| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦争を知る世代

作者:moota
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十八話 葛藤

 
前書き
こんにちは、mootaです。

遅くなりました、ごめんなさい。
今回の内容もheavyです。この話は、この章の大きな目玉と共に、大きな転換点でもあるので、ご了承頂ければ幸いです。

ただ、今までのこんなところが良かったとか、今回の話のここは読みにくいなどありましたら、是非ご感想下さい。

では、よろしくお願いします。 

 
第十八話 葛藤



火の国暦60年8月20日 夜
火の国 木ノ葉隠れの里 稲荷神社
ふしみイナリ


「ぶはぁっ!!」

 そんな情けない声で飛び起きた。愛着のある寝間着の下には、何とも言えない気持ちの悪い汗をかいている。8月も終わりに近づいてはいるが、まだ、寝苦しい暑さが襲うことが多い。しかし、これは、その類いではなかった。どちらかと言えば、背筋を凍らせるような、不気味の悪いものだ。

「はぁ、はぁ・・・な、何だ?」
呼吸は荒く、まるで、ギリギリまで息を止めていたかのように、酸素を欲していた。それに加え、喉の異様な渇きに気付く。僕は、水を求めて立ち上がり、台所まで急いだ。だが、足元が少しばかり不安定で覚束ない。それでも、やっとの思いで台所にたどり着き、水を一気に飲み干した。冷たい水が体内を駆け巡り、その心地よさに少しだけ安心する。

「はぁ、どういう事だろう?」
原因は分からない。しかし、起きた事は意外にも、明確だった。ふしみ一族の能力が働いたのだ。木ノ葉隠れの里の北西、ここからもそんなに遠くはない森の中に強い“悪意”、“敵意”を感じたのだ。それはとても強く、そして、どす黒く濁ったものだった。
 ふしみ一族の、この能力・・・まだ、自分自身の意志で使う事は出来ない。前の任務でもそうだったが、こいつは勝手に反応する。その範囲や、その正確性も分からない。ただ、自分に対して強く感じるものは、特に反応するようだった。
 それはさておいても、今、感じた方向は確か、菜野一族が管理する森の方角だ。ハナに何かあったかもしれない・・・そんな事が頭をよぎる。すぐにでも着替えて、そこに向かおうとした時だ。また、先程と同じような感覚が体を襲った。それは、ただ感じると言うものではない。耐えられないほどの頭痛が襲い、立っていられなくなり、その場に倒れてしまった。

「な、何だ・・・これっー!」
特に抵抗する間もなく、僕は、そのまま意識を手放した。



その5時間後
木ノ葉隠れの里 とある公園
菜野ハナ


 午前8時、夏真っ盛りの日でも、この時間はまだ、その風は心地よいと言える。ただ、喧しく鳴くセミの声だけはどうにもならなかった。
 今日は、今度の任務についての話し合いと、小さな任務をこなす事になっている。集合時間は午前8時、この日は珍しく遅刻したのは、イナリだった。しばらくして、彼は、その顔を蒼白にして現れた。

「イナリ君、大丈夫かい?顔色が悪いけど?」
そんな彼に第一声を掛けたのは、珍しく遅刻しなかったトバリ隊長だった。彼は、それに笑顔で答える。

「だ、大丈夫です、トバリ隊長。すみません、遅れてしまって。」

「いや、いいんだけど・・・」

「まぁ、隊長は何も言えないよなー。」
そう、茶化すように言うのは、カタナだ。彼は意外にも、遅刻したことは一度もない。カタナの言葉に、皆が笑う。しかし、私は、ぎこちない笑い方しか出来なかった。そんな時、イナリがこちらに顔を向けた。私を見て、どこか安心したように顔を綻ばせる。

「あぁ、よかった。ハナ、昨日の夜は何もなかった?」
心臓が跳ね上がった。想像だにしない言葉が降りかかってきたからだ。

「よ、夜って?」
私は、きっと可笑しな顔をしていたと思う。それぐらいに、動揺していた。

「あ、いや・・・ごめん、変な事聞いたね。」

「ううん、別に。な、何もなかったよ。」
二人して、何処かぎこちない。イナリは、昨日の夜、何かを感じたのだろうか。ふしみ一族の能力・・・“敵意”や“悪意”を感知するレーダー。この前の任務でも、その能力で危機を逃れた。まさかとは思うけど、バレてないよね・・・?

