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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep19再臨せし紅翼の剣騎士 ~Charlotte Freiheit~

レヴィとヴィータとシグナムの3人は縦穴より出、空にてカルド隊を迎撃するために臨戦態勢に入った。

『わたしがアイツらの甲冑を砕きますから、生身が露出したら2人は・・・!』

レヴィは念話で、ヴィータとシグナム、ユニゾンしているリインフォースⅡとアギトに、作戦とも言えない力押しの打開策を提示。ヴィータは『判りやすいな!』と返し、シグナムは『判った、頼んだぞ』と返す。リインとアギトは『了解!』敬礼をした。

「このままヴォルケンリッターとレヴィ・アルピーノを撃墜するぞ!!」

「「了解!!」」

カルド隊の3人が手にする大剣に燻る闇色の炎が噴き上がる。レヴィをこの場に限り優先目標として、3人は彼女へと一直線に突撃していく。レヴィは真下から突撃してくるカルド隊の纏う甲冑を破壊するため・・・

「これでも喰ら――」

神秘の内包された砲撃を放とうとした。が、そこに乱入者が舞い降りた。レヴィ達の頭上に現れた乱入者、アクアブルーの長髪、アザレアピンクの双眸、真紅の両翼を生やし、桜色の長刀を携えた、まるで戦の天使のような姿の女性が「退きなさい、そこの子」とレヴィに向かってそう言い、カルド隊へと突撃していく。

「「「な・・・っ!?」」」

その特徴的な乱入者が誰なのか一瞬で判ったレヴィ達は驚愕に目を見開き、一切の動きを止めた。「新手か!」とカルドが乱入者の姿に多少困惑するが、彼はすぐさま「構うな、撃墜しろ!!」と、カルド・イスキエルドとカルド・デレチョへ命令する。2人はヴォルケンリッターでもなく管理局でもないその乱入者の撃墜命令に対し、少し逡巡したが「了解」と返答した。

「止まらないわけね」

乱入者はカルド隊が勢いを止めずに向かってくることに呆れを表した。そして手にする桜色の長刀を、目にも止まらぬ速度でカルド隊に叩きつけた。バキンッ!と音を立てて漆黒の甲冑の腹部付近が粉砕、カルド隊はその衝撃に出て来たばかりの縦穴へと墜落していった。

「まったく。何を考えているわけ? この現代に“魔族”を、しかも幻想一属を引っ張りだすなんて」

乱入者の女性は縦穴に居る“テスタメント”幹部たちに聞こえるように声を出す。それからゆっくりと縦穴内へと降下していき、コツッと静かに地面へと降り立った。なのは達はその乱入者の姿を見て、レヴィ達と同様に驚愕に目を見開く。そしてなのはは無意識にその乱入者たる女性の名を口にした。

「シャル・・・ちゃん・・・?」

シャルちゃん。5年前、ルシリオンと同様にこの世界を去っていった親友シャルロッテ・フライハイトの愛称だ。正しく乱入者はシャルロッテ・フライハイトだった。
なのは達は突然のシャルロッテとの再会に戸惑い、そして次第に嬉しさが心の底から湧き上がっていた。なのははシャルロッテへと駆け寄ろうとするが、その前にシャルロッテが振り向き口を開いた。

「あなた達、少しは腕があるようだけど相手が悪いわ。ここは私に任せて、あなた達はここから離脱しなさい。ハッキリ言って足手まといよ」

その声には親しさなんてものが何ひとつとして無かった。親友に対してあり得ないほどに感情の無い声。それを聞いたなのは達はしばらく思考が停止した。

「聞いているの? 邪魔だからどこかに行っていなさい、と言っているの」

シャルロッテが桜色の長刀“キルシュブリューテ”を、1ヵ所に集まるなのは達に突きつける。その姿に信じられないといった風に硬直するなのは達。シャルロッテは「はぁ」と溜息を吐いて、幹部たちへと視線を戻す。

