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戦争を知る世代

作者:moota
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第十六話 感知能力

 
前書き
こんにちは、mootaです。

更新遅くなり、ごめんなさい。
あと、もう一つ。
今回の話は、少し長めになってしまいました。
最後まで読んで頂けると、幸いです。 

 
第十六話 感知能力



火の国暦60年8月5日 昼
土の国 岩隠れの里勢力圏 暁の森~神無毘橋周辺
岩隠れの忍 中忍



いつの間にか、太陽は真上にいた。森の中とはいえ、真夏真っ盛りのお昼・・暑い。火の国国境で戦闘が始まって、5時間程が経った。その頃に、私達の強硬偵察隊に連絡が来た。天地橋の定期警備に当たっていた偵察隊が、木ノ葉の小隊と接敵したと。戦闘本部は、それを踏まえて、国境付近の戦闘は“おとり”だろうという結論を出した。つまり、こちらの勢力圏に潜入している木ノ葉の小隊は、まだ、他にいる可能性があるという事だ。そこで、3個小隊の強硬偵察隊(私達も含め)の動員要請が、偵察本部に来た。偵察本部は、もちろんの事、おとりだという結論に同意し、動員を決定した。私達の小隊は、鴻橋、黒岩橋、神無毘橋を調査する事になり、すでに鴻橋、黒岩橋は終了した。残りは、神無毘橋だけだ。小隊4人で、それぞれが分かれて、必要箇所を調査する事になった。それで、私は橋の奥5㎞付近に来ているんだが、どうも・・近くに敵がいる。それも、複数。こちらは、一人だ。他の隊員は、もっと後方にいる筈だし・・・やばい。

「ついていないなぁ・・・・。」
悪態を付きながらも、必死に周りを索敵する。逃げるにしても、敵の位置を把握しなければ・・・。向こうもこちらに気付いたらしく、気配が動かなくなった。しばらく、膠着状態が続いた中で・・・敵を見つけた。私は、今、地上にある大きな岩の後ろに隠れているが、敵はここから80mは離れている木の上にいた。どうやら、子供3人に、大人1人という感じだな。あれか・・・学徒動員の小隊か。ラッキーだ!これなら、逃げる必要はないなかもしれない。相手は、どうやら、こちらの位置を把握出来ていないらしい。動く気配はない。そうとなれば・・・・。

私は、そう思いつつ、攻撃する為に準備をする。隠れている岩の所に、ここから敵に向かって、クナイを数本投げるトラップを設置する。そして、私は、そこから敵がいる場所の真横の方向にある、木の上に移動する。この移動が一番怖かったが、どうやらばれていないらしい。これで、勝ちは決まったかな。敵の真正面方向にあるクナイのトラップ、それを起動すれば、真正面から来たクナイに気付いて、そこに私がいると思うに違いない。しかし、私はそこにいない。横から、奇襲をする。敵は学徒3人と、+1人。行ける!

手に持つ紐を引っ張る。それは、トラップの作動装置・・・クナイが敵のいる場所に向かって、飛んでいく。敵は、そのクナイを辛うじて弾き、臨戦態勢を取る。意識は、クナイが飛んできた方にある。

―よし、ここだ!

私は、隠れていた場所から飛び出す。木の上を素早く移動し、敵を上から攻撃できる枝に飛び乗った。クナイを握り直し、頭の中で4人を倒すイメージを繰り返す。この間、僅か数秒。よし、敵に飛び掛かれる。そう思ったその時・・・・

シュゥゥゥゥゥ・・・・

何かの音が聞こえた。聞いたことのある音。燃えるような、燃えようとしているような音。
私は、足元を見た。そこには、枝の裏側には・・・起爆札が貼ってあった。

「なっ―!?起爆札!!」

目の前が、閃光に包まれた。



同日
土の国 岩隠れの里勢力圏 暁の森~神無毘橋
小夜啼トバリ



「敵だ・・・どこかにいる。」
私は、そう言った。3人の顔に緊張が走る。

「トバリ隊長、敵はどこにいるんですか?」
カタナくんが問い掛けてきた。

「うーん、分からないなぁ。相手は、1人だと思う・・・多くて、2人かな。そんなに離れていないし、気を付けて。」
なかなか、隠れるのがうまい敵・・・いやなタイプだ。ガツガツ突っ込んでくるタイプの方が、対処しやすいんだけど。私たちは、大きな木の枝に止まって、隠れている。敵は、恐らく12時の方向辺りにいると思う。問題は、こちらが複数だという事。しかも、3人が下忍・・・身を隠すのは、やはり難しい。敵には、だいたいの位置がばれていると思った方がいい。どうするか・・・それを考えていた時だった。

