dark of exorcist ~穢れた聖職者~
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第14話「アイリスの過去」
―――【"ルークス・ソーリエ" 大聖堂】
朝を迎え、2階から降りてきた4人。
大聖堂には既にパトリックとアルバート、ベリアルの3人がいた。
「おはよう♪ パトリック君、相変わらず早起きだね」
「ん、あぁアイリスか、おはよう」
「おはようございます」
「おはよう………ちょっとパトリック、アイリスちゃんにあんまりくっつかないでよ」
「くっついてねぇよ!」
「…………………」
5人の悪魔狩りが集まった時のいつもの光景だ。
アイリスとパトリックが会話をすれば、アリシアが割って入ってくる。
必要があればクリスが仲裁に入り、キリシマはただそれを黙って見ているだけ。
「さて、これで全員かな? それじゃ、仕事の話をしたいと思いま~す」
アルバートが全員の正面に立って、悪魔狩りの仕事の説明を始めた。
「さて、"ルークス・ソーリエ"のメンバーがこれだけ揃ったところで申し訳ないけど、また別々の仕事が
入ってね。またこの大聖堂を空けることになる」
「また複数の仕事が入った、ということですか?」
「えぇぇ~、またアイリスちゃんと離ればなれ~?」
「……………黙れ」
「いやいや、今回は個人ではなくペアを組んでもらうよ」
全員が一瞬、沈黙した。
「ペアを組むって……どういうことですか?」
クリスの質問に、アルバートは笑顔のまま答えた。
「今回の仕事は全て下位の悪魔の討伐なんだけど、どうも数が多くてねぇ……個人では長引く気がする
から、君らにはペアを組んでもらって、サクッと終わらせてほしいというわけなんだ~」
「…………………誰が誰と組めばいい?」
「じゃ、ペアを説明していくよ。アイリス・アリシアペア、パトリック・キリシマペア。
ベリアルは僕とペア。クリスはこれから帰還してくる"フラン"とペアを組んでもらうよ」
「フランさんとですか?」
「そう、頼んだよ」
「ペアに不満はないけど、アルバートさんは大丈夫なんですか? その………ベリアルとペアって……」
パトリックの言葉に、アイリスは少しムッとした表情になった。
「失礼だよ、パトリック君」
「まぁまぁアイリス、彼は君が信じてここに連れてきたんだ。信用してるさ。それに………」
「ベリアル…………君は、僕を殺さないよな…………?」
笑顔のまま、ベリアルに質問する。
しかし、その笑顔はどこか暗く、その眼は本当の笑いではなく、憎悪に満ちていた。
その眼は、"裏切ったら殺してやる"と言わんばかりの眼だった。
その眼を見た瞬間、その場の全員が背筋を凍らせた。
パトリックとアリシアは一歩後ずさりし、アイリスは泣きそうな表情でクリスの背中に隠れる。
キリシマは表情を変えなかったが、左手に持っていた日本刀の鞘を強く握り締めた。
そんな視線を向けられたベリアルは、冷や汗をかいて押し黙った。
「あははは、皆そんな引かないでくれよ。ね?」
そう言うと、アルバートはいつもの穏やかな笑顔に戻った。
「アルバートさん、本気で怖えぇぇ………」
「どの悪魔よりも怖いわね、アルバートさんの眼……」
「アルバートさん………怖いよぉ………」
「さ、さあ、気を取り直して仕事の話をするよ」
すると、アルバートは大聖堂のテーブルからファイルに入れられた資料をそれぞれのペアに渡した。
「そのファイルの中に、目的地と討伐対象の情報が入ってる」
「それじゃ………行ってらっしゃい♪」
アルバートの言葉とともに、悪魔狩り達は大聖堂を出てそれぞれの目的地へ向かった。
大聖堂にいるのは、アルバートとベリアル、そして"フラン"の帰還を待つクリスだけになった。
クリスは2階で荷物の整理を始めていた。
「しかし……驚いたよ。俺が人間に恐怖を覚えるなんて………」
ベリアルの言葉に、アルバートは穏やかな笑顔で返事を返す。
「そう? まぁ、あの子が信じて連れてきたから、裏切るってのは許せないんだ」
「………………それほどに、あのアイリスって奴が大切なのか?」
ベリアルの質問に、アルバートはしばらく黙り込んだ。
「大切というか…………放っておけない、かな?」
「…………?」
「あの子、小さい頃に"悪魔の末裔"だって言われて、酷いことされたらしくてね………クリスがアイリス
をここに連れてきた時は驚いたよ………身体中傷だらけでね………」
「………………何があった?」
「アイリスの生まれた所はね………十字教の信仰が厚い場所だったんだ。それであの銀髪でしょ?
"神の敵"である悪魔の子だって呼ばれて、そこの神父に捕まって…………」
そこでアルバートは黙った。
そして、大聖堂のテーブルに置いてあった古い本をベリアルに見せた。
本には"悪魔の末裔とその歴史"と書かれていた。
アルバートはページをめくり、あるページで手を止めた。
そのページをゆっくりと音読し始めた。
"人間と悪魔は相容れない者同士だ"
"神を崇める人間は悪魔を嫌い、神を憎む悪魔は人間を嫌う"
"しかし、全ての人間と悪魔が同じ考えというわけではなかった"
"悪魔を崇める人間もいた………"
"人間を好いた悪魔もいた………"
"とある人間の女を好いた悪魔は、身体の一部をその人間の女に託し、人間を見守ることを約束した"
"その後、人間の女には、銀の髪の子供が産まれた"
"周りの人間はその子供を、穢れ堕落した人間という意味を持ってこう呼んだ………"
"フォールマン、と……………"
アルバートは、そこまで読むと本を閉じた。
「…………あのアイリスって奴も……フォールマン、なのか?」
「僕も、最初にあの子を見た時はそう思ったんだけど、違うっぽいんだよねぇ」
「………………?」
「血液検査とか、身体検査とかを受けてもらったんだけど………クリスからは悪魔の細胞とかが所々
見つかった。でもアイリスからは悪魔の細胞はおろか、それに似たような特徴も見当たらなかった」
「だから、僕も不思議に思っているんです」
2階から降りてきたクリスが会話に参加してきた。
「ベリアル、アイリスに関して気になることがあるなら、クリスか本人に聞いてみるんだ。でも……」
「分かっている。話してくれるかどうかは本人に任せるさ」
その言葉に満足したのか、アルバートとクリスは穏やか表情を浮かべた。
大聖堂の扉の前に、アタッシュケースを持った少女が一人。
「ここに帰ってくるのは久しぶりだなぁ~」
彼女の名前は「フラン・ベアリング」。
6人目の悪魔狩りが帰還した。
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