「何してんだ・・・二人して?」
カタナが不思議そうにそう、声を掛けた。それをタイミングに、イナリから離れる事ができた。

「ほら、隊長が向こうで話するって。」
少し離れた所にあるベンチを指差している。私は、そそくさと返事をして、そちらに向かった。それに続いて、イナリとカタナもベンチに向かう。私は、あえてイナリの横を避けた。隣に座ることなんて、出来なかった。全員がベンチに座るのを確認してから、トバリ隊長が話し出した。

「とりあえず、任務まで時間もあるし、今度の大きな任務について、話をしておこうか。今度はとても大規模な作戦になる。動員は、攻撃部隊20個小隊。支援部隊8個小隊。そのなかで、私達は〈後方支援科 通常補給群〉として参加します。」
その言葉は、少しばかりの緊張を含んでいる。

「目的は何になるんですか?」
イナリが、問い掛ける。

「目的は、敵の戦力を削ぐ事。敵の進軍ルートである三枝木鍼の橋を破壊。そして、暗殺部隊もそれを囮に動く。つまり、合同作戦だね。」
“囮”・・・それに少しだけ反応してしまう。皆も同じなのか、視線を落とし、何も言わない。それを気にしてか、トバリ隊長は何もなかったかのように続ける。

「それで、私達の仕事は司令部への補給だ。」

「司令部?」
私は、つい質問してしまった。隊長は、私に顔を向けて答える。

「そう、今回は大きな部隊が動くからね。司令を出す大隊長が任命される。それで、配置的には、実際に敵と接敵する前線、その後方に指揮する大隊長がいる司令部、そして最後方に補給部隊が設定されるんだ。補給物資等は、最後方の所から司令部までと、司令部から前線へと2つ補給線が出来る。その2つを4個小隊ずつで担当する。で、私達は、後ろの担当と、言うことだよ。」

「あ、なるほど。」

「詳しくは、巻物に書いてあります。よく読んで、後は処分しといてね。」
そう言いながら、隊長は3つの巻物を取り出し、私達の前に並べて置いた。それから、ベンチから立ち上がり、伸びをする。

「さ、そろそろ時間だ。行こうか?」
と、伸びをし終わった隊長は、そう言った。私達は、それに頷き、立ち上がる。
 これから私達は、Cランク任務に向かう。内容は、盗賊団の討伐。盗賊団と言っても10人くらいの集団で、戦争に出ることに比べれば何てことはないと思う。その盗賊団は、木ノ葉の近くにある街道で、行商人や旅人を襲い、金目の物を奪うらしい。少数ではあるけど、死人も出てしまっている。そこで、木ノ葉の忍に白羽の矢が立った訳ね。戦争をしているとは言え、一般の人達の生活に関わる任務もこなして行かなくてはいけない。そんなことを考えているうちに、木ノ葉の門まで辿り着いていた。

「さ、ここからそう遠くもないし、サクッといきますか。この前、話した通り、先に協力者と接触します。交渉は基本的に私がやるから、皆は警戒ね。」
その言葉に、私達は頷き、出発する。場所は、ここから走って移動して、1時間位の街道近くの森。その近くにある茶屋で協力者と会うことになっている。その協力者から盗賊団のアジトを聞いて、攻撃する。それが、任務の概要。
 私達は、木の上を枝や幹を利用して素早く移動する。陣形は、特に決めてなく、隊長を先頭に、私達3人が並んで追いかけるという形になっていた。隣には、イナリがいる。・・・どんな顔をすればいいのか、分からない。ふと、昨日の夜・・と言うよりも今日の早朝だけど、両親とのやり取りが思い出される。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

