緋弾のアリアGS Genius Scientist
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イ・ウー編
武偵殺し
15弾 バスジャック
アリアが俺の部屋からいなくなってから数日間。俺はとても平穏な毎日を送っていた。あれからアリアや間宮にからまれることもなく、ときどき文と一緒にアレの開発に取り組んだりする以外は特に何もなかった。
そして、ある朝のこと。
俺は携帯のアラームで目を覚ました。
ぎゅ、と携帯をつかもうとしたら、携帯についているレオポンをつかんでいた。
「……」
レオポンをちょっと眺めてから俺は、だらだらー……と登校の準備をする。
買い置きしてあるメロンパンを2個食べ、昨日の昼に理子から返してもらった腕時計を見ると、
「?」
まだ少し時間がある。
けっこうだらだらしていたと思ったんだが。
まあいい。お茶でも飲むか。
おかしい。
俺はちゃんと、ちょっと早めに家を出たはずなのに。
生暖かい大粒の雨が降り始めたバス停には既に7時58分のバスが来ていて、生徒たちが押し合いへしあいして乗り込んでいるところだった。
1時間目の始まる直前に一般校区に着くとだけあって、いつもこのバスは混む。
少しでも遅れると、満員で乗れないこともあるのだ。
「よっしゃ!乗れた!やったやった!おうミズキおはよう!」
バスに駆けつけると、入り口のタラップで車輌科の武藤がバンザイしてる。
奥の方はもう生徒たちでいっぱいだ。
やばい。
今日は雨ということもあって、いつもチャリ通の生徒たちが一斉にバスを使ったらしい。
「の、乗せろ武藤!」
「そうしてやりたいのはやまやまだがムリだ!満員!おまえチャリで来いよっ!」
俺は武藤にもっと奥へ行けと手つきで示すが、武藤は逆に押し出されそうになるのを必死でこらえているような状態だ。
「俺のチャリはぶっ壊れちまったんだよっ!これに乗れないと遅刻するんだ!」
「ムリなもんはムリだ!ミズキ、男は思い切りが大事だぜ?1時間目サボっちまえよ!どうせ進級できるだけの単位はあるんだろ?というわけで2時間目にまた会おう!」
「ふざけんな!」
『2時間目にまた会おう!』じゃねーだろ!単位は足りてるが出席日数は確保しなきゃいけないんだよっ!
薄情者の武藤の声を最後に、バスは無情にもドアを閉めてしまった。
中から聞こえてくるおしゃべりやら笑い声やらが死ぬほど恨めしい。
ちっ。この大雨の中、徒歩かよ。しかも遅刻確定。どんなクソゲーだ。
大雨の道を、歩く。
視界の向こうにずっと続く、学園島の真っ直ぐな道を恨めし気に睨む。
人工浮島というのは、そもそも空港の滑走路を安価に造ることを1つの目的として開発されたものだとか。
道理でこの学校、無駄に細長いはた迷惑な形状をしているわけだ。
それだけでも不愉快だというのに、今日のこの生暖かい雨。不快指数100,000,000パーセントだ。
武藤が言うとおり、1時間目はサボってしまおうか。
これまた武藤の言うとおり、俺は進級どころか卒業できるまでの単位はもう揃っているわけだし。
強襲科の黒い体育館を横切りながら、そんなことを考えていた時……携帯が鳴った。
「――――もしもし」
レオポンのストラップを引っ張って携帯を取り出し電話に出ると――――
『ミズキ。今どこ』
アリアだ。
何だ。もう時刻は8時20分。授業が始まっているのに電話とは、いったいどういうことだ。
「んー、あー。強襲科のすぐそばだ」
『ちょうどいいわ。そこでC装備に武装して女子寮の屋上に来て。すぐに』
「なんでだよ。強襲科の授業は5時間目からだろ?」
俺が文句を言うと、アリアは声を荒げた。
『授業じゃないわ、事件よ!あたしがすぐと言ったらすぐ来なさいっ!』
