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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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2ndA‘s編
  第五話~踏み込む人々~

 
前書き

投稿が空いてしまいました。
最近、色々と違う作品の構想やこの話の番外編とか書いていたりして、その分本編が遅くなると言う本末転倒な感じになってしまってました。

では本編どうぞ 

 



管理局本局・アースラ内


 先程まで闇の書の映像しか映していなかったホロスクリーンは今、今回の襲撃の際にその現場にいた人物たちを映していた。
 その映像を解析するために座席に座りキーボードを忙しなく叩いているのはエイミィ。そしてそれを後ろから見ているのはクロノ。先ほどとは配置を逆にした状態で二人は解析作業を続けていた。
 魔導師戦における映像で、襲撃者であるシグナムとヴィータの二人が使用していたデバイスのカートリッジシステムや古代ベルカではメジャーであった近接魔導戦の考察はレイジングハートとバルディッシュの映像記録により滞りなく進む。粗方襲撃者側の二人の解析を済ませ、二人は最後に残った当事者の一人にその思考を集中させた。

「エイミィ、彼から魔力反応――リンカーコアの存在は確認できるか?」

 クロノの問いかけに呼応するようにホロスクリーンに展開される画像がライの像を結んでいく。
 キーボードを叩く指を止めることなくエイミィは背後からの問いかけに首を横に振ることで答える。

「その場を観測した訳じゃないし、あくまでこれは映像に過ぎないから確認はできないよ」

「そうか……」

 エイミィからの答えに眉を顰めるクロノ。彼の視線はヴィータから逃げるライの映像に向けられている。その目は解析を行うようなものではなく、どこかきな臭いものを判別しようとする疑惑の眼差しであった。

「クロノ君?」

「エイミィ、なのはとフェイトを発見した時の彼の遺留品から素性は判明できないか?」

「えっと、マフラーと上着のことだよね。マフラーは大量生産品の一つに過ぎないから判別は難しいけど、上着は学生服みたいだったから判別できるかも。それに上着の裏に『L・L』ってイニシャルも刺繍されていたから、ある程度の絞込みはできると思う」

 ライが現場に残してきたマフラーとアッシュフォード学園の学生服の上着は管理局が回収し、鑑識に回されていた。管理局側の対応としては、どんな形であれ事件に首を突っ込んだ一般人を放置しておくわけにもいかない為、何とかしてライと接触し事情聴取をした後、保護若しくは協力の要請をするつもりである。

「クロノ君、結界内にいたってことはこの人もリンカーコアを持ってるはずだけど、逃げる時もデバイスは愚かバリアジャケットも展開してない。この人は魔導師じゃなくて純粋に一般人じゃないかな?」

「……でも彼は背後からの魔力弾を振り返ることもなく回避している。それに遺留品のマフラーと学生服を彼はどこから出したんだ?」

「それは……」

「攻撃については偶然で説明がつく。だが、戦闘に巻き込まれた一般人がその場に居合わせた魔導師二人を手当して、管理局に見つからないようにその場を去る。それを混乱することもなく実行できるとなるとそれはもう偶然でもなんでもない」

「……」

 クロノの言葉でその場に沈黙が降りる。
 彼の考察と推測はある意味では間違っていない。だが、確定してしまうほど確かなものでもない。しかし『そうかもしれない』と少しでも思えてしまう時点で、それはありえない可能性からありえる可能性の一つに昇格する。
 エイミィもクロノの意見を一つの要素として受け止めていたが、思考に引っかかる事があった為に素直に口を開いた。

「彼も疑ってるの?」

「…………可能性の話だよ」

 短く、そしてお茶を濁すような言葉ではあるがそれは明確な肯定の返答であった。



海鳴市・公園


 管理局がライの事を注意し始め数日が経った頃、その当の本人は公園のベンチに座り、疲労感から来る眠気という敵に缶コーヒーという武器で迎撃していた。

(マスター、お加減は?)

