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緋弾のアリアGS  Genius Scientist

作者:白崎黒絵
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イ・ウー編
武偵殺し
  17弾 額の傷

 武偵病院に入院したアリアの傷は……浅かった。

 運が良かったとしか言いようがない。

 アリアを襲った2発の銃弾は、どちらとも額を掠めただけで重傷には至らなかったのだ……少なくとも、外見上は。

 脳震盪を起こしていたアリアはMRIも撮ってもらったが、脳内出血も無く、外傷だけで済んでいるようだった。

 翌日、報告書を教務科(マスターズ)に提出してから武偵病院に行くと――――アリアの病室はVIP専用の個室だった。そういえばアリアはあの『H』家の出身で、貴族のお嬢様なんだったな。

 病室には小さなロビーがあって、そこには『レキより』というカードのついた白百合(カサブランカ)が飾られていた。確か白百合(カサブランカ)の花言葉は『純潔・高貴・威厳』……だったかな。いかにもアリアにピッタリの花言葉ばかりだ。ロボット女のレキがこんなものを持ってきたなんて、にわかには信じがたい話だな。

 ……パッチン……パッチン。

「?」

 少しだけ開いていたベッドルームのドアの隙間から、妙な音が聞こえてきた。

 不審に思って中を覗くと、そこではバカデカいベッドに腰掛けたアリアが……

 手鏡で、自分の額の傷を見ていた。

「……」

 とても集中しているのか、アリアはこっちに気付いていない。

 額の傷はまだ腫れが引いておらず、真っ赤に浮きだってしまっている。

 あの2発の銃弾はアリアの額に2本の交差する線のような傷跡を残し、いつも自慢するように露出させていた形のいいおでこを台無しにしてしまっている。

 昨日医者に聞いて知ったのだが……あの傷は、どうしても(あと)が残ってしまうらしい。

 ――――一生消えない、傷痕が。

 パッチン……パチン。

 アリアは涙目で鏡を見ながら、いつも使っていた髪留めを付けては直し、付けては直ししていた。

 それを見た俺の胸に、ずきり、と痛みが走る。

 アリアは……自分のおでこを、とても気に入っていた。

『この額はあたしのチャームポイントなのよ。イタリアでは女の子向けのヘアカタログ誌に載ったことだってあるんだから』

 いつだったか、アリアが言っていたことを思い出す。あのときのアリアは心底自慢げで、そしてとても嬉しそうだった。

 そこに、あんな傷をつけられて――――辛くないわけがない。

「……アリア」

 俺は今来たフリをして、ちょっとドアから離れてノックする。

「あ、ちょ、ちょっと待ちなさい」

 部屋の中から、がさごそ、と何か慌てた感じの物音がした。

「……いいわよ」

 言われて俺が入ると、アリアは早業で頭に包帯を巻き直し、メンテ用の工具で拳銃をいじっていた。

 ちょっとわざとらしいが、銃を整備してたフリをしてるらしい。

「――――お見舞い?」

 そして、露骨に嫌そうな目で俺を見てくる。

「ケガ人扱いしないでよ。こんなかすり傷で入院なんて、医者は大げさだわ」

「れっきとしたケガ人だろうが。その額の傷――――」

「傷が何だっていうの?なにジロジロ見てるのよ」

「いや、その……それ、痕が残るんだろ?」

「だから何?別に気にしなくてもいいわよ。あんたも気にしなくていい。はい整備終わり」

 がしゃ、と拳銃をサイドテーブルに置くと、アリアは腕組みをした。

 気にしてない、だって?バレバレな嘘つきやがって。そんな悲しそうな顔で言っても、説得力ないってのに。

「武偵憲章1条。仲間を信じ、仲間を助けよ。あたしはそれに従っただけ。あんただから特別に助けたわけじゃないわ」

「武偵憲章なんて……あんなキレイ事、そんなバカみたいに守るなよ」

「……あたしがバカだって言いたいわけ?ミズキの分際で。でも……確かにそうね。あんたみたいなバカを助けたあたしは、バカだったのかもね」

