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生還者†無双

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深緑の御使い

血の雨が降る
正しく字の如くの光景に見る者はそう言うだろう
腕が飛び、首は大地を転がり、身体は吹き飛ぶ
地獄絵図に似合わぬ美女と似合い過ぎる野獣が二人
その中心で残酷なまでに美しく舞っていた

「ば……化け物共めっ!」

それしかこの人間を表す言葉が見当たらない
斬りかかる奴も命乞いする奴も容赦なく殺しやがるっ
俺達も散々殺しはやったさ
殺しは楽しいしそこいらのボンクラよりは俺は強い
だから解るんだ……こいつ等が楽しんでる事が
この狂乱の宴を心の底から楽しんでいる
何故なら笑っているのだから
そして解るんだ……俺は此処で死ぬ事も
だってほら目の前に鬼がいる……

「全く数だけは多いぜ」
「まだ足りないわ、全然足りないのよっ」
「やれやれ……仰せのままにってか」

孫策の突撃に合わせて突っ込む暁
斬りかかる腕ごと切り飛ばし拳を身体に叩き込む
複数の槍が突き出されたのでバックステップで下がると
背中が孫策の背中に当たる
背中越しに何かを感じ深くおじきの姿勢をとると
暁の背中を回転しながら孫策が飛び越える
美脚が賊の顔面に直撃し身体は南海覇王が貫いた
空いた腕を暁が握り強く引っ張っると身体が入れ替わる
その勢いで後方の敵の首を孫策が飛ばし
前方の奴は暁の右ストレートで頭部が弾けた

ーーーーーーーーーーーーーーー

楽しい、楽しい、楽しい、楽しい!
こんなに満たされた気持ちは初めてよっ
私の殺りたい事を理解してくれる……
言葉も要らない、感じとってくれる
本当に不思議な男ね……暁
蓮華には申し訳ないけど私も欲しくなっちゃたわ♪
似た者同士相性もバッチリ!何より私の好みだし♪
あぁ……もう何を考えてるのかしら私……

「おい、おい!どうした?」
「へ?な、何でもないわ!」
「そろそろ下がるぞ!敵も充分食い付いたしな」
「そうね……合図を出せ!下がるわよ!」

自分でも顔が赤くなってるのが解る位熱い
初な乙女って柄じゃないのにね
でも大きな背中を見てると不思議と安心するわ
つい先日会ったばかりなのに、ずっと前から知ってる気がする

「なんだ?俺の顔に何かついてるのか?」
「良い男だなぁって思ってただけよ♪」
「おいおい、当たり前過ぎて驚きもしねぇ」
「あら?結構本気よ私?」
「血みどろで言われても説得力ないぜ?お互いにな」
「そうね、戻ったら口説いてくれる?暁」
「何を言ってんだ……」

素っ気なく後頭部をかいてるけど案外満更でもなさそうね
孫家繁栄……いえ、一人の女として必ず落として見せるわ
思春の文では天の御使いかもって書いてあったし
最悪、私じゃあなかったら蓮華かシャオに……ふふ♪
孫策の顔が歪んでいる
その顔を見た暁は何故か戦慄を感じざるを得なかった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


予定通り敵の大多数を誘き寄せて別動隊が砦を制圧しに動きだした
森の中では火計の準備が進み、後は敵を待つのみだ
やれやれ……人海の中心にクラスター爆弾ぶちこめば直ぐに終わるのだが
まぁ無いものねだりしても不毛だな
大きな溜め息をつき腰を回す
乗馬してると腰が痛くなるのはもう俺もオヤジか?
いやいやいや、俺はまだまだイケるぜ!生涯現役だ
さて、そろそろ時間だな
地響きが段々と大きくなりぴりぴりとした空気が辺りを漂う
森の中で更に隊を分けて数百だけで敵の主力を足止めしなければならない
良く言えば殿、悪く言えば捨て鉢
賊が相手とは言えこれだけ数に差があると死を覚悟しなければならない
当然、暁もそれなりに覚悟はしていたがそれ以上に隣にいる孫策が
何故かこの足止め部隊に残った事に気が気でなかった
どうして一国の大将が分の悪い賭けをするのか?
まぁ腰抜かして逃げる馬鹿大将よりもよっぽどましだが
だが……なんでこんなに嬉しそうなんだ?

