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緋弾のアリアGS  Genius Scientist

作者:白崎黒絵
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イ・ウー編
武偵殺し
  16弾 雨に濡れた殺意

 インカムに入ってくる通信科(コネクト)の話によると、武偵校のバスは武藤らを乗せた男子寮前からはどこの停留所にも停まらず、暴走を始めたという。その後、車内にいた生徒たちからバスジャックされたという緊急連絡が入った。

 定員オーバーの60人を乗せたバスは学園島を一周した後、青海南橋を渡って台場に入ったという。

「警視庁と東京武偵局は動いてないのか?」

 上昇するヘリの轟音の中で、アリアとインカムを通じて話す。

『動いてる。でも相手は走るバスよ。それなりの準備が必要だわ』

「じゃあ俺たちが一番乗りってことか」

 ここまで嬉しくない一番乗りは初めてだ。

『当然よ。ヤツの電波をつかんで、通報より先に準備を始めたんだもの』

 バカなのかこいつは。先に通報しておけば警視庁と武偵局の援護を受けられたのに。

 そのバカことアリアは愛用の2丁拳銃のチェックを行っていた。

 その白銀と漆黒の拳銃は、色が違うだけで同じものだ。

 あれは――――コルト社の名銃・ガバメントを元にしたカスタム品だろう。あの銃は既に諸々の特許が切れてるから、けっこう自由に改造できるのだ。

 目立つのはグリップについてるピンク貝のカメオで、そこに浮き彫された女性の横顔は、どことなくアリアに似ている美人だった。

『見えました』

 レキの声に、俺とアリアは揃って防弾窓に顔を寄せた。

 右側の窓から、台場の建物と沿岸道路、りんかい線が見える。

 で、(くだん)のバスは……あれか?ホテル日航の前を右折してる。

「レキ、今回ジャックされたバスはあれだよな?ホテル日航の前を右折してるやつ。窓に武偵校の生徒が見えるし」

『はい。それで間違いありません』

『あ、あたしには全然見えないんだけど。あんたたち視力いくつよ』

「俺は左右ともに5.7だ」

「私は左右ともに6.0です」

 さすが狙撃科(スナイプ)の麒麟児レキ。視力もけっこう高いな。

 ヘリの操縦車が俺とレキの言った辺りへ降下していくと、武偵校のバスがかなりの速度で走っていた。

 バスは他の車を追い越しながら、テレビ局の前を走る。ヘリでそれを追うと、テレビ局の中から人々がカメラやケータイでこっちを撮影してるのが見えた。

『空中からバスの屋上に移るわよ。あたしはバスの外側をチェックする。ミズキは車内で状況を確認、連絡して。レキはヘリでバスを追跡しながら待機』

 テキパキと告げると、アリアはランドセルみたいな強襲用のパラシュートを天井から外し始めた。

「内側……って。もし中に犯人がいたら人質が危ないぞ!」

『「武偵殺し」なら、車内には入らないわ』

「そもそも『武偵殺し』じゃないかもしれないだろうが!」

『違ったらなんとかしなさいよ。あんたなら、どうにかできるはずだわ』

 無茶言うな!バカだバカだとは思っていたが、コイツは正真正銘のバカだ。

 よく世間から批判されることだが、武偵は迅速な解決を旨とするため、その場その場の判断で物事を解決する傾向がある。

 だが――――アリアのこれは、セオリー無視もいいところだ。それが不満なら非常識と言い換えてもいい。

 要するに有無を言わさず現場に一番乗りして、その圧倒的な戦闘力で一気にカタをつけてしまおうというわけだ。チームメンバーへ過剰な期待をすることは気にしないとしても、俺はこういうやり方はあまり好きじゃない。

