| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

2ndA‘s編
  外伝~If/ライがもしサーヴァントとして現界したら~

 
前書き
以前から言われていたFateの外伝です。
色々とツッコミどころが多かったり、設定の説明不足の部分があるかもしれませんが、それだけ型月作品は設定が綿密であるということで納得して頂けたらと思います。

ではどうぞ。 

 
『聖杯戦争』

 それは万能の願望機、聖杯を求め、七人の魔術師が七人のサーヴァントを使役し、覇を競う殺し合い。
 そこには様々な願いや欲望、そして想いが交差しながらも四度繰り返されてきたが、そのどれもが失敗に終わり聖杯を手にしたものはいなかった。
 そして勝利者を得るまで止まらないその闘争は五度目の幕開けを告げる。



アインツベルン城


 聖杯戦争において一番注目を浴びると言われているのは、聖杯戦争のシステムを構築した始まりの御三家と言われる、トオサカ、マキリ、アインツベルンの三家である。
 今、そのアインツベルンの今季のマスターにして自身が聖杯である彼女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは英霊の座にまで上り詰めた英雄を召喚する儀式を行っていた。
 召喚された英雄はサーヴァントと呼ばれ、マスターからの魔力供給と聖杯からのバックアップによって現世に現界する。
 召喚の際にその英雄にゆかりのある聖遺物を触媒として、特定の英雄を引き当てることを可能とするが、彼女は今回その触媒を用意すること無く召喚に挑んでいた。
 強力なサーヴァントを引き当てるのであれば、触媒を用意するのは鉄則である。しかし、前回の聖杯戦争でそれを行ったところ、マスターとサーヴァントの相性が良くないまま事が運び、その結果勝利と聖杯を得ることなく戦争は幕を閉じてしまった。
 それをしないようにするため、今回は触媒を使わずに召喚することをアインツベルンは選択した。
 召喚は触媒を使わずとももちろん執り行うことができる。その場合、召喚者と性質や境遇、性格が似通った者が召喚されることになるのである。
 そして、ステータスの低いサーヴァントが召喚された場合に備え、理性と引き換えにステータスを向上させる『バーサーカー』を召喚することを選んでいた。
 聖杯戦争における七人のサーヴァントにはそれぞれクラスと呼ばれる特性が存在する。それはその英雄が生前どの様にして生きてきたか、若しくは戦ってきたかによりその英雄に合致するクラスに当てはめられる。
 七つのクラスは、剣を担う『セイバー』、弓を担う『アーチャー』、槍を担う『ランサー』、暗殺を担う『アサシン』、騎乗を担う『ライダー』、魔術を担う『キャスター』、そして狂い争う『バーサーカー』である。
 アインツベルンは今回そのバーサーカーを呼び出そうとしているのである。
 だが、サーヴァントとの不和は理性を奪う時点で解消されてしまうのだが、それに気付かないほどに今のアインツベルンは妄念に取り付かれていた。
 城の一室、礼拝堂に見えるその場所で幼い外見をした一人の少女が魔法陣の前に立っていた。
 整った容姿に銀の髪、そして特徴的な赤い瞳が彼女を造られた存在であることを証明していた。彼女こそ、今回の聖杯戦争のマスターであるイリヤスフィールであった。
 彼女の目の前の床には水銀で描かれた魔法陣。その魔法陣に片手を翳し、彼女はその小さな口を開き、人々によって神格化された神秘を具現化するための言葉を紡ぎ始める。
 長くも短くも感じる詠唱の中で、彼らの意図を挟む言葉が紡がれる。

「――――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
 されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――――」

 可愛らしい外見と声音からはかけ離れたイメージの言葉が詠われる。その言葉によりサーヴァントに1つの楔が打ち込まれた。

「――――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――」

 濃密な魔力が光を放ち迸る中、詠唱は詠い遂げられる。そして光が収まる頃に“ソレ”は魔法陣の中心に立っていた。

「サーヴァント『バーサーカー』契約に従い此処に参上した」

 能力値を上げる代わりに理性を奪われる筈の“ソレ”が堂々と名乗りを上げたことにマスターであるイリヤスフィールは驚いて眼を丸くする。

「問おう、貴方が僕のマスターか?」

 開幕される第五次聖杯戦争においてソレがまず初めのイレギュラーであった。



以下ダイジェスト


アインツベルンの領地・雪の降りしきる森


 理性を持ち、更には歴史に名を残すどころか平行世界の聞いたこともない名を持つ英雄を召喚したことで、アインツベルンの城ではちょっとした騒ぎとなった。
 経歴不明のサーヴァントの性能とイリヤのマスターとしての教育として、野生の獣が蔓延る森の中に彼女とサーヴァントである彼は置き去りにされた。
 サーヴァントである彼は固有スキルによりクラススキルである『狂化』を無効化しているため、冷静な思考の中で彼女が自力で城に戻ることは不可能であると確信していた。

