リリカルなのは~優しき狂王~
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最終話~エピローグ~
前書き
この小説を書き始めて一年と四ヶ月、この期間はとても長く感じました。
途中で心が折れそうになったこともありましたが、続けてこれたのは自分の稚拙な文章でも楽しんでくれた読者の方がいたおかげです。
ではSts編最終話どうぞ
ゆりかご陥落から数ヶ月。たった1つの事件が多くの出来事を引き起こし、そして公表できることと公表できないことを多く生み出し、そして一応の終結を迎えることになった。
ジェイル・スカリエッティが主犯とされる一連の事件。それは大きな波紋を生んだ。
今回の事件により多くの管理局側の不祥事が明るみに出ることになり、組織として様々な方面からの大きな非難の声が上がったのだ。事件の時に被った被害も大きく、組織の再編成など自分達の陣営の事を見直さなければならない事が多い中、聖王教会や一般人に対する表明までしなければならなくなり、事件そのものが終わっても事後処理はまだ終わる気配を見せてはいなかった。
管理局本部
今日も今日とて、ここ管理局の本部では失くした信頼を何とか取り戻すために奔走する職員たちが大勢いた。彼らの表情は様々で不満を持つ者、前向きに頑張っている者、何かを諦めた者など千差万別である。
そんな中、少し疲れてはいるが微笑を浮かべながら歩く職員がいた。機動六課部隊長であるはやてである。
彼女はここに諸用があったのだが、既にそれも済ませ今は六課に帰ろうとしているところであった。
「おい、八神」
真っ直ぐ出入り口に向かっていた彼女の背中に声が掛かる。その声に聞き覚えがあった彼女はすぐに反応し、声の主の方に顔を向けた。
「ナカジマ三佐」
「おう」
声をかけてきたのは壮年の男性。彼はギンガとスバルの父であるゲンヤ・ナカジマ三等陸佐である。彼は陸の1つの部隊の部隊長を務めており、今回の事件に置いては陸における物資の流通などからレリックの捜索をはやてが依頼していたりしていた。
さらに彼の部隊は、はやてが指揮官としての研修を行った部隊でありある意味では彼女の先生とも言える人物でもある。
「ナカジマ三佐、今回の事件では色々お世話になりました」
まず初めに彼への感謝の言葉から述べ、頭を下げるはやて。だが、それをゲンヤは苦笑いで返した。
「おいおい、タメ口こそ使っているが階級はお前の方が上だぞ。そんな簡単に頭を下げるなよ」
「う~ん、未だにそこらへんは慣れんので多めに見てください」
今度ははやてが苦笑いで返す番であった。
「ハハハ、まぁ、そっちのほうがお前さんらしいっちゃらしいか」
少しの間お互いに笑い合っていたが、呼び止めた手前自分から話すのが礼儀だと考えたのか、ゲンヤは先に口を開いた。
「今回のヤマで色々とあったようだが、今そっちの方はどうなってんだ?」
「あれ、ギンガからは聞いてないんですか?」
「お前なぁ……ギンガは昼間俺と更生施設の方に缶詰だぞ?あいつもソッチの事情は全部把握してるわけないだろうが」
ゲンヤの言葉にそういえばと言う表情をするはやて。ここ最近デスクワークばかり行なっていたせいか、部隊全体の把握が疎かになっていたと自省する。
「こっちは修繕された隊舎で前みたいに何とかやってますよ。そちらはどうなんですか?更生施設の方は」
「ああ、あいつらは基本的に生まれてすぐに戦うことしか教わっていなかっただけだ。ちゃんとした道徳観と一般教養を教えてやれば、元々姉妹で築いていた家族愛を持ってる連中だ。一般人と大差はないさ」
ゲンヤが言う連中とは戦闘機人のナンバーズのことである。あの事件時に確保された彼女たちの内のほとんどは、本人たちの希望とある情報から更生施設に入り一定期間そこでの教育と、そこを出てからの奉仕活動を行うことでほぼ無罪に近い状態にまで持っていくことが出来ていた。
もちろんそれは全員ではない。生みの親であるジェイルはもちろん、管理局に協力することに難色を示した幾人かは拘置所に服役している。
