問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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乙 ⑧
「団長が消えた、か・・・いやでも、まだ行方不明のやつらが・・・」
一輝がステージから降りながらそう呟くと、そのタイミングでステージが揺れ、サーカスが一気に廃墟になる。
「どういうことよ、これッ!!まるで廃墟じゃない!私達、まだ誰かのイメージを」
「いや、団長はもう消えたんだし、それはないだろ。多分、これが本来の姿なんだ。」
飛鳥の問いに、一輝が警戒しながら答える。
そして、そんなところに愉快な声が響き渡る。
「アハハハハ。まだ戦いは終わらせナイヨー♪」
「こ・・・この癇に障る声は・・・」
「まさか・・・」
「そのまさかだろうな。」
「え、何?皆なに言ってるの?」
一輝はその声に心当たりがないため、全然話についていけていない。
「ここで選手交代っ」
そんな中、五人の目の前で油絵具が集まっていき、
「ダンチョーに代わっテ、このボクがオ相手しヨウじゃないかーっ!!!」
なんだか、残念そうなイケメンが現れた。
女性陣がその姿にヒソヒソとディスり、少しショックを受けている。
「やっぱりまだ生きてたのか、ねじ切れ太!」
「どさくさニ紛れて変ナあだ名ツけるのやメテくれナいかな?」
「まさか、ねじ切れ太って、あの・・・!?」
「君モ納得しナいでクレるかな?ピエールだよ!」
ピエールとは、たいしたことも出来ずに一輝に燃やされたピエロのことである。
そして、一輝の知らなかったことがいくつか十六夜によって明かされた。
「まあまあ、そう目くじら立テナいでよ。気ニなってるンでしょ?行方不明者がドコにいルのか?」
そう言いながらピエール(以下ねじ切れ太)は両手を広げる。
「ダカラ連れて来てあげタんだヨ!!」
その瞬間、ねじ切れ太の背後にたくさんの人が現れる。
恐らく、彼らがサーカスに取り込まれた人たちなのだろう。
「うわー、結構いるなぁ・・・白夜叉。」
「なんじゃいなんじゃい。私はここでおせんべい齧るのに忙しいんじゃい。」
「まあまあ、そう拗ねないで。」
一輝はそう言いながら白夜叉の肩をつかみ、ねじ切れ太のほうを向かせる。
「そうだぜ白夜叉、このショーも、大詰めだ!」
「いいヨいイよ。全員まトめてかかってオいで。皆でワイワイ楽シんデ、拍手喝采のフィナーレとイこうじゃなイか!!」
そして、大乱闘が始まる。
「さあ皆さん!いよいよゲームも大詰めです!!相手は取り込まれていたコミュニティの方々!迂闊に手を出せない以上ここはやはり作戦会議を、って、もう既にガンガンいってるー!!!」
黒ウサギが何か言っている間にも、問題児達はとらわれていた人たちと戦っている。
迂闊に手を出せない?何言ってるの?といった感じで。
「こんな大混戦じゃ策なんて通用しないわよっ!!」
「口より体を動かしたい!」
「まあ、どうせ怪我をさせたとしても責任を押し付ける相手はいるし!」
「せっかく戦闘解禁されたのだ。暴れさせんかー!!」
以上が、問題児達の主張である。
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「フェルナさん・・・一体どうしたのでしょう・・・座り込んで動かなくなってしまいましたし・・・」
「気にしなくていいでしょ。敵みたいだし・・・あったわ。」
音央はそう言いながら、Dフォンでの検索結果を伝える。
「トリックスター、かなりおかしな連中の集まりだったみたいよ。」
「魔王のコミュニティ、なんですよね?」
「ええ。でも、決してそれだけじゃない。確かに、主催者権限を使って公演中に観客に対してあらゆるギフトゲームを強いたけど、団員のひょうきんな性格のおかげで、訪れた町はそれなりに活気付いたそうよ。」
「魔王ではあるけれど、歓迎された、といったところでしょうか?」
「みたいね。当時も、魔王にしては少し異色だって話題になったみたい。でも、もう何十年も前に滅びたはずなんだけど・・・」
そこで、音央の声を遮るような爆音とともに、テントの天幕が吹き飛んだ。
そして、その爆発の中から十六夜が出てきて、二人を発見する。
「ん?オイ一輝!オマエんとこのメイドたちが来てるぞ!!」
「え、マジで!?」
十六夜に言われて一輝も出てくると、二人の前に着地した。
「ちょ、一輝たちはまた何をやらかしてるのよ!?Dフォンも通じないし!」
「細かい話は後々。あ、良かったら二人も祭りに参加していく?」
「ま・・・祭りとは・・・?」
鳴央に言われて、一輝は背後の人の山を指差す。
「大乱闘じゃないですか-!!!」
「いや~。さすがにこの人数を無傷でとか、無理だし。それと、さすがにそろそろ限界・・・」
一輝はそう言いながら、鳴央に向かって倒れこむ。
「え、ちょ・・・一輝さん!?」
鳴央は自分の胸に向かって倒れこまれて少し焦った様子を見せたが、一輝が全然動かないので心配になって声をかける。
