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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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第六十話~終幕~

 
前書き
やっと書き上げられました。(-.-;)
今回の展開自体は始めから決まっていたのですが、細かい部分の肉付けにかなり苦労しました。


ではどうぞ 

 



最初は、家族を守るために力を欲した。
そして、敵も味方も国も家族も滅ぼして、逃げ出した。

次は、無くした記憶を取り戻すために生きる事を望んだ。
そして、取り戻した記憶に絶望し、新しくできた大切なもののために眠りに着いた。

再び目覚めた時、その大切なものを救いたくて、戦うことを選んだ。
そして、全てを救うことはできなくて、自分を犠牲に望めるだけの平穏を創った。

全てが終わったと思えば、今度は自分の幸せを望まれる。
そして、自分の幸せの為に僕は今立っている。




アースラ・甲板上


 眼下に見える街が先ほどと比べて静粛に包まれている為、一種の平穏が流れているように錯覚してしまう。
 このまま何も起きないのではないか?と言う現実逃避的な考えを切り捨てて、はやては差し迫る現実と向き合う。
 今現在、彼女はゆりかごから脱出してきて即座にアースラと合流し、今は手元にある指揮系統で扱える部隊の再編成を行っていた。
 ゆりかごから脱出してすぐに伝えられたナイトメアの増援。それが到着し、迎撃が始まるまでのほんの少しの準備期間ではやては必死に策を捻り出そうとしていた。

(あかん、これまでの戦闘で皆の消耗は少なくても、こちら側を全体で見たらガタガタや)

 彼女の前にスクロールされていく画面には、今までの戦闘で受けた被害と戦闘継続可能の人員のリストが表示されていく。

(足りんっ、時間も、人も、何もかも!――――何より私の指揮力がっ)

 自惚れるほどの力が無いと自覚していたとしても、願わずにはいられない力への渇望。その彼女の想いは奇しくも彼女の想い人が戦うことを決意した始まりの起源と同じであった。
 自分の不甲斐なさに歯噛みしながらも、頭はマルチタスクを最大限展開しながら情報を処理していく。
 そこで思考の端にある情報が引っかかる。その引っかかりを確認するためにはやては通信回線を開く。開かれた通信回線の先には、クアットロを確保しアースラに帰還したフェイトの姿が映し出された。

「フェイトちゃん」

『ハヤテ?どうし―――』

「なのはちゃん達はまだ戻ってないんか?」

 フェイトのセリフに被せるように質問するはやての質問に、彼女は首肯で答える。はやての思考に引っかかったのは、フェイトの帰還の報告。それ自体は喜びこそすれ、今の状況で深刻に重要視するようなものではない。しかし、彼女の帰還報告とは別にスターズ1であるなのはや同時に帰還して来るはずのライやヴィヴィオの行方が未だ確定していないのなら別である。
 はやては今現在、すぐに動けるようにするためにアースラの甲板上にいる。彼女は自然と視線を上げる。それなりの高度を飛んでいるアースラのさらに上を飛んでいるゆりかごを視界に入れる。
 それと同時に彼女の視界にピンクの光が映る。それははやてに安堵を与える。だが、彼女はそれとは別に新たな疑問も生まれる。
 視界に写ったピンクの魔力の持ち主はこちらに向ってくるなのはで間違いない。そして彼女の背中に預けられているヴィヴィオも、姿が成熟した女性の姿であるということ以外は眠っているだけで特に問題はない。
 問題はこの2人以外に姿がないのが問題であったのだ。
 その疑問を解消するためにはやてはさらに通信を繋いだ。

「なのはちゃん?!ライ君は―――」

『はやてちゃん、これから暴走したナイトメアが出てくるから!』

 先ほどのはやてとフェイトのやり取りを再現するような会話。
 そして、はやてはなのはの要点は抑えられているが、意味が理解できない言葉に首を傾げるしかなかった。
 内容を追求する前に新たな変化が幾つか訪れる。
 その変化の一つ目として、まずはやての元に通信が開かれた。通信を送ってきたのは今もアースラのオペレーター席に着いているシャリオからである。