俺は自分の姿を見回す。
TNK製の防弾ベスト。強化プラスチック製の面あて(フェイスガード)付きヘルメット。武偵校の校章が入った無線のインカムに、フィンガーレスグローブ。全身のあちこちに食い込むほどしっかりと締めたベルトには、拳銃のホルスターと予備の弾倉が4本。
SATやSWATにも似たこの装備は、武偵がいわゆる『出入り』の際に着こむ、攻撃的な装備だ。強襲科が介入するような事件は物騒なものが多く、その際、よくこの装備を指示したりしたんだが――――
――――事件。
何だ。
いったい何が起きたんだ。
願わくば、小さな事件であってほしい。アリアがC装備で武装してこいと言った以上、ほぼありえないが。
そんなことを祈りながら屋上に出ると、そこには――――
俺と同じC装備に身を固めて、大粒の雨に打たれているアリアがいた。
アリアは鬼気迫る表情で、何か無線機にがなり立てている。
「……?」
ふと気が付くと、階段の廂の下には狙撃科のレキが体育座りしていた。
アリアの奴。転入生のくせに、いい生徒がわかってるな。
レキは入試でSランクに格付けされ――――今もSの、狙撃科の天才少女だ。
身体は細く、身長はアリアより頭半分大きい程度。腕は確かだし外見もショートカットの美少女なのだが、いかんせんその無表情でロボットっぽい性格のため目立たない女子である。
ちなみにこいつの名字は誰も知らない。本人も知らないらしいしな。
「レキ」
置き物のように微動だにしないレキに声をかけるが、返事は無い。
それもそのはず。レキはでかいヘッドホンをつけて何かを聴いていた。
こいつとは去年俺がまだ強襲科にいたころに何度か組んで仕事をしたことがあるんだが……この悪癖、まだ直ってなかったらしい。
コツコツ、と指でその頭をノックすると、レキはようやくヘッドホンを外してこっちを見上げてきた。相変わらず、3Dグラフィックか何かで出来てるんじゃないかってぐらいに整った顔だ。
「おまえもアリアに呼ばれてきたのか?」
「はい」
抑揚のない、レキの声。
「てゆーか、そのヘッドホン。いつもいつも、何の音楽を聴いてんだ?おまえ」
「音楽ではありません」
「じゃあ何なんだ?」
「風の音です」
レキはボソッと言うと、かちゃ、と狙撃銃――――ドラグノフという、スリムなセミオートマチック銃だ――――を、まるでテニスのラケットのように自然に肩にかけ直した。
「時間切れね」
通信を終えたアリアが、くる、と俺たちに振り返る。
「もう1人ぐらいSランクが欲しかったとこだけど。他の事件で出払ってるみたい」
「おい。俺はSランクじゃないぞ」
「3人パーティで追跡するわよ。火力不足はあたしが補う」
俺のツッコミは普通にスルーされた。やっぱりこいつとは会話が成立しねえ。
「追跡って、何をだ?そもそも何が起きたんだ?状況説明ぐらいきちんとやれ」
「バスジャックよ」
「――――バスジャック?」
「そう。武偵校の通学バス。あんたのマンションの前にも7時58分に停留したはずのやつ。あれがジャックされたわ」
――――!?
なん、だと。
あのバスが、乗っ取られたっていうのか?
あれには武藤のバカを始め、武偵校の生徒たちが大量に乗ってるんだぞ。
「――――犯人は、車内にいるのか?」
「正確なところはわからないけど、たぶんいないでしょうね。バスには爆弾が仕掛けられてるわ」
――――爆弾――――
その単語を聞いて、俺の脳裏には数日前のチャリジャックの光景がフラッシュバックする。
それを感じ取ったのか、アリアは流し目をするようにして俺を見た。
「ミズキ。これは『武偵殺し』。あんたの自転車をやった奴と同一犯の仕業だわ」
――――『武偵殺し』……だって?