 何故なら――――

「――――ああ。1年前までの俺に似てるからか」



 強襲用のパラシュートを使いつつ、俺とアリアはほとんど自由落下するような速度でバスの屋根に転がった。

 久々の空挺(エアポーン)だったので、俺は危うくバスから滑り落ちそうになる。

 その腕を、アリアがつかんで引き留めてくれた。

「ちょっと――――ちゃんと本気でやりなさいよ!」

 イラッとした声で叫ぶアリアに、

「これでも本気でやってるっての!久々の空挺(エアポーン)だったから、ちょっとミスっただけだ!」

 今のは嘘ではないが本当でもない。確かに久々の空挺のせいもあるが、他にも1つ理由がある。だが、今アリアにそれを言っても仕方がない。

 俺は足が震えているのがアリアにバレないように屋根にベルトのワイヤーを撃ち込み、振り落とされないようにする。

 アリアも自分のワイヤーを使って、リぺリングの要領でバスの背面に身体を落としていった。

 俺は犯人が車内にいた場合のために、伸縮棒のついたミラーで車内を確認する。車内には生徒たちがひしめきあっていて、犯人と思われる人物の姿は今のところ見当たらない。

 俺は窓際にいた生徒に窓を開けてもらい、ワイヤーを切り離して車内に入った。

 もともと大混乱だった生徒たちは、俺が入ってきたのを見て一斉に騒ぎ立てる。

 いくつもの言葉が交錯し、何を言われてるのかさっぱり分からない。

「ミズキ!」

 聞きなれた声に振り向くと、そこにはさっきバス停で『2限で会おう!』などと言い残して俺を見捨てた武藤(むとう)がいた。

「武藤か。2限はまだだが、また会っちまったな」

「あ、ああ。ちくしょう……なんでオレはこんなバスに乗っちまったんだ?」

「俺を見捨てずに乗せていればこんなことにはならなかったかもな」

 大量に皮肉を混ぜて言う。俺はさっき見捨てられたことを忘れていないからな。

「――――あれだミズキ。あの子」

 武藤が指したのは、運転席の傍らに立つ眼鏡の少女だった。あの子は確か……救護科(アンビュラス)所属の1年の宗宮つぐみ、だったかな。武偵校の中でも珍しい獣医志望の子だったはずだ。

「や、ややや薬師丸(やくしまる)先輩!助けてくださいっ!」

 涙ぐんでいる。こう見ると中等部に見えるな、この子。

「どうした、何があった」

「い、いい、いつの間にか私の携帯がすり替わってたんですっ!そ、それが喋りだして!」

「 速度を落とすと 爆発しやがります 」

 そういうことか。

 アリアが言った通り、これは同一犯の仕業だろう。

 俺の、チャリジャックの犯人と――――!

『ミズキ、どう!?状況を説明して!』

 アリアの声だ。

「おまえの言った通りだったよ、このバスは遠隔操作されてる。そっちはどうだ?」

『――――爆弾らしきものがあるわ!』

 その声にバスの後方を背伸びして見ると、窓の外にワイヤーとアリアの足が見えた。

 どうやら逆さ吊りになって、車体の下をのぞきこんでいるようだ。

『カジンスキーβ型のプラスチック爆弾をベースにしたオリジナル、「武偵殺し」がよく使うものよ。見えるだけでも――――炸薬(さくやく)の容積は、3,500立方センチはあるわ!』

 そのアリアの言葉に一瞬、気が遠くなる。

 なんじゃそりゃ。どう考えても過剰すぎる炸薬量だ。

 ドカンといけば、バスどころか電車でも吹っ飛ぶ量じゃないかよ。

『潜り込んで解体を試み――――あっ!』

 アリアの叫びと同時に、ドン!という振動がバスを襲った。

 生徒たちがもつれ合うようにして転び、悲鳴が連なる。

 慌てて後ろの窓を見ると――――

 そこに追突した1台のオープンカーが、グンッ、と退がってバスから距離を取っているところだった。

「大丈夫かアリア!」

 ――――応答が無い。

 今の追突で、やられたらしい。

 俺はバスの屋根伝いに後部に回り込むため、慌てて窓から上半身を乗り出した。

 ウォン!というアクセル音に振り向けば、後ろにいたはずの車――――真っ赤なルノー・スポール・スパイダーだ――――が、横に回り込んできていた。

 その無人の座席からUZIを載せた銃座が、こっちに狙いを――――!

「――――みんな伏せろッ!」

 車内に叫び、生徒たちが頭を低くした直後――――バリバリバリバリッ!!

 無数の銃弾が、バスの窓を後ろから前まで一気に粉々にした。

「うおッ!」

 俺も一発胸の辺りにもらい、車内に押し戻される。

 防弾ベストのおかげで怪我は無いが……この、跳び膝蹴りを喰らったような衝撃。あまり好きじゃないんだよな、これ。好きな奴がいたとしたらそいつはそいつでヤバそうだが。

 ぐらっ。バスが妙な揺れ方をしたので運転席の方を見ると――――

「ッ!」

 運転手が、ハンドルにもたれかからようにして倒れていた。

 その肩にはさっきの銃弾で被弾した(おぼ)しき銃痕があり、そこから勢いよく出血していた。

 運転のために、体をさげられなかったのだろう。

 バスは左車線に大きくはみ出していく。

 避けた対向車がガードレールに接触事故を起こし、火花を散らした。

 ちっくしょう!大混乱じゃねえか……!