『ゆりかごから高熱源反応!この出力は既存のガジェットやナイトメアフレームのものを超えています!』

「それって―――」

 追求する前に新しい変化が起こる。
 ゆりかごの船底の一部が爆発したのだ。魔力反応がなかった為、魔力ではなく物理的な力を使ったことを察することができる。それが原因なのか、その爆発の時に生まれた煙はなかなか薄れない。
 その爆発と先ほどのなのはの言葉がはやての中で自然と結びつく。確証を得るために再度なのはに話しかけようとする。しかしその前にまた新たな変化が飛び出してきた。

「あれって…………」

 新しい変化は煙の中から緑の軌跡を描くように現れた。
 その変化の元を彼女は知っていた。それは機動六課のメンバーほぼ全員が知っているものである。正確には知っているというよりは、“見たことがある”だが。
 どこか神々しくも見える。白と蒼で構成された“それ”の名前をはやては無意識に呟いた。

「インペリアル」

 異世界の不老不死の魔女曰く、『粗大ゴミ』が動いていた。



インペリアル・コクピット内


 座っているシート越しに感じるユグドラシルドライブの微振動を懐かしく、そして心地よい安心感を覚える自分にライは苦笑する。

「蒼月、パラディン。この機体のコクピット、僕の操縦技術、機体スペック、どんな些細なデータも残すな」

「イエス マイ ロード」
「ラジャー」

 了承の意を聞いたデヴァイサーであるライは操縦桿のグリップボールをクリック。機体のファクトスフィアを展開し敵機の配置を確認していく。
 地上に展開された敵ナイトメアと姿が見え始めた敵の増援。その数の確認を終えるとライは気を引き締めるために深呼吸。

「さぁ、終わらせよう」

 その言葉と共にライは操縦桿を押し込んだ。
 それに応えるようにインペリアルは背中の一対八翼のエナジーウイングを動かす。傍から見ていればそれは機体が翼を動かしたようにしか見えなかった。それ以上、その機体が何をしたのか見えなかったのだ。何故なら翼を動かした瞬間、その場から掻き消えるように高速で移動を開始したのだから。
 コクピットシートに身体が押し付けられる感覚。それを受けながら、ライは外部カメラとセンサーが捉えた敵機の反応を映し出すモニターを凝視する。映し出された機影は空戦仕様の敵の増援。
 モニターに映る情報を見、判断し、右手と左手がそれぞれ別の命令を機体に下す。
 敵の索敵レンジに飛び込むように切り込み、両手と腰の左右にそれぞれ装備されているハーケンブースターを起動させる。
 4機のハーケンそれぞれが目標に向かって伸びる。ハーケンは敵機の頭部とコクピットブロックを正面から貫く。その内、コクピットを突き刺したハーケンは右腕。ハーケンを伸ばした状態でライは右腕を力任せに振り回し、残骸と化した機体を別の機体にぶつける。
 元々陸戦兵器であるナイトメアに間に合せのフロートユニットを付けただけの第五世代前後の機体はそのままバランスを崩し、墜落していく。
 ほぼ同時に5機のナイトメアを無効化したライは再び苦笑いを零した。

