少年少女の戦極時代Ⅱ
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ヘルヘイム編
第8話 “外来種”
光実に手を引かれながら、咲は都市の残骸へと下り、その中を進んだ。
家らしき建物の中には、人の生活の痕跡が生々しく残っているものもあった。博物館に並んでいそうな時代めいた食器。それらが載った、石細工のテーブルとイス。
窓であろう枠から外を臨んだ。光景は変わらず、“森”に侵された都市が広がっている。
「あたしたちも、こうなるの……?」
光実は沈痛な面持ちで、肯いた。
「兄さんの話だと、あと10年。10年で地球はヘルヘイムの森に侵食されて――滅ぶ」
呼吸が荒くなっていくのが自分でもよく分かった。きっと目の中は極限まで開いている。
地球が滅ぶ。そんなチープな設定のゲームやアニメなど正直食傷だし、終末系の映画にも何の感慨もなかった。
それらは決して現実にはありえないと、根拠もなく信じていたから。
「分かるよ。僕も、知った時はショックだったから」
インベスが元は人間であることは咲も薄々勘付いていた。ならばその元になった人間は“どこ”の人間か。考えようともしなかった。否、考えて、答えが出るのが心の底で恐ろしかった。
だが、全てを知った咲の中に湧いた感情は、悲しみでも恐怖でもなかった。
咲は光実から手を離し、その手で近くの壁を殴りつけた。
光実が目を瞠って咲をふり返る。怒りが咲の中で煮えくり返る。怒り、だけだった。
「これが地球の10年後? ふざけないでよ! だったらあたしたち、何のために初瀬くんを殺したの? 何のためにインベスを殺してきたの!?」
「さ、咲ちゃ」
「ふざけてる。紘汰くんも戒斗くんも、がんばってるのに。何でこんな終わり方なのよ。地球ふざけんな! ヘルヘイムふざけんな! 人間を何だと思ってんのよお!」
「咲ちゃん、落ち着いて!」
光実が咲の両肩を掴んだ。咲は光実の胸板に両手を突き、下を向いてフーフーとけだもののように荒く呼吸した。
「咲ちゃん、聞いて。ユグドラシルはヘルヘイムの侵食に対抗するために動いてる。そのための組織なんだ」
「光実くんも……?」
「もちろん、僕も」
顔を上げて光実を見上げた。光実は、ダンスのステージ上でさえ見たことがないほど真剣な表情をしていた。
「咲ちゃんにも手伝ってほしいんだ」
「地球を、救う手伝い?」
「そう。僕らの世界、僕らの未来を守るために」
咲は光実の胸から手を離し、光実に背を向けた。拳は強く握り固めたまま。
「咲ちゃんっ」
「今は! ――答えたくない。答え、られないよ」
「そう……だよね。うん。時間を置いたほうがいい。混乱させてごめん」
咲は無言で肯き、光実に背中を押されるまま、ヘルヘイムの遺跡を後にした。
後書き
光実による森の秘密その1(その2、その3と続くと信じてますよウロブチさん)がご開帳された話でした。
咲の反応は、①怖がって泣く(怯えるだけなら紘汰・光実と同じ)、②今戦っている紘汰たちのために怒る、の2つを考えましたが②にしました。泣き虫属性封印中なので。
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