「ハナ、あんたイナリ君と仲が良かったわね?絶対にお父さん達に言っちゃダメだからね?でないと・・・」
お母さんは、悲しい顔をしていた。今にも、泣きそうな。

「え、でも・・・」
私は、お母さんの言葉に口ごもる。お母さん、無理だよ・・。
その時、時悪くお父さんが帰ってきた。

「おーい、ハナはいるか?話したい事があるんだがー。」
そう、お父さんはいつもみたいに優しく、話していた。それを聞いて、お母さんは少しばかり安心したように、お父さんの方へ駆けていく。スリッパをパタパタと、音を立てて。

「あら、お父さん。お帰りなさい。会合は終わったの?」
何事も無かったかのように、お母さんは問い掛けた。

「ん?あぁ、ただいま。ハナはいないのか?」
お父さんは、お母さんの問い掛けには答えずに、私の居所を聞いている。さすがに、居留守は出来ない。だから、私は勇気を振り絞って、そして、いつもの自分を装って、お父さんの前に姿を現す。

「お父さん、ここにいるよ。お帰りなさい。」
努めて、普通に。

「あぁ、ハナ。ただいま。ところで、ハナはイナリ君と仲が良かったよな?確か・・・同じ小隊って話だったな?」
その一言・・・その一言で、お父さんは姿を変えたように見えた。すぐに答えれず、お母さんの方に視線を変える。お母さんは、とても驚いたような顔をしていた。・・・無理なの、イナリの事を隠すの。もう、話しちゃったの。

「う、うん。それが、どうかしたの?」

「ハナに、やって欲しい事があるんだよ。来週末、ある所に彼を連れてきて欲しい。出来るよな?」
そう話すお父さんの目は、今まで見たことがない目だった。焦点が合わず、空洞のような目をしている、そんな風に見えた。それぐらいに、お父さんが怖かった。

「あ、でも・・・」
答えられない。答えられる筈がない。私が、なかなか答えずにいると、お父さんは、急に私の両肩を掴んだ。それも、とても強い力で。私は、その肩を掴む痛さと、お父さんの異常な行動に、ただ、怯えた。

「ただ連れてくるだけだ!何もしやしないさ!」

「お父さん!やめて!ハナを離して!」
お父さんの怒声と行動に、お母さんがそう、叫んだ。そして、叫んだと同時に、お父さんの腕を掴んで離そうとしてくれた。でも、力でお父さんに叶う訳はなかった。お父さんは、離そうとするお母さんを、殴り飛ばした。鈍い、重い音を立てて。

「あ、お母さん!・・・お母さん!お母さん!」
私は叫ぶ。殴られて、1,2mは飛んで倒れ込んだお母さんに。お母さんは、その声が聞こえてか、少しずつ体を起こした。よかった、無事みたい。しかし、顔を上げたお母さんの顔は、血だらけだった。殴られた所が赤く腫れ、鼻血が流れて出ている。