(怪我を直した分の魔力の補填はそろそろ終わる。この疲労感もそろそろ途切れるさ)

 なんでもない風に念話での会話にそう宣うが、それなりにこの疲労感についてライは重く捉えていた。
 今現在、ライの身体は魔力で編まれた魔導生命に近い存在となっている。なので、身体を損傷――要するに怪我をすればそれを自然治癒するために魔力を消費し、その補填としてCの世界から不足分の魔力を引っ張ってくることになる。
 だが、ここで問題が発生する。当初、自前のリンカーコアから生成される魔力で肉体構成のものは補えると考えていたのだが、それができなかったのだ。しかしCの世界からの魔力補填となると元の世界と同じく、直接繋いでしまえば集合無意識が流れ込んでくる。その為、今現在Cの世界に残っているパラディンの調整により魔力のみをライに送るように調整がなされている。
 しかしその量は微量であり、擦り傷やかすり傷であればそれでも十分であるのだが、大怪我をしてしまえば自己治癒では魔力が追い付かず、そのまま肉体は消滅し意識がCの世界に戻ってしまうことになるのだ。
 元の次元世界でCの世界との接続を長時間行えていたのは、単に蒼月に組み込まれていたチューニングシステムの恩恵があればこそである。しかし蒼月があってもここにはパラディンが存在しない。
 チューニングシステムは元々、ライの思考速度とデバイスの演算処理能力を合わせるために生み出された物だ。なので、蒼月一機ではライの思考にタイムラグ無しで合わせられるのはせいぜい数十秒でしかない。
 そこで生まれたのがパラディンである。
 蒼月とパラディンの中にはシンクロシステムと言う並列演算処理を行う為のシステムが組み込まれている。これを使うことでライの思考速度に負けない処理が行うことができるようになるのだ。
 したがって、ここにパラディンがあればシステムを使いすぐにでも魔力補填を行うのだが、今のところパラディンはCの世界にいるためにそれはできない。
 言ってしまえば、パラディンをこちらに呼び寄せることはできる。だが、それではCの世界との接続を一旦切ることになる。そうすれば、残されたライと蒼月、パラディンの二機はこちらの世界のCの世界との接続を行える遺跡なり祭壇なりを見つけなければならなくなってしまう。
 なぜなら、Cの世界との繋がりを失くした状態で肉体が消えてしまえば、ライたちの意識はそのまま消滅してしまうのだから。
 その為、Cの世界では今、パラディンがこちらの世界に来ることになってもCの世界との繋がりが消えないように新しくプログラムを組んでいる。
 だが、武装以外の容量を演算の為に開けているパラディン単機ではプログラムを組むのに時間が掛かる。蒼月であればもう少し早いのだが、それではライの目的たる女性の捜索が困難になる。
 それは例えパラディンが手元にあり、Cの世界に蒼月が残った場合でも同じである。早くプログラムを組むことができても、その分捜索の時間が伸びてしまう。良くも悪くも蒼月の性能を武装面以外に特化させ過ぎた弊害が此処に来て現れていた。

「ジレンマだな」

 吐露した気持ちと魔力補填に伴う疲労感を振り払い、ライは頭の中の情報を整理していく。

(彼女がどこにいるのかはともかく、彼女がヴィータ副隊長の持っていた本に関係することは分かった。ならヴィータ副隊長を追えばいい)

 記憶している映像を頭の中で再生しながら今後の方針を決めていく。

(襲撃の最後にヴィータ副隊長が見せた反応から、何かしら彼女たちは焦っている。時間制限か、若しくは目的を達成できる期間が存在するのか)

 そこまで考えたところで、ライの周囲の雰囲気が一変した。
 現在は昼下がりであったのだが、当たり前の様にその公園で遊んでいた子供や雑談をしていた大人が消え去り、閉塞感を生み出す何かを感じる。

「……来たか」

 一言呟き、座っていたベンチから立ち上がる。既に飲み終えていたコーヒーの缶を近くのゴミ箱に投げ入れ、何が起きても対応できる体勢をとる。
 数十秒間その場に佇んでいたが、それだけの時間が経過しても何も起こらない。客観的に見れば、ベンチの前にただ立っているライの姿はどこか間抜けであった。

「……今度も巻き込まれた形か」

 内心で舌打ちしつつ、ライは走り出す。
 ライは何も休憩するために昼間から公園にいたわけではない。昼夜問わず、ライの行動方針としてヴィータやシグナムと言ったヴォルケンリッターに接触するべく彼は自分を餌に彼女らが向こうから来るのを待っていたのだ。
 しかし、今回も彼女らの目的が自分ではない為、交渉の場に持ち込み情報を引き出す事も難しいと考えるとライの気分は少し重くなっていた。
 だが、それでもライの走る速度は落ちない。この程度で落ち込むほど、ライの精神は弱くはない。そして感じ取れる程の大きな魔力が彼を急かした。