だが、何故かその服役組も本人たちの希望で、今回の事件についての情報提供は驚く程協力的であったりする。
その事を訝しんだ職員が尋ねたところ、ジェイル曰く――――
『ゲームの敗者は勝者の言うことには従うものだろう?』
という事らしい。まぁ、この場合の勝者というのが誰のことなのかは本人にしか分からないことであるが。
「そういやぁ、報告にあったあの嬢ちゃんはどうなった?」
「ヴィヴィオですか?あの娘なら前言っとったようになのはちゃんが引き取ることになりました」
「…………そうか」
ヴィヴィオの処遇を言ったとき、一瞬はやての表情に陰が過ぎったがそれにゲンヤはあえて気付かない振りをした。
「ほな、ナカジマ三佐私はこの辺で」
一旦腕時計で時間を確認してからそう切り出すはやて。ゲンヤも遊びで本局に来ているわけではないため、そのはやての言葉は話を切るにはちょうど良かった。
「おう。お互い上が様変わりしちまって、振り回されてるかもしれねーが、まっ、上手くやれよ」
「ちょっとした問題発言やないですか?それ」
お互いに笑みを返し、2人はそのまま別れることになった。
ゲンヤが最後に言った「上が様変わりした」というのは今回のジェイルの事件とは別に、汚職をしていた管理局の将校が軒並み襲撃を受け、それらの行いが明るみに出たことで上司の役職のほとんどがすげ変わったり、代理となったりしたことである。
このことは巷でも話題になり、「管理局に抹消された世界の生き残りがしたこと」やら、「聖王教会の騎士が正義の為に行った」やら根も葉もなく、尾ひれが無駄についていく噂となっていた。
だが、いくら市民から好意的な支持をされているからといってやられたことは犯罪行為と同じなので、もちろん管理局はその襲撃を行った“犯人グループ”を見つけようとしていた。
しかし襲撃を受けた将校からの情報は外見や性別など特徴が全てバラバラであった為、犯人の確保はほぼ無理と言われていた。毎回その襲撃の際に監視カメラにその犯人の映像が写っていても、男性の時もあれば女性の時もある。そして黒髪の時もあれば金髪の時もある。デバイスを使っている時もあれば、体術のみを使っていることもある。
このように集めた情報のなかの共通点が汚職の情報の確保しかない為、未だにわかったことと言えば彼らが組織で活動しているということだけであるのだ。
おかげで捜査は難航し、今ではもう一時的に捜索活動を打ち切ってしまっている。何故なら今の管理局には他にやらなければならないことが多く存在するのだから。
ゲンヤは彼女が離れていく中で、先ほどの彼女の表情の陰りが頭に浮かんでくる。
「…………まだまだ先の長い若造にあんな顔をさせるのが、今の大人か…………反吐が出る」
去っていくはやての後ろ姿を見ながら吐き捨てた。
機動六課
はやてとゲンヤの会話からさらに数ヶ月後。
その日、機動六課は運営期間である一年を迎えその任を終えようとしていた。
隊舎では簡単なものではあるが解体式が行われ、そしてそれが終わると各々次の勤務先に向かう者、残って打ち上げを行おうとする者などに分かれていく。
その光景をどこか遠巻きにスバルとティアナの2人は眺めていた。
「……ティア」
「なによ?」
「何かあっという間だったね」
「……そうね」
それは機動六課の事を言っているのか、それともジェイルの起こした事件――――今ではJ・S事件と呼ばれている事件の事を言っているのか、ティアナは分からなかったがどちらにしても同じように感じている自分がいた為彼女は同意の声を溢す。
2人はそのまま示し合わせたように歩き出す。そして再び口を開いたのはまたもやスバルであった。
「私たちに何ができたんだろう?」
「…………」
「息巻いて色々と頑張って、でも肝心な部分には干渉もできなくて」
思い出しながら、ほんの少しの悔しさを滲ませながら、彼女は語るように口を動かし続ける。
「気付いた時には自分ができたことはほんの少しで、全部もう終わってた」
「…………」
スバルはしゃべり続けるが、隣りで一緒に歩いているティアナは相変わらず無言。
「ねぇ、ティア。私たちって――――」
