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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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乙 ⑦

「・・・へえ?」
「これは予言どす。坊やはこれ以上、こちらの攻撃を防ぐことはおろか、私にダメージを与えることも出来ずに負ける。」
「言霊・・・それも、古いタイプか?まあなんにせよ、大した自信だな。随分となめられたもんだ!」

一輝はそう言いながら一瞬で団長の懐に入り込む。

「鬼道流剣術、立ち。三の型。逆駆け(さかがけ)!」

そして、あごに向けて下から峰を打ちつけ、脳震盪を狙う。

「ふぅ・・・手ごたえあり。」

明らかにもろに入ったのだが、団長は後ろに倒れながらも、ニィ、と笑い・・・一輝の全身に、深めの切り傷が出来た。

「・・・あれ?」
「「一輝!!?」君!!?」

そんな一輝の様子に飛鳥と耀は声を上げるが、一輝自身はそこまであわてていなかった。

「ほら、いうた通りやろ・・・?貴方では私には勝たれへんで。」
「・・・まあ、このまま行ったら、勝てないだろうな。」
「なにを・・・!?」

一輝は水を高温にして水蒸気をぶつけ、その隙に距離を置き、ギフトカードから量産型妖刀を取り出し、抜刀する。

「つっても、俺にはまだ切り札があるし。・・・人々に知を与えし霊獣よ!」

そして、檻の中の存在を召喚する言霊を、唱える。

「中華の国にて妖怪たちの長となりし霊獣よ!今その身を、我が為に、我が眼前へと顕し、我が命を聞け!」

一輝が殺した、霊獣を召喚する言霊を。

「今ここに顕現せよ、白澤!」

一輝が言霊を唱え終わると、一輝の体から光り輝く霧が出てきて、固まり、白澤の姿をとる。

「な・・・オイ、あれって・・・」
「間違いない・・・霊獣、白澤だ!」
「人間が白澤を召喚したぞー!」

一輝のすぐ横に霊獣である白澤が召喚されたことで、客席が一気に賑やかになる。

「・・・オイ、小僧。何だあの言霊は。我、白澤ほどの存在に我が命を聞け、など無礼にもほどがあるぞ!」

が、白澤はその一輝に対してそんな事を言う。
観客はそれで落胆したような反応を示すが・・・

「うるさいぞ、白澤。」

一輝はそんなこと気にも留めず、白澤に笑顔を向ける。
十人が十人震え上がる、殺気を込めた笑顔を。

「大人しく言うこと聞け。さもないと・・・今度は、あの時以上の拷問をするぞ?」
「調子乗ってスイマセンでした!何なりとお命じください!」

一輝の言葉で白澤が一気に態度を変え、観客席はただの人間に怯える白澤を見て、再び盛り上がる。
大したことないと思っていた人間が、予想以上の大物だった、と。

そして、そんな様子の観客に対して、一輝は芝居がかった口調で語りかける。
全体に伝わるよう、大声で。

「ご来場の皆様!僕の試合、ここまでは相手の実力を知るためにつまらないものになってしまっていたことを、ここにお詫びします!」

そうして、観客の心を一つにまとめていく。

「この白澤の召喚は、そのせめてものお詫びと・・・これからすることの余興に過ぎません!まだ盛り上がるには早いですよ!」
「へえ、随分と演技が上手いもんだな。」

十六夜がぼそっとつぶやいたが、それは一輝に注目が向いていたために、耀にすら気づかれなかった。

「僕はこれから、白澤なんて目でもない(・・・・・・・・・・)存在を召喚し、そいつの全力をお見せしようと思います!これまでの試合とは比べ物にならないくらいに、見ごたえのあるものになることでしょう!」
「皆様!そんな出鱈目に騙されたらいかんどす!」

団長は必死になって観客の心を自分に向けようとするが、

「おい、なんか面白いものがみれそうだぞ!」
「ああ!白澤以上の存在・・・」
「今日は来たかいがあったな!」

白澤を前座に済ませた一輝から注目を取り戻すなど、不可能でしかない。
そして、そんな様子の観客に対し、「ただし、」と一輝は話を続ける。
先ほどまでよりも、声音の低くなった声で。