「ッ」

 普段は幽体化している肉体を実体化しようとしたところで、マスターであるイリヤの表情が曇り歯を噛み締めたことで反射的にやろうとしたことを取りやめる。
 聖杯戦争が行われる上で、サーヴァントが受けられるバックアップ。それは聖杯からの恩恵が大きく聖杯がなければサーヴァントの実体化は困難である。だが、聖杯戦争が行われる事を察知してから早急にサーヴァントを召喚したアインツベルン。
 その為、受けられるはずの聖杯からのバックアップを満足に受けることができない今、サーヴァントを実体化させようものならマスターであるイリヤにその負担が全て向かうことになってしまうことになっていた。
 実体化しなければマスターを生きて帰還させることはできず、実体化したとしてもマスターを苦しめ傷つけてしまう現状に歯噛みしつつ、ギリギリまでイリヤの様子を見守るバーサーカー。望めるのであればこのまま問題が起こることなく事態が進む事を祈る彼であったが、それを嘲笑うように彼女の周りを囲むように野犬の群れが現れた。
 白銀の世界の獣達は目の前に現れた獲物を逃す程甘くない。油断せず、群れで徐々にイリヤに対して近づいてくる野犬。それを見ていたバーサーカーは舌打ちしたいのを堪え、即座にイリヤの逃走のための方法を考え、パスによる会話で支持を出そうと考え始める。
 しかしそれを実行に移す前に逆にイリヤの方からバーサーカーに向けて念話が届く。

(バーサーカー、こいつらを排除して)

(マスター?!それでは君が――)

(マスターの言うことが聞けないの?)

 バーサーカーの気遣いを突っぱねる彼女。未だに迷う自らの使い魔に対し彼女は告げた。

「バーサーカー、その行動を持ってして私に誓いを立てなさい」

 耳に届いた言葉は力強く、そしてどこまでも透き通っていた。その言葉でバーサーカーは覚悟を決めた。



 雪で埋もれたその空間に染みのように朱色が混じる。その命を表す染みは点在し、それが意味するのは幾つかの命が消えたという事実だけ。
 その点在する染みの中心には2人の人影。片方は奪った命で服を汚す、銀の青年。そしてもう1人は自らの命で朱に染まった銀の少女。似た色を連想させる2人が並ぶとどこか幻想的な光景に見えるが、今は辺りに散らばる肉片と赤色がそれを損なっている。
 かなりの身長差がある2人は向かい合うように立っている。青年は悲しみや遣る瀬無さを滲ませた蒼い瞳を少女に向ける。そして少女はその美しい赤き瞳に純真さを乗せ青年を見つめていた。

「バーサーカーは強いね」

 無表情で紡がれるその言葉に青年は顔を顰める。しかし次に発した少女の言葉に彼は驚く。

「でもそれ以上に優しいね」

 泣きそうになった。彼女が無邪気に浮かべた笑顔とその言葉に、彼はこみ上げてくる感情を必死に隠そうとする。
 サーヴァントとしてマスターに情けない姿を見せたくない彼は、膝を付き彼女の視線に合わせる様にした後、彼女をしっかりと抱きしめる。
 抱きしめたその小さな体から感じる確かな命の暖かさにまた彼は泣きそうになるが、今はその命を救えた事、今度は決して目的の為にその命を犠牲にしないことを彼は自分自身に誓った。
 手放さないように抱きしめていた彼の頭を少女はゆっくりと優しく撫でる。そして母親が子供をあやす様に彼女は呟いた。

