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戦争を知る世代

作者:moota
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第十七話 父親

 
前書き
こんにちは、mootaです。

遅くなって、ごめんなさい。
そして、今回はおもたーいお話です。内容が内容ですし、この小説の肝にも飛び込んで行きたくて。

どうか、よろしくお願いします。 

 
第十七話 父親
 
 
 
火の国暦60年8月9日 朝
火の国 木ノ葉隠れの里
ふしみイナリ
 
 
 
 僕達が任務から帰った頃、木ノ葉隠れの里には、ある噂が広がっていた。とても異質で、異様な噂だ。狂気的とも言ってもいい。その噂は、皆知っていて、そして、その噂の本人を非難していた。
 その噂とは、“木ノ葉の白い牙 はたけサクモ が任務を放棄し、里に重大な被害を出した”そう言うものだった。
 
 
 
 僕は今、前回の任務の報告書作成の為に、役所に来ていた。もちろん、報告書作成は、僕一人でするものではない。第88小隊の全員が集まって、一気に作ってしまおうと隊長がそう言うので、集まったのである。役所の前で、皆を待っていると、ほどなくして全員が集まった。
 
「いやー、遅くなってごめんね。途中、かわいい猫を見つけてしまって。」
そう言って、遅刻の言い訳をする、トバリ隊長以外は。
 遅刻した隊長を引き連れて、使用予約を取っていた部屋に入る。部屋の中央に長机があり、それを囲うように椅子が置いてある。それぞれが、その椅子に座り、隊長が話始めようとした時だ。カタナが、「それよりさ、」と前置きを置いて話し出した。
 
「皆、あの“噂”どう思う?」
興味本位で聞いたのだろうが、そんなに軽いノリで話せる内容ではないと思う。案の定、部屋の温度が急に下がったように、空気が冷たくなる。誰も、何も言わない。カタナだけが、戸惑ったような顔をしている。それをさすがに不憫に思ったのか、隊長が助け舟を出した。
 
「カタナ君、ちゃんと空気は見た方がいいよ。」
その、真面目なトーンで言うおかしな表現に、笑いが堪えられなかったのか、ハナが笑い出した。
 
「ふふ、隊長、それを言うなら、“空気を読む”ですよ。」
 
「あ、そうか。ごめんごめん。」
それで、少しばかり空気が和んだ。隊長は、少し間を置いて、話始めた。
 
「でもね、ちゃんと話しておこうか。君たちには、間違った情報に踊られて欲しくないし。」
私も、ハナも、カタナでさえも姿勢を正して、隊長の言葉に意識を集中する。普段、隊長は、抜けた所や、鈍くさいような場面もあるが、本来、この人は優秀な“忍”なのである。
 
「“木ノ葉の白い牙・・はたけサクモさんが、任務を放棄した”って噂だけどね。あれは、本当の事も含んではいるんだけど、同時に間違いも含んでいるんだ。」
 
「どういう事ですか?」
首を傾げて、ハナが問う。
 
「最初から話すと、サクモさんはSSランクの任務に臨まれてたんだ。その任務ってのは、“岩隠れ 天戸衆”についての極秘情報回収任務なんだ。岩隠れと戦争が始まって以来、木ノ葉は、敵の中枢である“天戸衆”について、殆どと言ってもいいほどに情報を得る事が出来ていなかったよね。そこで、長年に渡って、岩隠れで潜入スパイをしていた木ノ葉の忍に調べさせる事にした。そして、そのスパイから有力な情報を手に入れたという報告があり、そのスパイと接触する為に、サクモさんとその小隊が接触を図ったんだ。」
そこまで言って、隊長は少しばかり、息を整える。視線を、僕達から窓の外へと移して、話を続けた。
 