「皆様方の命の保障は、一切いたしません。」

シーン、という擬音が聞こえてきそうなほど、会場が静まり返った。

「いえ、むしろ皆様方の九割以上は助からないでしょう。運が悪ければ全員が。なにせ、中国の妖怪のボス、白澤がプライドもへったくれもなく、ここまで大人しくなってしまうのですから。死にたくない方は、今すぐここから離れることをお勧めしますよ?」

一輝がそう締めくくると、客席では蜘蛛の巣を散らすように、大騒ぎになる。

「オイ、今の聞いたか!?」
「ああ、さっさと逃げるぞ!」
「いや、むしろ一割は残れるんだから、」
「冗談じゃねえ!巻き込まれてたまるか!」
「早く逃げろー!」
「どけーっ」
「な・・・観客達が・・・」

そして、そんな様子の観客に、団長はよりいっそう焦りだす。

「皆待ちなはれ!最後まで観てるんや!こんな出鱈目に、」
「いやいや、出鱈目じゃないんだって。この白澤を観れば分かるだろ?」

冷静に返しながら、一輝は自分の体についていた傷がなくなっていることを確認する。

「ふうん、やっぱりそうか・・・分かったぞ、あんたのギフトの正体。」
「な、何を・・・」
「アンタのギフトは、人が抱くイメージを具現化させるものだな?」
「く・・・」

自分のギフトが完全に見破られ、団長は歯噛みする。

「ここからはただの予想だけど、アンタのギフトは他人の心象を読み取り、現実にあらわすものだ。例えば、」

一輝はそう言いながら、自分の腕を傷つける。

「な、なにを・・・」
「あ!傷が治ってく・・・」

そして、その傷はすぐにふさがっていった。

「今みたいに傷を負っても、ここにいる人間のイメージの中で多いものを反映させるんだろうな。」

ちなみに、今は一輝を心配した飛鳥に耀、黒ウサギ、一輝と同じ予想を立てていた十六夜、そして一輝自身のイメージが反映された。

「そのためにここに観客を募って、さらに高圧的で自信に満ちた態度、「予言」「勝てない」などの思わせぶった言葉などを使って、アンタが強い、というイメージを植えつけた・・・まあ、そんな味方達(観客)がいなくなれば、もう丸腰同然なんだけど。」
「・・・やれやれ。」

そして、団長はもう観念した。

「まさか、こうもあっさり、種も仕掛けも見破られるとは・・・まいりましたわ」

そう言って鞭を手放し、一礼する。

「“空想劇(イマジネーションズ)”。初戦で黒ウサギさんが戦ったとき、昼の公演でドラゴンを出したときなんかもこのギフトを発動させとりました。」

そして、顔を上げて一輝に尋ねる。

「それにしても、まさかあんな虚言で客を散らしはるとは・・・」
「いや、わりと本気だったんだけどな。まだ俺ですらコントロールできてないのを使おうとしてたから、多分観客のほとんどが死んだし。」
「そ、そうどすか・・・初めから、白澤ほどの名前を生かすつもりだったんどすな?」
「まあ、な。こんなザコでいけるかどうか、少し不安だったんだけど。」
「オイ、小僧。ザコとは、」
「ああ?」
「いえ、何でもありません!」
「はあ・・・もういいから、オマエさっさと帰れよ。」
「はい!分かりました!では失礼します!!」
「わたし、ものすごい人を相手にしてたんやなあ・・・」

白澤が言われたままに帰っていくのを見て、団長は今更ながら少し後悔する。

「にしても、ノーネームか・・・名無しにしては骨のあるコミュニティやった・・・久々に楽しませてもらったどす。アンタ達なら、もしかしたら・・・」

そう言いながら一輝に向けて手を伸ばすので、一輝はその手をとろうと、手を伸ばす。

「このサーカスを・・・」

が、手が繫がれる前に団長の姿は消えた。
 
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