「巻き込まれても文句は言わないでよね。離れないあなた達の自己責任よ」

そう言い放ち、シャルロッテはふとルシリオンへと視線を移した。そして「なるほど、そういうこと」と呆れの溜息を吐いた。

「誰かは知らねぇが、外野は大人しくしていてもらおうか・・・!」

グラナードが両腕を広げるとフォヴニスの両ハサミ、それだけでなく背部の甲冑が開き、翠色の淡い光が漏れていく。そして尻尾の毒針部分の先端にも翠色の光が集束していく。

「黒鎧の毒精フォヴニス。上層魔界の幻想一属・・・。相手に不足なし。来なさい!!」

――翠閃に穿たれる罪人――

両ハサミから背部から尻尾から翠色の光線が雨のように放たれる。シャルロッテは左手を前方に翳し、「甘いわよ」微笑を浮かべた。

――我が心は拒絶する(ゼーリッシュ・ヴィーターシュタント)――

シャルロッテの前方に真紅の円形の盾が作りだされ、迫る光線群を防ぐ。が、範囲攻撃だった光線群はシャルロッテの背後に居るなのは達にも迫る。シャルロッテの表情が、“しまった”、という焦りに染まる。

「させない!!」

レヴィが上空からすみれ色の拡散砲撃を放ち、なのは達へと迫る光線群を撃ち落としていく。シャルロッテは安堵したように一息吐き、「よかった」と本当に小さく誰にも聞こえないように呟いた。

「まったく!」

シャルロッテはすぐさまフォヴニスへと疾走する。グラナードはフォヴニスへ迎撃させようとするが、シャルロッテの方が圧倒的に疾い。フォヴニスの身体の下へと潜り込んだシャルロッテは、“キルシュブリューテ”でフォヴニスを両断しようとする。しかしフォヴニスの腹部の甲冑が開き、そこから漏れる翠色の閃光が無数の針となってシャルロッテを襲撃する。

「くっ、やっぱり正式な召喚じゃない以上、全力は出せないか・・・!」

歯噛みし、歩法“閃駆”ですぐさまフォヴニスの下から脱出する。そこに迫るのはルシリオンだ。彼は蒼い魔力で構成された大鎌を振り上げながら、「何者だ?」と問うた。シャルロッテは「・・・あなたと同じよ」と小さく答え、“キルシュブリューテ”で迎撃に入る。

「「ふ・・・っ!」」

“キルシュブリューテ”と大鎌の衝突。衝撃波が周囲に拡がる。しかし拮抗は一瞬だった。大鎌は粉々に砕け、「ぐお!?」ルシリオンを弾き飛ばす。シャルロッテは「しばらくどこかに行ってなさい」と言い放ち・・・

――風牙烈風刃(ヴィント・シュトゥース)――

“キルシュブリューテ”を斬り上げる。と同時に暴風の壁が空中で体勢を整えようとしていたルシリオンを襲い、さらに弾き飛ばす。

「貴様ぁぁーーーーッ!!」

そんなシャルロッテへと迫る危機。起き上がったカルド隊の3人が技後硬直のシャルロッテへと同時に仕掛けてきた。

「シャルちゃん!!」

なのはの声に反応したのかシャルロッテは振り返り、カルド隊の攻撃をギリギリで捌いていく。だがグラナードとフォヴニスがそれを黙って見ているわけもなく、シャルロッテへ砲撃を撃とうとしたとき、

「一閃必中!!」

≪Messer angriff≫

掛け声とともにエリオはグラナードへと突撃した。それだけではなかった。なのはもフェイトもシグナムもヴィータもスバルもティアナもキャロも、そしてレヴィも、シャルロッテを助けるために動き出していた。

「あなた達・・・何をしているの! 逃げなさい!」

「そんなこと出来ない! 私たちも戦う!!」

≪Blaster set. Starlight Breaker Multi-Raid≫

シャルロッテの言葉になのはは自分たちも戦うと告げ、“ブラスタービット”を4基展開させ魔力を集束させていく。それを見たフェイト達はすぐさま効果範囲より離脱するために縦穴より地上へと脱出。シャルロッテも「うそ・・・!」と呟いて、すぐさまフェイト達に続いて縦穴より脱出する。