「……機体スペックと中身に違いがあるとは言え…………一方的だ、なっ!」

 射程圏内であると認識してきたサザーランドタイプの機体群が、アサルトライフルの弾をばら撒いてくる。
 即座に機体に回避行動を取らせ、一旦距離を取ろうとした。
 だが、それを阻止するようにインペリアルの進行上に、近接武装である剣を振りかぶったランスロットタイプが迫る。
 ライはその接近に気付いた瞬間、即座に新しくコマンドを入力。
 インペリアルはそれに回避行動時の飛行速度から一気に加速し、ランスロットの懐に半身を向けるように飛び込む。
 飛び込んだ瞬間、機体は左腕の肘部分を突き出すようにランスロットのコクピットに向けていた。ランスロットにトップスピードで左肘をぶつけた瞬間、ライはトリガーを引く。
 すると、機体の肘部分から収束されたシールドエネルギーがコクピットを貫き、敵機が爆発を起こす。機体が爆発する前に離脱したインペリアルは、先ほどのお返しとばかりに機体を回転させながらエナジーウイングから刃状の光弾をばらまき、今度こそ離脱する。
 ライが使用した近接武装は第七世代以降の機体に実装されたニードルブレイザーである。
 この武装は基本的にトップスピードで肘をぶつける様な代物ではない。そもそもそんな事をしては、良くて機体の基礎フレームが歪み、最悪その腕自体が自壊する。
 だが、それはあくまで既存の機体である。
 ブリタニア製の機体設計では強度が問題になったが、インペリアルは違う。元々日本製の機体を作っていたラクシャータはパイロットの安全を第一に設計している部分がある。
 そしてその成果として、機体の基礎フレームの頑強さと機体の持つ防御力が挙げられる。この2つの長所を練りこんだインペリアルは基礎フレームの段階で、平均的な機体強度を超えているのである。

「今更だけど…………とんでもない機体の制作を依頼した気がする」

 そう呟きながらもライは機体を操作し、敵機を蹴りつけ1機スクラップにしていた。



アースラ


「え、あれ、どういうこと?!」

 目の前で繰り広げられるある意味殲滅戦を、はやては傍らに帰ってきた幼馴染兼同僚に尋ねた。
 尋ねられたなのはは取り敢えずヴィヴィオをそばに寝かせ、質問に答えた。

「さっきも言ったけど、ライ君がゆりかごの中で見つけて、攻撃目標を切り替えて同士打ちをするようになったスカリエッティの切り札だよ」

「そんな説明で」

「八神部隊長!」

「っ!」

 なのはに叫ぶように返されてはやては一瞬ひるむが、そのおかげで落ち着いたのか彼女はため息を一つ吐いてどこか脱力した風に遠目には花火に見える戦闘の爆発に目を向けた。

「で、高町分隊長…………その切り札とやらは最後にどうなるん?」

「敵機を相手にした後、ゆりかごに戻って自爆する予定ですよ」

「ふーん。要救助者のゲスト1は?」

「今脱出中。あの機体がゆりかごに戻った頃に出てくるんじゃないですか?」

 なんかもう考えるのを放棄したい、と言う態度のはやては内心「なんだかな~」と先程までの自分の必死さをどこか虚しく思い出しながら、最後に呟いた。

「<機械仕掛けの神/デウスエクスマキナ>が終幕を飾るとか……三文小説かいな」

 その言葉が終わらない内に、インペリアルが空の敵機の九割の掃討を終えていた。
 その光景を目にし、はやての心の中にはどろりとした黒くて重い様々な感情がにじみ出る。それは彼に対する嫉妬であり、憧れであり、安堵であり、そして自分に対する蔑みであった。
 自分では事態を好転させる手腕はなかった。部下も設備も揃っている状態でただ事態の把握で精一杯だった。
 なのに、想い人はたった1人でほぼ全ての流れを掌握し、更には想定外の敵の増援さえも単機で押さえ込んだのだ。
 言葉にしてしまえば誰も信じないであろう戦果を上げた彼に、はやては胸中で感謝と謝罪を同時に送った。



インペリアル・コクピット内


 索敵センサーに自機以外の光点が映らなくなったのを確認し、ライはコクピットシートに体重を預けた。

「……終わったか」

 思わず溢れた言葉に、自分が精神的に疲れていた事を自覚する。
 ライはそんな自分に苦笑しながら、インペリアルの頭部とファクトスフィアを起動させ地上の様子を確認した。
 インペリアルがゆりかごから出てきた時に確認した敵戦力が、当時の約6割まで減っていることをコクピット内の機器が伝えてくる。