「敵は・・・13時の方向、1人・・」
そう、イナリ君が呟いた。

「「え?」」
皆が、驚いた。急に何を言い出すのかって。

「イナリ君、今、なんて?」
イナリ君を見つめたままの2人を差し置いて、私が質問をした。

「あ、いえ・・・敵の位置なんですが、多分・・13時の方向、岩の後ろに1人です。」
こちらの様子を窺うように、少しずつ話した。私は、イナリ君が言った方向を確認する。・・・本当だ。敵がいるのが分かる。索敵が苦手の私でも、位置が分かれば、いるかいないか位は容易に分かる。私は、まじまじとイナリ君の顔を見てしまう。

「お、おかしかったですか?トバリ隊長?」

「あ、いや・・・すごいよ。イナリ君。」
私は、素直にびっくりしていた。火影様から聞いてはいた。この小隊を預かる上で、必要事項だと。


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火の国暦60年7月9日
火の国 木ノ葉隠れの里 役所 執務室
小夜啼トバリ



「感知能力・・・ですか?」
私は、呆けたように聞き返した。火影様は、少しも理解していない私に、怒りもせずに話を続ける。

「うむ、まぁ、パッとせんのは分かる。とにかく、ふしみ一族の特殊な力は、感知能力に長けておるのだ。どういう理屈か、いまいち分かってはおらんが・・・敵意や悪意、そう言ったものを位置情報として、把握出来るんじゃ。」
火影様も、納得がいかない、腑に落ちない・・そのような顔をしている。私も、いまいち理解していない。何しろ、理屈や道理といった道筋が不透明なのだ。

「つまり・・・敵意、悪意を対象とした、ずば抜けたレーダー・・という事ですか?」
私は、何とかまとめてみようと、思ったことを口にした。ずば抜けたレーダーって・・・自分で言っておきながら、適当な言い回しだ。

「まぁ、そんな感じかの・・。」
いいのかよ!・・火影様も適当だな。

「そもそも、ふしみ一族は少数であったし、その能力故に、他の勢力とは一切関わり合いを持たなかったのでな。情報が、乏しいんじゃ。初代様がお声を掛けて、木ノ葉に参加しなければ、知ることもなかっただろう。」

「その・・・イナリ君は、ふしみ一族なんですよね?」

「そりゃ、そうじゃ。今までの話を聞いとったか?イナリは・・最後の1人という事になる。まだ、本人から話は聞いてはおらんが、報告によれば、一族の力を継承しておるようじゃしの。」
プンスカ、という言葉が、火影様の頭の上に浮かびそうな顔で怒られたが、私にとって、その言葉を聞くことに意味があったんだ。火影様の話だと、ふしみ一族というのは、大分イレギュラーな存在だ。神様である“お稲荷さま”と契約をして、その力を得たと言っていた。・・・普通、神様と契約、なんて信じない。恐らく、“九尾”のように力を持った存在を体内に封印しているような形・・・人柱力、そう考えていいだろう。その代償が、“身体を明け渡す事”というのは、何か分からない。ただ、その代償は、本当に存在すると、火影様は言われている。・・・単純に、力と代償が釣り合わない。そして、その力が、一族全員に伝染し使えるという事。血系限界ならば、理解が出来るし、道理に合う。しかし、一人が契約、封印のような人柱力のモノだとすると、それが一族という括りで力が伝染する何て事は、道理が通らない。何故なら・・・それを繋ぐものが不透明だから。チャクラと言うものは、そんなに道理、理屈がないものではない。きちんとした道筋、道理、理屈が存在し、それに沿っての方法を取るから力を得るのである。無限に、無制限に存在し、行使できるものではない。・・・訳が分からない。私は、それを火影様に問いかけた。しかし・・・

「うむ、確かにな。ただ、“お稲荷さま”という存在は、確かに存在するんじゃ。白い狐として、私の前にも、何度か姿を現した事がある。しかし、それでも、存在と力の関係はうまく繋がらんのぉ。・・・すべては、“神様である”と言えば済む話じゃが・・・それは、のう。」
火影様もご存知ではなかったし、ヒントを得る事も出来なかった。それを言うと、髭をさすって、考え事に耽ってしまった。しかし、火影様の言う通りだ。“神様である”と言えば、それは不可思議な神の力、という事で収まる。そんな事があるだろうか・・・あったとしても、それはきっと・・・。と考えていた所で、遮られる。

