リリカルなのは~優しき狂王~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
2ndA‘s編
第四話~少年達の目的~
前書き
更新遅れて本当にすみません。
新生活を始める上で色々と忙しかったのと、色々と購入していたアニメやらゲームやら消化していたら遅くなりました。
……ごめんなさい、石投げないで
では本編どうぞ
???
意識が浮上する感覚。
それを脳ではなく、体全体で感じていると錯覚する。瞳を開けるとそこは暗く、深く、広いどこか。足元は光っており、その光が青白いことからその空間は湖を連想させた。
「……」
どこか思考の一部が微睡んでいる。
そう感じていることから、ここが少なくとも現実世界ではないことを漠然と理解する。
それを理解してから彼は辺りを見回す。どこまでも続いていそうな広大な空間に見えるというのに、そこには何故か閉塞感を感じる何かがあった。その感じ方をする自分を疑問に感じながらも、何かがないかと目を凝らし続ける。
すると、その空間に佇む一人の女性の姿を彼は見つける。彼女は白銀の長髪を結い上げることもせず、一冊の本を片手に抱え神に祈るように、懺悔するように、願うようにその場に跪き、目を閉じている。
そのどこか神秘的な光景に見とれそうになる彼であったが、一先ず自分の存在を認識してもらう為に声をかけようと口を開こうとした。
「誰だ?」
口を開こうとしたその直前、彼女が彼に振り向き誰何の声があがる。その事に一瞬面食らうが、黙っているのは不自然と思い自分の名を口にした。
「えっと、ライと言います。そう言う貴女は?」
「名などない」
「「……」」
それで会話が止まってしまった。
この空間にライがいること自体がおかしいのか、彼女は警戒心もむき出しに彼を睨みつける。その一方的なにらみ合いは居心地が悪かった事と、この空間のことを知っていそうな彼女の信用を得るためにライは再度口を開いた。
「すいません、ここがどこなのか解らないのですが出る方法を知っていませんか?」
「?」
その質問が予想外であったのか、これまでの警戒心むき出しの表情とは打って変わってキョトンとした表情を彼女は浮かべる。
「どういうことだ?」
「いえ、それはこちらがしたい質問なんですけど……」
「「?」」
お互いに理解できない事が多いのか二人して首を傾げてしまう。とにかく、お互いの知っている事を伝えれば何かわかるかも知れないと考えたところで、ライは唐突にその声を思い出す。
『私はどうなってもいい。だから、優しきこの主を誰か救ってくれっ!』
あの時、Cの世界で聞こえた声と彼女の声は似ているのではないか?と。
「……どうした、急にこちらを凝視して?」
「あ、いえ、その……」
「お前はこの闇の書が目当ての魔導師ではないのか?」
そう言い、彼女は抱えていた本をライの方に向ける。その本には確かに見覚えがあったが、此処にいる目的ではない。寧ろ目的を持ってこの場にいるわけではないライにとっては疑問の種でしかない。
「いえ、そんな物に興味はないのですけど、取り敢えず此処はどこですか?」
「そ、そんな物……」
「え?あれ?」
闇の書と言われた本を「そんな物」扱いしたのが悪かったのか、彼女は分かりやすく落ち込んでいた。
「……確かに主にとっては邪魔かもしれいないし、私自身も消えれるものなら消えたいが『そんなもの』か、ハハ……」
「えっと、大丈夫ですか?」
「ああ……大丈夫だ。さっきの質問だが、此処は夢の中だ」
明らかにまだ落ち込んでいる様子であったが、ライにとってはこの空間が夢の中であると言う事実のほうが重要であった。
「夢?だれの?」
「それは――」
彼女が言葉を発しようとした瞬間、ライの視界が突如歪む。
いきなりのことに動揺するライに彼女は特に驚くこともなく伝える。
「どうやらお前が目覚めるようだ。恐らく、目が覚めるとここでの事をお前は覚えていないだろう」
「待ってくれ!僕は――」
聞きたいこと、伝えたいことは多くある。しかし、此処でのことは覚えていられないと言われ、焦燥感が生まれる。口にすべきことは多くあるのに、思考の一部が明確ではないためにうまく言葉を伝えることができないのが歯痒かった。
「主以外との会話は久しぶりだった。なんだか嬉しかったよ、ありがとう」
(っ、たったあれだけの意味のない会話でそんな言葉を……)
どこか寂しい笑顔を浮かべ、彼女はライに感謝の言葉を送る。そしてその笑顔と言葉を受け取ったライは自分の気持ちを素直に吐き出した。
「またきっと来る!貴女に会いに来るから!」
「……ああ、そう言われるのは嬉しいことなのだな」
その言葉を最後に耳にしてライは目覚めた。
海鳴市・ビジネスホテル一室
安物のベッドの上でライはその瞳を開ける。
上半身を起き上がらせ、九時を示す時計を確認してから虚空を眺める。そして本当に小さな声で囁く。
「……ちゃんと、覚えているよ」
「おはようございます、マスター」
チカチカと視界の端で自分の相棒が光を発してくる。挨拶に笑顔で返しライは蒼月をいつもの定位位置である首にかけた。
(見つけた)
ライは思考の端でそう呟いた。
(当面の問題は彼女がどこにいるのか、そして彼女が抱える問題が何なのか、か。そのヒントは闇の書と言われるデバイス…………デバイスなのかな?)