 ぷいっ、とそっぽを向いたアリアに、俺は……これ以上この話題で話すのが嫌になって、アリアにコンビニの袋を差し出した。

 しばらくの沈黙の後、ふんふん、とアリアの鼻が小さく動く。

「……ももまん?」

 開けてもいないのに、ニオイでわかったらしい。

 アリアは紅いツリ目をぴきっと見開いて振り向く。

「食えよ。店長に頼んで大至急取り寄せてもらったんだ。10個買ってきた。大好物なんだろ?」

 そう言うとアリアはしばらく黙って袋を見ていたが、がさっ、と奪い取りざまに手を突っ込んだ。

 そして、はむはむはむはむ……と、冷めかけのももまんをがっつく。

 なんていうか、手負いの猛獣に餌付けしてるみたいだな。今の俺って。

「ゆっくり食えよ。別にももまんは逃げていったりしないんだから」

「うるふぁい。そんなのあたしの勝手でしょ」

 あんこのついた口で憎まれ口を叩くと、アリアは黙々とももまんを食べ続けた。

 武偵病院のメシはマズイことで有名だ。アリアはきっと、あまり食べていなかったんだろう。というか、そうでも思わないとこの光景の説明がつかない気がする。

「まあ……食べながらでいいから聞け。あの後、犯人が使っていたホテルの部屋が見つかった」

「……宿泊記録は?」

「どうせ予想はついてるんだろ?たぶんそれで正解だ。宿泊記録はない。というか、宿泊データが外部から改竄(かいざん)されたんだ」

 俺は鞄からクリアファイルを取り出し、アリアの膝元に置いた。

(みね)理子(りこ)を中心に、探偵科(インケスタ)鑑識科(レピア)に部屋を調べてもらった。だが、結論から言うと……犯人像に繋がるような痕跡は、何一つ見つからなかった」

「でしょうね。『武偵殺し』は桁外れに狡猾(こうかつ)な奴よ。足跡なんて残すわけがない」

「『武偵殺し』……か。俺はチャリジャックもバスジャックも、『武偵殺し』の模倣犯だと思ってたんだけどな。なんたって――――奴は、もう既に逮捕されてるんだから」

「だから言ったでしょ。それは誤認逮捕なのよ」

 俺は……そのアリアの話を、否定できなかった。

 確かにこれは、模倣犯なんて低レベルな犯罪者の仕業じゃなさそうだ。

「あと……そのファイルには、俺のチャリジャックの調査結果も添付してある。だが、そっちも正直言って何もわからなかったに等しいよ。セグウェイもUZIも盗難品だったしな」

「使えない奴らね。そんな資料、読むだけ時間の無駄だわ」

「そう思うんならその資料はゴミ箱にでも捨てて、自分で調べればいいだろうが」

 と言ったら本当にファイルをゴミ箱に捨てやがったので、俺はちょっとムカッときた。

 何の手がかりも掴めなかったとはいえ、理子たちはみんな徹夜で調査してくれたのに。それに、理子は俺の友達だ。友達が『使えない奴』呼ばわりされたら怒るのは当然のことだろう。

「――――出てって。もう済んだでしょ」

「何がだ?」

「あんたが強襲科(アサルト)に戻ってから最初の事件。それが済んだんだから、契約は満了よ。あんたはもう、装備科(アムド)に戻っていいわ。さよなら」

 ももまんを食べ終えたアリアが、吐き捨てるように言う。

「何だよ……本当に勝手な奴だな。あんだけ強引に引き込んどいて、用が済んだらそれかよ」

「謝ってほしいの?それともお金でも払えば気が済む?」

「……俺を怒らせたいのか?」

「さっさと帰ってほしいのよ。1人にして」

 アリアはそっぽを向いて言い捨てる。

 なんだよその態度。ムカつく言い方しやがって。

 でも、それも仕方がないことなのかもしれない。こいつは怪我人なんだ。肉体的にも、精神的にも。

 俺を庇ったせいで。

 だから俺は怒りを抑えて、病室を去ろうとする。

「何よ……」

 ドアノブに手をかけた俺の背中に、アリアが呟くのが聞こえた。

「あたしはあんたに、期待してたのに……現場に連れて行けば、また、あの時みたいに、本当の実力を見せてくれると思ったのに!」

「――――おまえが勝手に期待したんだろ。俺におまえに合わせられるだけの実力なんてない。それにもう……俺には戦える力がないし、そもそも本来は武偵でいる資格さえない」