「スターライト・・・ブレイカァァァァァーーーーッ!」

――スターライトブレイカー・マルチレイド――

多弾分割砲(マルチレイド)の名を冠する通り、“レイジングハートとブラスタービット”から放たれた複数の集束砲。縦穴内に集束砲撃の衝撃波が拡がっていく。そしてなのはもまた縦穴より脱出し、地上でフェイト達と合流した。同時に縦穴より桜色の閃光が噴出する。

「・・・やるわねあなた。名前は?」

少し呆れ気味のシャルロッテが右手を差し出しながら名前を尋ねた。なのは達の表情が凍る。先程もシャルロッテは自分たちのことを憶えていないような発言をしていたが、緊急時ということでの態度と言葉だと無理に思い込んでいた。しかし、親友であるなのはに名を尋ねたことで、シャルロッテは自分たちと過ごした10年を憶えていないのだと思い知った。

「あのシャルちゃん・・・」

「・・・どうして私の愛称を知っているの? ううん、それより少し慣れ慣れしいわ。初対面の人間に対してそれは少し礼儀がなってないんじゃない?」

「っ!」

なのはの表情が一気に悲しみに染まる。それを見たヴィータがいち早くシャルロッテの目の前へと移動し、「っけんなよ!」胸倉を掴み引っ張り、彼女の体を無理やり屈ませる。そしてシャルロッテの鼻とくっ付きそうなほどに顔を近付けた。

「どういうことだよ、シャルロッテ!! まさかあたしらを憶えてねぇってか! あたしらはまだいい! だけど、だけどなのはを憶えてねぇのだけは許さねぇッ!!」

「止せヴィータ!」 『ヴィータちゃん!』 『姉御!』

激昂するヴィータを止めに入るシグナム。そしてリインとアギト。フェイトはなのはの肩を支え、スバル達はどうすればいいのか判らずに戸惑っている。レヴィは黙ってシャルロッテを見詰めているだけだ。

「何なんだよ・・・! セインテストは操られて記憶が無ぇ。おまえも、おまえは何で記憶が無ぇんだよ・・・!」

ヴィータがシグナムによってシャルロッテから引き離される。ヴィータは「忘れないって約束はどこ行ったんだよ・・・!」と悔しげに呟いた。シャルロッテは乱れた服を直し、ヴィータ達を余所に縦穴へと視線を移す。

「下級の幻想一属でも一筋縄ではいかないか」

そう呟いてから再びなのは達に視線を戻して「早く逃げなさい」と口にした。なのは達もまた身を乗り出して下へと視線を移すと、縦穴の底から幹部たちがこちらを見上げていた。

・―・―・―・―・―・

「あーくそ。やってくれたよ、エースオブエース様は」

フォヴニスの頭部の上でグラナードが片膝を付いていた。カルド隊は大してダメージが無かったのか平然と立っている。そしてユニゾンを解いたルシリオンは、シャルロッテの一撃にかなりのダメージを負ったのかリインフォースに支えられている。

「今の砲撃で障壁発生装置が破壊されたようだ。もうこの基地に価値が無い上使い物にならない、破棄することを提案する」

本部“エヘモニアの天柱”に居るディアマンテにそう通信を入れる。

『そうか・・・そこの基地の管理局にデータを取られるわけにはいかないな。こちらでデータを回収し、基地を管理局に利用されないように5分後、破壊する。お前たちは配置されていた部隊を回収した後に帰還しろ』

対するディアマンテはそう命令を下し、通信を切った。

「回収するには時間稼ぎが必要だ。カルド隊、頼めるか」

「ああ、問題ない。こちらから頼みたいくらいだ」

「ヴォルケンリッターとの戦闘は望むところ」

「しかし、乱入者とレヴィ・アルピーノは脅威だ。どうする?」

カルドとカルド・デレチョは時間稼ぎを快諾するが、カルド・イスキエルドはシャルロッテとレヴィを脅威として渋る。彼らの視線がグラナードへと集まる。

「・・・判った。オレも行くぜ。フォヴニス!」

フォヴニスが咆哮を上げ、その身体を光の粒子へと変えてグラナードへと纏わりつく。一瞬の発光の後、そこにはフォヴニスと融合したグラナードが立っていた。翠色の甲冑姿。色が違うだけで甲冑はゼルファーダ武装の甲冑と同じデザインだ。唯一の違いは背から生えるハサミの付いた2つの腕と毒針の付いた尻尾。
グラナードがフルフェイスの兜から「これ疲れるんだよなぁ」と愚痴を零す。