「マスター、バリアジャケットの展開は行いますか?」
「え?ああ、頼むよ」
そう言うと、ライの周りを一瞬光が包むとライの姿は昨晩おシャカにしたコートを羽織った姿になっていた。
「また買わなきゃな」
「学生服も置いて来てしまいましたしね」
昨晩、ライはなのはとフェイトの二人に簡易的ではあるが応急処置を施し、近くのベンチに置いてきていた。その際に肌寒かったことと、二人の格好が冬にしては薄着であったことから、ライは蒼月に収納していたマフラーを二人の首に巻き、学生服の上着をかけてから去っていた。
あの時、ヴィータとシグナムが立ち去ったことから既にこちらに誰かしらが向かってきていることは知れていたが、ライはそのまま放置すると言う事をしたくなかった為、その行動をとっていた。
おかげでまたしても防寒着がなくなり、更に言えば水で一度ずぶ濡れになっていた為、やむなくバリアジャケットを現代風の一般着に設定し直し展開することになってしまったが。
昨夜の一件もそうであるが、ライは自分の目的を達成するためになのは達と関わる気はあまりなかった。しかしたとえ未来のことであろうと、一度守ると誓った人たちを見捨てることはライにとっては割り切れることではなかった為に、わざわざ自分の痕跡を残す行動をしてしまっている。その事に後悔は無いが、今も基本的にそのスタンスを変える気は無いので、自分が魔導師と匂わせるバリアジャケットの展開は極力避けたいところではあった。
昨夜の事を思い出しながら、ライは利用していたビジネスホテルを早々にチェックアウトし早速新しい防寒着を買うために、早朝でも空いている服飾店を探す為に街の方に足を向けた。
管理局本局
ヴィータがなのはを、そしてシグナムがフェイトを襲撃してから数時間後、ここ管理局の本局ではそれなりの騒ぎが起きていた。
これまで様々な次元世界で起きていた『リンカーコア強奪事件』。今まで犯人の目的は愚か、襲撃を受けた被害者からの聞き取りからも犯人の姿かたちすらハッキリしていなかった事件。その事件の犯人若しくはその関係者と思われる人物が、管理局に直接関係を持つ魔導師と接触し、更に被害を受けた魔導師の保有するデバイスが映像データとしてその犯人の容姿を映像として記録していたのだから。
今回の襲撃が件の事件と関係性を見出したのは、デバイスに残っていた映像記録から再起不能になったなのはとフェイトに殺害以外の追撃を行おうとしていたこと。更に襲撃犯であるヴィータが瞬間的に呼び出したデバイスが、管理局内でも悪名高い『闇の書』であったことが原因であった。
襲撃の被害者であるなのはとフェイト、そして別の場所で襲撃を受けていたフェイトの使い魔であるアルフの三名は現在、管理局の医務室で治療を受けている。その三人の受けた攻撃は強力ではあったが、非殺傷設定付きの魔力ノックダウンに近い状態であった為ほぼ軽傷で済んでいた。だが、二人の魔導師の相棒はそうはいかなかった。
半ばからへし折られ、自己修復不可能な状態にまで破損させられたレイジングハートとバルディッシュ。この二機は管理局本局の技術部で修復を受けているが、ソフト面はともかくハード面はほぼ全損に近かった為、修復完了には少しの時間を要する結果となる。
管理局は今回の襲撃から第九十七管理外世界に置いて襲撃犯の潜伏先か若しくは活動拠点があると推測し、そこに数ヶ月前にある事件で出向していた次元航行艦『アースラ』とそのスタッフを派遣することを決定。そして今回の事件の陣頭指揮として管理局執務官であるクロノ・ハラオウンが選出される。