「地上の方はもう大丈夫。後はこの機体を」

 口に出すことで1つずつ情報と行動を整理していくライ。
 戦闘が終了した事で気が緩んだのか、今更になって操縦桿を握っている腕が痛みを自己主張してくるが、それをなんとか我慢して機体を操り続ける。
 既に空気も薄く、エナジーウイングでも活動限界ギリギリの高度に達しているゆりかご内に機体を入れるライ。そして機体を停止させ、バリアジャケットを展開してからコクピットから出る。
 片膝をつくようにして停止させた機体の横に立つと、その装甲表面を撫でながらライは最後の言葉を愛馬に送った。

「ありがとう、そしておやすみ」

 短く、それでいて大きな想いが込められた言葉を残し、ライはゆりかごから脱出した。



アースラ・医務室


 ゆりかごから脱出してきて十数分後。ライはアースラの医務室に来ていた。いや、正確には連行されていた
 今は診療台に無理矢理座らされ、終始笑顔のシャマルからの治療を受けていた。

「あの、シャマルさん」

「何かしら?」

「僕の治療は後回しでいいので、もっと違う人に―――」

「はやてちゃん達の許可を貰えたらいいわよ?」

 彼女はそう言って、笑顔のまま医務室の出入口に視線を送る。ライも同じようにそちらに視線を送ると、そこには笑顔で立っているはやてとなのはの2人がいた。因みにこちらもこの上なくいい笑顔である。

「……2人とも、仕事は?」

「要救助者の事情聴取やけど?」

「…………1人でもいいのでは?」

「男性相手に女性一人で聴取は問題があるなぁ~」

「………………怒ってる?」

「「怒ってないとでも?」」

 異口同音に返された答えにライはため息を吐いた。
 自分のしたことが彼女たちにかなり迷惑をかけた事を自覚しているライは内心で申し訳なさも抱いていたが、確認したいことも数多く存在するため、思いきって2人に向き直っる。
 急に動いた事で頭に包帯を巻いていたシャマルが非難めいた視線を送ってきたが、それに気付かないふりをしつつライは口を開いた。

「こちらから質問してもいい?」

「答えられる範囲なら」

 必要最低限の言葉しか使ってこないはやてに、内心「愛想つかされたかな?」と若干的はずれな事を考えながらライは聞きたいことを口に出していく。

「取り敢えず、今の戦闘状況は?」

「地上の残敵は9割がた片付いて、今は準警戒態勢。うちらはずっと最前線やったから今はシフト組んでアースラで小休憩中や」

「地上部隊の指揮は?」

「ウチの隊長、副隊長が全体指揮をとっとるけど、もう敵の規模的にはそろそろ引き上げどきかな」

 はやての返答で、戦闘はほぼ終了したとライは察した。それに安堵すると同時に、今回の戦闘で出た死傷者の事やこれからのこの世界の事を考えると、ライは自然と暗い表情を浮かべた。

「ライ君、割り切るんも大事なことやで」

「……うん」

 苦悩するライを見ていたはやてとなのはは、その全てを背負うとするライを悲しく感じると同時に、それ以上に人の命をどこまでも重く尊いものとして受け止めている彼に愛おしさを感じた。
 ライは一旦ネガティブな思考を振り払うように、首を振ってから再び口を開く。

「六課が保護した人達は?」

「健康面で問題のない人たちは今フェイトちゃんが聴取をしとる最中。怪我人は個室で治療中。ヴィヴィオは隠れて見えてないけど、ここのベッドで寝とるよ。レリックの摘出はこの後行う予定」

「ゆりかごの破壊は?」

「管理局の艦隊が増援として衛星軌道上にそろそろ来るはずやから――――」

 はやてが言葉を言い終える前に医務室に投影型ディスプレイが展開される。そこには今まさにゆりかごが大気圏を離脱しようとし、それを防ぐように管理局の保有する艦隊が到着した画像であった。

「これってリアルタイム?」

「うん。破壊は艦隊がアルカンシェルを使うことになってる」

 ライの質問になのはは答えた。
 映像は音声がなかったが、映し出された艦隊の先端に砲身らしき魔法陣が展開され、それをゆりかごに向ける。

「……」

 その光景をライは見つめる。それは1つの決別であった。
 ゆりかごの消滅はライが元の世界に戻る手段を失うこととほぼイコールである。それはもう自分の親友や友人、戦友、守りたいと願った人達との永遠に別れを意味する。