「うるさいんだよ・・・お前たちは。これは、菜野一族の為なんだ。菜野一族の再興の為のな!」
そう言って、お父さんは、また両肩を掴む力を強めた。

「痛っ!痛いよ、お父さん!」
私は、泣いていた。目から頬を伝う涙は、止まらない。

「ハナ!菜野一族が再び栄光を掴むには、しなければいけないんだ!分かるだろう!?」
両肩を掴む力は、さらに強くなる。

「・・・わ、分かんないよ!分かんない!一族の再興なんて・・だって、イナリは、大切な友達なの、仲間なの!!」
涙で、お父さんの顔を見る事は出来ない。でも、ただ叫んだ。自分の気持ちを。その時、両肩を掴む力が緩んだ。“よかった!お父さん、分かってくれた!”そう思った。でも、違うかった。その瞬間に、頬にとてつもない痛みを感じた。その痛みと同時に強い衝撃もあって、私はそれに体を持っていかれた。ジンジンとする痛みのなか、意識を失った。
 次に気が付いた時は、冷たい床に寝ていた。とても冷たくて、そして、私の血なのか、お母さんの血なのか、点々と赤い液体がこぼれていた。その床は、いつも楽しそうに話すお父さん、お母さん、私が暮らす家の床だった。こんなに、冷たいなんて思ったことない。いつも、暖かくて、そして綺麗だった。
 周りを見渡すと、まだ、明るくはなっていない。時計を探す。まだ、朝まで時間があった。お母さんは、居間にある、いつも食事をする机に向かって椅子に座っていた。こちらに背を向けているので、どんな表情をしているのか、起きているのか、寝ているのか、何も分からない。

「お母さん・・?」
私は、遠慮がちに話し掛けた。お母さんは、その声に体をビクッと震わせた。そして、少し間をあけて、答えてくれた。

「ごめん、ごめんね、ハナ。」
でも、それは謝罪だった。泣いているのだろう、震える声で、振り絞ったと言う感じだった。

「お、お母さんは何も悪くないよ。悪く・・な・・」
お母さんを励ましたかった。泣いて、辛そうな背中をしているお母さんを。でも、私は途中で声が出なくなる。声の代わりに、嗚咽だけが出てくる。お母さんは、振り返って、私の方まで駆け寄ってきた。そして、抱き締めてくれた。とても、強く。それと同時に、私の涙は止まらなくなった。大きな声をあげて、流れ続ける涙を拭くともなく、ただ泣き続けた。お母さんも一緒に。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1時間後
街道 茶屋“乃色屋”
菜野ハナ


 茶屋“乃色屋”、藁葺きの屋根に、白い塗り壁、とても古い印象を見せるこの茶屋は、創業して80年以上になるらしい。とても、古い歴史があるそうだ。出してくれるお茶の器も、どこか奥深さを感じるようなものだったから、たぶん本当かな。そんな茶屋で、私達は協力者と接触した。

「あんたが、木ノ葉の忍か?」
私達の目の前に座る、何処にでもいそうな服装の30~40位の男が問い掛けた。彼の目の前には、お茶と三色に彩られた団子が置いてある。

「そうです。あなたのお名前、お聞かせください。」
トバリ隊長が、自分のお茶を飲みながら答えた。これは、暗号だ。お互いを認証するための。彼は、表情を変えずに答える。

「ざしきワラベと言う。ざしきの“ざ”は、戯れ言の“ざ”。」
彼は、視線で隊長に続きを促す。

「ざしきの“しき”は、色の“しき”。」
隊長は、そう答えた後、灰色に近い色をした布を取り出す。そして、それを机の上に広げた。それに対して、ざしきワラベと名乗った男は、細長い枝のような緑色の物を取り出した。それを机に置かれている布の上に置く。すると、たちまち緑であったその細いものが、布の色に合わさるように色を変えた。それを見た隊長には、後ろに座って警戒していた私達に、こちらに来るよう合図した。私達が、隊長の隣に座ると、話が再開された。

「敵のアジトの場所、規模、武器の有無とその中身を教えて欲しい。」
トバリ隊長が、先に話し掛けた。ざしきワラベは、小さく頷いてから、話し出す。

「アジトは、ここから北西に森を抜けた岩場だ。ここからだと、大体15分位で着く。敵の規模は、前情報と同じく10人。武器は刀持ってるやつがほとんどで、1人だけ槍を持っている位だ。今、やつらは全員アジトにいる。確認済みだ。」