「泣き虫だけど、イリヤがいてあげるから大丈夫。バーサーカーは私を守ってくれるから私はバーサーカーを守ってあげる」

 パスを通じて青年の気持ちが伝わったのか、彼女はその言葉を口にする。そして最後に堂々と彼にこう告げた。

「だって、イリヤはマスターだから」






運命の夜~邂逅~


 小さな坂道の上端から見下ろすように2人は上がってくる3人を見下ろしていた。

(後悔しないかい、マスター)

(しつこいわよ)

 幾度も確認したやり取りがパスを使った念話で行われる。突っぱねるような――――それでいて、意地になっている様な返答の言葉を聞き、彼は腰に挿してある剣に手を添えた。

「こんばんは」

 自らのマスターが透き通るようなよく響く声で言葉を紡ぐ。いきなりの登場に声をかけられた3人は驚いて身構えている。そして自分たちの目の前の存在がどんなものなのか理解をしたとき、その3人はそれぞれ声を発していた。

「君はこの間の…………」

「なによアイツ……狂化してるわけでもないのにステータスが……」

「2人とも下がって!」

 これがある意味では運命の出会い。そして始まりを告げる開幕ベルでもあった。






王の邂逅~戦争~


 聖杯戦争が行われる舞台、日本は冬木市の一角。森の中にアインツベルンが所有する城が存在する。そこは毎回の聖杯戦争に置いてアインツベルン陣営が拠点としていた場所であり今回もそれは例外ではない。
 そして今、その城には2人の侵入者が堂々と正面から訪れていた。
 片方は尊大で他者を見下すような眼をしており学生服を来た少年。そしてもう片方はどこか計り知れないナニカを感じさせる男性であった。
 その侵入者と対峙するようにバーサーカーは実体化し、その2人の前に姿を表す。そしてそれに合わせたようにゆっくりとマスターであるイリヤスフィールが姿を表した。
 少しの間無言で睨み合う両陣営であったが、まず口火を切ったのはバーサーカーであった。

「侵入者が此処に何のようだ?」

「フ、フン。偉そうなこと言ってられるのは今のうちだぞ」

 虚勢をはりながらそう答える少年にバーサーカーは眉を顰める。それは少年の物言いが気に障ったのではなく、自分の質問の返答をしたのが少年であるということであった。
 バーサーカーの中では目の前にいる少年と男では、明らかに男の方が様々な意味で格が上であると感じていた。しかし実際に会話に応じたのはその格上の存在ではなく、明らかに小物に見える少年であったのだから、バーサーカーの中では疑問が残る。

「見せてやれアーチャー、僕とお前の力を!!」

 バーサーカーが眉を顰めたことが癪に触ったのか、突然怒声を張り上げる少年。バーサーカーは少年が自分たちにとって脅威ではないと断定し、イリヤに至ってはゴミを見るような眼をしていた。
 しかし、その少年が脅威とはならなくとも男の方はその限りではない。少年が言葉を発したあと、男は空中に片手を翳すだけでその規格外の神秘は姿を表した。

「!」

「これは……」

 男の背後の空間から様々な武器がその姿を表す。その数20近く。それらは全てバーサーカーに向けられ、いつでもその戦いが始められることを主張する。

「宝具……サーヴァント」

「ハッ」

 今更気付いたかと言うように男は嘲笑を漏らし、翳していた手を振り下ろした。
 途端、男の背後に控えていた全ての宝具が放たれる。
 常人では目で追えても反応はできない領域。イリヤとアーチャーと呼ばれた男のマスターである少年は、バーサーカーの元に着弾した結果しか見ることができなかった。
 着弾したことにより煙が舞うその場所に、三人は視線を向けている。

「ハ、ハハハ、なんだよ。え、偉そうなこと言ってた割にはてんで弱いじゃないか!!」

「「……」」

 煙からなかなか姿を現さないことから少年は場違いな言葉を吐く。残りの2人は煙を見ているがその目つきは明らかに違っていた。
 イリヤはどこか誇るように唇を笑みの形に変え見ている。そこにはあるのは絶対的な信頼。
 対して男性の方は少量の驚きと絶大な殺気を滲ませ、好戦的な表情を浮かべている。
 煙が晴れるとそこには、バーサーカーがしっかりと立っていた。先ほど違うのは片手に剣を持っていることと、彼の周りに深い傷跡と幾多の武器が刺さっていること。