「だけど、それは罠だったんだよ。そのスパイは、すでに身の上が岩隠れにばれていた。その状態で、彼らは接触することになったんだ。」
 
「え?そのスパイさんが裏切ったってことですか?」
驚いたような声を、ハナが上げた。隊長は、窓から視線を戻し、ハナへと向ける。
 
「ううん、違うんだ。つまり、泳がされていたんだよ。いつか、こう言う事があった時の為にね。」
その言葉に、問うたハナは、その顔を青くする。
 
「そして、彼らは接触する。罠とも知らずにね。接触した時、すでに敵に囲まれていたそうだ。それでも、サクモさんは木ノ葉の英雄だ・・・何とか、その場から隊を逃がしてみせた。でも、長年、敵地でスパイをしていた彼は、敵に捕まって逃げる事が出来なかった。どんな気分だったろうね、敵の中で、死ぬ思いを何度しても、木ノ葉に尽くした彼が、やっと、“自分の努力が報われる”と、そして、“その任を解いて帰れる”と思ったのに、逃げれなかった時の気持ちは。」
この部屋に、隊長以外に話すものはいない。暗く、重い空気が圧し掛かってくるようだった。窓の外から聞こえてくる鳥の囀りさえ、心を癒してくれる事はなかった。むしろ、悪魔のささやきに聞こえたほどだ。
 
「サクモさんは、それを思ったのかもしれない。何よりも木ノ葉の為に尽くした“仲間”を置いて逃げるのかって。許せなかったんだと思う、そんな事をしようとしている自分が。そうして、隊の皆を説得して助けに行ったそうだ。でも、もう彼は、殺されていた。しかも、多数の敵に囲まれ、再び逃げる為に激しい攻防になった。その時に、スパイの彼からもらっていた“情報が書かれた巻物”を、失くした。」
 
「失くした・・・?」
僕が、その言い方に不自然さを感じて、聞いた。その答えを聞いた時、僕は、それを聞かなければ良かった、本当にそう思った。
 
「それを持っていた木ノ葉の忍ごと、敵の術で吹っ飛ばされたそうだ。ばらばらに、ね。」
隊長の声には、力がない。ただ、単調にそれを伝えている。
 
「重要情報の喪失、小隊員1名を犠牲に逃げる事が出来た。でも、それの代償は大きかった。・・・“あの仲間を助けたようとしたばかりに”、“仲間より任務を優先すべきだった”、そう非難しているんだよ、あの噂は。」
 
「で、でも、あの噂って、もっと被害が出たって聞きましたけど・・・」
遠慮がちに、カタナが聞いた。隊長は、視線を伏せたまま、それに答える。
 
「それはね・・・僕達が参加したこの前の任務あったよね?あれがそもそも、“囮”だったんだ。」
 
「へ?どういう事・・・」
 
「つまり、国境際での中規模の戦闘、その陽動の間に、橋の調査をする僕達の任務、それら全部が、サクモさん達の極秘情報回収任務の“囮”だったんだよ。その二重に張った“囮”で、岩隠れの視線を外そうとした。・・・でも、失敗した。あの時の被害は、前線の8個小隊中6個小隊が壊滅、潜入調査を行った3個小隊中1個小隊が壊滅。そして、極秘任務の失敗。何故か、分かったかい?」
僕達は、ただ、黙るしかなかった。何も言うことは出来ないし、その権利もないだろう。言い出しっぺのカタナは、それを誰よりも強く感じているかもしれない。
 
「ごめんね、いい話ではなかったね。でも、ちゃんと知っていて欲しかったんだ。・・・真実を。それに・・・サクモさんは、確かに、里に大きな被害を出したかもしれない。でも、彼は、仲間を見捨てたくなかった。どっちが正しいのか、分からないけど。君達に仲間を見捨てるような“忍”になっては欲しくない。そう・・・思う。」
隊長の目は、強い決意のような色が見えた。僕も、そう思う。横にいる二人を見る。うちはカタナ、菜野ハナ、2人を見捨てる事なんてしたくない。絶対に。
その後の、報告書作成の話は淡々と進み、短い時間で終わった。誰も余計な事を言う事もなく。帰る時でさえ、皆の口数は少なかった。ただ、「また、明日・・・」という言葉だけ呟いて、皆帰って行った。
 