海鳴市・ビル街


 シグナムは動揺していた。
 自分たちが住んでいる世界で大きな魔力反応を感知し、結界を展開し、魔力を発していると思われる魔導師のリンカーコアを奪う。ルーチンワークになりつつあるその行動をする為に結界を張ったのが数分前だ。
 そして結界を展開すると同時に魔導師も身を隠すように魔力を抑え、その消息が一時途切れる。これもよくある展開だ、さして珍しがることでもない。例えそれが向こう側からの誘いであったとしてもそれを切り抜けるだけの自信と実力を彼女は兼ね備えている。
 だが、ようやく見つけた魔導師の言葉が彼女を混乱させていく。
 そのビルの屋上に立つ魔導師は女性であった。
 鮮やかな緑色の髪をシグナムと同じくポニーテールにし、この世界の一般人が着るものと同じような服を着ている。そして一枚のカード――――待機状態のデバイスがその手には握られていた。

「闇の書のプログラム、守護騎士『ヴォルケンリッター』…………貴女たちのことね?」

「……」

 自分たちのことを知っている。これもさして珍しいことではない。自分たちという存在が他者に何かしらの恨みを買うようなことをしてきたのは理解している。

「貴女たちが蒐集を行う目的……闇の書を完成させることで何をしようとしているのかしら?」

「そちらの質問に答える義務は無い」

「私の夫がかつての闇の書の犠牲者であっても?」

「!」

 そこでシグナムは目の前の女性の瞳に一瞬だが確かな闇を見た。それがどこまでも深く、暗いことから女性に飲まれそうになる。
 対等とは言い難い睨み合い。
 片やバリアジャケットを身に纏い、デバイスである剣を構える騎士。
 片やただの私服に、待機状態のデバイスを握っただけの魔導師。
 どちらが有利であるのかは口に出すまでもない。だがしかし、今この時に置いてこの場の流れを引き込もうとしているのは騎士ではなく、魔導師の方であった。

「シグナム!」

 変化の起きない睨み合いは唐突に中断させられる。
 叫び声に近い呼びかけと、女性の元に着弾した魔力弾が起爆剤となり、その睨み合いの重く、苦しい雰囲気が霧散する。
 シグナムはその事に内心で安堵しながら、自分の方に向ってくる少女の姿を一瞥した。

「この馬鹿!相手が目の前にいるのに惚けやがって!!」

「ああ……すまない」

 短くもしっかりとした謝罪に、ヴィータはそれ以上追求するのをやめる。だが、不満が残るのかその表情はしかめっ面のままであったが。
 二人は気を取り直しヴィータが放った魔力弾が着弾したビルの屋上に視線をやる。その視界には、着弾の際に生じた土煙が未だに空へ向けて流れていた。

「手応えは?」

「ねーよ、この程度じゃケリはつかねー」

 端的な会話が終了すると同時に煙の中から二つの物体が飛び出してくる。
 その物体は真っ直ぐにシグナムとヴィータの元に迫る。ほぼ条件反射的に二人は飛来してきた物体をそれぞれ叩き切り、粉砕する。
 鉄同士がぶつかる音が響く。その音を聞き二人は眉をひそめた。自分たちの目の前にいたのは確かに魔導師であった筈なのに、飛んできたのが魔力弾ではなく何かの資材であろう短めの鉄パイプであったのだから。
 落下していくパイプに視線が一瞬集まるが、すぐに二人は視線の向きを戻す。すると二人の視線の先には既に昇っていた煙はない。そこには片腕に先ほどの女性の魔導師を抱え、もう片方の手には少し長めの鉄パイプを握り、二人を特徴的な蒼い瞳で見上げる灰色に近い銀髪の青年の姿があった。










 
 

 
後書き

と言う訳で、映画ではこの後なのはとフェイトの2人が生身でフリーフォールと言うちょっと……色々とおかしいシーンです。

次回ですが、間に合えば以前から言っていたFate編か、まどマギ編のどちらかの番外編をアップしようと思ってます。

ということで、次回もよろしくお願いします。

ご意見・ご感想を心待ちにしておりますm(_ _)m 
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