(何を今更…………女々しい事を)

 ゼロレクイエムでその覚悟はしていたというのに、いざ生き延びるとその覚悟はやはり鈍る。
 どこか諦観しようとしながら、ライはその映像を見つめ続ける。それはライの近くにいるはやて、なのは、シャマルの3人には彼がひどく儚く見えていた。
 そんな4人の心境には関わりなく状況は進む。
 映像の中で、各艦隊が砲撃を発射し、ゆりかごが幾つもの光に貫かれ、飲まれる。
 そして光が収まる頃にはそこには何も残らず、静粛だけが残っていた。

「終わった」

 呟いたのは誰だったのか。長くも短くも感じる事件の終止符を感じた4人であった。
 しかし、彼らにとっての終わりはゆりかごの消滅ではなかった。

「ああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 いきなり医務室に木霊する絶叫。
 その絶叫の元に目を向けると、そこはカーテンに仕切られている一角。ライは知らないがそこにはヴィヴィオが眠っていた。

「ヴィヴィオ!!」

「ッ!!」

 シャマルの叫びで絶叫した人物を察したライは即座にカーテンに近寄り手をかけた。
 そのままカーテンを開けようとするが、その前にカーテン越しに何かがライにぶつかってくる。

「つっ!!」

 そのまま押し倒されるライ。突進してきた何かはカーテンにくるまる様になったまま、ライの上で藻掻く。いきなりのことに驚いたライであったが、今はそれどころではなく突進してきたであろうヴィヴィオを確認するために、邪魔なカーテンをとっぱらう。
 カーテンをのけるとそこには予想通り、苦しんでいるヴィヴィオがいる。だが、その苦しみ方が妙であった。
 両手で頭を抑え、焦点のあっていない目を見開き、歯の根が合わないのかカチカチと口から硬質な音が聞こえる。
 怪我の痛みを訴えるような苦しみ方ではないため動揺するが、今はヴィヴィオの容態を確認するのが最優先と思考の冷静な部分が告げる。
 動揺する意識をねじ伏せ、ライは起き上がり、ヴィヴィオをベッドに戻そうと彼女に触れる。

「!!ぐぁっ」

 ヴィヴィオと接触したことがトリガーとなったのか、彼女に触れた瞬間からライの中に“それ”は流れ込んでくる。
 男、女、子供、大人、老人、古人、現代人様々な人々の感情、意識がライの頭の中に潜り込んでくる。
 いきなりの事で反射的にヴィヴィオから手を話してしまうライ。その彼の行動といきなりの苦悶の声に周りの3人は呆気にとられるが、ライ本人はヴィヴィオのこの苦しみの原因を理解した。

(集合無意識の流入?!でも何故?タイミング的にはゆりかごの破壊が原因か?だがそれがどうして――――!)

 頭の中に浮かんでくる疑問の答えを考えていると、ライは1つの言葉を思い出す。
 それはゆりかご内で聞いた機械音声。そのアナウンスで発した言葉の1つが思考の端に引っかかる。

『聖王による動力炉の確保』

 文字通り受け取るのであれば、聖王であるヴィヴィオから魔力を取り出そうとしたと言う事実。ここまで思い出し、ライは1つの考えに思い至る。

(僕がしたのと同じようにCの世界からの魔力供給か!ヴィヴィオが今までなんともなかったのはゆりかごが意識の制御または受け皿をしていたから)

 確証のない予測しか立てることのできないライは内心で歯噛みする。

(このまま放っておけば、ヴィヴィオが自分を見失う)

 ヴィヴィオはまだ自我というものを確立させてから間もない子供だ。だというのにいきなり無限に流れ込んでくる様々な意識を制御もせずに受け止めているとなると、どこまでが自分でどこからが自分なのかが分からなくなるのだ。

(Cの世界に鑑賞して意識の流れを制御するか?その場合どこから干渉する?第一コードを持っていない自分にそれができるのか?)