稲荷神社へと帰る道、夕日が土の地面を赤色に染めていた。その道の脇にある商店では、店主と買い物客がまさに、サクモさんの噂話をしていた。僕は、それを聞く事なんて出来ずに、走り出した。道なんて見ていない。ただ、むしゃくしゃに走った。色んなものを、落としたかったのかもしれない。やがて、走るのに疲れて、立ち止まる。周りを見ると、稲荷神社とは全然別の方向、公園の方に来ていた。それだけなら、特に何も思うことなく、踵を返していただろう。でも、その公園には、それをさせない光景があった。それは、公園のベンチに、一人の5,6歳くらいの男の子が膝を抱えて座っている光景。白いツンツンした髪を持つ子供の。
 
「カカシさん・・?」
自分でも気づかなかった内に、声を掛けていた。彼は、その声に反応して、顔を挙げた。その顔は、何かを“失った”ような顔をしていた。
 
「?・・カカシでいいですよ、イナリさん。おかしいでしょ、やっぱり。」
 
「僕も、イナリでいいよ。」
二人で、そう言いあった。お互いに、お互いが遠慮するように。僕は、彼が座っているベンチに腰掛けた。
 
「あの、その・・・」
僕が、何を話そうかと言いよどむ。それを、先読みしたように、彼が遮った。
 
「父のことですか?・・・それなら、もういいんです。あれは、父が悪い。」
突き放したような、そんな語気を感じる。彼の言い方には、何か違和感を覚えた。
 
「でも、サクモさんは、仲間を助けようとしたんだよ?」
 
「だからどうだって言うんですか?忍が優先すべきは、“仲間より任務”です。」
彼は、視線を僕から外す。
 
「でも・・・」
 
「感情を表に出さない。感情に左右されない。そんなのは、忍の“基本”でしょ。」
 
「だけど・・・」
 
「・・・でも、だけどって、何が言いたいんですか?」
彼の言葉には、“憤り”が見えた。でも、それは、僕に対してではないような気がする。僕は、一度、落ち着いてから話す。
 
「僕は・・サクモさんのした事、正しかったと思う。“忍”として生きている僕達だけど、一人じゃないんだよ。一人じゃ出来る事なんて、そんなに多くない。」
 
「・・・」
 
「だからこそ、僕達は、木ノ葉隠れの里として、身を寄せ合って生きているんじゃないかな?」
彼は、僕に視線を戻す。口許を布で隠している所為か、彼の表情を読み取る事は出来ない。
 
「その木ノ葉を守るために、必要な犠牲があるんでしょ?」
その眼は、少しばかりの“動揺”の色を滲ませる。
 
「違うと、思う。十の為の、一の犠牲は、きっと、歪を産む。その歪は次第に大きくなって、十を壊す。なぜなら、お互いを必要としているから・・・この里に住む人は、そう、育ってきたはず。誰かが“欠ける”事はどうにか出来るかもしれない。でも、誰かを“欠けさせる”事があってはいけないんだ。」
 
「・・・」
 
「・・・」
僕達はそれを境に、しばらく、お互いにしゃべらなかった。夕暮れの空に、カラスが鳴いている。その鳴き声は、何だか心に響くような気がした。
 
「・・・それでも、父は、非難されています。・・小隊の仲間にさえも。」
苦しそうな、声を上げた。この時、彼の言い方の、何に違和感を感じていたのか分かった。彼は、以前会った時、“父さん”と呼んでいた。でも、今は、“父”と呼んでいる。それは、何を意味するのか・・・彼の、“父親”への感情を表しているのだろうか。
 
「非難されてるから何だって言うんだ。君が、サクモさんの味方になってあげなきゃ。」
それは、その言葉は、彼を激昂させた。
 
「!? あなたに何が分かるんですか!?家族がいない、あなたに。いない人に、いる気持ちが分かる訳ない!?」
立ち上がり、息を切らせて、めいいっぱいに叫ぶ。
 
「“父さん”を非難する人は、僕の周りにもたくさんいるんです。面と向かって言う奴もいれば、陰でこそこそ言う奴もいる。そんなの、どうしろって言うんですか!?」
気が付けば、彼の目には涙が溜まっている。今にも、溢れそうにして。
 きっと、彼はサクモさんの味方になってあげたいんだ。誰よりも、“尊敬”していた、“信頼”していた“父さん”に。でも、それを周りが許さない。彼は、それを感じて、無意識に、自分に言い聞かせているんだ。・・・そんなの、悲しすぎる。
 