「・・トバリ、この話は、堂々巡る。何せ、情報が少な過ぎるからの。しかし、それに関わらず、イナリの力になってやって欲しい。イナリは、“孤独”なのじゃ。普段から、人懐っこい所を見せてはおるが、それは偽りの仮面。本当の自分を、自分の気持ちを隠すためのな・・・それは、自分自身では気づいていないやもしれん。他人に、“大切な人を失う気持ち”をさせたくない、という行動をするのは、その裏に、それを見て、自分が隠してきた“孤独”という気持ちを、無意識に出したくないと思っているかもしれん。」
それを出さないのは、もう傷付きたくないからか・・・。彼は、私たちが思っている以上に、心の傷が深いのかもしれないな・・・。



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火の国暦60年8月5日 昼
土の国 岩隠れの里勢力圏 暁の森~神無毘橋周辺
うちはカタナ



「あ、いえ・・・敵の位置なんですが、多分・・13時の方向、岩の後ろに1人です。」
イナリは、そう言った。少し、言いにくそうに。

「お、おかしかったですか?トバリ隊長?」

「あ、いや・・・すごいよ。イナリ君。」
トバリ隊長は、素直に驚いているのだろうか、呆けた顔をしていた。すごい、確かにすごい・・・俺なんて、全然分からなかった。これが・・・火影様が言っていた、ふしみ一族の力なのか。しかし、イナリの凄い所はそこだけじゃなかった。

「じゃあ、イナリ君は敵がどう行動するか、分かるかい?」
トバリ隊長が、イナリに問い掛けた。・・・どうって、そんなの“逃げる”の一択に決まってるじゃないか。こっちは4人、向こうは1人なんだから。

「・・・敵は、恐らく攻撃を仕掛けてきます。」

「!? え、なんで?」
つい、声に出てしまった。自分の中では、あり得ないと思っていた答えだったからだ。イナリは、トバリ隊長から俺に視線をずらして、話を続けた。

「敵は、恐らくだけど・・・こちらに気付いてるんだよ。僕たちが何人で、どのような構成なのか・・・。そして、多分、任務の内容も知られている。」
イナリは、静かに、冷静に、そう言った。

「僕達は4人だし、隊長以外は、身を隠すのがそんなにうまくない。すぐにばれるだろうし、それに伴って子供3人、大人1人ってのも分かる。・・敵は、僕達を“学徒”だと思っているはず。この前と同じようにね。・・そう、考えれば、敵は“功を焦る”かもしれないって話。」

「うん、そうだね。その可能性が高い。」
隊長が、イナリの意見に同意する。そう言われれば、そうな気がしてきた。

「イナリ、すごいね!」
ハナが、眼を輝かせて言った。・・・何だか、面白くない。俺は、つい反論してしまった。

「でもさ、イナリ。“功を焦る”何て分からないだろう?実は、敵さん超ビビりかもしれないし・・・。」
何となく、自分でも恥ずかしいなって思っているけど、言わずにはいれなかった。

「あぁ、それはね・・・敵は1人でしょ?多分、小隊を分けて捜索してるんだ。普通なら、敵と接触する可能性が高いんだから、小隊で行動するはず。でも、小隊を分けた。と言うう事は、いかに敵を見つけたいかという事が分かる。リスクが高いにも関わらず、だよ。そう考えると、“功を焦ってる”と考えてもおかしくない。」
・・・なるほど。確かに。って、普通にちゃんとした答えが返ってきた。俺って恥ずかしい!ハナの前で、見栄を張ろうなんてするから・・はぁ。

「でも、僕達は4人だから、真正面から来ることは考えられませんね。とすると、横、後ろ、上が考えられます。そこに、トラップを仕掛けて置きます。引っかかれば敵の位置が分かります。」

「いい考えだ。それで行こう。」
隊長が同意して、作戦が決まった。僕達が動けば、ばれるかもしれないので、隊長がトラップを仕掛けてくれた。その間も、敵に動く気配はなかった。まさか、イナリの考え過ぎで、敵はこちらの場所に気付いてないんじゃ・・・と考えた、まさにその時、13時の方向にあった岩から、クナイが10本ほど飛んできた。

「―!! クナイ!」
僕は、咄嗟の事に慌てた。自分のクナイを取り出して、何とか弾き返す。皆も大丈夫。

「イナリ!敵はあそこだぞ!」
俺は、叫んだ。攻撃は、あの岩の裏から来た。あそこに居るに違いない。俺は、そこに意識を向けながら、イナリに叫んだ。相手は、イナリの考えた通りにはならなかったんだ。

