ソードアート・オンライン ~白の剣士~
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新たなステージ
「ふぅ、流石に疲れた・・・」
俺は今、水道で汗を洗い流していた。蛇口を捻れば冬の冷たい水が流れ、熱くなった頭、体を冷やしてくれる。
「強いんだね、雪羅君。わたしビックリしちゃったよ!」
直葉ちゃんは俺にタオルを差し出しながら言った。俺はありがと、と言い顔を拭いた。
「そんなことないよ、本調子じゃないし、アクアにもまだ改善する余地がある」
俺はアクアに視線を落とす。
先ほどの試合でアクアは最後の激しい動きに耐えきれず右膝の間接部の一部がオーバーヒートした。
「それにしても、あれどうやったの?」
あれとは俺が最後に見せたものだろう。
「星崩しか?」
「それもそうだけど、目の前で消えたのは・・・」
「ああ、あれ・・・」
俺は星崩しを放つ前にやったあの動きを思い出す。
「簡単だよ、気迫で相手の注意を引き、そんでもって打たせると思わせる。これだけだ」
「いやいや、それだけじゃできないでしょ!!」
「そうだな、確かにそれだけでできたら直葉ちゃんにもできる。それにそんな時間もかからずに勝負をつけられる・・・」
「じゃあ・・・」
俺は種明かしのためにある部分を指差した。
「ヒントはこれ」
「目?」
「正確には“視線”だよ」
「視線?」
「人って面白いよな~、“縦横の動きに強いのに斜めに弱い”んだもん」
「えっ、じゃあ・・・」
「俺があんなに時間かけた理由、今なら分かるだろ?」
俺が時間をかけた理由、それは直葉ちゃんは気づいていた。
「観察・・・」
「そう、俺が時間かけたのは直葉ちゃんの戦い方を視るため、お陰でいいデータがとれたよ」
「データって・・・」
「力の使い方」
「力の、使い方?」
「押しきるのもいいけど、たまには下がることも知っておいた方がいい。特に今の戦い方だと、俺みたいな相手とは相性が悪い」
「そっか・・・」
「だが、その他は問題ないだろう。流石は全中ベストエイト、いい剣さばきだったよ」
俺も正直、勝てるとは思えなかった。いくら上半身が回復してても下半身は全く動かせなかったのだ、つい最近になってようやくアクアで動けるようになった下半身をここ数週間で感覚を取り戻せという方が無理がある。
「さて、そろそろ行こうかね」
「行くって、病院?」
「ああ、お見舞い」
「確か、雫さんだっけ?」
「ああ、直葉ちゃんはあったことなかったっけ?」
「ううん、病院の中まわってたら偶然見かけたの。綺麗な人だよね~」
直葉ちゃんは車椅子を押しながら言った。
「そうだな、確かにそう思うよ・・・」
俺は直葉ちゃんに家の外まで連れていってもらうと、
「ここでいいよ」
「いいの?」
「ああ。ここからは登りもないし、バッテリーの充電もしたから」
「そっか、気を付けてね!」
「ああ、じゃあね直葉ちゃん。またやろう!」
そう言って直葉ちゃんと別れた俺は病院を目指した。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
あれから十分程で病院に着き、エレベーターで上の階へと昇る。
そこには入院中に見慣れてしまった、病院の風景があった。
そこにはいつも通りあの病室があり、あの名前もあった。
雪宮 雫、彼女の名前が───。
「あら、雪羅君。今日も来たのね」
「こんにちは、幸子さん」
「こんにちは♪」
幸子さんはいつも通り笑顔で迎えてくれた。しかし、そこには雫の姿はなかった。
「雫さんは?」
「昨日の夕方、施設に移されたの」
「施設に?」
「ええ・・・」
「その施設には行ったんですか?」
「行ったんだけど、入れてもらえなくて・・・」
入れてもらえない・・・?
「その施設の名前は?」
「確か、レクトって言ってたかしら?」
「レクト・・・」
その名前は確かネットで見たことがある。ここ数年で成長遂げている企業だとか、でもなぜそんなところが患者を引き取るのか───。
「幸子さん、雫さんの他にそのレクトに移動したのは?」
「分からないけど、この周辺の患者はみんな移動したわ。みんな眠った状態でね・・・」
「そうですか、ありがとうございます!」
俺は幸子さんにお礼を言うと病室を去った。そして、そのフロアの病室をすべて回った。
その内居なかったのは半数以上、そして俺はナースステーションに向かった。
「あの、すみません」
「あら、雪羅さん。お見舞いですか?」
「それもあるですけど、1つ聞きたいことが・・・」
「なんですか?」
「この病院の人たちの中で何らかの理由で昏睡状態に陥った人はどのくらいですか?」
「・・・ごめんなさい、患者様のプライバシーはあまり明かせないの」
「・・・そうですよね、なら質問を変えます」
俺はある質問をし、看護婦はその質問に答えた。
「ありがとうございます、では!」
「あ、ちょっと!」
俺はすぐに家に戻り、
「母さん!いる?」
俺がそう言うと奥の方から一人の女性が出てきた。
「あら、お帰り雪羅。どうだった?」
この長髪の似合う美女こそ俺の母、高嶺 沙織である。
こう見えて世界でも指折りのプログラマーで親父の手伝いもしている。ここまで聞くとかなりすごい人に聞こえる。しかしこの手の天才のせいか、難点がある。
それは―――
「どうって、アクアの・・・」
「雫さんの攻略♪」
この通りかなりおばさんな性格をしている。おそらく研究のストレスによってこうなったのだろう。
ちなみに年は40。単純計算22で俺を産んだことになる。
「母さん、疲れてるのは承知でお願いしたいことがある」
「レクト、でしょ?」
「もう調べてたの?」
「ええ、かなりきな臭いとは思ってたから・・・。で、それがそのデータ」
母さんは紙の束を俺に渡した。俺はそこの書いてあった内容に驚愕した。
「っ!!これって!?」
「私も内容を見て驚いたわ・・・」
そこに記されていた内容は───。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
時は進みここはVRMMO、アルヴヘイム・オンライン。妖精の国をモチーフにした世界である。
日は沈み、辺りは月明かりに照らされている。そこにたたずむ一つの影。
薄汚れたコート、フードで隠された顔、そこから覗く口元。
その人物は辺りを見回すと口元に笑みが浮かんだ。
「本当に、何もかもが懐かしい・・・」
声からして男と推測されるその人物はフードを外した。しかし、その顔は影によって見えなくなった。
確認できるのは、先ほどの微笑みとそして───
「さあ、行こうか・・・!!」
見るものを釘付けにする白銀の髪だった。
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