「私も行こう」

そう口にしたのはリインフォースだ。それを聞いたカルド隊の雰囲気がガラリと変わった。

「貴様と共闘など出来るか」

「今は少しでも戦力が必要だろう」

カルドの反対をよそにリインフォースは二対の翼を羽ばたかせている。完全に臨戦態勢だった。ルシリオンとグラナードが顔を見合わせ頷き合う。

「部隊の回収は私ひとりで十分だ」

「それじゃあオレ達は早速時間稼ぎを始めようか・・・!」

ルシリオンとグラナードがそう話を勝手に進めることでカルド隊の反対を押し切る。カルド・デレチョが「チッ」と舌打ちした後、「裏切るなよ」とリインフォースへ言い放つ。リインフォースが「判っている」と応えたことで、ようやく5人は一斉に空へと飛び立ち、“特務六課”の魔導師たちやシャルロッテと交戦を開始した。

・―・―・―・―・―・

空で繰り広げられるエースと幹部たちの戦闘。シグナムとヴィータがリインフォースを相手に奮戦する。

「おいリインフォース! 何でお前はそっち側に居るんだよ!!」

――ラケーテンハンマー――

――パンツァーシルト――

ヴィータの問いと共に放たれる一撃を難なく防ぎきるリインフォースは無言だ。彼女の背後から、シグナムの紅蓮の炎を纏わせた“レヴァンティン”が迫りくる。それもベルカ魔法陣のシールドで防ぐ。

「答えろリインフォース。我らのことを憶えているのなら、なぜ主はやての元へ帰らない・・・!」

拮抗する3人の攻防。リインフォースは「ブラッディダガー」と血色の短剣を複数展開、一斉射出した。シグナムとヴィータは至近で放たれたにも関わらず、シールドで防いだ。

『答えてください! どうしてわたし達が戦わないといけないんですか!?』

嗚咽の混じったリインの問い。リインフォースはその問いに対して静かに「これもまた未来のためだ」と答えた。

『あのさ! あたしアギトってんだ。少し前から八神家の一員として過ごしてる。だからあんたと話す資格って言うかさ、その・・・』

「ああ、知っている。これまで騎士たちと共に主、八神はやてを護っていてくれていたそうだな、感謝する。今の私のように八神家の一員として、八神はやての騎士としての資格が無い者に畏まる必要はない」

シグナムの内に居るアギトへと「ゆえに気にすることなく言いたいことがあれば言えば良い」と続けた。

『だったら聞くけどさ! 未来のためだって言うんだったら、何もそっちにいる必要は無ぇんじゃねぇかな!!』

『そうだな・・・しかし私は、こちらでも成さなければならないことがあるのだ。とは言え本音を言えばお前たちは敵対したくはないんだ。だが私は一構成員。反対できるわけもない。だからこそ今の私に出来る範囲で、お前たちをこちら側から護ってみせる』・・・深き闇に穿たれよ・・・!」

――ハウリングスフィア――

リインフォースは思念通話でシグナム達に心の内を告げつつ高速で飛行し、巨大なスフィアを6基設置していく。

――ナイトメアハウル――

同時に6基のスフィアからも深紫色の砲撃が放たれる。シグナム達はリインフォースの本音を聞き、心が安堵の想いに満ちる。

『ならば教えろ。テスタメントを率いているのは誰だ』

照準がわざとズラされて放たれた砲撃を余裕で回避しつつシグナムがそう尋ねた。しかしリインフォースから返って来たのはその答えではなかった。

『教えられない。裏切れないのだ、我らのリーダーの想いと願いを知っている以上は。烈火の将。紅の鉄騎。祝福の風を継ぎしリインフォースⅡ。私は、再びお前たちと逢え、こうして言葉を交わすことが出来たことを嬉しく思う』