「違う、あれは相手のトラップだ。あんな単純な攻撃な筈がない。右だ、右から来る!」
イナリは、それを否定した。僕が振り向くと、イナリと隊長は、岩とはちがう方向を見ている。クナイを構え、臨戦態勢だ。そこで、右側に人の気配がした。その瞬間、トラップの起爆札が爆発した。

「うわっ!」
自分達が仕掛けたトラップにも関わらず、大きな爆発に、咄嗟に手で顔を覆う。・・・トラップが作動した!? という事は、敵が引っかかったのか?確かに、俺達じゃない気配を感じた。ドサッと大きな音を立てて、その爆発した場所から何かが落ちた。それに、トバリ隊長が瞬時に飛び掛かる。僕達も、それに続いて地面に降りた。煙が晴れると、そこには、トバリ隊長に拘束されている岩隠れの忍がいた。

「くそ!離せ!」
大きな声で叫んでいる。トバリ隊長と同じ位の歳だろうか。身体をもぞもぞ動かしながら、何とか隊長の拘束から逃れようとしている。起爆札の爆発に直接当たっている筈だが、そんなに大きな怪我はしていないようだ。

「離す訳ないよ。とりあえず、色々聞きたい事があるんだけど。」
そう言いながら、隊長は拘束を強める。僕達はそれを見ながら、彼の周りに立つ。

「いた、たたたた!」
拘束を強められ、涙目になっている。

「くそ、何でばれた!お前ら“学徒”だろ!?・・・足を引っ張ると思ったのに。」
そう、悪態を付く敵に、隊長はため息を付きながら、驚愕の事実を伝える。

「君の位置に気付いたのも、この作戦を考えたのも、その“学徒”だよ。」

「な!?そんな、馬鹿な・・・俺がこんなガキに!」
敵は、信じられないとばかりに驚く。その眼は、イナリを睨みつけている。逆に、イナリは、まったくそれに動じず、相手を見返している。

「まぁ、諦めて、情報を吐いてよ。」
そう、隊長が決め台詞を言った時だった。僕達と敵の間に、クナイが刺さる。・・・そのクナイには、起爆札が付いていた。

くそっ―!
僕とイナリは、咄嗟に飛び退く。飛び遅れたハナは、隊長が抱えていた。起爆札は、爆発しない。このクナイは、もちろんの事、俺達じゃない。そうなると、誰かは決まっている―。

「おいおい、そんなガキ共に捕まってんのかよ。」
声の方向には、岩隠れの忍が3人、木の上に並んでいた。ニタニタと笑い、勝ち誇ったような顔をしている。捕まえていた奴の、残りの奴らか・・・。これ、まずいよな。捕まっていた奴もいつの間にか、向こうに逃れている。

「お前ら、橋の調査に来たのか?こんな奥地まで、ガキ連れてご苦労なこった。」
皮肉をたっぷり含むような言葉だ。それを何も意に反さず、隊長は冷静に答えた。

「そうでもないよ。だって、そのガキに捕まるような、大人が仲間じゃないからね。出来るガキなんだよ、この子達は。」
隊長は、皮肉を皮肉で返す。相手の顔が見る見る内に、真っ赤になっていく。もどりながらも、反抗期の子供のように言葉を返してくる。

「はっ、強がってんじゃねーよ!この人数相手に、お前一人で何が出来る!?」

「あぁ、さっき言った事、覚えてる?・・・この子達は、出来るガキだよ。」
その言葉に、敵は訝しげな顔する。反面、隊長は“爽やか”と言っていい位、清々しい笑顔だ。・・・何だ、この差。こっちの方が、どう考えたって不利なのに。そう思った時だった。

「火遁 炎突天打の術!」
そう、隊長の声が聞こえた。“目の前”にいる隊長は、しゃべっていない。隊長の“もう一つ”の声は、敵の頭上からだった。手に真っ赤な炎を纏わせて、敵の頭上に向かって、落ちていく。その落ちる勢いのまま、拳を敵がいる真下へ突き出した。
ドォン、という大きな音ともに、木が折れ、土が捲られ、土ぼこりを舞い上げる。視界がその土ぼこりに支配され、何も見えなくなった。“目の前”の隊長は、それを見てからイナリの方に振り向いた。

