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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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A‘s編
  第一話~聞こえてきた<願い/叫び>~

 
前書き
皆さん、こんにちわ。

と言う訳で、今回から劇場版セカンドAs編を始めたいと思います。
今回はSts編よりは短くなると思います。

ではどうぞ 

 


Cの世界


 時間の流れを感じることができず、そして自分という意識を確固として持っていなければ、自らの存在自体を保つことができなくなる空間。そんな中にライは存在していた。
 否、正確にはライの意識体が存在していた。

「……フゥ」

 自己認識では自分がため息を吐いたように思ったが、肉体がない今の自分にはそれも定かではないなとどこか他人事のように彼は考えていた。
 ゆりかごの一件以降、意識のみこの空間に来てからライはプログラムを弄るようにある作業をしていた。
 そのある作業というのは、これ以上自分がいた次元世界にCの世界が干渉できないようその関わりを切り離すことである。ゆりかご内にCの世界へのアクセスポイントがあったことで、あの世界に未だ発見されていない元の皇歴の世界にあった遺跡のような存在があることが示唆された。その為、これ以上Cの世界を利用する手段を排除するためにライはここで作業を続けていた。

「思わぬ副産物もあったけど」

 これまでの事を思い出しながらポツリと呟く、ないしは思考したライ。
 ライが今いる場所。そこはライが集合無意識内で見つけることのできた制御室のような場所である。全てを操ることはできないが、ある程度の干渉が行えて更にはCの世界に関わりのある世界の記録も閲覧ができるというそんな領域であった。ライの中ではそれを便宜上『ターミナル』と呼んでいる。そこはほかの領域と違い、集合無意識からの干渉も最小限で自己を保つのも比較的に楽な事もあり、今ではそこがライの活動拠点となっていた。
 そのターミナルを発見したことも大きかったが、それに加えそこの記録でライはゆりかごとCの世界の本当の関わりを知る。
 ゆりかごは元来Cの世界に干渉するためでなく、あくまでそこからの魔力供給を目的にした設備を組み込んだだけの兵器であったらしい。
 そしてヴィヴィオに集合無意識が流れ込んだ時にライが予測していた意識の受け皿というのは、半ば偶然備わった機能であった。ゆりかごの機能を維持するための魔力供給のパイプである聖王が意識に飲まれ廃人となってしまえば、機能不全が起こってしまう恐れがあった為にゆりかごのシステムが自動的に築いたセーフティー、それが結果として意識の受け皿という機能である。
 そしてその機能の更に副産物としてゆりかご内にはベルカに関する情報が溜め込まれていたらしい。それが解ったのは、ライがここで見ることのできる歴史以外の情報というのが、ほとんど古代ベルカに関係のあるものばかりであったのだ。それについては、ライがゆりかごの聖王を介したアクセスを行ったのが原因と思われるが定かではなく、あくまで推測の域を出ない事ではあったが。

「「マスター」」

 2つの声がライの意識に干渉する。それと同時にライの意識は2人分の意識を知覚した。

「蒼月、パラディン。頼んでいた作業は終わった?」

「「滞りなく」」

 その意識はライと共にここに来た、彼の今の相棒である蒼月とパラディンである。2人はAIであったが為により強固な自我というものがあったのか、Cの世界内でもライよりも自由に動けることが出来ていた。
 そしてライが2人に頼んでいたのは、その個々の自我の境界をより強固にする為の補助作業である。

「今から設定したプログラムを起動させます」

 蒼月の音声が聞こえたと感じた瞬間、ライの“視界”が開けた。彼がまず見たのは透明なキーボードに乗る自分の腕、そして確かめるように視線を下げるとそこにはアッシュフォード学園の制服を着た自分の身体が見えた。
 蒼月とパラディンと行った作業というのは、自分達の意識と周りに存在するモノのビジュアル化である。人間というのは、自分や他人を視覚で捉えることで確固としたその個体を認識する。それを意識内で行えるように頼んでいた結果がこれである。
 ライは鮮明になった感覚を確かめながら振り向いた。