「いやー、失敗だったわ・・・さすがに徹夜してからの儀式、無形物、霊獣召喚は無茶だった・・・」
「なにやってるのよ、アンタは!?」
ついでに言えば大したものも食べていないので、栄養も足りていないし、現在の時間も時間なので、そんな体で一日以上寝ていない。
「昔、徹夜からの陰陽術は普通に出来たからいけると思ったんだよ・・・悪いけど、後は任せた・・・」
一輝はそういって、完全に意識を手放した。
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「ほら皆ー。肉焼けたぞー。」
ノーネームの貯水池付近でバーベキューを行い、一輝が焼くのを担当していた。
というのも、一輝は最後眠っていたため、その分のペナルティとして肉を焼いているのだ。
「あの、一輝さん。もし良かったら私が焼くので、お肉を食べてもらっても・・・」
「気にしなくていいよ。俺も隙を見て肉とか食べてるから。」
「でも・・・」
「大丈夫よ、鳴央。さっきから見てたけど、時々ギフトを使って焼いてるから、本当に肉も食べてるわ。」
鳴央が見ていなかった理由は、子供達のお世話をしていたからである。
「それにしても、かつて滅ぼされた魔王の遺留品、か・・・」
「はい。どれももう既に限界は来ていたと思うのですけど・・・」
「ま、人の想いってのは時にすごい力を発揮するからな。前にいた世界でも、そんなことはよくあったし。」
「それにしても、なんだか切ない話よね。あの子、あちこちで今回と同じことを繰り返していたんですって?」
「そふみたひ。解放された人達は北や南のコミュニティばかりだったひね。」
「まあ、後始末は白夜叉がやってくれてるみたいだし、気にしなくてもいいだろ。」
「まったく、とんでもねえ寂しがり屋もいたもんだぜ。なあ、黒ウサギ。」
「そうですねー。何で黒ウサギだけはんぺんなのでしょうか?」
一輝たちが肉を食べているのに対し、黒ウサギが持っているのははんぺんの刺さった串だ。
が、問題児達は一切悪びれた様子もなく、
「「「「心配かけたペナルティ。」」」」
そう言いはなった。
「今回は私達が散々迷惑かけられたもの。」
「挙句敵にも回りだすし・・・」
「人には徹夜で探させるし・・・」
「この箱庭の貴族(迷)」
「ぐぬぬ無駄に正論で突っ込み返せない・・・っ!!」
そんな中、メイド二人が一輝に突っ込んだ。
「そういえば、一輝、あんたはまた無茶をしたわね?」
「まあ、その結果今こうして肉を焼いてるわけだしな。」
「全く、何回私達に心配を掛ければ気が済むのですか?」
「悪かったって。また今度、何らかの形でお詫びするから。」
さすがに二回目ということもあって、一輝は全面的に謝罪する。
「ふぅん・・・じゃあ今度、一日買い物にでも付き合って。」
「そんなんでいいのか?」
「あ、出来れば私もそれで・・・」
「ふぅん・・・二人別々の日のほうがいいか?」
「当然じゃない。」
「はい。そちらの方がいいです。」
「分かった。また時間空けとくよ。」
二人はそこで一輝から離れる口実として子供達の方を見てくるといい、一輝から離れていった。
「あの二人も変わってるなぁ・・・俺なんかと買い物に行っても、なんも面白くないだろうに。」
もういっそ、こいつには天罰が下ってしまえばいいと思う。
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サウザンドアイズ、白夜叉の私室。
「・・・と、そんな出来事もあり、奴等とおるのは退屈せんで良いぞ。まぁ仲良くやるのだな、ペスト。」
「へぇ、それは面白そうだねっ。」
白夜叉がペストに話しかけると、それに別の人物が返事を返した。
「ほう・・・久しぶりだのう、ヤシロ。」
「おん、久しぶり白夜叉お姉さん!そっちのペストちゃんは始めまして、かな?」
ヤシロが笑いながら話しかけるが、ペストは一切反応しない。
「それで、何のようじゃ?一輝に頼まれておるから手は出さんつもりだが、事としだいによっては・・・」
「ううん、そんな殺伐としたことじゃないよ。私のゲームをクリアした人のことを聞きたかったのと、前もって報告しとこうかな、って。」
「なにをだ?」
「近々・・・といってももう少し先、収穫祭の前くらいに、下層で勧誘活動するから。」
ヤシロはそう、はっきりと伝えた。
「よいのか、階層支配者である私にそんな事を言って?」
「うん。それに、もしかしたら伝えておけば私のゲームをクリアしたお兄さんに会えるかもしれないし。」
そう言いながらヤシロは出口へと向かって行く。
「話しはきかんでよいのか?」
「うんっ。さっきの話で十分。あとは、お兄さんに直接聞くよ。じゃあね!!」
ヤシロは元気にそう言うと、これまた元気に走り去って言った。
「さて・・・いつ一輝に伝えようかのう・・・」
そこには、面白そうに笑みを浮かべる白夜叉と、以前無口なペストだけが残った。
「とりあえず、まずはおんしじゃペスト。これに着替えよ!」
訂正。変態と、その被害者だけが残った。
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