「な、なんで生きてんだよ、お前!」

 癇癪を起こしたように喋る少年にはもう意識も向けず、バーサーカーは口を開く。

「アーチャー、貴様が規格外のサーヴァントであることは理解し、実感した。だが、こちらも目的と、それを成す為の力がある。気を抜いているのであれば、その喉笛を喰い千切るぞ」

「吠えたな、雑種」

 そして規格外同士の戦いが始まる。






~人を救いたかった者と世界を救った者~


 鉄と鉄が打ち合う澄んだ音が響く。それは反響を起こす前に2回、3回と続いていき、まるで土木作業用の機材のように轟音を響かせていく。
 それは赤き弓兵と銀の狂戦士の戦い。人を救うために自らを犠牲とした者と世界を救うことの終止符として自分の死を選んだ者。似ているようで決定的に違う道を選んだ2人。
 彼らは手にした剣に自らの願いと想いを込めて打ち合う。
 剣戟は音と火花を散らし、そしてお互いの想いもぶつけ合う。

「アーチャー、貴様の諦めた末路を過去に押し付けるな!!」

「貴様は分からないだろうな!!裏切られる事を自ら認めたとしても、それでも支えてくれる友がいた貴様には!!」

「八つ当たりをするんじゃない!!英雄にまで上り詰めた存在が言うことか!!」

 片や、自分を含めた何かを切り捨てて全てを救おうとした――――『正義の味方』という曖昧な理想に手を伸ばし続けた愚か者。
 片や、自国を滅ぼし、一度は全てを失ったが再び立ち上がり、犠牲を築きながらも守りたいものを守ろうとし、結果的に世界を救った大罪人。
 歩んだ道のりも、掴んだ結果も、その有り様も決定的に違うのに、その根底は同じ。



『自分が望んだものを救いたい』



 たったそれだけの為に世界を敵に回すことができる二人は、やはりどうしようもなく似通っていた。






~王との問答~


「正義など、その時代、その状況、人の道徳観などでいくらでも含む意味を様変わりさせる言葉だ。そんな曖昧な物を貫き通したいのか?」

 バーサーカーの問は簡単なようでいてそれでいて重かった。

「俺は誰かを救いたい。その気持ちに嘘はないって断言できる。そしてそんな自分の夢を表す、一番解りやすい言葉が正義の味方なんだと思う」

 絞り出すように自分の中の言葉を口にするセイバーのマスター、衛宮士郎。イリヤの父親である衛宮切嗣の養子であり、イリヤの弟に当たる存在。

「生かすことが救いなのか?死にたいと思う人間を生かすのは罪ではないのか?」

「それは――」

「生きるために他人を犠牲にしなければ生きていけない存在もいる。それは悪かもしれない。だが、生きたいと願うのであればその犠牲を許容しなければならない。そうなった時どうする?」

「……」

 切り捨てることは悪なのか?
 そして悪を犠牲に多くの人を救うのは本当に正義なのか?
 彼の中で生まれる当然の疑問。
 その答えを彼は持ち合わせてはいなかった。

「この場ででるような簡単な答えではない。なればそれは貴様が生きることで証明すればいい」

「え?」

「貴様が信じる正しさが何を成し、何を残すのか。それを自分で確かめたいのであれば生き続けろ」

 上からの偉そうな物言いであるが、それはある意味本当の正義を見つけ出すことよりも難しいことであった。少なくとも衛宮士郎にとっては。
 自分が生きる残ることを前提に人助けを行う。そんな当然のことであっても、彼は自分ではなく他人を優先してしまう。それは強迫観念でもなく、暗示でもない。
 それが衛宮士郎にとっての当たり前なのだから。

「そこまでだ、バーサーカー。これ以上、私のマスターを惑わさないで貰おう」

 これまで静観を決め込んでいた士郎のサーヴァントであるセイバーが口を挟む。彼女からすれば、バーサーカーの士郎を諌めるような言葉は寧ろ歓迎するところなのだが、聖杯戦争中に士郎の心が折れるのは避けたかった。