「2人とも助かったよ」

 ライが振り向いた先には見慣れた2機のデバイスが浮いていた。ライの言葉に数度の明滅で答え、その2機は泳ぐようにしてライの首にペンダントしておさまった。

「さて、作業を続け――――」





『―――――――!!』





 作業に戻るためにキーボードを叩こうとした瞬間、その意識がライの脳裏に響いてきた。
 反射的に辺りを見回すが、この空間でそれが無意味であることを察したライは目を閉じ自己の意識に埋没するように自分に干渉した意識を探る。
 響いた声は何かを必死に懇願している。それを汲み取るように、聞き取ろうとするとその言葉がハッキリと聞こえた。

『私はどうなってもいい。だから、優しきこの主を誰か救ってくれっ!』

 掠れるようでいて、そのくせやけに響いてくる女性の声。その声を意識するとライは唐突に理解する。彼女のいる世界に干渉できることに。

「馬鹿な……」

 呆然と呟く。Cの世界にただ念じるだけで干渉し、更には特定の人物に要求を聴かせることができるほどの強気思念。それを行った存在がいた事にライは純粋に驚いた。

「マスター、先ほどの声は?」

「2人も聞こえたのか?」

 ライの質問に首のペンダントは発光で答える。その返答にライは頭を抱えそうになる。

(僕たちに干渉してきたということは、声の主は僕たちの世界にもCの世界に干渉することができるのか?だとすれば、次元世界との関わりを絶っただけでは、一度干渉した僕をトレースすることで再接続される可能性は?ゼロではない。寧ろ禍根を残さずに原因を突き止めるべきか?だが、世界に干渉をできるとして肉体はどうする?――――)

 浮かんでは消えていく思考の波。それに待ったをかけたのは蒼月からの提案であった。

「マスター、ゆりかごに格納されていたデータ内に魔力によって編まれる魔導生命のプログラム体のデータがあります。それを応用すればこちらから肉体の無い別世界への干渉は行うことができます」

「――――あれ、思考流れた?」

「ここはそういう場所なのでは?」

 蒼月からの提案に驚きを覚える一方、新たに沸いた疑問。それを尋ねるとなんでもないように返してくる蒼月にライは苦笑した。

「問題点はある?」

「こちらからの魔力供給を行うことで肉体を維持することはできますが、それの設定はあくまで肉体を実際に編んでみるまで細かい調節ができません。その為、私かパラディンの意識、どちらかをここに残しその設定を行わせなければなりません」

 要するに蒼月が言うには、向こうの世界へ行くにはどちらかを置いていけと言っているのだ。それはライが魔導師としての力を十全に発揮できない事を意味する。

「魔力で編まれた肉体ということは、それは常に魔力がダダ漏れになっているってこと?」

「いえ、データによれば、魔力を元にプログラムを組むことで肉体を物質化する理論のようです」

「普通の人間と変わらないし、デバイスも同じく、ってことか」

 合点のいったライは少し考える素振りを見せた後に告げた。

「パラディン、ここに残ってバックアップをお願い。蒼月は僕と一緒に声の主のいる世界に向かおう」

「イエス マイ ロード」
「ラジャー」

 返される了承の声を聞き、ライは蒼月の言っていたプログラムの確認を始める。すると蒼月がちょっとした疑問のように訪ねてきた。

「しかしマスター、何故世界に直接赴こうと?声の主はCの世界を認識するまでには至っていませんでした。この世界を認識していないのであれば放っておいても問題はないのでは?」

「えっと、あー……」

 その疑問に少しバツの悪そうにしてから、ライはポツリと答える。

「どんな形であれ、僕はそれを聞いて願われたから……それにその、見て見ぬ振りはしたくないというか……」

 要領を得ない、寧ろ感情論に近いその『放っておけない』という意味の返答に蒼月は何故か納得してしまっていた。






 
 

 
後書き

という訳で導入部でした。
本編には次回から入っていきます。

え~と、これは時間があればですが、Sts編の最初の方から途中ぐらいまでを手直ししていきたいと思っております。もしよろしければそちらも更新した場合、目を通していただければと思います。

では次回からも更新頑張ります。

ご意見・ご感想をお待ちしております。 
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