご感想を心待ちにしておりますm(_ _)m
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