何かを言おうとしたスバルはその先を言うことができなかった。その理由は簡単。何か硬いものを強打する音が響いたのだ。
その音源はスバルの頭部。
まぁ、要するにティアナがスバルの頭を思いっきり引っぱたいただけなのだが。
「~~~~~~ッ!!」
声にならないのかスバルは頭を抑えて悶える。殴った本人であるティアナも若干手を抑えて涙目になっているが、それを誤魔化すように口を開いた。
「あんたがどう思っていようと起こったことは変わらないでしょうが。何もできなかったって言ってるけど、あんたは今回の事で何も得るものがなかったのかしら?」
どこか挑発気味にそう言うティアナの言葉に、半泣きのスバルは首を横に振ることで応答する。
「戦闘機人である彼女たちを保護できたのは無駄なこと?」
スバルは首を横に振る。
「地上で戦線を維持するためにナイトメアやガジェットと戦ったのは無駄なこと?」
スバルは首を横に振る。
「干渉できなかったあの人以外に救えた人はちゃんといた。それは無駄なこと?」
スバルは首を横に振る。
「ならそんなこと言ってる暇があるのなら、今度はそうならないように、自分が救いたい人も救えるようになりなさい」
その言葉に、スバルは首を縦に振ることで答える。まだ彼女は涙目であるがそれは決して痛みから来ているものではなかった。
そして、堅苦しい話をしていることが何かおかしくなったのか、2人は笑いを零した。
「…………何やってんだ、テメーら?」
その2人を探していたヴィータは、今も笑っている部下2人にそう零した。
機動六課・訓練場
投影型空間シミュレーターであるその場所は今、ピンクの色に包まれていた。
それはいつもの教導官の魔力光ではなく、シミュレーターで再現された花びら。なのは達、地球の日本に住んでいた者にとってはお馴染みであり、終わりと始まりの季節に咲く花、桜である。
桜の花びらが舞うその場所に機動六課が誇るフォワード陣営が勢ぞろいしていた。彼女たちは卒業記念としてこれから1つの模擬戦を行おうとしていた。
それは所謂1つの通過儀礼である。
スターズ分隊、ライトニング分隊の隊長陣と新人フォワード陣に別れての模擬戦。しかも隊長陣は部隊の解散と同時にリミッターが外れているため、本当の意味で手加減なしでの真剣勝負。
これは隊長陣が教え子であるスバル、ティアナ、エリオ、キャロの四人を本当の意味で認め、自分たちと並んで戦えると信頼した証でもあった。
流石にはやてと、出向組のギンガは観戦兼審判に回っていたが。
その光景を少し離れた位置で見ている少女がいた。そして彼女の隣は青年が車椅子に座って眠っていた。その青年の首には、菱形のペンダントと鍵を彷彿とさせるペンダントがかかっている。車椅子に寄り添うように立つ彼女は口を開く。
「パパ、皆笑ってるよ」
眠っている青年は当たり前のように彼女の言葉に反応を見せない。だが、それでも構わないのか彼女は言葉を続ける。
「パパが頑張ってくれたおかげでママ達も嬉しいって言ってたよ」
ひらひらと舞う桜の花びらが2人の髪を、頬を、肩を撫でていく。それは花が2人を祝福しているようにも見えた。
「パパ、助けてくれてありがとう。パパになってくれてありがとう」
その眠る青年、ライは自分に話しかけてくる少女、ヴィヴィオの言葉に応えるように、その変わるはずのない表情が緩んだように見えた。
数ヶ月前、Cの世界からヴィヴィオの意識をサルベージしたライは、この世界とCの世界との繋がりを断つために、意識だけの状態で『向こう側』に残った。その際にライと意識を同調させていた蒼月とパラディンは機能を停止し、まるでライに付いていったかのようにそれ以来起動することがなくなっていた。
これにはプログラミングを手伝っていたリィンフォースも想定外のことであり、彼女にもどうしてそうなったのかは解らずにいた。
現時点で、ライの状態を大まかに把握しているのは六課メンバーとその後見人である数名だけである。彼らが知っているのはライの意識が未だにCの世界にあること、更に彼にデバイス2機のAIもついて行っている可能性があること、そして彼がこちらの世界に戻る意志があるということである。肉体の方は睡眠状態に限りなく近い仮死状態らしい。医者からすればかなり特殊な事例らしいが、専門知識のない人間からすればちんぷんかんぷんであるが。