「イナリ君、今だ!私の影分身ごとやるんだ!」
そう、大きな声を挙げた。トバリ隊長とイナリは、瞬時に印を結んで術を発動した。

「風遁 鎌鼬の術!」
イナリが、口をプクッと膨らませて、勢いよく噴き出す。すると、口から風が飛び出した。それは次第に細くなり、風の刃となって土ぼこりを切り裂きながら、敵に襲い掛かった。

「火遁 鳳仙火の術!」
隊長もイナリと同時に、印を結び、術を放った。口から4つ、5つほどの炎の塊を出す。その炎は、イナリの術と相まって、その大きさ、勢いを強めて敵に襲い掛かった。

土ぼこりの中から、何か重いものを切るような音と炎が舞い上がる音、そして、敵の断末魔のような悲鳴が聞こえた。炎は大きく舞い上がり、その炎の中に、黒い影が3つ狂ったように踊っている。その影は、少しずつその踊りを小さくし、最後には身悶えて動かなくなった。

「ナイスだよ。イナリ君。」
隊長が、イナリの方を向いて、Vサインをしている。・・・何か、締まらないな。
隊長は、その締まらないVサインをした後、神妙な顔つきで、イナリに問い掛けた。

「逃げたもう一人は、どう?」
そうだった、巻き上がる炎の中で見た影は3つだった。もう1人居る筈だ。

「逃げました。もう、こちらに来る事もないと思います。」
イナリは、森の奥を見ながら、そう言った。
それにしても、凄い。あんな不利な状況をひっくり返した。敵も、まさかこうなるとは思っていなかっただろうな。俺は、隊長とイナリを交互に見る。イナリ・・・凄いなぁ。前からセンス?みたいのは、同期の中でも上の方だと思っていたけど、戦場での任務になると、それが一気に研ぎ澄まされたみたいになる。俺も、頑張らないと。でも、とふと疑問に思って、イナリに問い掛けた。

「イナリ、いつの間に隊長と打ち合わせしたんだ?」

「あぁ、それはね。最初の敵が攻撃してくる直前に、他の敵意が近づいてくるのが分かったから、その一瞬で話したんだ。あんまりに時間がなくて、2人は話せなかったけど。かえって、それが丁度良かった。こっちが本当に驚いてると思ってくれたからね。」
感知能力・・・そう言ってたよな、確か。凄いな、その能力。でも、うちはだって写輪眼があるんだ・・・僕は、まだ開眼してないけど。
ふと、イナリの右肩辺りに血が滲んでいるのが見えた。服も少し、切れている。

「イナリ、肩、血出てるぞ。大丈夫か?」

「え、あ、本当だ。でも大丈夫。かすり傷だよ。」

「ダメ!ちゃんと診せなさい!」
そう言って、ハナがイナリの傷の手当を始めた。傷はともかく、その事で、少し場が和んだ。今の今まで、張り詰めた緊張感の中で戦っていたから。何度、戦場という場に出ても、慣れるなんて事はない。命を懸けて何とか生き残っても、何だか、心が削れて行ってるみたいな感覚に囚われる。・・・早く、戦争終わらないかな。そういえば、と思い出して、今度はトバリ隊長に問い掛けた。

「トバリ隊長、これからどうします?」
隊長は、周りを見渡していた目をこちらに向けた。

「残念ながら、ゲームオーバーだよ。」
そう言って、手に止まっている鳥を見せた。先ほど、来た小鳥ではなく、鷹ぐらいある大きな鳥だった。

「陽動部隊は、撤退。私達、調査の小隊も順次撤退せよ、だって。」
ため息交じりの、疲れた声で言った。任務は、失敗という事か。

「任務は、失敗という事ですか?」

「そうでもないさ、1個小隊撃退したんだし、それは手柄だよ。カタナも、よく頑張ったね。」
いつもの、ニカっと大きな笑顔で、そう答えてくれた。それだけで、何となく暗い気分が晴れるようだった。

「イナリ君、ハナちゃん、治療終わったかい?撤退するよー。」
隊長は、そう言って、イナリたちの方へ向かって行った。僕もそれに続く。

「おら、いちゃついてんじゃねーよ!撤退、撤退。」
と、茶化してやった。

「「い、いちゃついてない!」」
・・仲いいなぁ。声揃えちゃって。
でも、今回も3人全員、生き残れた・・・。
 
 

 
後書き
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

長かったですよね。
どうしても、次の話関連で、キリのいい所まで行きたかったので。
次回は、原作にも出てきた”あの話”関連です。
よろしければ、ご期待下さい。

ではでは。 
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