「オッケー、上々です。」
隊長がそう答えると、不思議とざしきワラベは、視線を落とした。

「・・頼む。あいつらを殺してくれ。あいつらは、俺の妻を殺しやがったんだ。」
彼は、辛そうにそう言った。

「あなたは、あの一団の一人だと聞いていますが?」
隊長は、静かに聞き返す。

「そうだ。昔はあの一団で悪をやってたが、女が出来たんで、足を洗うって辞めたんだ。そしたら、あいつら、俺の女を殺しやがった!許せねぇ!昔は気が合う奴等で楽しかったが、これだけは許せねぇ!」
彼からは、強い憎しみが感じられた。隊長は、冷ややかな目をしていた。そんな中、私は一つの言葉に気を取られていた。“昔は気が合う奴等で、楽しかった”、この言葉だ。彼は、昔の仲間を売った。仲間を裏切った。そう言う事よね・・・。

「そうですか。先を急ぎましょう。」
隊長は、彼の言葉に何も感じなかったかのように、答えて茶屋を出ていった。私達もそれに続いた。

 ざしきワラベさんの案内で、盗賊団のアジトに無事、辿り着く事が出来た。そこは、森の中にある少し開けた所で、大きな岩がごろごろと転がっている岩場だった。その中にある一際大きい岩、それには、大きな穴が開いていて、その中がアジトらしい。私達は隊長の命令で、その入り口を半包囲している。入り口の真ん前に隊長と私、左側にイナリ、右側にカタナが配置していた。
 作戦はシンプル。イナリの能力によって、中に全員がいることは確認済み。そこで、私の術で敵を誘き出し、外に出してから一網打尽にすると言う作戦だ。敵は忍ではなく、盗賊だから下手なことをしなければ大丈夫。

「花遁 甘誘花粉の術!」
印を素早く結んで、術を発動する。この術は、甘い花粉を出して、敵を誘い出す術。術者より強いチャクラを持つ人間には効かないけど、それ以外には、高確率で誘い出せる。黄色やピンク、赤色など様々な色をした花粉が、洞窟の中に入っていく。じはらくすると、中から厳つい顔をした連中が順場に出てきた。この術の難点は、敵を混乱させるようなものではない事。誘い出す事は出来るが、敵は正気なのだ。

「よし、今だ!」
10人が出てきた所で、隊長が合図を出した。隊長、イナリ、カタナ、皆がそれぞれ敵に向かって駆けていく。私もボーッとしとく訳にはいかない。私は、とりあえず、一番近くにいた敵にクナイを投げる。敵は正気だ。少しばかり驚いた表情を見せたが、手に持つ刀で、クナイを弾く。鋭い音が鳴り響く。私はその間に、敵の懐に駆け込んだ。

「なっー!」
敵は驚いて声を上げる。でも、もう遅い。クナイを弾く為に刀を振り抜いた為、彼のお腹はがら空きだった。そこ目掛けて、チャクラを溜めた拳で、一気に振り抜いた。

「せいやっ!」
ドスッという鈍い音を立てて、敵はふっ飛んだ。それと同時に、私は体を捻りつつ、左手で手裏剣ホルダーから手裏剣を取り出す。体を捻る力を利用して、その手裏剣を右斜め前にいた別の敵に向かって投げつける。

「ぎゃあっ!」
敵の腕と太ももに突き刺さり、悲鳴を上げた。私は体をその悲鳴を聞く頃には、近くの岩を蹴って、敵の真上に躍り出ていた。クルっと体を捻り、渾身の踵落とし!ガッという鈍くも鋭い音がして、敵は意識を失った。私はそこから一転し、体勢を立て直して、周りを見た。
 敵の殆どは、既に倒されていた。ただ、一人だけが息を荒くして立っていた。

「くそがぁ!何でここがバレた!!」
敵は息を整えて、叫ぶ。それに相対していた隊長が、答える。

「君のお仲間が教えてくれたよ。」
その言葉に、彼は驚きの表情を見せた。でも、すぐにその表情は“怒り”へと変わる。

「あいつかぁ!ヤジロベェか!許さねぇぞ、あいつぁ!昔は仲良くつるんでたってのに、女が出来たからって調子乗りやがって!仲間を裏切りやがって!」
ヤジロベェ・・・たぶん、ざしきワラベさんの事だよね。彼の名前は、暗号のための偽名だったからだ。