 するべきことは判明しているが不安材料が思考を席巻していく。だが、それでもやらなければならないと決意したライの行動は早かった。

「蒼月、パラディン。シンクロシステム、チューニングシステム起動。空き領域を全て演算処理に回せ!」

 いきなりデバイスを取り出し何かを始めようとするライに終始困惑する周りの3人に気を回すこともせずに、ライはヴィヴィオの額に手を置いた。



???


 ヴィヴィオは翻弄されていた。
 自分に混ざるように、溶けるように、通り過ぎるように、ぶつかるように、包むように、痛めつけるように迫る意識の波。
 それをどうすればいいのか、そもそもこれが何なのかすら理解していないヴィヴィオは恐怖で感情を染めていく。
 それがどれだけ続いたのか。一瞬かもしれない、永遠に近い時間が経っていたのかもしれない、ここに時間というものがあるのかどうかも分からない。そんな中、ヴィヴィオの腕と思われる部分を掴む何かが現れた。
 普段であれば、取り乱し、遮二無二その腕を振り払っていたであろうヴィヴィオは、しかしその腕に安堵を覚えた。何故ならその腕の温もりを知っていたのだから。

「パパ?」

 声としてそれが伝わったのか、それとも念話のように頭に響いたのかは分からないがヴィヴィオの言葉に応えるように、彼女の求める声が返ってくる。

「ヴィヴィオ、良かった」

 未だにヴィヴィオが確固たる自身を認識していることに安堵するライ。だが、ぐずぐずしてもいられない為、即座に本題を切り出す。

「ヴィヴィオ、これから君をここから連れ出す」

「?」

「説明してる時間はない。だけど君を連れ戻すことは確実にできる。だから――――」

「パパは?」

「…………」

 子供の直感か、それとも意識が通じていることで自分の考えが読み取れたのかヴィヴィオは鋭い質問をしてくる。

「パパも一緒?」

「……ヴィヴィオ、僕は残ってやらなければならない事があるんだ」

「!……いや」

「ヴィヴィオ……」

「パパも一緒じゃないとダメ!」

 必死に懇願してくるヴィヴィオに困りながらもライは必死に気持ちを伝えようとする。

「ヴィヴィオ、僕も絶対にそっちに戻る。だけど、それは今すぐというわけにはいかない。今そっちに戻るとまたヴィヴィオが苦しむことになるかもしれないから」

「……絶対に戻ってくる?」

「うん。約束する。必ず戻って――――って言うから」

 その言葉がヴィヴィオの聞いた最後の言葉であった。



アースラ・医務室


 はやて、なのは、シャマルの3人は自分達の理解できないところで事態が進展し、目まぐるしく目の前で結果だけ見せられると言う光景を見せられていた。
 客観的に事実だけを言えば、まずライがデバイスを起動させヴィヴィオの額に触れる。そしてその後、何かを探るようにライが目を瞑り数分が経つとヴィヴィオの苦しみが和らげられたのか、彼女の様子が大人しくなりそれに反比例するようにライの表情が苦しみに染められていく。さらに数分後、彼女の胸からレリックが排出されヴィヴィオの姿が元に戻る。
 これらの一連の出来事を呆然と見ていることしかできなかった3人。何とか事態を受け入れることができた3人はまず、排出されたレリックを封印することであった。
 そして、事態が本当に終息したのか確かめるためにはやてがライの肩に手を置いた瞬間、何の抵抗もなく彼は床に倒れ込んだ。

「「「え?」」」

 疑問の声は同時に出た。
 だが、複数の疑問はあっても事実は1つしかない。ライが昏倒したそれだけである。
 慌てた3人の声が医務室に響いた。






 
 

 
後書き
今回かなりバタバタとした内容でした。
次回で最終回となります。
今回カットした最後の方のライが行った行動の説明も入れると思います。

では次回もまたよろしくお願いしますm(_ _)m

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