 そう、あの日。キンジを失ったあの日に。俺は力と、武偵としての資格も失った。

「そんなのあたしの知ったことじゃないわよ!あたしにはもう時間が無いんだから!」

「なんだよそれ。意味が分からん」

「武偵なら自分で調べれば!?あたしに――――あたしに比べれば、あんたの事情なんて、大したことじゃないに決まってるんだから!」

 『大したことじゃない』。

 アリアがそう言った瞬間、俺の中で何かが壊れた。

 気が付いたら、俺は襟首を掴みあげ、アリアを壁に叩きつけていた。

 自分の中のドス黒い感情が込み上げてきて、それを言葉としてアリアにぶつけてしまいそうになる。

 こいつは怪我人なんだ。そんなことはわかってる。

 俺のせいで怪我を負ったんだぞ。だからどうした。

 そして抑えきれずに、俺はどうしようもないほど膨らんだドス黒い感情を――――殺意を言葉に乗せ、アリアにぶつけた。



「今のセリフをもう一度でも言ってみろ。殺してやる」



「な、何よ……何なのよっ!」

 俺の殺意から今の言葉は本気だと本能で察知したらしい。流石のアリアも、うろたえていた。

 俺はアリアから手を放し、右手を目を覆うように置く。

 ああ、今。俺は。

 ひどい顔をしているんだろう。

 誰にも見せたくないような顔を。



 以前からも何回か話しているが、俺にはキンジという親友がいた。

 『いた』。つまり過去形だ。

 キンジは去年の夏に死んだ。

 去年の夏。俺たちは2人でとある犯罪組織を追っていて、その日、ようやく奴らのアジトを強襲することになった。

 その時俺は、キンジと、そして何より自分自身の実力を過信して、ロクな情報伝達も行わずに奴らを強襲した。

 それでも俺たちは大半の敵を戦闘不能にし、捕縛していた。

 事件が起きたのはその時だ。

 キンジが残る最後の1人を捕まえようと、そいつに飛びかかった。しかし、俺は何も無計画にそいつを最後に残していたわけじゃない。そいつはその組織の中で唯一、対防刃(アンチブレードガード)ナイフを持っていた。俺はその情報を事前に入手していたため、無暗にそいつを攻撃しなかった。

 だが、キンジはそれを知らなかった。俺がその情報を伝えなかったせいで。なんとかなるだろうと思っていた。天才とまで呼ばれた俺とSランクのキンジなら。

 でも、世界はそんなに甘くなかった。

 キンジはそいつを捕縛する直前で対防刃ナイフで心臓を刺され、死亡した。

 その後、俺は慌ててキンジに駆け寄り、その隙に最後の1人は逃げた。

 それから俺は、武偵として前線に出ることをやめた。

 俺が自分の実力を過信したせいで、キンジは死んだ。キンジが死んで、多くの奴が悲しみ、苦しんだ。

 だから俺は、もう二度と前線で戦わないと決意した。専門科目も前線に出て戦う機会の多い強襲科(アサルト)から、後方支援(バックアップ)が主な仕事の装備科(アムド)に変えた。

 そうして俺は、キンジの死から、その事件から、武偵と言う仕事から、逃げ出した。



 右手を()げ下を見ると、アリアは……黙っていた。

 その赤紫色(カメリア)の瞳と目があった瞬間、俺は不意にこう思った。

 似ている――――と。

 アリアは、俺に似ているんだ。

 何か他人には理解しがたい重いものを背負い、武偵と言う道を、俺とは正反対の方向へ全力疾走している。悲壮なまでに。

 俺は逃げて、アリアは立ち向かおうとしている。

 だから俺は、アリアと一緒にいると冷静でいられない。

 立ち向かっているアリアは、逃げた俺には眩しすぎる。

「とにかく……俺はもう強襲科(アサルト)には戻らない」

「……」

「聞いてるのか?」

「わかった……わかったわよ……あたしが、探してた人は――――」

 アリアは視線を俺から逸らし、1つ、長い瞬きをした。

 まるで、書いてはいけなかった文章にピリオドを打つように。

「――――あんたじゃ、なかったんだわ」 
 

 
後書き
お久しぶり!白崎黒絵です!
今回は少し投稿が遅れてしまいました!すみません!
遅れた理由はですね……色々あったんです!卒業式とか!
これ以上はなんかマズイ気がしてきたんで、内容の話に入りましょう。
今回はようやくキンジが死んだ詳細が少しわかりました!なるほど、キンジはこうやって死んだのか……それでもまだ細かい部分は説明されてませんし、それに今回のやつは少し説明が雑だったかなと思います。ごちゃごちゃしてて分かりにくいというか。
いつか上手く改稿できたら更新するんで、よろしくお願いします!
さてそれじゃあ、皆さんが気になっている(かもしれない)アレを発表しましょう!
「例のアレ!」の名前が決定しました!
それでは行きます!
「GS!今日の一言誰でShow!(送ってくださったtakaさん、ありがとう!)」
今回はこの娘!アリアちゃんです!

「これからもこのコーナーをよろしくね!」

一切ツンがねええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!こんなの私の知ってるアリアさんじゃない!(自分で書いといて自分でDisるという)
しかも、誰でShow!、って言ってる割には最初から答え言っちゃってるし!コーナーのやり方変えようかな……
それでは皆さん。今回はこの辺で!また次回お会いしましょう!
疑問、質問、感想、誤字脱字の指摘などありましたらコメントください!

告知:つい先日より、この『緋弾のアリアGS  Genius Scientist』と世界軸がリンクした作品、『緋弾のアリア0/D  NO.0&DollMaster』の投稿が開始されました!皆様どうかこちらの方もよろしくお願いします! 
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