リインフォースの表情が緩まる。それはかつてとはいえ愛おしい家族へと向ける優しい微笑だった。

『そして新たな守護騎士アギト。お前に頼みたい。これからも守護騎士の一員として、八神はやて達を護ってあげてほしい』

シグナムの内に居るアギトに、願いを1つ託す。

『・・・最後に、すぐにこの地から離れてくれ』

――デアボリック・エミッション――

リインフォースが「闇に染まれ」と呟き、少し間を開けてから離れたところで戦闘しているなのは達を巻き込みかけない程の一撃を放った。シグナム達はリインフォースの目配せのおかげもあり、すぐさまその場から離脱することに成功した。

・―・―・―・―・―・

空を飛ぶことの出来ないエリオ達に代わり、レヴィとフェイトの2人でフォヴニス武装形態のグラナードと空戦を繰り広げていた。

「邪魔をするなよ、オレは騎士エリオと戦いたいんだよ・・・!」

――穿たれし風雅なる双爪――

背から生える腕の先端のハサミから翠色の砲撃が放たれる。レヴィは“モード・コンバット”となり、瞬走弐式で回避しつつ負けじとすみれ色の砲撃を放つ。

「エリオにご執心!? あの子に何をさせるつもり!」

――紫光破(ハーツイーズ・ストライク)――

最接近して打ち下ろしの右拳打を叩きこみ、ゼロ距離砲撃を放つ。バキンと音と共に、グラナードの甲冑にヒビが小さく入る。フェイトは、「マジかよ!?」と驚愕しているグラナードへと高速で接近する。フェイトがライオットブレード形態の“バルディッシュ”の斬撃を、その小さなヒビへと叩きこんだ。しかしヒビが入っているにも関わらず全くダメージを与えていない。

「退けよ!!」

「やっぱり私たちじゃ勝てないの・・・!」

グラナードの振り回された尻尾を回避しつつフェイトが悔しげに呻く。レヴィはフェイトに向かって「そんなことない! 連携で必ず勝てる!」と告げる。フェイトは弱気になっていた自分を叱咤し、レヴィの言葉に「うん!」と頷き応えた。

「それじゃあ再度わたしが甲冑にダメージを与えて砕く! だから・・・!」

「私が砕けた部分に攻撃を与えれば・・・!」

「「勝てる!!」」

「厄介な奴が管理局に付いたものだぜ、まったく!!」

再びグラナードへと接近していくレヴィとフェイト。その時、3人へと膨張した魔力の球体が迫ってきた。

「「あれは・・・!」」

フェイトとレヴィはそれが何なのか知っているためにすぐさま効果範囲から離脱する。

「なに!? ・・・アイツ、オレ達も巻き込むってか・・・!?」

グラナードはデアボリック・エミッションのことを知ってはいたが、巻き込まれるとは思いもしなかったために完全に離脱することが出来ず、呑み込まれていった。

・―・―・―・―・―・

「おのれぇぇぇぇぇッ!!」

カルドが大剣を振り上げながらシャルロッテへと迫る。

――光牙閃衝刃(シュトラール・ランツェ)・連閃――

シャルロッテはカルドへと向けて高速の突きを繰り返し、真紅の魔力槍を次々と放っていく。カルドは大剣に燻る闇色の炎を噴き上げさせる。

――憎悪は何者にも消せず――

そして闇色の炎を迫る無数の魔力槍へと叩きつけた。爆発。しかしカルドの炎は槍を相殺することが出来ず、黒煙の中から飛び出してきた14発の魔力槍の直撃を受け、墜落していった。

「「邪魔をするなぁぁぁぁぁッ!!」」

カルド・デレチョとカルド・イスキエルドが同時にシャルロッテへと襲撃を仕掛ける。シャルロッテはカルド・デレチョに真空の刃・風牙真空刃を十閃以上放ち牽制、そのいくつかが直撃し、彼を弾き飛ばす。
カルド・イスキエルドの斬撃は物理障壁ハルトリーゲル・シルトで受け止める。しかし拮抗は一瞬、障壁は一瞬で砕け、シャルロッテの至近距離で闇色の炎が爆ぜた。