そして今現在。
ある意味指揮官としての役割を命じられたクロノは、管理局本局のドックで出航準備を行っているアースラにて、レイジングハートに残されていた映像情報の検証を個人的に行っていた。
「……闇の書」
モニターの灯りのみで照らされた部屋で彼はポツリと呟く。彼の視線の先には紅いゴシックドレスを着た少女の手に浮かぶ一冊の本が映し出されている。その映像を――正確にはその本を、どこか複雑な目で彼は見つめる。
「クロノ君、検証中?」
「エイミィか」
突然かけられた声と聞こえてきた足音に特に驚いた風もなく、クロノは声の主である自らの同期で補佐役でもある少女、エイミィ・リミエッタに返答を返した。その彼の反応が淡白であったのと、こちらに振り向きもしなかったことに少しムッとした彼女は文句の一つでも言おうとしたが、彼の表情が今までに見たこともないほど真剣であった為にすぐに口を引き結ぶ。
「…………聞かないのかい?」
「え?」
「僕が変なこだわりをこの本に向けている理由を」
そう言いながらもクロノは画像から目を背けない。それはどこか、恐れている物に立ち向かおうとする幼子の様にエイミィの瞳に映る。
彼女はクロノの言葉にどう返答したものかと少し悩む。今回の事件に関わってから、クロノがいつもと違い、らしくないとは彼女も感じていた。此度の襲撃の際に行方が分からなくなった一般人と思われる青年そっちのけにして、ロストロギアであるデバイスに注意を割きすぎている事もその一助になっている。その為、本人がそれを自覚し、まさか自分にそのことを聞いてくるとは思っていなかった彼女は少しだけ口篭った。
「…………えっと、その答えを私が聞いたとしてクロノ君がやることは変わるの?」
少しまごついたが、エイミィはそう返した。その彼女の答えが意外だったのか、クロノはそこでやっとエイミィの方に顔を向ける。
「それは――」
「ほら、いつもクロノ君はちょっと度が過ぎるくらい職務に忠実だからさ。少しぐらいそこに私情が混じっても誰も文句言わないんじゃないかな?それに結局はいつもと同じで犯人を捕まえて、ロストロギアも回収するんでしょ?」
「……」
彼女にそう言われ、何故か知らないがその言葉がストンと自分の中に落ちてくる気分を味わい、それと同時に少しだけ肩の力が抜けたような感覚を彼は感じる。
「……」
「……あれ?私もしかして変なこと言っちゃった?」
ずっと喋らないクロノを見ていて不安に思ったのか、彼女は頬を指でかきながら喋り始める。
「……ぷっ」
「え?」
彼女の反応が少し可笑しくて、そしてどこか可愛く感じてクロノは思わずといった風に少し吹き出してしまう。彼のその反応が混乱を助長したのか、エイミィはその目をぱちくりとさせていた。
(…………ありがとう)
自分と浅からぬ因縁がある事件に何か重いものを背負い込みそうになっていた彼は、心の中でそっとお礼の言葉を背後にいる自分の副官である少女に感謝の言葉を送る。口にしてしまえばからかわれるのは分かっていた為、敢えてそうした彼であった。
因みに数分後、エイミィのことを可愛いと感じた自分が恥ずかしくなって来て、悶え始める若干思春期気味の執務官の姿があったとか、なかったとか。
後書き
今回短めでした。まぁ、ある意味おさらい回なので
クロノの扱いに困ってる今日この頃です。映画ではガンガン前線に行くような描写がほぼなかったのですが、ある意味今回出していかないとこれから出番なくなるんですよね。
ではまた次回も更新頑張ります
ご意見・ご感想をお待ちしております。
ページ上へ戻る