 どうすればいい。

 分からない。分からない。今の俺じゃあ、この事態の収拾の方法が――――!

「 有明コロシアムの 角を 右折しやがれです 」

 転んだ宗宮が落とした携帯から、ボカロの声が聞こえてきた。

 さらにマズイことに、バスは――――徐々にその速度を落とし始めている!

「武藤!運転を代われ!減速させるな!」

 俺は防弾ヘルメットを脱いで武藤に投げ、再び窓に手をかけながら叫ぶ。

「い、いいけどよ!」

 武藤はヘルメットを受け取りざまに被ると、傷ついた運転手を他の生徒たちと協力して床に下ろし、運転席に入れ替わった。

「オレ、こないだ改造車がバレて、あと1点しか違反できないんだぞ!」

 ヤケクソ気味の武藤の声を背に、俺はバスの屋根を上っていく。

「安心しろ。そもそもこのバスは通行帯違反だ。よかったな武藤。これで晴れて免停だぞ」

「落ちやがれ!轢いてやる!」

 そこまで言うなら改造車なんてやるんじゃねえ。



 豪雨の中、バスは高速でレインボーブリッジに入っていく。

「――――こんな爆発物、都心に入らせる気かよ――――!」

 頭おかしいんじゃねえの。『武偵殺し』とやらは。

 とりあえず、アリアの状況を確認しよう。あいつのことだから大丈夫だとは思うが、一応心配だ。

 俺はいわゆるハコ乗りの状態になりながら、振り落とされないように耐えた。

 ブリッジ入り口付近の急カーブに、ぐらり――――

 バスは一瞬片輪走行になったが、何とか曲がりきる。

 武藤のかけ声で生徒たちが車の左側に集まり、横転しないようにうまく重心を操っていたのだ。さすが武藤。車輌科(ロジ)の優等生なだけあるな。これで朝の分の恨みはチャラにしておいてやるよ。

 猛スピードで入ったレインボーブリッジには――――車が1台もいない。

 どうやら警視庁が手を回したらしい。道路が封鎖されている。

「おいアリア!大丈夫か!」

「ミズキ!」

 屋上に登った俺は、ワイヤーを伝って上がってきたアリアに声をかけた。

「アリア!ヘルメットはどうした!」

「さっき、ルノーに追突されたときにブチ割られたのよ!あんたこそどうしたの!」

 俺の頭を指すアリア。

「運転手が負傷して――――今、武藤にメットを貸して運転させてるんだ!」

「危ないわ!どうして無防備に出てきたの!なんでそんな初歩的な判断もできないのよ!」

 『おまえが心配だったからに決まってるだろうが!』と言う言葉を飲み込んで、俺は耳をすませてアリアの声を聞く。

「すぐに車内に隠れ――――後ろっ!伏せなさい!何やってんのっ!」

 アリアは突然2丁拳銃を抜き、真っ青になって俺に突進してきた。

 ――――何が起きた?

 事態が把握できず、背後を振り返ると――――

 今度はバスの前方に陣取ったルノー・スパイダーの上の銃座に載っているUZIから、銃弾が放たれるのが見えた。

 俺の顔面めがけて。

 飛んでくる。

 銃弾が。

 ――――死んだ。

 本気でそう思った。

 ルノーに応射しながら、アリアが――――

 スローモーションのように、その小さな身体で俺めがけてタックルしてきて。



 バチッバチッ!!



 被弾音が、2つ。

 視界に鮮血が飛び散った。

 ――――が、痛くない。

「ア、リア……?」

 ごろごろ、とアリアはバスの屋根の上を転がり、側面に落ちていった。

 アリアが転がった所についた鮮血の跡が、雨水で流れていく。

 脳裏に、あの光景がフラッシュバックする。

 閃くフラッシュ。放たれる弾丸の音。飛び散る鮮血。徐々に温度を失っていくあいつの身体。

 今の状況は、驚くほどあの時と酷似していた。

あいつが――――キンジが死んだ時と。

「アリア――――アリアあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 渾身の力を込めて、アリアに繋がるワイヤーを引っ張る。