「くそっくそっくそっー!裏切りやがって!」
彼は叫ぶ。その叫びに、私の鼓動は限りなく速くなる。“仲間を裏切った”その言葉が、どうしようなく胸に刺さる。

敵は、隊長に背中を向けて走り出した。一目散に洞窟への入口に向かい、あっという間に中に入ってしまった。
その瞬間・・・

「土遁 岩宿崩しの術!」
隊長は素早く印を結んで、地面に両手を着けた。それと同時に、地面が揺れ、敵が逃げ込んだ岩が割れ、大きな音を立てて崩れていった。その大きな音の中に、小さな悲鳴が聞こえた。土煙がもうもうと立ち上がる中、任務は終了した。

「へへっ、ありがとな!これで、あいつも気が晴れるだろうよ。」
任務終了の報告をした後、ざしきワラベ、もといヤジロベェは、そんな事を言い出した。彼の妻は確かに、気が晴れるかもしれない。でも、それを言われた私は、何も晴れる事なんてなかった。むしろ、どす黒い雲が広がっていく。

「ヤジロベェさん、その事はあんまり言わない方がいいと思いますよ。・・・仲間を裏切ったなんて。」
隊長が、静かに反論した。

「あ?あいつらが悪いんだぜ?」

「確かに、あなたの妻を殺したのは悪いでしょう。でも、元々は仲良くしていた仲間ですよね?どういう形であれ、そんな、死んだ人間の悪口なんてやめましょうよ。」
その言葉に、彼は笑い出した。低く、下劣な笑い方だ。

「仲間つったって、あんな事をすれば、仲間じゃねぇよ。」

「仲間って、そんな簡単なものじゃないですよ。」
隊長の目は、まっすぐに彼を見ていた。

 私は、どうすればいいのだろうか。何をすれば、正解なのだろうか。イナリは、私にとって大切な友達、大切な仲間。でもきっと、それだけじゃない。彼は、私の幼馴染みで、悲しい過去を持ってるけど、それを周りには見せない。強くて、でも、時々おっちょこちょいで。私はきっと彼の事を・・・。
 だけど、私は、菜野一族の人間。菜野一族は、ある事件まで、木ノ葉で誉れ高い一族だったらしい。でも、その事件を境に落ちぶれていった。お父さんは言ってた・・・あの栄光をもう一度取り戻したいんだって。あの事件を許せないんだって。皆、そう思ってるんだって。でも、そんなの知らないよ。私には。だって、私にはお父さんがいて、お母さんがいて、親戚のお兄ちゃんやお姉ちゃんがいて、おばさんがいて、おじさんがいて、代表のおじいちゃんがいて、そんなに多くないけど、一族の皆で楽しく暮らしてるのが、私の知ってる菜野一族なのに。

どうすればいいの?

 任務を終えた私達は、そのまま何事もなく木ノ葉に戻ることが出来た。ヤジロベェさんは、最後、何か色々と話していたけど、私には耳に入ってこなかった。イナリとも、ずっと話すことができなかった。というよりも、私が避けていた。どんな顔を彼に向ければいいのか、分からなかったから。結局、そんなこんなしてるうちに解散になった。
 一人で帰る帰り道、その足は重く、帰りたくないな、何て事も思ってた。そんな時、水が頬に落ちた。また泣いてるのかと思ったけど、違うかった。雨だ・・・それは、少しずつ強くなっていく。地面を少しずつ濡らして、その色を黒く染めていく。その地面が、真っ黒に染められた頃、雨はどしゃ降りだった。ザーという音を立てて、私の顔を、服を、体を濡らした。 
 

 
後書き
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

次回は、「長雨」です。
ながめ、と読みます。これを、テーマに次回をお楽しみにしていただければ幸いです。


ではでは。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