「セイバー、君の願いもイリヤを通して聞いた。故国の救済を望むとか」

「違う。今の私の願いは自分以上に相応しい王を選び直すことだ」

「……ふざけているのか?」

 バーサーカーの物言いにセイバーはカチンとくる。しかし問いただそうとする前に言葉と怒りを織り交ぜた洪水がセイバーを襲う。

「貴様は今、過去の自分を否定するどころか自らの部下を、仲間を侮辱した!」

「な!?その言葉こそ侮辱だ!私は――」

「過去に貴様の――王としての貴様に全てを掛けてでも尽くそうとした人の存在を!誇りを!尊厳を!それらを踏みにじった!」

 セイバーはこの時、怒りではなく戸惑いを覚える。怒りが無いわけではない。しかしそれ以上に自分がバーサーカーの怒りの琴線にどうして触れたのかが理解出来なかったのだ。
 戸惑うセイバーに不満をぶちまけるようにバーサーカーは言葉を続ける。

「貴様が統治した国が滅びていたとしても、その瞬間まで貴様を最後まで信じ抜いた人々はいたはずだ」

 セイバーの脳裏に一瞬、エクスカリバーの返還を命じた騎士の姿が過ぎる。

「その人々が信じたのは貴女が王だからではない、王が貴女だったからだろう?その人たちの願いは、気持ちは、想いはどうなるのだ?」

 その言葉はバーサーカーの怒りではなく、悲しみと懇願するような願いが込められていた。
 それを察したセイバーの直感がある予測を閃かせる。

「バーサーカー……貴様も……いや貴公も…………」

「…………」

 熱くなった頭が冷えたのか、バーサーカーは背中を向けることで視線を逸らしながらも言葉を続けた。

「国を想う気持ちは間違っていない。だけど、それを覆そうとするのは君の自己満足だ。そこに“誰かの為”なんて他人を言い訳に使うのは卑怯だ」

「……」

「それに貴女の仲間はより良き明日のためにその時、その一瞬を生きていた筈だ。なのに貴女はそれをなかったことにし、そして明日ではなく過去の為に戦うのか?」

 バーサーカーはその言葉を残し、その場を去る。サーヴァントとしての重圧はそれにより無くなったが、衛宮士郎とセイバーの中には彼の問いかけがしっかりと残ることとなる。






~世界から見捨てられた者~


 ある少女がいた。
 魔術という才能に秀でただけのただの女の子。
 彼女には姉がいた。寂しがり屋な彼女とは違い、強くて優雅であろうとするそんな姉。
 幼い頃は憧れた。しかしそれは時が経つにつれ、妬みとなり、そして憎しみへと生まれ変わる。
 ただの平穏な幸せを歩めた筈の少女は、生まれた家とその秀でてしまった才能により墜とされていく。
 大人の勝手な都合の道具にされていく。
 最後に彼女は自分が世界に見捨てられたのだと悟り、そして<この世全ての悪/アンリ・マユ>と共感してしまい、自分が憧れたものも、慈しんだものも、憎んだものも分け隔てなく飲み込もうとした。


柳洞寺・地下空洞・大聖杯前


 暗く、広いその空間にバーサーカーは立っていた。しかし、その姿には力強さとは程遠い弱々しさがにじみ出ている。ふらつく事は無いが、その姿はサーヴァントであるのが疑問に感じてしまう程であった。
 彼は今その体を黒い何かに縛られた状態で、地に膝をついていた。
 そしてそんな彼を見下ろす存在が一人。
 その少女は塗りつぶすような黒を纏い、儚げな白い髪と血のように赤い瞳を携えた少女。
 彼女は第四次聖杯戦争の小聖杯のかけらを埋め込まれたことで、大聖杯の中身であり極大の呪いである<この世全ての悪/アンリ・マユ>の力を取り込んだ間桐桜であった。

「……」

「怖い顔でこちらを睨んで……なんのつもりですか、イレギュラーさん?あんまり生意気だと食べちゃいますよ♪」

 可愛らしく聞こえるその言葉には、紛れもない狂気が含まれていた。そこまでに至ったのが齢二十にも満たない少女であることにバーサーカーは戦慄と共に悲しみを覚える。

「怖い顔をしたと思ったら今度は同情をするような目をして……私のことを知りもしない肉の塊のくせに生意気ですよ」

 そう言うと彼女はいたずらを思いついた子供の様に笑みを浮かべ、バーサーカーの額に手を置き“ソレ”を流し込んできた。

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッッッ!!!!!!!!!」

 吐き気を催す光景と感触と感情がバーサーカーの思考を貪り、食い散らしていく。
 流し込まれた“ソレ”が彼女の――間桐桜の記憶であることを彼は頭で理解するのではなく、文字通り実感した。