「嬉しそうだな孫策」
「嬉しい?違うわ、楽しいの♪」
「楽しい?くくっ違ぇねぇ、俺も森に入ってからワクワクしてんだ」
「本当に私達って似てるわね……」
「戦闘狂って事に関しては同感だ孫「雪蓮よ」んぁ?」
「これから命を預ける相手によそよそしいわよ?暁」
「全く、真名ってのは滅多に教えないもんじゃないのか?」
「本人が認めたんだから良いのよ♪まぁ知ったからには逃がさないけど♪」

最期の方に何か恐ろしい事言っていた気がするが取りあえず置いておこう
敵の先頭が木々の間から見えてきた
弓隊が一斉に矢に火を着けて引き絞る
狙うは所々に設置された油の樽
一つの樽に火が着くと連動して森の中の樽に火が回る
ついでに暁が冥琳に火薬も一緒に仕掛けて置くと良いとアドバイスをした為
火薬もたんまり樽に仕込んであった
先頭が死のラインを越えて来た!

「今だ!放てぇ!」

バンバンバンバンバンバン

号令と同時に矢が放たれ樽に吸い込まれていき
火薬に引火し至るところで爆発が起きて賊を巻き込んで吹き飛ばす
瞬く間に森は火の海と化して思惑通りに事は進んでいた
命からがら森から出た賊は黄蓋達包囲部隊に討ち取られていく
焼け死ぬか討ち死にするかのどちらかしか残された道がない賊は
自分達の行いのツケを命をもって払う事になった

「ちきしょう!手前等ぁ逃げるな!」

どいつもこいつも使えねぇ連中ばかりだ
只の小さな山賊から数万を束ねる賊頭になったんだ
村を焼いて街を制圧して腰抜けの官軍どもを蹴散らして
俺が領主になって旨い物食って良い女を抱いて……
これからなんだ!これから俺の……

「お前が頭の……程遠志か?」
「その不細工な顔、間違いないわ」

振り向くとこの場に似合わない美女と大男がいた
確か女の方は……江東の虎のそそ……孫策だ!
こっちを見ながら二人が何かを話している
呻き声や木が焼ける音で良く聞こえない……
恐くねぇ!恐くねぇ!手前等なんて恐くねぇ!

「野郎ぉぶっころしたらぁぁぁぁ!」
「「うるさい」」
おでが最期に聞こえた言葉はそれだった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「こいつが頭かよ……まぁ所詮は賊か」
「本当に歯応えのない奴ね」
「大分火が回ったな、そろそろ出ないとヤバイか」
「じゃあ暁の馬に乗るかしら」
「んな!なんで……うおぅ」

暁の馬(名前ボー)は燃え盛る森を風のように駆けた
何故コイツは直線馬鹿なんだ!
なんだそのドヤ顔は全然褒めてねぇぞ!
ちきしょう名前のまんま奴みたいな馬だな
初心者の俺をもっと労りやがれ

「暁とその馬相性良いわね♪」
「何処がだよっ!」
「初めてとは思えない乗りっぷりだったから」
「昔つるんでた奴みたいな馬だぜ……勘弁してくれよ」

この孫家再興のこの討伐戦は見事成功に終わり
江東の虎 孫策の名を世に轟かせた
同時に暁も一介の傭兵ではなく戦鬼として語られるようになる
深緑の衣と黒き鎧を纒いし天の御使いと……
しかしこの風評が暁を更に困らせる事になると
今はまだ知らない
そしてもう一人の天の御使いは……白い服を着た学生だった

 
 

 
後書き
いつもより短くなってしまった…… 
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