「僕は・・僕なら、見捨てない。周りに何を言われても・・・」
彼の目をまっすぐに見ながら、そう言った。力強く、そして、思いを込めて。僕に出来る事は、それしかなかった。彼の周りをどうにかする事も、自分に言い聞かせる彼を、呼び止める事も出来ない。でも、何とか、一つでも、彼の気持ちに残したかった。彼の、失ってしまった“父親”への“尊敬”を、“信頼”を・・・僕は、持っていないから。忘れてしまったから。

「何だよ、それ。ワケわかんないし・・・」
そう言って、彼は、一瞬で姿を消した。・・・こういう事の“答え”は、きっと、シンプルなモノだ。単純で、簡潔で、明確なモノに違いない。


彼と話した一週間後、はたけサクモさんは、自ら命を断った。・・・狂劇とも言える、悲劇の幕引きになる。サクモさんが亡くなった後、あれだけ批難していた人達は、その話題を避けるように話さなくなり、噂は影へと身を潜めていった。
戦争は、人を傷つけるだけじゃない。人の心を荒ませていく。それが・・戦争。




火の国暦60年8月20日 夜
火の国 木ノ葉隠れの里 ???
???



 月明かりが、煌々と里を照らしている。真ん丸とした満月が、その存在を誇示するかのように、今日の月は明るい。
 木ノ葉隠れの里は、生い茂る森に囲まれている。その森は里が所有している所もあれば、特定の一族が預かる所もある。代表的なものは、奈良一族が預かる“特殊な森”。それと同じく、花の花粉や特殊な花の栽培などで、森を預かっている一族がいる。その森にある薄暗い洞窟で、蠢く黒い影が集まりつつあった。

「皆、集まったか?」
太く、響くような低い声が問うた。

「いや、まだ全員ではない。監視に出ている者もおる。」
甲高く、細い声が、それに答える。

「なら、良い。始めようか。おぬしら、どう考える?」

「フン、“暗殺”と、“クーデター”しかあるまい。あやつを擁護する火影など、虫酸が走るわ。だから、木ノ葉はここまで弱くなったのだ。」
“憤り”の色を隠さない。声は静かであるが、その語気は強い。

「あの事件をなかったものとし、犠牲者を捨てるような待遇は我慢ならん。我々が、あの時からどれだけ苦労した事か。羨望の眼差しから、批難の目に変わり、仕舞いには家畜を見るような目で見る者もおる!」

「そうだ、断じて、許せるものではない!」
洞窟に大きな声が鳴り響く。それに同調し、「そうだ!」と叫ぶ者や、頻りに頷く者がいる。その声は、次第に大きくなり、洞窟を揺らさんとするように見えた。
 彼らの中の一人が手を挙げた。その瞬間に、騒がしく声が響いていた洞窟に、本来の静寂が戻る。その張り詰める空気の中で、一人の声が彼らに告げた。

「我ら、菜野一族が悲願、“一族の再興”と“ふしみ一族の根絶やし”の時が来たのだ!」

その言葉と同時に、静寂を取り戻した洞窟に、再び騒がしい声が響いた。それは、まるで何かの狂信者のように「殺せ、殺せ。」と叫んでいた。

 その異様な光景を、ただ見つめている、栗色の髪をした少女がいた。彼女は、それに怯え、身体の震えが止まることはない。目からは、溢れるように涙がその頬を伝っていた。

「どうして・・・? どうして、こうなるの?」 
 

 
後書き
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

次回は、「葛藤」です。
そろそろ、メインストーリーに入りたいなぁ。

ではでは。
 
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