「シャルちゃん!!」

4人の戦闘を傍観するしことしか出来なかったなのはが叫ぶ。シャルロッテはその声に応えるかのようにすぐさま体勢を整える。

凶牙(シュヴァルツ)――」

大きく“キルシュブリューテ“を振るい、漆黒の波を出現させる。

波瀑刃(シュトローム)!」

その強烈な光景に絶句する中、カルド・イスキエルドは闇色の炎の槍で迎撃に入る。

――慈悲すら許さぬ業火――

螺旋状の槍が大波に孔を開ける。兜の中で笑みを浮かべたカルド・イスキエルドだったが、そんな彼に桜色のバインドが仕掛けられる。

――レストリクトロック――

なのはの有する最高のバインド魔法だ。しかしカルド・イスキエルドがそれを砕けない訳もない。が、なのはにとって一瞬だけでも彼の動きを止めることが出来た。それだけで十分だった。動きを止めたその隙にシャルロッテが一瞬で距離を詰め・・・

――雷牙月閃刃(ドンナー・モーントズィッヒェル)――

真紅の雷撃を纏った“キルシュブリューテ”の一閃を叩きこんだ。カルド・イスキエルドの甲冑の背部が砕け散る。彼から力が抜け、地上へと真っ逆さまに墜落していった。

「がああああああああ!?」

真紅の雷撃は消えることなく辺りに拡散し、シャルロッテへ突撃してきたカルド・デレチョの振り上げている大剣に一斉に落ちた。カルド・デレチョは痙攣して動きを鈍らせるが、それでも動き続ける。

「はぁはぁはぁはぁ・・・さすがに調整を終えていないとキツイな・・・」

シャルロッテは大きく肩で息をしながらカルド・デレチョを睨みつける。そして互いが動こうとしたとき、膨張していく球体がなのは達へと迫ってきた。なのははすぐにシャルロッテへと近寄りって彼女の手を取り、デアボリック・エミッションの効果範囲から離脱する。

「なんだと・・・!?」

その場に残されたカルド・デレチョは何も出来ずに呑まれていった。

・―・―・―・―・―・

空戦の出来ないスバル達は、拘束していた“レジスタンス”の護送を命じられていた。空にルシリオンが居ないことをすでに連絡で知っているため、4人は警戒しつつそれでも素早く“レジスタンス”を拘束している場所へと向かう。
拘束場所に辿り着いたスバル達が目にしたのは、ルシリオンによって次々と転送されていく“レジスタンス”だった。

「ルシルさん!」

「!・・・邪魔をしないでもらおうか」

ほとんどの転送を終えたルシリオンは、背後に居るスバル達に振り返る。手に蒼い大鎌を生み出し、調子を確かめるように振り回した後、構えた。

『どうしようティアナ』

『やるしかないでしょ! ルシルさんにはどうやらムラがあるみたいだし、叩けるうちに叩いておく方が断然いい!』

スバルの念話にルシリオンの様子からそう決断したティアナがそう答える。その念話を聞いていたエリオも『それじゃあ戦うということで良いんですか』と確認を取る。ティアナは『ええ。リインフォースさんともユニゾンしてないし、4人がかりならいけるかもしれない』と返す。

「4人、か。今の私では苦戦は必至だが、しかし墜とされるわけにもいかない!!」

ルシリオンが大鎌を振るって発生させた衝撃波をスバル達に放ち、彼女たちの視界を潰す。その隙に残り3組の転送を終える。

「いくぞ」

目を覆っていたスバル達に突撃。

≪Set up. Dagger Mode≫

振り下ろされた大鎌を受け止めるティアナのダガーモードの“クロスミラージュ”2挺。十字に構えられたダガーを突破することが出来ないルシリオンの大鎌。

「「はぁぁぁぁぁぁッ!!」」

咆哮するスバルとエリオがルシリオンへと迫る。その2人の背後では、キャロが足元に桃色の魔法陣を展開させ、詠唱していた。

「猛きその身に、力を与える祈りの光を。我が乞うは、疾風の翼。槍騎士と拳闘士に、駆け抜ける力を、すべてを貫く力を」

≪Boost Up. Strike Power. Boost Up Acceleration≫

「ツインブースト、スピード&ストライク!」

キャロの補助魔法の効果を受けたスバルとエリオが急加速し、ルシリオンが迎撃体勢に入る前に攻撃態勢に入った。スバルの“リボルバーナックル”のナックルスピナーが唸りを上げ、エリオの“ストラーダ”の穂先が帯電する。