 ルノーは速度を落とし、側面に回ってきた。

 いいだろう。折角そっちから来てくれたんだ。跡形もなくぶっ壊してやる。

 俺の中からどんどん黒い感情が溢れ出てくる。(ころ)せ、(ころ)せ、(ころ)せ、と。

『そうだ、殺してしまえ。汝が気にいらないすべてを、汝が憎いと思うすべてを、汝が殺したいと願うすべてを。殺しつくしてしまえ』

 全身の血が狂ったように流れる。心臓のあたりが焼け付くように熱い。

 殺す。殺す。殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス――――

 殺して殺して殺しつくしてやる。

 そんな俺の意識を無理矢理に引っ張り出してのは、かすかに感じた違和感だった。

 ルノーはもう、側面にいる。今撃たれれば、俺たちはアウトだ。なのに、相手は撃ってこない。

 一瞬にして正気に戻った俺は、ルノーの車内をよく見てみる。

 すると、座席の銃座が壊れていた。

 アリアはあの一瞬の交錯で、ルノーの武器を破壊していたのだ。

『ピンチになるようだったら、あたしが守ってあげるわ』

 あのアニメ声が、俺の脳内でリピートする。

「アリア――――!!」

 絶叫と共に、ピクリとも動かないアリアをバスの屋根に引き上げる。

 その姿に俺が硬直した時――――

 パァン!

 という破裂音が響いた。

 もう一度、パァン!

「ッ!?」

 音に続いてルノーは急激にスピンを始め、ガードレールにぶつかって――――ドオンッ!

 バスの後ろで、爆発、炎上した。

 見れば前方、レインボーブリッジの真横に、武偵校のヘリが併走してきている。

 そのハッチは大きく開かれ、膝立ちの姿勢でこっちに狙撃銃(ドラグノフ)を向けているレキの姿が見えた。

 建物の多い台場では無かった狙撃のチャンスが、今、この大きな橋の上で来た。

『――――私は一発の銃弾』

 インカムから、レキの声が聞こえてきた。

 見れば、バスの車体の下を狙っている。

『銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない――――』

 詩のようなことをを呟いている。

『――――ただ、目的に向かって飛ぶだけ』

 これは……強襲科(アサルト)にいた頃、何度か聞いたことがある。

 レキがターゲットを(はじ)く際の、クセだ。

 呪文のようなそのセリフを言い終えた瞬間――――

 レキはその銃口を、パッ、パッパッ、3度光らせた。

 銃口が光るたびにギンッ!ギギンッ!と着弾の衝撃がバスに伝わり、一拍ずつ遅れて銃声も3度聞こえてくる。

 ガンッ、ガンガラン、と何かの部品がバスの下から落ちて背後の道路に転がっていった。

 間違いない。あれは。

 あれは――――部品ごとバスから分離された、爆弾。

『――――私は一発の銃弾――――』

 またレキの声に続いて、銃声。

 ギンッ!

 部品から火花が上がり、爆弾は部品ごとサッカーボールのように飛び上がった。

 そして橋の中央分離帯へ、さらにその下の海へと落ちていく。



  ――――ドウウウウウウウウウウウンッ!!!!!



 遠隔操作で起爆させられたのか――――海中から、水柱が盛大に上がる。

 バスは次第に減速し……停まった。

 屋根の上には、ぐったりと動かないアリアと……

 結局なんの役にも立たなかった俺だけが、しばらくの間、豪雨に打たれ続けていた。 
 

 
後書き
ハーイ!どーもー!皆さーん!作者の私でーす!
と、まあうたたPの名曲風にやってみましたが、いかがでしょうか。白崎黒絵です。
なんと今回は2(ほぼ)同時投稿!とても頑張りました!
それでは話の内容について……暗い。重い。怖い。の三拍子ですね。ミズキが途中でちょっとだけ暴走しかけてますし。
今回のミズキの暴走に関してはいつか詳しくお話するので置いといて……
「驚愕の新事実!なんとこの世界ではすでにキンジは死んでいた!?」
……はい。すみません。悪ノリが過ぎました。
けっこう前から皆さん薄々気が付いていたと思いますが、この世界ではキンジは死んでいます。タグにも書いてますしね。
実はそのキンジの死がミズキの強襲科をやめた理由につながっているのですが……その話は次回もしくはそれ以降にやります。
それでは皆さんお待ちかね?恒例のやつです!
「本家!例のアレ!(名前の募集の締め切りは今日までです。次回からは選ばれたタイトルが使われますので、その時に結果が発表されます)」
今回はこの娘!狙撃科の麒麟児レキちゃんです!

「……ありがとうございました」

無口系キャラって素敵!(必死)

それでは皆様、また次回。なるべく早く投稿できるように頑張ります!
疑問、質問、感想、誤字脱字の指摘などありましたらコメントください。「例のアレ」の名前も今日までなら受け付けます!

コメントをくださった『非会員』様、『マスタード』様、評価を入れてくださった『狂った人形』様、ありがとうございました! 
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