「ハァッハァッハァッ!?」

「ウフフ、そんなに喜がるなんて、気持ちよかったですか?」

 ゾッとするほど蠱惑的な笑みを浮かべ、彼女はそう問いかけてくる。
 しかし、そんな彼女に対してバーサーカーは先ほどと同じく睨み返してくる。その反応に彼女は些か不満げな顔をしたが、それに対して彼女が文句を言うよりもバーサーカーが口を開く方が早かった。

「何故諦めた、間桐桜?」

「……は?」

「何故、虐げられることを受け入れ、飲み込み、諦めたのかと聞いた」

 意味が理解できなかった問いかけを頭が理解すると同時に、彼女の思考は表情と共に冷え込んだ。

「見て、体感したおバカな貴方でも理解できたでしょう?私はそれすら許されなかった」

「いや、それは言い訳だ」

 彼女の言葉を即座に切って捨てるバーサーカーに桜は一瞬思考が真っ白になる。

「君は自分が優しくて、弱くないと誰も自分を見てくれない、助けてくれないと勘違いし、それを考えないようにしていた。少なくとも魔術師としての才能に向き合っていれば、間桐慎二に虐待を受けることはなかったろうに」

「……」

 バーサーカーの言葉に俯く彼女の表情は、バーサーカーの方からも見えなくなっていた。
 しかし先ほどとは違い、たしかにその場所に存在しているのは濃密な殺気と魔力。だが、そんなものは関係ないと言わんばかりに彼は言葉を吐き出す。

「とんだシンデレラコンプレックスだ。誰かに助けてもらえるのを望んでおきながら、自分は弱く、誰にも嫌われないようにするために良い子を演じ続け、そしてその結果衛宮士郎と言う王子に自分の本当の姿を晒すこともできなくなったのだから。たった一言救いを求める言葉を吐いていれば、君が願った通りの展開になったろうに」

「…………い……」

「『あの人が傷つくのなら自分が傷つく方がいい』と言う綺麗事を言い訳に、自分が一番辛い選択をしておきながらそれでも救いを望んでいた。自分が傷つくことを選べるのであればどうして反抗しようとしなかった?」

「………さいッ……」

「今君がしているのは八つ当たりだ。自分が酷い目にあったことを理由に全てを壊そうとする。そんなのはこどもの癇癪と同じだ」

「うるさいッ!!」

 叫ぶ声と共にバーサーカーは吹き飛ばされる。近くの洞窟の壁に叩きつけられるまでその体が木の葉のように舞った。

「何も知らないくせにッ!!私を助けもしてくれないくせにッ!!」

 涙を流しながら彼女は叫ぶ。
 それは彼女の想いであり、訴えであり、そして願いであった。
 バーサーカーは壁に叩きつけられ、その端整な容姿を土埃で汚しながらも彼女と向き合い続ける。

「先ほど“自分”を流し込んできたのは君だろう。それと間違っているぞ」

 彼の否定的な言葉に反射的に声を荒げそうになるが、その言葉はハッキリと彼女の耳に届く。

「君を――間桐桜を救うのは僕じゃない。その少女を救うのは、彼女が想い続けた人たちだ」

 その言葉に示し合わせたように、その空間に足を踏み入れた二人は彼女の夢であり、希望。
 一人は彼女にとって憧れた女性であり、一人は彼女が愛した正義の味方であった。






~終幕~


 目の前に広がるのは極大の呪いの源。
 背後に立つのは、聖杯としての機能が万全ではないために命をつなぎとめる事ができたマスターであるイリヤスフィール。
 満身創痍といってもいいその身体を動かし、彼は告げる。

「ライ・ズィ・ブリタニアが自らに命ずる。<この世全ての悪/アンリ・マユ>を飲み干し、打ち勝て」

 令呪を超える一度だけのブースト。
 バーサーカーの持つ宝具<ギアス/絶対遵守の力>。
 それを行使することでバーサーカー――――ライはこの戦争の幕引きを告げた。




 
 

 
後書き
と言う訳で第五次聖杯戦争でした。
他のサイトでは、よく第四次の方にライが出てくる話を見るので、第五次の方に出してみました。
個人的にライとイリヤの二人が並ぶと絵的に映えると思います。

ご意見ご感想をお待ちしておりますm(_ _)m 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