――ストライクドライバー――

2人の同時攻撃がルシリオンへと直撃しようかというとき、彼は地面を蹴りティアナを支えにして逆立ちする。ティアナは「え?」と漏らし、すぐにルシリオンの体重を支えきれずに体勢を崩す。

≪Round Shield≫

“クロスミラージュ”がティアナへと迫るスバルとエリオの攻撃を防ぐためにシールドを展開。

「うわっ・・・!」 「まずい・・・!」

スバルとエリオは勢いの付き過ぎた自身の攻撃を全力で止めようとする。2人は何とかティアナのシールドに衝突するギリギリで止めることに成功した。ティアナから跳躍し、上空で逆立ち体勢のままのルシリオンがそれを見て「惜しかったな」と残念そうに呟いた。

「アクロバットな動き、気を付けないよスバル! エリオ!」

「判ってる! ティアナもさっきのようなのはダメだよ!」

――ウイングロード――

スバルはルシリオンを自分たちの戦闘領域に閉じ込めるため、縦横無尽に道を作り出した。

「マッハキャリバー、ギア・エクセリオン!」

≪All right buddy. A.C.S. Ignition≫

スバルに応じた “マッハキャリバー”に魔力の翼が生まれる。“マッハキャリバー”のフルドライブ。魔導師としての、そして戦闘機人としての能力を運用可とする。

「行くよエリオ!」

「はい! ストラーダ、フォルムドライ!」

≪Form Drei. Unwetter Form≫

“ストラーダ”の形状が変化する。ヘッドブースター部と石突部分に黄金の突起が伸びる。エリオの電気変換資質を最大限に強化する形態だ。
スバルとエリオはウイングロード上を疾走し、ルシリオンへと上下左右からと臨機応変な攻撃を入れいていく。ルシリオンは何とか2人の攻撃を捌き直撃だけは免れているが、少しずつ対応できなくなっていく。

「ティアさん、いきます!」

「ええ!」

ティアナとキャロはそんなルシリオンへと撃墜のための一撃を用意する。キャロはティアナの弾速と威力を高める補助魔法・ブーストアップ・バレットパワーを発動。

「クロスファイア・・・!」

≪Cross Fire Full Burst≫

『スバル、エリオ、離脱!』」

ティアナの周囲に展開された複数のオレンジ色のスフィアの輝きがさらに強まる。攻撃準備が完了したことを前線でルシリオンと戦うスバルとエリオに念話で報せる。

「シューット!!」

エリオがルシリオンの大鎌を弾き飛ばしたのを見て、ティアナがすぐさまクロスファイアを放った。

――ヴェロシティ・レイド――

突如撃ち込まれた砲撃に、ティアナのクロスファイアの大半が掻き消される。ルシリオンも残りのクロスファイアを余裕で迎撃し終えた。

「黄色い砲撃・・・!? お兄ちゃん・・・!」

ティアナが砲撃の発射地点を一瞬で判断し、視線をそちらに向けた。それと同時に、ティアナの至近距離に降り立ったクイントが「ごめんね」と拳打を彼女の腹部に打ち込む。

「お母さん!!」

スバルが、ティアナを吹き飛ばした白コートの正体を一瞬で見抜き、お母さんと叫ぶ。クイントは「今のを防ぐのね」と驚嘆の声を上げた。そう、ティアナは咄嗟に腹部に小さなシールドを張り、拳打の直撃を免れていたのだ。