ライが眠りについてから数ヶ月。未だに彼は眠り続ける。
だが、それを待つ者たちは彼が起きること信じて疑わない。何故なら彼が最後にヴィヴィオに伝えた言葉を信じているから。
「パパが言ってくれるまで、ヴィヴィオもママも皆パパに毎日言うよ」
それは彼が眠ってから、そしてライの言葉を聞いた六課のメンバーがほぼ毎日行っている行為。それは今日もまた行われる。
守る為に、傷つけない為に眠ることを2回選び、起きる瞬間を知られていない彼に送る言葉。
ヴィヴィオはその小さな口で、精一杯の感謝と願いを込めてその言葉を紡ぐ。
『おはよう』
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以下は今更ながらですが、作者のイメージしていたライと蒼月、パラディンの設定です
最終的なライの魔道士としてのステータス
陸戦ランク:AA+
空戦ランク:D(一定条件下S+)
保有魔力ランク:AA+
総合ランク:AA-(一定条件下S)
陸戦ランクはシグナムとの模擬戦や実戦などでの経験から、当初のAA-から多少なりともアップした。空戦についてはカートリッジに有無によって能力が大きく変わるため、条件付きでの高ランク所持となった。
保有魔力量は成人の肉体であった為、当初のAランクから変動は無いと思われていたが、ゆりかごの戦闘で使われたCの世界との繋がりによる魔力供給により、リンカーコアの拡張(強引な力技)によりAA+にまでなった。
蒼月(作者のイメージCV:川澄綾子)
種類:インテリジェントデバイス・カートリッジシステム未搭載
術式:ミッドチルダ式
形態:MVS・ヴァリス
搭載機能:チューニングシステム・シンクロシステム・高感度多目的複合センサー
ライの次元世界での相棒その一。ハード面は主にライが、ソフト面は主にリィンフォースとシャリオが開発を担当した。作成時のコンセプトは「魔導戦闘のみならず、様々な状況に対処できる機体」である。
極力平均的な性能に纏めているがそれは戦闘力のみで、こと情報戦などのデータ関係であればかなり高性能な仕上がりになっている。
作者のイメージ的にはAIの人格はFateシリーズの青セイバーを意識していました。
パラディン(作者のイメージCV:森川智之)
種類:インテリジェントデバイス・カートリッジシステム搭載
術式:近代ベルカ・ミッド複合型
形態:魔導式エナジーウイング・MVS・ヴァリス(カートリッジ搭載式)
搭載機能:シンクロシステム・カートリッジシステム
ライの次元世界での相棒その二。ハード面、ソフト面共にライが主軸となって開発したデバイス。
搭載機能の大きな特徴は蒼月には未搭載のカートリッジシステムと、A.C.Sをライ本人が使いやすいように改良した魔導式エナジーウイング。そして蒼月には一部にしか使用していない衝撃緩和構造をデバイスのハード全体に組み込んでいるため、その耐久性は大きい。
実はエナジーウイングの制御などは蒼月が行っている為、ハード面はともかくソフト面での空き容量は蒼月よりも多い。そしてチューニングシステムを使用する際に蒼月とパラディンの演算処理を向上させるためのシンクロシステムを使い、2機が並列処理を行える状態にしていないと蒼月が短時間でオーバーヒートを起こしてしまう。
後書き
と言う訳で最終話でした。
色々と賛否両論はあると思いますが、自分としてはVividもやりたいと考えていたため、今回のような続く終わり方は連載当初から考えていました。
語られなかったゼストやルーテシア、その他のメンバーも続編で語ることになると思っています。
最初にも書きましたが、ここまで読んでくださった読者の皆様に感謝をm(_ _)m
ご意見・ご感想をお待ちしております。
さて、アインスを救いに行こうか
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