聞き覚えのある名前に、俺は眉を寄せる。
それは、あのチャリジャックがあった日の朝、白雪が話題にしていた連続殺人犯の通称だ。
「最初の武偵はバイクを乗っ取られたわ。次がカージャック。その次があんたの自転車で、今回がバス……奴は毎回、乗り物に『減速すると爆発する爆弾』を仕掛けて自由を奪い、遠隔操作でコントロールするの。でも、その操作に使う電波にはパターンがあってね。あんたを助けた時も、そして今回も、その電波をキャッチしたのよ」
「でも、『武偵殺し』は逮捕されたはずじゃなかったのか?」
「それは真犯人じゃないわ」
「何だって?おい、ちょっと待て。おまえはいったい何の話をしてるんだ?――――」
おかしい。
この話はあちこちおかしい。
だが――――
アリアはビシッとこっちに振り向き、そのツリ目で俺を睨んできた。
「背景の説明をしてる時間はないし、あんたには知る必要もない。このパーティのリーダーはあたしよ」
アリアは、ぐい、と俺に胸を張ってみせた。あまりにも胸が無いせいで背伸びをしようとしてるようにしか見えないが。
なんて、茶化してる場合じゃない。
「待て……待てよアリア!おまえ――――」
「事件は既に発生してるわ!バスは今、この瞬間にも爆破されるかもしれない!ミッションは車内にいる全員の救助!以上!」
「――――リーダーをやりたきゃ勝手にやれ!でもな、リーダーならそれらしくメンバーにきちんと説明をしろ!どんな事件にも、武偵は命を懸けて臨むんだぞ!」
「武偵憲章1条!『仲間を信じ、仲間を助けよ』!被害者は武偵校の仲間よ!それ以上の説明は必要ないわ!」
その言葉をきっかけに、俺の中で何かキレた。
「ふっざけんな!アリア、おまえは仲間を死なせたいのか!?」
今までとは質がまるで違う俺の怒鳴り声に、さすがのアリアも驚いたらしく目を見開いた。
ああ、言ってしまった。これは、このセリフだけは、俺が言ってはならないセリフだったのに。
その時、俺たちの上空から、雨水に混じって激しい音が聞こえてきた。
――――ヘリの音だ。
見上げれば、青色の回転灯を付けた車輌科のシングルローター・ヘリが女子寮の屋上に降りてこようとしているところだった。
アリア……手際よく、こんなものまで呼んでたのかよ。
こうなってしまえば、たしかに説明を聞いている時間はなさそうだ。
「……クソッ!ああやるよ!やればいいんだろ!やってやるよ!」
俺がヤケクソ気味に怒鳴るのを見て、アリアは濡れたツインテールをヘリの風になびかせて――――
――――笑った。
「ミズキ。これが約束の、最初の事件になるのね」
「大事件だな。最近の俺はとことん不幸だ」
「約束は守りなさいよ?あんたが実力を見せてくれるのを、あたしは楽しみにしてるんだから」
「言っておくが、俺にはおまえが期待してるほどの実力は無いからな。ブランクも長い。Aランクとはいえ後方支援が専門の装備科を、こんな難易度の高い事件に連れてきて本当に大丈夫なのか?」
「ブランクならあかりと戦って解消されたでしょ。それに、万が一ピンチになるようだったら――――あたしが守ってあげるわ。安心しなさい」
そう言って、アリアはヘリに乗り込んだ。
後書き
「初めまして」か「お久しぶり」!白崎黒絵です!
今回は、私も待ちに待ったバスジャック!その前半部分をお届けしました!
話の内容はほぼ同時刻に投稿される16弾で語りますが、少しだけこっちでも語っておきしょう!
祝!レキ初登場!
「緋弾のアリア」ではけっこうな人気キャラであるレキがついに登場しました!今夜は祭りです!
そして残念?なお知らせがひとつ。今回は諸事情により「例のアレ」をお休みさせていただきます。名前の募集についてなどに関しては、次回お知らせします。
それでは皆様、すぐに投稿されるであろう次回をお楽しみに!
疑問、質問、感想、誤字脱字の指摘などありましたら送ってください!
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