少年少女の戦極時代Ⅱ
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ヘルヘイム編
第7話 ヘルヘイムの森の奥
咲がいつもの野外劇場へ向かっていると、奇妙な光景が目に入った。
黒いワゴンとカーゴ車が道を塞ぐように停められ、赤いテープで立入禁止にされている道。通りかかった主婦が覗き込んでいて、それを黒スーツの男たちがガードしている。
咲も野次馬に混じって観察する。
(あの赤いテープ、ユグドラシル・コーポレーションのロゴだ。てことは、インベスのカンケーかも。どうやったら中に入れるかな)
咲は腕組みして頭をひねる。ぽくぽくぽく――ちーん。
咲はランドセルから戦極ドライバーを出した。周りの人間がギョッとしているが無視だ。
戦極ドライバーを黒服たちに見せる。
「入れてください。関係者です」
「あ、はい、どうぞ」
あっさり通れたことに安心する暇はない。不審さに気づかれる前に事の現場に行かなければ。
咲はダッシュで地下道へ下りた。
地下道の暗がりに入った途端、薄闇の中に炎が爆ぜた。黒影トルーパーが、コンクリートに根を張ったヘルヘイムの植物を焼いている。だが咲が驚いたのはそれではない。
その黒影トルーパーを指揮しているのは、呉島光実だったのだ。
「! 咲、ちゃん。どうしてここに」
「ユグドラシルがいるから、インベスがらみかもって思って」
それ以上はあえて問わず佇んでいると、光実が後ろにいた黒影トルーパーをふり返り。
「先に帰投しろ。僕はこの子に用がある」
スーツの男たちと黒影トルーパーが了解し、引き揚げて行った。地下道には光実と咲だけが残された。
「どういうことなの、光実くん」
糾弾を込めて咲は目の前の少年の名を呼んだ。
光実がユグドラシルの人間に命令できる立場になった、つまりユグドラシル・コーポレーションに付いた。そんなことを咲は聞いていない。
紘汰と戒斗の時と同じだ。言ってくれなかった、その事実が、咲を苦しめる。
「このこと、ヘキサは知ってるの」
「直接知らせてはいないけど、勘付いて納得はしてくれてる。あの子は聡いから」
「じゃあ、紘汰くんには?」
光実は答えない。沈黙はより雄弁に、光実が秘していることを教えた。
「どうして。紘汰くんはユグドラシルから街の人たちを守ろうとしてるんだよ? その紘汰くんを、一番のトモダチのあなたがジャマするって、ぜんぜん意味わかんないっ」
「分からなくていいんだ。真実は全て隠し通せば、みんなの笑顔を守り通せる。だから咲ちゃんも、ここで見たことは鎧武のみんなには言わないで」
「だめだよっ。カクシゴトは、何をかくすかじゃなくて、カクシゴトしてるそのものが、キズナを壊しちゃうのよ。わからないあなたじゃないでしょ?」
光実は深いため息をついた。そして、ポケットからロックシードを取り出した。まさか戦う気なのか。仲間のはずなのに。
だが咲の恐れに反し、光実が出したのはロックビークル用の錠前だった。
光実が錠前を放るや、ローズアタッカーが展開される。
「咲ちゃんは、クラックの向こう側が“どこ”なのか考えたことはある?」
「森でしょ」
「それもあるけど、もっとスケールを大きくして。あそこはそもそも地球のどこかなのか、全く異なる惑星なのか。過去なのか、未来なのか、パラレルワールドなのか」
「んと……バクゼンと、アマゾンあたりかなあって思ってた。よくわかんないけど」
光実が苦笑した。笑わないでほしい。小学生にとって森といえばアマゾンか富士の樹海なのだ。
「実はね、そこんとこはユグドラシルでもはっきりしてないんだ」
光実は咲にヘルメットを渡した。咲がそれを着けると、後部座席に乗るよう促される。
咲はロックビークルの後ろに跨って、光実の腰に掴まった。異性と密着がどうこうと言っている場合ではないくらい、クラックを越える時のツイストは激しいのだ。
案の定、ローズアタッカーは発進するなり、大きくツイストしてヘルヘイムの森へ抜けた。
森に着いてからも光実はローズアタッカーをそのまま走らせた。左右の景色が後ろへ過ぎ去っていく。
崖際らしき場所まで来て、ローズアタッカーは停まった。
眼下に広がる光景を見て、咲は愕然とした。
「ただここには確かに、一つの文明があって、人間だって住んでいたんだ」
それはヘルヘイムの植物に覆い尽くされた、都市らしきものの残骸だった。
後書き
時系列としては20話~21話の間ですかね。
あえて「秘密」や「真実」というタイトルにはしませんでした。この時点では全ての謎が解明されたわけではないので。
何気にお兄ちゃんと同じことしてるミッチなのでした。なので我が家のミッチは兄さんに怒鳴り込みに行けません。ではどうするのでしょうか? ちょっとした見所です(*^^)v
あ、ちなみに警備がザルドラシルなのは仕様ですww
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