「あっぶな・・・」

宙で体勢を立て直したティアナがキャロの隣に着地した。そこにティーダも到着し、クイントの隣に降り立った。スバル達はルシリオン達に挟まれる形で包囲された。

【サフィーロ、大丈夫だった? それとも余計なお世話だったかな?】

【いや、正直助かった。乱入者の一撃でかなりのダメージを負ってしまった。今の私には、4人がかりで挑まれて勝つことは難しかっただろう。感謝する】

クイントが独自回線の念話でルシリオンにそう意地悪っぽく言う。ルシリオンはそれに真面目に受け答えた。

「待ってくれ。僕たちは戦いに来たわけじゃないんだ」

エリオが“ストラーダ”を構えるのを見たティーダが、エリオに続いて臨戦態勢に入るスバルと妹であるティアナに右手を翳してそう告げる。

「そうよ。私たちはあなた達にここからすぐに離れてもらいたいの」

「ど、どういうことですか・・・?」

エリオの疑問に答えるのはクイントで、「もうすぐここに次元跳躍砲撃が落ちてくるの」と正直に教えた。スバル達の表情が青褪める。次元跳躍砲撃。エルジアで見た白銀の砲撃だと察したからだ。ルシリオンは「あと何分だ?」とティーダに聞き、彼は「2分切ってますね」と答えた。

「・・・というわけだ。交戦はここまでにし、早々にこの地から立ち去ることをお勧めする」

そう言ってルシリオンの姿が消えた。

「・・・ルシル君がそう言うんだから、早くここから離れて」

「お母さん!!」

「スバル。私たちは管理局の闇を完全に消し去る。今はそれまで傍観していなさい。もし、それでも向かってくるのなら、私と戦う覚悟をしてからにしなさいスバル」

クイントはスバルにそう告げ、その姿を消した。

「ティアナ・・・僕もそうだ。僕たちテスタメントの改革が終わるまで何をしないでいてくれ。でも向かってくるなら、僕はティアナを止めるためにこの引き金を撃つ」

「お兄ちゃん!!」

ティーダもティアナにそう告げてからその姿を消した。スバル達は2人の言葉に少し呆然としていたが、すぐさまはやてを始めとした六課メンバーに緊急通信を入れた。

・―・―・―・―・―・

“テスタメント”本部である“エヘモニアの天柱”への路を守護する最終防衛基地“オラシオン・ハルディン”。その中央にそびえ立つ銀の塔が静かに動きだす。

≪ディアマンテより砲撃命令。目標・第35管理世界オーレリア・第1基地≫

銀の塔の管制を一手に担うAIが砲撃照射準備に入る。

≪各管制システムへ通達。電力・魔力精製・供給開始≫

≪了解。精製・供給開始≫

銀の塔の周りに設置されている魔力供給・精製、電力供給を担う施設のAIから返答が入る。強力な次元跳躍砲撃を放つための準備が着々と始まる。“オムニシエンス”の魔力を供給しつつ基地内部でも魔力を生成していく。そしてソーラーエネルギーでさらに砲撃に必要なエネルギー量がクリアされていく。

≪照射エネルギー量・・・クリア。照射エネルギー値計算・・・クリア。照準座標調整・・・クリア。砲撃術式効果を物理破壊に設定開始・・・クリア。砲撃準備完了≫

銀の塔の最上階に位置する管制室の中央にポツンと造られているAIコアが、準備完了の報告を各管制システムとディアマンテへ入れる。

『砲撃カウントダウン30秒設定・・・開始』

≪カウントダウン30秒設定。カウント開始≫

ディアマンテからの指示にAIは答えると同時、銀の塔の先端、六角錘の天辺に白銀の閃光が発生する。
次第に直視できないほどの強烈且つ巨大な閃光となっていく。

≪・・・20・・・15・・・10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、照射≫

その瞬間、“オムニシエンス”の南半球の空が白銀に染まった。直径30mはある極太砲撃が空へと撃ち上げられ、砲撃は空に生まれた波打つ空間に吸い込まれて行った。

≪砲撃照射成功。次元跳躍成功。砲撃は順調に第1基地へと進行中。標的到達まで残り90秒・・・≫
 
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