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少年少女の戦極時代Ⅱ

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ヘルヘイム編
  第6話 追いかけたいのに

 チューリップホッパーが開けたクラックから、紘汰と戒斗は吹き飛ばされて落ち、変身が解けた。

「面倒な奴らめ――っ」

 こんな時でも毒づく戒斗はさすが、と思いながら、紘汰も戒斗に続いて立ち上がった。

「でもどうするんだ。あいつらがいたんじゃクラックに近づけな――」
「紘汰くん! 戒斗くん!?」

 呼ぶ声には覚えがあった。室井咲だ。
 咲は歩道から紘汰たちがいる路地裏に駆け込んできた。

 紘汰としては事情を言わずにいるのは今回だけのつもりだった。街中で共闘する分には頼りにしているが、敵の本拠地に咲のような小さい子を連れて行きたくなかっただけだ。

 しかしタイミング悪くDJサガラが現れ、説明せざるをえなくなる。そのことで咲は戒斗に食ってかかった。紘汰がフォローする隙もない。

 言い合う内に、咲は寂しさがはっきり浮かんだ笑顔を浮かべた。

「今までアリガト。あたしみたいなガキの相手してくれて。これからもがんばって。あたし、ずっと応援してるから」
「咲ちゃん、待ってくれ! 咲ちゃん!!」

 咲はふり返らず、路地裏を足早に出て行った。


「あーあ、フラれちまったな」

 サガラの茶々は無視して、紘汰は咲を追おうとした。

「やめておけ」
「何でだよ! あんなの咲ちゃんの本心じゃない。俺たちを気遣って言ったに決まってる」
「それが分かっていながら追いかけて、お前は何を言うつもりだ?」
「何、って」
「お前は室井をどうしたいんだ。戦わせたいのか? 戦わせたくないのか? 今追いかけて室井に言えるのはそのどちらかしかない」

 紘汰は拳を握って顔を戒斗から逸らした。
 咲はまだ小学生なのだ。戦いの巷に引きずり込んで、汚いものや怖いものを見せるなど、したくはない。
 だが咲の実力は高い。咲は戦力になる。今までも紘汰は何度も咲に助けられた。いつしか咲と並んで戦うのが自然に思えてくるくらいに。

「お前がそんな煮え切らない態度でいる限り、室井は何度でも戦いに飛び込むぞ」
「――っ」

 痛恨の一撃だった。

 咲が紘汰を助けたくて戦場に出て行くというならば、それは紛れもなく葛葉紘汰の責任だ。
 今でこそ咲は大したケガもせずに来たが、これからユグドラシルとの戦いが激化して、死ぬ、ようなことがあったら。――紘汰には重すぎる。

「貴様もだ! 何を基準に物を見ているか知らないが、あれが関係者だと思っているならさっさとその間違った情報は更新しろ」
「粋な男だねえ――だが残念なことに、俺はずっと見守ってるだけなんだな。これまでも、これからも。あの“森”が選ぶのは、お前さんたち二人のどっちかか、または別の誰かか。その誰かの中には、あのおチビさんだって含まれてるんだぜ」

 紘汰は戒斗と顔を見合わせた。

 “森”に選ばれる。まるで“森”が意思を持っているような言い回しだ。それに「選ぶ」とは何に対してなのか。役目を負うのか、特別な褒賞でも与えられるのか。分からないことだらけだ。

 再び階段を見上げたが、そこにサガラの姿はなかった。

 肝心なところを説明しないのは、紘汰を脱走させた時と変わらなかった。紘汰は手の平に拳を打ちつけた。 
 

 
後書き
 咲に対する紘汰と戒斗の認識の差。
 前回の咲の裏バージョンです。
 実は紘汰のほうこそ咲に戦ってほしくて、戒斗のほうが咲を案じて遠ざけようとしている、普通なら逆の認識にしてみました。 
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